表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
哲学と私 あるいは、チンポジ博士の講義  作者: チンポジ博士


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/68

時間とは。

 時間とは何か。


 そう聞くと、博士は少しだけうなずいた。


「それは、かなりチンポジ哲学に向いている」


「またですか」


「まただ。時間とは、収まりを調整できる範囲が移動していくことだ」


「最悪にわかりやすそうですね」


 博士は紙ナプキンを一枚取り、短く書いた。


 時間=調整可能性の変化


「生きている間、人は調整している」


「はい」


「右が違えば直す。左が違えば戻す。固定が苦しければ緩める。自由すぎて不安なら固定する」


「チンポジですね」


「そうだ」


 博士は続けた。


「だが、調整できるのは今だけだ」


「今だけ」


「過去の収まりは、もう直せない。未来の収まりは、まだ触れない。今だけが、手を伸ばせる」


 博士は紙ナプキンに三つの言葉を書いた。


 過去=もう直せない

 現在=今なら触れる

 未来=まだ選べるかもしれない


「時間とは、この三つの違いだ」


「かなり実務的ですね」


「時間は実務だ」


「哲学っぽくないですね」


「哲学とは、当たり前を少しずらして見る技術だ。時計を見れば時間はわかる。だが、時間を生きるとは何かは、時計だけではわからない」


「時間を生きる」


「そうだ」


 博士はコーヒーを一口飲んだ。


「ここでアウグスティヌスを借りよう」


「時間でアウグスティヌスですか」


「彼は、時間についてかなり面白いことを考えた。過去はもう存在しない。未来はまだ存在しない。現在は、捉えようとするとすぐ過ぎ去る」


「じゃあ時間って何なんですか」


「だから難しい」


 博士は紙ナプキンを指で叩いた。


「アウグスティヌスは、過去は記憶として、未来は期待として、現在は注意として心にある、と考えた」


「過去は記憶」


「そうだ」


「未来は期待」


「そうだ」


「現在は注意」


「そうだ」


「つまり時間は、時計だけでなく、自分の中にもある」


「その通り」


 博士は、さっきの三つの言葉の横に付け足した。


 過去=記憶

 現在=注意

 未来=期待


「過去は、もう直せない。だが、思い出し方は変わる」


「記憶ですね」


「そうだ。過去の出来事そのものは変えられない。しかし、その意味づけは変わることがある」


「昔の失敗が、あとで笑い話になる」


「そうだ」


「嫌だったことが、あとで教訓になる」


「そうだ」


「逆に、楽しかったことが、あとで苦くなる」


「そうだ」


「過去は直せないけど、過去との関係は変わる」


「その通り」


 博士は少し満足げだった。


「未来は、まだ触れない」


「はい」


「だが、期待や不安として今に入り込む」


「未来が今を動かす」


「そうだ。明日の試験が、今日の胃を痛くする。来月の給料が、今日の我慢を作る。十年後の不安が、今日の選択を変える」


「未来はまだないのに」


「まだないのに、今を動かす」


「時間って厄介ですね」


「非常に厄介だ」


 博士は、そこで一度チンポジに戻した。


「つまり、未来のチンポジを心配して、今のチンポジが乱れることもある」


「戻し方が雑です」


「構造は正しい」


「否定しづらいのが腹立ちます」


「未来の不安は、現在の収まりを乱す」


「急にまともに言い直しましたね」


「必要に応じてな」


 博士は次に、長い線を一本引いた。


「普通、人は時間を直線として見る」


「過去から現在、未来へ」


「そうだ。時計もカレンダーも、時間を並べる道具だ」


「時間を並べる」


「変化を、戻せない方向で並べる」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 時間=変化を戻せない方向で並べるもの


「これも一つの答えだ」


「戻せない方向」


「そうだ。卵を割れば、割れる前には戻らない。言葉を言えば、言う前には戻らない。人が死ねば、生前には戻らない」


「重くなりました」


「時間は、いつも少し重い」


 博士は続けた。


「ただし、時計の時間と、感じる時間は違う」


「楽しい時間は早い」


「そうだ」


「退屈な時間は長い」


「そうだ」


「待っている時間も長い」


「そうだ」


「締切前の時間は短い」


「非常に短い」


「博士も締切あるんですか」


「哲学者にもある」


「何の締切ですか」


「喫茶店の閉店時間だ」


「平和ですね」


 博士は紙ナプキンに、今度は別の名前を書いた。


 ベルクソン


「ここでベルクソンを借りよう」


「また巨匠ですね」


「ベルクソンは、時間を時計の数字だけで考えなかった。人間が生きる時間は、流れる持続だ」


「持続」


「そうだ。時計は時間を均等に刻む。一分は一分。一時間は一時間。だが、感じられる時間は均等ではない」


「同じ一時間でも違う」


「そうだ。好きな人と話す一時間と、腹痛を我慢する一時間は違う」


「極端ですね」


「わかりやすいだろう」


「わかります」


「チンポジが悪い時の五分と、何も気にならない五分も違う」


「やっぱり戻る」


「時間とは、身体と無関係ではない」


「言い方はまともですね」


 博士は真顔で言った。


「時計は外側の時間を測る。だが、本人の中の時間は、身体や感情や集中で伸び縮みする」


「主観的時間」


「そうだ」


「ここも本人にしかわからない」


「チンポジ哲学の領域だ」


「また得意分野ですね」


「時間の体感は観測不能に近い。外から一時間は測れる。しかし、その一時間が本人にどう流れたかは、本人にしかわからない」


「確かに」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 時計の時間=外側の計測

 生きる時間=内側の持続


「時間は、この二つを分けるとわかりやすい」


「外側では同じ一時間」


「そうだ」


「内側では違う一時間」


「そうだ」


「だから、待たされる側と待たせる側で感覚が違う」


「かなり違う」


「痛い人の一分と、見ている人の一分も違う」


「違う」


「死を待つ人の時間も」


「違う」


 博士はそこで少し黙った。


「時間は、死にもつながる」


「ハイデガーですか」


「そうだ」


 博士はうなずいた。


「ハイデガーを借りるなら、人間は死へ向かう存在だ」


「死へ向かう」


「時間は、ただ流れているのではない。人間にとって時間は、終わりへ向かっている」


「終わりがあるから、時間になる」


「そうだ。もし終わりがなければ、今選ぶことの重さはかなり変わる」


「いつかやればいい、になる」


「そうだ」


「でも死があるから、今しかできないことが出る」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 時間には、終わりがある。

 だから、現在に重さが生まれる。


「ここで、さっきの答えに戻る」


「調整可能性の変化」


「そうだ」


 博士は三つの言葉をもう一度指した。


 過去。

 現在。

 未来。


「過去は、もう調整できない」


「はい」


「未来は、まだ調整できない」


「はい」


「現在だけが、調整できる」


「はい」


「だが、現在はすぐ過去になる」


「厳しいですね」


「だから時間は厳しい」


 博士は、紙ナプキンの中央に大きく書いた。


 現在=過去になる直前の調整可能時間


「現在とは、過去になる直前の調整可能時間だ」


「すごく実務的な現在ですね」


「現在は実務だ」


「直せるのは今だけ」


「そうだ」


「謝るのも今」


「そうだ」


「伝えるのも今」


「やめるのも今」


「そうだ」


「選ぶのも今」


「そうだ」


「チンポジを直すのも今」


「そうだ」


「そこだけ軽い」


「軽くない。不快は現在に発生する」


「言われると正しい」


 博士は、今日の答えをまとめ始めた。


 時間とは、調整可能性の変化である。

 過去は、もう直せない。

 現在は、今なら触れる。

 未来は、まだ選べるかもしれない。

 時間とは、変化を戻せない方向で並べるものでもある。

 過去は記憶として、未来は期待として、現在は注意として心にある。

 時計の時間と、生きる時間は違う。

 人間の時間には終わりがある。

 だから現在に重さが生まれる。

 現在とは、過去になる直前の調整可能時間である。


「博士」


「何かね」


「時間って、かなり怖いですね」


「怖い」


「直せるのは今だけ」


「そうだ」


「でも今はすぐ過去になる」


「そうだ」


「未来は選べそうに見えるけど、まだ触れない」


「そうだ」


「過去は変えられないけど、意味づけは変わる」


「そうだ」


「時計の時間と、自分の時間は違う」


「そうだ」


「時間って、思ったより身体に近い」


「だからチンポジ哲学に向いていると言った」


「戻ってきましたね」


「戻るべき場所に戻った」


「時間の話でその言い方は少し良いですね」


「哲学者だからな」


「名前以外は」


「名前も哲学的だ」


「時間が経ってもそこは変わりませんね」


「変わらないものもある」


「時間の話をしているのに」


「だからこそだ」


 博士は笑った。


 喫茶店を出ると、外は夕方だった。


 日が傾き、道の影が少し伸びていた。


 ほんのさっきまで昼だった気がする。


 けれど、もう夕方だった。


 時間は進んでいた。


 私が話している間にも。

 博士が紙ナプキンに書いている間にも。

 コーヒーが冷める間にも。

 誰かが駅へ急ぐ間にも。


 時間とは何か。


 過去は、もう直せない。


 現在は、今なら触れる。


 未来は、まだ選べるかもしれない。


 でも現在は、すぐに過去になる。


 だから、言うなら今なのだ。


 謝るなら今なのだ。


 直すなら今なのだ。


 選ぶなら今なのだ。


 大げさな話ではない。


 今日の夕飯を決めること。

 疲れたなら休むこと。

 嫌なことから少し離れること。

 誰かに一言返すこと。

 言わないと決めること。


 そういう小さな調整の積み重ねが、時間の中で生きるということなのかもしれない。


 私はその日から、時間を少しだけ違うものとして見るようになった。


 時計の針ではなく。


 過去になる直前の、短い調整可能時間として。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※この作品は深掘りしたいなら全文を生成AIへ入力してください。
[宣伝][完結済]股間に聖剣があった ――分かり合えないと分かり合う哲学
チンポジ哲学が生まれる話です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ