比喩とは。
比喩とは何か。
博士は紙ナプキンに短く書いた。
別のものを使って、見えにくいものを見えるようにする道具。
「比喩とは、見えにくいものを、別のものに乗せて見せる道具だ」
「例えることですね」
「そうだ。ただし、危ない」
「なぜですか」
「比喩は、似ている部分だけを借りるものだからだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
似ている。
だが、同じではない。
「ここを混ぜるな」
「また混ぜるなですね」
「何度でも言う」
博士は続けた。
「人生は旅だ、と言う」
「はい」
「人生と旅は同じではない」
「まあ、違いますね」
「だが、進む、迷う、戻れない、分岐する、目的地があるかもしれない。そういう部分を借りている」
「なるほど」
「比喩は、全部を説明するものではない。一部を照らすものだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
比喩は照明であって、地図ではない。
「チンポジ哲学も比喩ですよね」
「そうだ」
「でも、かなり最低の比喩ですね」
「最低だが強い」
「なぜ強いんですか」
「本人にしか分からない私的感覚を、一発で生活感覚へ落とせるからだ」
博士は言った。
「ただし、ここでも混ぜるな」
「何をですか」
「チンポジと他者理解は同じではない。似ている部分を借りているだけだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
比喩を信じすぎるな。
だが、比喩が照らしたものは見ろ。
「比喩って、便利だけど暴走しますね」
「する」
「たとえば?」
「社会は家族だ」
「ああ」
「国は会社だ」
「ありますね」
「人生は競争だ」
「あります」
「弱者は守るべき子どもだ」
「危ないですね」
「そうだ。比喩は、考えやすくする代わりに、考え方を固定する」
博士は紙ナプキンに書いた。
比喩は、思考の足場になる。
だが、足場を家だと思うな。
「かなり良いですね」
「比喩は、使った後に降りる必要がある」
「降りる」
「そうだ。比喩で見えたものを、最後は現実の条件に戻す」
「チンポジ哲学も?」
「もちろんだ」
博士は紙ナプキンにまとめた。
比喩とは、別のものを使って、見えにくいものを見えるようにする道具である。
似ている。だが、同じではない。
比喩は照明であって、地図ではない。
比喩を信じすぎるな。だが、比喩が照らしたものは見ろ。
比喩は思考の足場である。足場を家だと思うな。
使った比喩からは、最後に降りろ。
「博士」
「何かね」
「チンポジ哲学からも降りるんですか」
「必要なら降りる」
「降りたらどうなるんですか」
「外部行動、責任主体、測定方法、契約、費用、終了条件に戻る」
「急に実務ですね」
「比喩は入口だ。実務が出口だ」
博士は最後に一文を書いた。
比喩とは、分かった気にさせる危険と、分からなかったものを見せる力を同時に持つ道具である。
「かなりまともですね」
「私は哲学者だからな」
「名前以外は」
「名前も比喩だ」
「それは逃げでは?」
「心得である」
博士は笑った。




