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哲学と私 あるいは、チンポジ博士の講義  作者: チンポジ博士


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権利とは。

 権利とは何か。


 その問いを出すと、博士は紙ナプキンに短く書いた。


 踏み込まれないための境界線。


「権利とは、自由のことですか」


「近いが、同じではない」


「違うんですか」


「自由は、自分が選べる範囲だ。権利は、その範囲へ他人を踏み込ませないための線になる」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 自由=自分が選べる範囲

 権利=踏み込ませないための境界線


「チンポジ哲学ですね」


「かなり近い」


 博士はうなずいた。


「本人には、本人の収まりがある」


「はい」


「他人には直接わからない」


「はい」


「だから、勝手に踏み込むな」


「はい」


「ここまでは権利と相性がいい」


「その先は?」


「権利にすると、他人の行動を縛る」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 私は嫌だ。

 だから、あなたはしてはならない。


「ここには飛躍がある」


「嫌だ、だけでは足りない」


「そうだ。権利にするなら、誰の権利で、誰の義務かを示さなければならない」


 博士は続けて書いた。


 誰の権利か。

 誰の義務か。

 何を禁止するのか。

 何を要求するのか。

 どこまでか。

 誰が判定するのか。


「権利って、思ったより実務ですね」


「かなり実務だ」


「でも、権利って強い言葉ですよね」


「強い。だから後ろに置く」


「後ろ?」


「そうだ。最初から権利を出すな」


 博士は紙ナプキンに、順番を書いた。


 不問。

 警告。

 外部行動。

 契約。

 権利。

 制度。


「まず、不問だ」


「ほっとけ、ですね」


「そうだ。相手の内側に入らない。こちらの内側にも入らせない」


「それでも来たら?」


「警告する」


「ぶん殴るぞ」


「そうだ」


「権利より先なんですね」


「先だ。権利は、いきなり出すと大きすぎる。権利を持ち出す前に、まず境界線を示す」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 踏み込むな。

 それでも来るなら、話を権利にする。


「なるほど」


「権利とは、平時の第一声ではない。境界線を踏まれた後に出てくる、強い道具だ」


「だから扱いを間違えると危ない」


「そうだ」


 博士は続けた。


「内心は?」


「不問にしなさい」


 博士は即答した。


「理解される権利は?」


「危ない」


「尊重される権利は?」


「外部行動なら扱える。内心なら無理だ」


「嫌われない権利は?」


「ない」


「断言しましたね」


「嫌がらせされない権利ならある。だが、嫌われない権利は内心を縛る」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 行動を求める権利か。

 内心を求める権利か。

 分けろ。


「ここでミルを借りる」


「他者危害原則ですね」


「そうだ。他人に実害があるなら介入できる。だが、私的領域そのものへ踏み込むな」


「カントは?」


「人を手段としてのみ扱うな。権利の名で、他人を自分の安心の道具にするな」


「ロールズは?」


「カードを引く前に、その権利設計を選べるか」


「ニーチェは?」


「その権利、復讐ではないのか、と笑う」


「煽りますね」


「必要な煽りだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 権利は盾になる。

 だが、剣にもなる。


「怖いですね」


「怖い。だから順番がいる」


「権利なのに?」


「権利だからだ」


 博士は少しだけ声を低くした。


「権利は、踏み込まれないためには必要だ」


「はい」


「だが、権利を根拠に他人の内側へ踏み込むなら、それは逆流だ」


「権利の逆流」


「そうだ。守るための線が、相手へ踏み込むための刃になる」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 権利で内心に踏み込むな。


「これは強いですね」


「強くてよい」


「チンポジ哲学で言うなら?」


 博士は少し考えた。


「自分のベスポジを守る権利はある」


「はい」


「だが、他人に自分のベスポジを履かせる権利はない」


「かなり強いですね」


「強くてよい」


「踏まれたら?」


「外部行動を見る」


「制度にするなら?」


「測定方法、判定方法、費用負担、責任主体を出す」


 博士は今日の答えをまとめた。


 権利とは、踏み込まれないための境界線である。

 自由は、自分が選べる範囲である。

 権利は、その範囲へ他人を踏み込ませないための線である。

 ただし、権利は最初に振り回す道具ではない。

 まず不問。次に警告。外部行動が出たら契約。必要なら権利。最後に制度。

 権利にするなら、誰の権利か、誰の義務か、何を禁止し、何を要求し、誰が判定するのかを示せ。

 行動を求める権利と、内心を求める権利を分けろ。

 内心は不問。外部行動を見る。

 権利は盾にもなるが、剣にもなる。

 権利で内心に踏み込むな。


「博士」


「何かね」


「権利って、思ったより後ろにあるんですね」


「そうだ」


「最初から権利を言えばいいのかと思っていました」


「それをやると、すぐ戦争になる」


「戦争」


「権利と権利がぶつかるからだ」


「では、最初は?」


「ほっとけ」


「雑ですね」


「雑ではない。平和の基本だ」


 博士は最後に一文を書いた。


 権利とは、他人に踏み込まれないための盾を作りながら、その盾で他人を殴らないための作法である。


「綺麗ですね」


「私は哲学者だからな」


「名前以外は」


「名前を守る権利を主張する」


「読者には拒否権があります」


「契約論に戻るな」


 博士は笑った。

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