表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
哲学と私 あるいは、チンポジ博士の講義  作者: チンポジ博士


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/68

弱者とは。

 弱者とは何か。


 その問いを出すと、博士は紙ナプキンに短く書いた。


 ある場面で、不利な位置に置かれている人。


「弱い人、ではないんですか」


「違う」


 博士は即答した。


「弱者とは、その人の本質ではない。状態だ」


「状態」


「そうだ。何に対して弱いのか。どの場面で不利なのか。誰との関係で弱いのか。それを見なければならない」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 弱者=属性ではない。

 弱者=場面と関係で生じる状態。


「チンポジ哲学ですね」


「かなり近い」


 博士はうなずいた。


「本人の内側は、他人には直接見えない」


「はい」


「困っているかどうかも、外から勝手に決めてはいけない」


「はい」


「だから、属性で弱者認定するな」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 女性だから弱者。

 高齢者だから弱者。

 障害者だから弱者。

 LGBTだから弱者。

 子どもだから弱者。


「これ、全部ダメなんですか」


「入口にはなる」


「入口」


「そうだ。困りごとが発生しやすい属性はある。保護が必要になりやすい場面もある。そこは否定しない」


「では?」


「だが、属性そのものは弱者証明ではない」


 博士は続けた。


「ある属性の中に、弱い立場に置かれた人がいる」


「はい」


「これは観測だ」


「はい」


「その属性だから弱者である」


「これは?」


「すり替えだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 属性は観測の入口。

 弱者認定の証明ではない。


「条件のすり替えですね」


「そうだ」


「弱者扱いは、優しさでは?」


「優しさに見える」


「見える?」


「弱者認定は、相手を下に置くことでもある」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 助ける前に、下に置くな。


「強いですね」


「強くてよい」


「では、困っている人を助けるなと?」


「違う」


 博士は即答した。


「困っているなら助ければいい」


「では何が違うんですか」


「属性で決めるな。本人の言葉と、外に出ている状況を見ろ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 何に困っているのか。

 誰との関係で不利なのか。

 どの制度で詰まっているのか。

 何を変えれば軽くなるのか。

 誰が何を負担するのか。

 どこまで行けば終わるのか。


「かなり実務ですね」


「弱者支援は実務だ」


「感情ではなく?」


「感情は入口になる。だが、感情だけでは足りない」


 博士は続けた。


「ここでカントを借りよう」


「人を手段としてのみ扱うな」


「そうだ。弱者を、自分の善意や正義の材料にするな」


「ウィトゲンシュタインは?」


「弱者という言葉が、どの場面でどう使われているのか見ろと言う」


「ニーチェは?」


「その弱者認定は、本当に相手のためか。自分が善の側に立つためではないのか、と笑う」


「刺しますね」


「刺す必要がある」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 弱者という言葉は、助ける道具にもなる。

 支配する道具にもなる。


「支配ですか」


「そうだ」


「なぜですか」


「弱者と呼ばれた人は、強くある自由を失うことがある」


「強くある自由」


「そうだ。私は困っていない、と言う自由。私はその運動を支持しない、と言う自由。私は私のやり方で生きる、と言う自由」


「同じ属性の反対者ですね」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 弱者認定で、本人の署名欄を埋めるな。


「契約論ですね」


「そうだ。弱者として扱うなら、支援する側とされる側の関係が生まれる」


「契約が発生する」


「そうだ。本人が望んでいるのか。どこまで助けるのか。いつ終わるのか。誰が責任を持つのか」


「弱者認定って重いですね」


「重い」


 博士は少しだけ間を置いた。


「本当に助けたいなら、まず対等に置け」


「対等」


「そうだ。弱者として見る前に、一人の人間として見る」


「でも、子どもは?」


「子どもは保護が必要な場面がある」


「はい」


「だが、子どもだから何も分からない、と決めれば別の支配になる」


「高齢者は?」


「支援が必要な場面がある」


「はい」


「だが、高齢者だから常に弱者と決めれば、その人の力を奪う」


「障害者は?」


「合理的な調整が必要な場面がある」


「はい」


「だが、その人が何を望むかを聞かずに、こちらで弱さを設計するな」


「全部、場面なんですね」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 まず対等。

 必要なら支援。

 勝手に弱者にするな。


「これが弱者論ですか」


「かなり近い」


「優しくないと言われませんか」


「言われるかもしれない」


「では?」


「弱者扱いしないことも、敬意である」


 博士は今日の答えをまとめた。


 弱者とは、ある場面で、不利な位置に置かれている人である。

 弱者は本質ではなく、状態である。

 属性は観測の入口であって、弱者認定の証明ではない。

 弱者認定は、相手を助ける道具にもなるが、相手を下に置く道具にもなる。

 助ける前に、下に置くな。

 本人の言葉、外部状況、実害、制度、負担、終了条件を見ろ。

 弱者という言葉で、本人の署名欄を勝手に埋めるな。

 まず対等。必要なら支援。勝手に弱者にするな。


「博士」


「何かね」


「チンポジで言うなら?」


 博士は少しだけ考えた。


「この属性ならこのベスポジのはずだ、と決めるな」


「はい」


「この人は弱いはずだ、と決めるな」


「はい」


「この人は助けられたいはずだ、と決めるな」


「はい」


「まず、不問にしろ」


「不問」


「そうだ。対等な大人として扱う」


「でも、困っていたら?」


「聞け」


「聞くんですね」


「聞く。だが、決めつけない」


「助けを求められたら?」


「助ければいい」


「ただし?」


「相手の主権を奪わずに」


 博士は最後に一文を書いた。


 弱者とは、属性に貼る名札ではない。

 ある場面で生じた不利を、具体的に軽くするための仮の呼び名である。


「綺麗ですね」


「私は哲学者だからな」


「名前以外は」


「名前で弱者認定するな」


「そこは不利です」


 博士は笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
※この作品は深掘りしたいなら全文を生成AIへ入力してください。
[宣伝][完結済]股間に聖剣があった ――分かり合えないと分かり合う哲学
チンポジ哲学が生まれる話です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ