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哲学と私 あるいは、チンポジ博士の講義  作者: チンポジ博士


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25/68

差別とは。

 差別とは何か。


 博士は少しだけ目を細めた。


「危ない言葉だな」


「差別がですか」


「そうだ。強すぎる」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 差別=不当な区別


「差別とは、不当な区別である」


「区別そのものではないんですか」


「違う」


 博士はすぐに言った。


「区別は必要だ」


「必要なんですか」


「当然だ。商品やサービスでも差別化と言うだろう」


「言いますね」


「他と違う特徴を出す。用途ごとに分ける。価格を変える。対象を変える。区別そのものは、社会のあちこちにある」


 博士は紙ナプキンにもう一行書いた。


 区別は必要。

 不当な区別が差別。


「ここを混ぜるな」


 博士は続けた。


「大人と子ども。医師と患者。運転できる者とできない者。資格がある者とない者。男性用と女性用。危険物を扱える者と扱えない者」


「全部、区別ですね」


「そうだ。区別がなければ運用できない」


「でも、それが不当なら差別」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 何のための区別か。

 基準は妥当か。

 目的に対して必要か。

 過剰ではないか。

 代替手段はあるか。


「これが差別を見る時の基本だ」


「チンポジ哲学では?」


「属性で他人の収まりを決めるな」


 博士は静かに言った。


「属性で決めつけるのは危ない」


「はい」


「だが、属性に関わる外部条件を完全に無視しても事故る」


「どういうことですか」


「身体差、年齢差、能力差、資格差、リスク差、責任差。これらは現実にある」


「はい」


「だから、属性を見るな、だけでは足りない」


「では?」


「属性で内側を決めるな。必要な外部条件だけ見ろ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 内側を決めるな。

 外部条件を見ろ。


「さらに大事なのは、属性で受け止めているだけかもしれない、ということだ」


「属性で受け止める」


「そうだ」


 博士は少し考えてから、妙な例を出した。


「頭に花が一輪咲いている人がいたとする」


「急ですね」


「例えだ」


「はい」


「その人が嫌われた」


「はい」


「花のせいかもしれない」


「はい」


「だが、本人の性格が悪かっただけかもしれない」


「ありますね」


「アパートを契約できなかった」


「はい」


「花のせいかもしれない」


「はい」


「だが、収入、保証人、信用情報、家賃条件の問題かもしれない」


「あります」


「商品を売ってもらえなかった」


「はい」


「花のせいかもしれない」


「はい」


「だが、塩酸のように用途確認が必要な商品だったのかもしれない」


「それは確認しますね」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 自分には花がある。

 不利益を受けた。

 だから花差別だ。

 ――とは限らない。


「これが危ない」


「かなりわかりやすいですね」


「不利益を受けた時、人は自分の目立つ属性を理由にしたくなる」


「はい」


「だが、それが本当に原因とは限らない」


「だから基準を見る」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 属性で受け止めるな。

 扱いの基準を見ろ。


「差別された、という訴えは?」


「まず分ける」


 博士は即答した。


「本人が傷ついた」


「内側の真実」


「実際に扱いが違った」


「外部行動」


「その扱いに理由があった」


「区別の可能性」


「理由が不当だった」


「差別の可能性」


「制度で禁止する」


「共有ルール」


「処罰する」


「制度判断」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 感じたこと。

 扱いが違ったこと。

 理由があったこと。

 理由が不当だったこと。

 制度で裁くこと。

 これらを混ぜるな。


「差別って、かなり層がありますね」


「ある。だから強い言葉で一気に押すな」


 博士は少し厳しい顔をした。


「差別という言葉は、反論を止めやすい」


「言われると怖いです」


「当然だ。差別者と呼ばれたい者はいない」


「はい」


「だから、差別という言葉を使う時ほど慎重でなければならない」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 差別という言葉で、議論を終わらせるな。

 差別かどうかを、議論の対象にしろ。


「これは重要ですね」


「重要だ」


「差別と言われた側は?」


「まず外部行動を見る」


「内心ではなく」


「そうだ。内心を裁くな。行動、制度、発言、扱い、基準を見る」


「差別したつもりはない、は?」


「それだけでは足りない」


「本人の意図だけでは決まらない」


「そうだ」


「でも、傷ついたから差別、でもない」


「その通り」


 博士はうなずいた。


「意図だけでもない。受け取りだけでもない。外部行動と基準を見る」


 博士は最後にまとめた。


 差別とは、不当な区別である。

 区別は必要。不当な区別が差別。

 商品やサービスの差別化のように、差をつけること自体は悪ではない。

 区別するな、ではなく、その区別は何のためかを問え。

 属性で内側を決めるな。必要な外部条件だけ見ろ。

 不利益を属性で受け止めるな。扱いの基準を見ろ。

 感じたこと、扱いが違ったこと、理由が不当だったこと、制度で裁くことを混ぜるな。

 差別という言葉で議論を終わらせるな。

 差別かどうかを、議論の対象にしろ。

 意図だけでもない。受け取りだけでもない。外部行動と基準を見ろ。


「博士」


「何かね」


「差別って、思ったより設計の話ですね」


「そうだ」


「感情だけではない」


「そうだ」


「道徳だけでもない」


「そうだ」


「区別の目的と基準を見る」


「その通り」


「チンポジで言うなら」


 博士は静かに言った。


「他人の収まりを属性で決めるな。だが、運用に必要な区別まで差別と呼ぶな」


「かなり綺麗ですね」


「私は哲学者だからな」


「名前以外は」


「名前で区別するな」


「それは必要な区別です」


 博士は少し笑った。


 喫茶店を出ると、街にはたくさんの区別があった。


 入口。

 出口。

 男性用。

 女性用。

 関係者以外立入禁止。

 優先席。

 予約席。

 危険物持込禁止。

 未成年購入不可。

 会員限定。


 どれも区別だった。


 だが、そのすべてが差別ではなかった。


 区別がなければ、店も、駅も、制度も、約束も、生活も動かない。


 問題は、区別そのものではない。


 その区別が、何のためにあるのか。


 その基準が妥当なのか。


 目的に対して必要なのか。


 誰かの内側を、属性で勝手に決めていないか。


 不利益を受けた時、人は自分の目立つ属性を理由にしたくなる。


 それは自然なことかもしれない。


 だが、自然なことと、正しいことは違う。


 花のせいかもしれない。


 花のせいではないかもしれない。


 だから、見なければならない。


 何が起きたのか。


 どんな扱いの違いがあったのか。


 その理由は何だったのか。


 その理由は妥当だったのか。


 差別とは何か。


 不当な区別である。


 だからこそ、区別を見ろ。


 基準を見ろ。


 目的を見ろ。


 外部行動を見ろ。


 そして、差別という言葉で議論を終わらせるな。


 差別かどうかを、議論の対象にしろ。

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