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哲学と私 あるいは、チンポジ博士の講義  作者: チンポジ博士


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寄り添いとは。

 寄り添いとは何か。


 その問いを出すと、博士は紙ナプキンに短く書いた。


 近づくことではない。

 勝手に入らないこと。


「寄り添いなのに、近づくことではないんですか」


「近づきすぎると侵入になる」


「いきなりですね」


「寄り添いは、きれいな言葉だ。だから危ない」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 横にいる。

 内側には入らない。


「これが寄り添いですか」


「少なくとも、チンポジ哲学ではそうだ」


 博士は続けた。


「貴方のチンポジに寄り添います」


「最悪ですね」


「最悪だ」


「博士が言ったんですよ」


「だから分かりやすい」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 寄り添う=相手の聖域に近づく行為


「だから、許可がいる」


「許可」


「そうだ。相手が望んでいないのに近づくな」


「でも、善意ですよ」


「善意は入場券ではない」


 博士は即答した。


「心配している」


「あなたの内側だ」


「分かってあげたい」


「分からなくていい」


「本当は苦しいんでしょう」


「勝手に決めるな」


「あなたのためを思って」


「思うのは自由だ。踏み込むな」


「寄り添いたい」


「横にいろ。中に入るな」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 寄り添いは、内心への入国許可ではない。


「強いですね」


「強くてよい」


 博士は続けた。


「本当に寄り添うなら、まず聞く」


「何をですか」


「近づいていいか」


「そこから」


「そこからだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 必要なら聞く。

 望まれたら助ける。

 勝手には入らない。


「不問と似ていますね」


「近い。不問の上に、許可された距離だけ近づくのが寄り添いだ」


「では、勝手に寄り添うのは?」


「寄り添いではない」


「何ですか」


「侵入だ」


 博士は少しだけ真面目な顔になった。


「ここでカントを借りよう」


「他人の内心には直接届かない」


「そうだ。届かないものに、届いたふりをするな」


「ウィトゲンシュタインは?」


「『つらい』という言葉を聞くことはできる。だが、そのつらさそのものを完全共有したことにはならない」


「ニーチェは?」


「その寄り添いは、相手のためか。優しい自分を確認するためか、と笑う」


「刺してきますね」


「寄り添いには刺す価値がある」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 寄り添うな。

 横にいろ。


「かなり乱暴ですね」


「正確だ」


「寄り添うな、でいいんですか」


「勝手に寄り添うな、だ」


「なるほど」


 博士は今日の答えをまとめた。


 寄り添いとは、近づくことではない。

 勝手に入らないことである。

 横にいる。内側には入らない。

 善意は入場券ではない。

 心配は、相手の内心を決める許可ではない。

 分かってあげたい、は分かったふりへの入口である。

 必要なら聞く。望まれたら助ける。勝手には入らない。

 不問の上に、許可された距離だけ近づくのが寄り添いである。


「博士」


「何かね」


「寄り添いって、優しい言葉だったはずなのに」


「優しい言葉ほど、距離を間違える」


「では、本当に寄り添う人は?」


「静かだ」


「静か」


「そうだ。相手の言葉を待つ。勝手に代弁しない。勝手に治療しない。勝手に救済しない」


「助けないんですか」


「助ける。必要なら」


「必要なら」


「そうだ。本人が望む形で。できる範囲で。相手の主権を奪わずに」


 博士は最後に一文を書いた。


 寄り添いとは、相手の心に入ることではない。

 相手が開けた距離の外側で、静かに立つことである。


「綺麗ですね」


「私は哲学者だからな」


「名前以外は」


「名前にも寄り添いたまえ」


「そこは距離を置きます」


 博士は笑った。

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