表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
哲学と私 あるいは、チンポジ博士の講義  作者: チンポジ博士


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
97/100

義務とは。

 義務とは何か。


 その問いを出すと、博士は紙ナプキンに短く書いた。


 自由を壊さないためのブレーキ。


「権利の反対ですか」


「違う」


「違うんですか」


「かなり違う」


 博士はコーヒーを飲んだ。


「まず分けよう」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 権利。

 義務。

 命令。

 責任。


「また分ける」


「何度でも分ける」


「権利は?」


「してよい、守られるべき範囲」


「そうだ」


「義務は?」


「しなければならないこと?」


「近い」


「命令は?」


「誰かから従えと言われること」


「責任は?」


「自分の行動を引き受けること」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 義務は、ただの命令ではない。


「義務って命令っぽいですけど」


「見た目はな」


「違うんですか」


「義務は、共同生活の構造から出てくる」


「構造」


「そうだ」


 博士は言った。


「赤信号で止まる」


「義務ですね」


「なぜ止まる」


「危ないから」


「誰が危ない」


「自分も、他人も」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 自分の自由。

 他人の自由。


「ぶつかる」


「あ」


「青信号回ですね」


「そうだ」


 博士はうなずいた。


「権利は、進める範囲を作る」


「はい」


「義務は、ぶつからない形を作る」


「はい」


「権利だけなら?」


「ぶつかる」


「義務だけなら?」


「動けない」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 権利だけなら衝突。

 義務だけなら停止。


「バランスですか」


「雑に言えばそうだ」


「丁寧に言うと?」


「権利と義務は、同じ空間で自由を成立させるための対になる」


「綺麗ですね」


「私は哲学者だからな」


「名前以外は」


「その義務は君にあるのかね」


「ありません」


「なら黙らなくてよい」


 博士は続けた。


「ここで事故が起きる」


「事故」


「私には権利がある」


「はい」


「だから義務はない」


「飛躍です」


「そうだ」


「私は自由だ」


「はい」


「だから他人に配慮しない」


「迷惑です」


「そうだ」


「私は正しい」


「はい」


「だから義務を無視してよい」


「危ないですね」


「かなり危ない」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 権利は、義務の免除ではない。


「強いですね」


「強くてよい」


「でも義務って、自由を縛りますよね」


「縛る」


「認めるんですね」


「認める」


「では悪では?」


「違う」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 自由を消す制限。

 自由を守る制限。


「分ける」


「またですか」


「ここは大事だ」


 博士は言った。


「何でも禁止する」


「自由を消す制限」


「他人を殴るな」


「自由を守る制限」


「道路の真ん中で寝るな」


「自由を守る制限」


「税金を払え」


「重いですね」


「重い。だが共同体の運用だ」


「義務は重い」


「そうだ」


「でも必要なことがある」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 義務は、自由の敵とは限らない。

 自由の維持費であることがある。


「維持費」


「そうだ」


「自由はタダではない?」


「タダではない」


「重いですね」


「共同生活だからな」


 博士はコーヒーを飲んだ。


「ここでカントを借りよう」


「義務といえばカントですね」


「そうだ」


「カントは厳しそうです」


「かなり厳しい」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 したいから、ではなく。

 すべきだから。


「これがカントですか」


「かなりカントだ」


「好きだから親切にする」


「はい」


「気分がいいから約束を守る」


「はい」


「褒められたいから正直にする」


「はい」


「それも悪くはない」


「はい」


「だがカントは、もっと厳しく見る」


「すべきことを、すべきだから行う」


「そうだ」


「チンポジ博士にしては硬いですね」


「カントだからな」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 気分が乗らなくても、守るべきものがある。


「それが義務」


「そうだ」


「好き嫌いではない」


「そうだ」


「内心でもない」


「そうだ」


「外に出た行為の話」


「かなりチンポジ哲学ですね」


「そうだ」


 博士は続けた。


「他人の内心は不問だ」


「はい」


「だが外に出た行為には義務がある」


「はい」


「嫌いでも殴るな」


「はい」


「ムカついても盗むな」


「はい」


「納得できなくても赤信号では止まれ」


「はい」


「内心は自由」


「外側は義務」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 内心の自由。

 外側の義務。


「混ぜるな」


「かなり本丸ですね」


「本丸に近い」


 博士は言った。


「ミルならどう見るか」


「他者危害ですね」


「そうだ」


「他人に危害を与えない義務」


「そうだ」


「不快は?」


「義務化しすぎると危ない」


「なるほど」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 危害を避ける義務。

 不快を消す義務。


「混ぜるな」


「ああ」


「来たな」


「全員を不快にしない義務なんて無理ですね」


「無理だ」


「でも危害を避ける義務はある」


「ある」


「迷惑なら?」


「調整する」


「つながりますね」


「全部つながる」


 博士は続けた。


「アリストテレスなら?」


「共同体ですね」


「そうだ」


「義務は共同体の中で生まれる」


「はい」


「一人なら、誰かに迷惑をかけることも少ない」


「はい」


「だが、家族、学校、会社、道路、店、国」


「はい」


「人と並んだ瞬間、義務が生まれる」


「なるほど」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 隣に人がいる。

 だから義務が生まれる。


「綺麗ですね」


「題材以外はな」


「今回は題材も普通です」


「普通という言葉も危ない」


「別回ですね」


「もうやった」


 博士は少し笑った。


「ニーチェなら疑う」


「また刺しますか」


「刺す」


「何をですか」


「その義務は、本当に義務か。誰かが都合よく作った服従ではないか」


「刺しますね」


「必要だ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 義務。

 服従。

 同調圧力。


「混ぜるな」


「かなり混ざりますね」


「混ざる」


「家族なんだから」


「はい」


「女なんだから」


「男なんだから」


「はい」


「若いんだから」


「はい」


「年上なんだから」


「はい」


「日本人なんだから」


「はい」


「普通はこうする」


「危ないですね」


「かなり危ない」


 博士は言った。


「義務の顔をした支配がある」


「ありますね」


「ある」


「義務の顔をした空気もある」


「あります」


「義務の顔をした搾取もある」


「かなりあります」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 誰が。

 誰に。

 何を。

 どこまで。

 何のために。


「社会問題テンプレですね」


「そうだ」


「義務です、だけでは足りない」


「足りない」


「何の義務か言え」


「そうだ」


「誰に対する義務か言え」


「そうだ」


「根拠は何か言え」


「そうだ」


「限界はどこか言え」


「そうだ」


 博士はうなずいた。


「義務は必要だ」


「はい」


「だが、義務という言葉は強い」


「はい」


「だから濫用すると危ない」


「はい」


「義務に見えるものを、一度点検する」


「ニーチェですね」


「ニーチェだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 義務は必要。

 だが、義務を名乗るものは疑え。


「かなり良いですね」


「かなり良い」


 博士は今日の答えをまとめた。


 義務とは、自由を壊さないためのブレーキである。

 権利、義務、命令、責任は違う。

 権利は、してよい範囲や守られるべき範囲である。

 義務は、共同生活を壊さないために自分の行動へかける制限である。

 命令は、誰かから従えと言われることである。

 責任は、自分の行動を引き受けることである。

 権利は、義務の免除ではない。

 義務は、自由の敵とは限らない。

 自由の維持費であることがある。

 内心は自由。

 外側には義務がある。

 危害を避ける義務と、不快を消す義務を混ぜるな。

 義務、服従、同調圧力を混ぜるな。

 義務は必要だが、義務を名乗るものは疑え。


「博士」


「何かね」


「チンポジで言うなら?」


 博士は少し考えた。


「君には君のベスポジがある」


「はい」


「それを探す自由がある」


「はい」


「だが、満員電車で足を大きく広げる」


「迷惑です」


「そうだ」


「自分のベスポジのために」


「はい」


「他人の空間を奪っている」


「はい」


「だから?」


「足を閉じる義務がある」


「そうだ」


「ベスポジなのに?」


「ベスポジでもだ」


「強い」


「強くてよい」


 博士は紙ナプキンに最後の一文を書いた。


 義務とは、自分のベスポジを守りながら、他人のベスポジを踏み潰さないためのブレーキである。


「綺麗ですね」


「私は哲学者だからな」


「名前以外は」


「その発言を控える義務はないのかね」


「ありません」


「なら、こちらには聞き流す自由がある」


 博士は静かにコーヒーを飲んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※この作品は深掘りしたいなら全文を生成AIへ入力してください。
[宣伝][完結済]股間に聖剣があった ――分かり合えないと分かり合う哲学
チンポジ哲学が生まれる話です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ