代表とは。
代表とは何か。
その問いを出すと、博士は紙ナプキンに短く書いた。
本人ではない者が、本人の代わりに立つこと。
「当たり前ですね」
「当たり前だ」
「代表ってそういうものでは?」
「そうだ」
「では簡単ですね」
「簡単ではない」
博士は即答した。
「なぜですか」
「本人ではないからだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
本人。
代表。
「分ける」
「また分ける」
「何度でも分ける」
博士は言った。
「代表は本人ではない」
「はい」
「本人の内心を完全には知らない」
「はい」
「本人のベスポジも知らない」
「はい」
「だから代表には限界がある」
「チンポジ哲学ですね」
「かなり近い」
博士はうなずいた。
「代表は必要だ」
「必要なんですか」
「必要だ」
「なぜですか」
「全員が毎回話し合いの場に出ることはできないからだ」
「それはそうですね」
「国でも、会社でも、自治会でも、団体でも同じだ」
「はい」
「誰かが代わりに話す」
「はい」
「誰かが代わりに交渉する」
「はい」
「誰かが代わりに決めることがある」
「はい」
「だから代表は必要だ」
博士は紙ナプキンに書いた。
代表は必要。
だが危ない。
「危ないんですか」
「危ない」
「なぜですか」
「代表は、本人の署名欄を埋めたくなる」
「出ましたね」
「出る」
博士は紙ナプキンに書いた。
私は彼らを代表している。
だから彼らは私と同じ考えである。
「これは?」
「飛躍です」
「そうだ」
「かなり飛躍です」
「かなり飛躍だ」
博士は続けた。
「私は女性を代表する」
「はい」
「私は若者を代表する」
「はい」
「私は高齢者を代表する」
「はい」
「私は障害者を代表する」
「はい」
「私は国民を代表する」
「はい」
「どれも場合によっては成立する」
「成立するんですか」
「することはある」
「では?」
「条件がいる」
博士は紙ナプキンに書いた。
委任。
選挙。
手続き。
範囲。
撤回。
「代表の条件ですか」
「かなりそうだ」
「勝手に代表してはいけない」
「そうだ」
「全員を代表していると言ってはいけない」
「かなり危ない」
「一部なら?」
「一部ならまだ分かる」
博士は紙ナプキンに書いた。
代表している人。
代表していない人。
「混ぜるな」
「大事ですね」
「大事だ」
博士は続けた。
「ここでカントを借りよう」
「人を手段としてのみ扱うな」
「そうだ。代表される人を、自分の主張の材料にするな」
「はい」
「ミルは?」
「自由ですね」
「代表されない自由もある」
「強いですね」
「かなり大事だ」
「ウィトゲンシュタインは?」
「代表という言葉が、どの場面でどう使われているかを見る」
「政治の代表」
「はい」
「団体の代表」
「はい」
「属性の代表」
「はい」
「本人の代弁」
「全部違いますね」
「違う」
「ニーチェは?」
「その代表は、本当に代表か。代表者になりたいだけではないのか、と笑う」
「刺しますね」
「必要だ」
博士は紙ナプキンに書いた。
代表。
代弁。
利用。
「混ぜるな」
「かなり混ざりますね」
「かなり混ざる」
博士は言った。
「代表は、手続きがあるならまだ扱いやすい」
「選挙とか」
「そうだ」
「委任状とか」
「そうだ」
「団体の規約とか」
「そうだ」
「では、属性代表は?」
「かなり危ない」
「なぜですか」
「属性は署名しないからだ」
私は少し黙った。
「強いですね」
「強くてよい」
博士は紙ナプキンに書いた。
属性は署名しない。
「これは強い」
「強い」
「女性という属性は署名しない」
「そうだ」
「若者という属性も署名しない」
「そうだ」
「障害者という属性も」
「そうだ」
「国民は?」
「選挙なら手続きがある」
「なるほど」
「手続きがある代表と、属性を名乗る代表は分ける」
「かなり大事ですね」
「かなり大事だ」
博士は今日の答えをまとめた。
代表とは、本人ではない者が、本人の代わりに立つことである。
代表は必要である。
だが、代表は本人ではない。
本人の内心も、本人のベスポジも完全には知らない。
代表には、委任、選挙、手続き、範囲、撤回が必要である。
勝手に代表してはいけない。
代表している人と、代表していない人を混ぜるな。
代表と代弁と利用を混ぜるな。
属性は署名しない。
だから属性代表は慎重に扱え。
「博士」
「何かね」
「チンポジで言うなら?」
博士は少しだけ考えた。
「私は全チンポジを代表する」
「最悪ですね」
「最悪だ」
「誰も頼んでません」
「そうだ」
「署名もありません」
「そうだ」
「そもそも全部違います」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
全員のベスポジを代表する者はいない。
「かなり綺麗ですね」
「題材以外はな」
「自覚がある」
「ある」
博士は続けた。
「ただし、代表が不要なわけではない」
「はい」
「困っている人の声を集める者はいる」
「はい」
「交渉する者もいる」
「はい」
「制度へ届ける者もいる」
「はい」
「だが、そこで言うべきは」
博士は紙ナプキンに書いた。
私たちの中には、こう困っている人がいる。
「全員ではなく」
「そうだ」
「この属性はこうだ、ではなく」
「そうだ」
「こう困っている人がいる」
「そうだ」
「かなり実務ですね」
「代表は実務だ」
博士は最後に紙ナプキンをこちらへ向けた。
代表とは、他人のベスポジを所有することではない。
預かった範囲だけ、外に出て代わりに立つことである。
「綺麗ですね」
「私は哲学者だからな」
「名前以外は」
「その評価は誰を代表しているのかね」
「私個人です」
「よろしい」
博士は笑った。




