罪悪感とは。
罪悪感とは何か。
博士は少しだけ目を伏せた。
「内側の罰だな」
「罰?」
博士は紙ナプキンに書いた。
罪悪感=自分の内側で発生する罰
「罪悪感とは、自分の内側で発生する罰である」
「悪いことをした時に感じるものですよね」
「そうだ。だが、実際に悪いことをした時だけ発生するとは限らない」
「違うんですか」
「違う」
博士は続けて書いた。
罪があること。
罪悪感があること。
この二つは違う。
「ここを混ぜるな」
「また分ける」
「何度でも分ける」
博士は言った。
「罪があるなら、外部行動を見る」
「はい」
「誰に何をしたのか」
「はい」
「どんな損害が出たのか」
「はい」
「謝罪や補償が必要なのか」
「はい」
「ルール違反なのか」
「はい」
「だが、罪悪感は内側にある」
「本人の収まり」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
罪は、外部行動の問題。
罪悪感は、内側の収まりの問題。
「罪悪感があるから罪がある、とは限らない」
「はい」
「罪悪感がないから罪がない、とも限らない」
「それもありますね」
「ここが大事だ」
博士は少し厳しい顔をした。
「罪悪感は、便利に使われる」
「どういう意味ですか」
「相手を動かす道具になる」
「罪悪感を持たせる?」
「そうだ」
博士は紙ナプキンに書いた。
罪悪感は、他人を操作する道具になり得る。
「あなたのせいで傷ついた」
「はい」
「あなたが配慮しなかったから悪い」
「はい」
「あなたが黙っているから苦しい」
「はい」
「あなたが助けないから冷たい」
「はい」
「こうして、相手の内側に罰を置こうとする」
「重いですね」
「重い」
博士は静かに言った。
「本当に悪いことをしたなら、向き合え」
「はい」
「だが、他人が渡してきた罪悪感を、全部受け取るな」
「はい」
「まず分けろ」
博士は紙ナプキンに書いた。
何をしたのか。
誰に損害が出たのか。
どのルールに反したのか。
謝罪すべきことか。
補償すべきことか。
それとも、相手の収まりの悪さを背負わされているだけか。
「チンポジ哲学ですね」
「そうだ」
「相手の収まりの悪さを、全部自分の罪にするな」
「その通り」
博士は最後にまとめた。
罪悪感とは、自分の内側で発生する罰である。
罪があることと、罪悪感があることは違う。
罪は外部行動の問題。罪悪感は内側の収まりの問題。
罪悪感があるから罪があるとは限らない。
罪悪感がないから罪がないとも限らない。
罪悪感は、他人を操作する道具になり得る。
本当に悪いことをしたなら向き合え。
だが、他人が渡してきた罪悪感を全部受け取るな。
まず、何をしたのかを見ろ。
「博士」
「何かね」
「罪悪感って、かなり危ないですね」
「危ない」
「でも、必要でもある」
「必要だ。罪悪感がなければ、人は踏みすぎる」
「はい」
「だが、罪悪感が強すぎると、自分が壊れる」
「はい」
「だから、罪悪感にも切り分けが必要だ」
博士は最後に一文を書いた。
罪悪感とは、内側に鳴る警報である。
だが、警報が鳴ったからといって、必ず火事とは限らない。
「かなりわかりやすいですね」
「私は哲学者だからな」
「名前以外は」
「名前に罪悪感はない」
「少しは持ってください」
博士は笑った。




