デカルトとは。
デカルトとは何か。
その問いを出すと、博士は紙ナプキンに短く書いた。
疑いすぎて、自分だけ残った人。
「怒られませんか」
「たぶん怒られる」
「哲学者回、毎回怒られていますね」
「哲学とは怒られながら進むものだ」
「違うと思います」
「では、その違うと思った君は存在するかね」
「急にデカルトですね」
「そうだ」
博士はコーヒーを飲んだ。
「まず分けよう」
博士は紙ナプキンに書いた。
疑う。
否定する。
確かめる。
残る。
「また分ける」
「何度でも分ける」
「疑うとは?」
「本当にそうか、と保留することだ」
「否定するとは?」
「違うと決めることだ」
「確かめるとは?」
「根拠を探すことだ」
「残るとは?」
「疑っても消えないものだ」
「デカルトっぽいですね」
「かなりデカルトだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
疑うことと、否定することを混ぜるな。
「大事ですね」
「かなり大事だ」
「疑っている」
「はい」
「だから否定している」
「飛躍です」
「そうだ」
「信じない」
「はい」
「だから存在しない」
「飛躍です」
「そうだ」
「分からない」
「はい」
「だから嘘だ」
「これも飛躍です」
「そうだ」
博士はうなずいた。
「デカルトは、まず疑った」
「はい」
「感覚を疑った」
「目で見たものも?」
「そうだ」
「夢かもしれない」
「はい」
「計算も疑った」
「数学も?」
「そうだ」
「悪い霊がだましているかもしれない」
「だいぶ疑いますね」
「かなり疑う」
博士は紙ナプキンに書いた。
これは本当か。
本当に本当か。
疑っても残るか。
「面倒ですね」
「哲学だ」
「ソクラテスに近いですか」
「問いのしつこさは近い」
「でもデカルトは内側へ行く」
「そうだ」
博士は続けた。
「世界が夢かもしれない」
「はい」
「身体も幻かもしれない」
「はい」
「目も耳も騙されているかもしれない」
「はい」
「では何が残る」
「何も残らないのでは?」
「そこがデカルトだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
疑っている私。
「あ」
「来たな」
「我思う、ゆえに我あり」
「そうだ」
「有名なやつですね」
「かなり有名だ」
博士は言った。
「世界を疑う」
「はい」
「身体を疑う」
「はい」
「感覚を疑う」
「はい」
「でも、疑っているという働きは残る」
「はい」
「疑っているなら、疑っている何かはある」
「なるほど」
博士は紙ナプキンに書いた。
私は疑っている。
だから、疑っている私はある。
「強いですね」
「強い」
「でも、そこから全部いけるんですか」
「簡単ではない」
「ですよね」
「だから哲学が長くなる」
博士はコーヒーを飲んだ。
「ここでチンポジ哲学だ」
「来ましたね」
「君のベスポジは、他人には直接分からない」
「はい」
「だが、君には分かる」
「はい」
「本当に?」
「本当に」
「なぜ?」
「本人だからです」
「そこでデカルトが出る」
博士は紙ナプキンに書いた。
私は今、収まりが悪い。
「これは?」
「本人には分かります」
「そうだ」
「他人には?」
「完全には分かりません」
「そうだ」
「デカルトですね」
「少しデカルトだ」
「少し?」
「デカルト本人にチンポジを背負わせすぎると怒られる」
「でしょうね」
博士は続けた。
「外から見れば、君は普通に座っている」
「はい」
「だが内側では収まっていない」
「はい」
「他人は疑える」
「本当か?」
「はい」
「大げさでは?」
「はい」
「気のせいでは?」
「はい」
「だが君には?」
「分かる」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
私は今、そう感じている。
「これが残る」
「強いですね」
「かなり強い」
「でも危なくないですか」
「危ない」
「なぜですか」
「自分がそう感じた、からといって、外の世界がその通りとは限らないからだ」
「あ」
「来たな」
博士は紙ナプキンに書いた。
私は不快だ。
だから相手が悪い。
「飛躍です」
「そうだ」
「私は傷ついた」
「はい」
「だから相手が傷つける意図だった」
「飛躍です」
「そうだ」
「私は疑っている」
「はい」
「だから世界は嘘だ」
「飛躍です」
「そうだ」
博士はうなずいた。
「デカルトで残るのは、自分の内側の確かさだ」
「はい」
「だが、それだけで外側を裁くな」
「かなり大事ですね」
「かなり大事だ」
博士は紙ナプキンに書いた。
内側の確かさ。
外側の事実。
「混ぜるな」
「チンポジ哲学ですね」
「本丸に近い」
博士は続けた。
「ここでカントも来る」
「デカルト回なのに」
「哲学者は勝手に集まる」
「迷惑ですね」
「かなり迷惑だ」
博士は紙ナプキンに書いた。
私に見える世界。
世界そのもの。
「カントですね」
「そうだ」
「物自体」
「そうだ」
「デカルトは、疑った末に自分の確かさへ行く」
「はい」
「カントは、私たちが世界をどう認識しているかを見る」
「はい」
「方向が違う?」
「違う」
「でもつながる?」
「つながる」
博士は言った。
「私にそう見える」
「はい」
「私にはそう感じる」
「はい」
「それは大事だ」
「はい」
「だが、世界そのものを完全に持ったわけではない」
「はい」
「だから?」
「観測と真実を混ぜるな」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
確かに感じた。
だから世界もそうである。
「これは?」
「飛躍です」
「そうだ」
「でも、感じたことは本物」
「そうだ」
「ややこしいですね」
「人間だからな」
博士は続けた。
「デカルトは、近代哲学の出発点とよく言われる」
「なぜですか」
「確かさを、外の権威ではなく、自分の思考から始めたからだ」
「神や伝統ではなく?」
「少なくとも、出発点は自分の思考だ」
「自分で考える」
「そうだ」
「啓蒙回にも近い」
「近い」
博士は紙ナプキンに書いた。
自分で考える。
自分だけで完結する。
「混ぜるな」
「あ」
「来たな」
「自分で考えることは大事」
「大事だ」
「でも、自分だけで全部決まるわけではない」
「そうだ」
「アリストテレスですね」
「そうだ」
博士は言った。
「私は考える」
「はい」
「だから私はある」
「はい」
「でも、私が生きるには?」
「他人がいる」
「そうだ」
「身体もある」
「はい」
「社会もある」
「はい」
「パンツも誰かが作る」
「来ましたね」
「避けられない」
博士は紙ナプキンに書いた。
考える私。
関係の中の私。
身体を持つ私。
「混ぜるな」
「デカルトは身体を軽く見たんですか」
「そう単純には言わない」
「慎重ですね」
「怒られすぎたからな」
「でも心身二元論の人ですよね」
「そう言われる」
博士は紙ナプキンに書いた。
精神。
身体。
「ここを分けた」
「デカルトですね」
「かなりデカルトだ」
「チンポジ哲学は?」
「分けすぎると困る」
「なぜですか」
「チンポジは身体なしには成立しない」
「それはそうですね」
「だが、ベスポジは内側の感覚でもある」
「はい」
「身体と内側が絡んでいる」
「なるほど」
博士は紙ナプキンに書いた。
身体だけではない。
心だけでもない。
「チンポジ哲学ですね」
「そうだ」
「デカルトとは少しズレますね」
「ズレる」
「敵ですか」
「敵ではない」
「ヘーゲルほどでは?」
「ヘーゲルほどではない」
「基準がヘーゲルなんですね」
「便利だからな」
博士は続けた。
「デカルトは、疑う技術をくれる」
「はい」
「だが、疑いすぎると孤独になる」
「孤独回ですね」
「そうだ」
「全部疑う」
「はい」
「他人も疑う」
「はい」
「世界も疑う」
「はい」
「最後に自分だけ残る」
「重いですね」
「重い」
博士は紙ナプキンに書いた。
疑いは、確かさを探す道具。
住む場所ではない。
「綺麗ですね」
「私は哲学者だからな」
「名前以外は」
「その評価も疑いたまえ」
「毎回確認済みです」
博士は言った。
「疑いは必要だ」
「はい」
「だが、疑いを常時抜刀するな」
「閑話につながった」
「そうだ」
「ずっと疑っていたら?」
「生活が止まる」
「何も信頼できない」
「そうだ」
「信頼回ですね」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
疑う。
確認する。
信頼する。
「この順番」
「かなり実務ですね」
「哲学は実務から逃げない」
「デカルトなのに」
「デカルトだからだ」
博士は今日の答えをまとめた。
デカルトとは、疑いすぎて、自分だけ残った人である。
疑うことと、否定することは違う。
デカルトは、感覚も世界も疑った。
だが、疑っている自分だけは残った。
これが「我思う、ゆえに我あり」である。
内側の確かさと、外側の事実を混ぜるな。
私はそう感じた、は大事である。
だが、それだけで外の世界を裁くな。
自分で考えることと、自分だけで完結することを混ぜるな。
精神と身体を分けることはできる。
だが、人間は身体なしには生きられない。
疑いは、確かさを探す道具である。
住む場所ではない。
疑う。確認する。信頼する。
「博士」
「何かね」
「チンポジで言うなら?」
博士は少し考えた。
「君が座っている」
「はい」
「周りから見ると普通だ」
「はい」
「だが君は思う」
博士は紙ナプキンに書いた。
我、収まらず。
ゆえに、チンポジあり。
「最悪ですね」
「かなりデカルトだ」
「デカルトに怒られろ」
「たぶん怒られる」
「でも分かりやすいです」
「そうだ」
「本人には、収まっていないことが分かる」
「はい」
「他人には完全には分からない」
「はい」
「でも、だからといって外の世界が全部悪いとは限らない」
「そうだ」
博士は最後に一文を書いた。
デカルトとは、世界を疑った末に、疑っている自分だけは消せなかった人である。
チンポジで言えば、外からは分からなくても「我、収まらず」という内側の確かさだけは残る、ということである。
「本当に怒られますね」
「哲学は怒られながら進む」
「それも疑った方がいいです」
「よいデカルトだ」
博士は静かにコーヒーを飲んだ。




