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哲学と私 あるいは、チンポジ博士の講義  作者: チンポジ博士


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101/102

契約違反とは。

 契約違反とは何か。


 その問いを出すと、博士は紙ナプキンに短く書いた。


 外に出した約束を、外側で破ること。


「外側?」


「そうだ」


「内心ではないんですか」


「契約は内心ではない」


「かなり大事そうですね」


「かなり大事だ」


 博士はコーヒーを飲んだ。


「まず分けよう」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 期待。

 約束。

 契約。

 契約違反。


「また分ける」


「何度でも分ける」


「期待は?」


「こうしてくれるだろうと思うこと」


「そうだ」


「約束は?」


「こうすると相手に言うこと」


「契約は?」


「互いに条件を外に出して、拘束力を持たせること」


「では契約違反は?」


「その外に出した拘束を破ること」


「なるほど」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 期待外れ。

 約束違反。

 契約違反。


「混ぜるな」


「混ざりますね」


「かなり混ざる」


 博士は言った。


「こうしてくれると思っていた」


「期待ですね」


「でも相手はしなかった」


「期待外れ」


「これは契約違反か」


「違いますね」


「そうだ」


「やると言った」


「約束ですね」


「でもやらなかった」


「約束違反」


「契約書や合意条件がある」


「契約ですね」


「それを破った」


「契約違反」


「かなり実務ですね」


「契約違反は実務だ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 思っていた。

 言った。

 合意した。


「全部違う」


「全部違う」


 博士は続けた。


「ここでチンポジ哲学だ」


「契約違反もチンポジですか」


「かなりいける」


「本当ですか」


「本当だ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 内心は不問。

 外に出した約束は見る。


「あ」


「来たな」


「契約は外側ですね」


「そうだ」


「本心でどう思っていたかは?」


「簡単には見えない」


「でも契約したかどうかは?」


「外側で見られる」


「なるほど」


 博士は言った。


「本当は嫌だった」


「はい」


「本当は納得していなかった」


「はい」


「本当は気が変わった」


「はい」


「それらは内側に近い」


「はい」


「だが、契約した」


「外側ですね」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 気持ちは変わる。

 契約は残る。


「重いですね」


「契約だからな」


「納得できなくなったら?」


「交渉する」


「勝手に破るのは?」


「契約違反だ」


「強い」


「強くてよい」


 博士は続けた。


「ただし」


「ただし」


「契約違反だから悪人、とは限らない」


「違うんですか」


「違う」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 契約違反。

 悪人。


「混ぜるな」


「契約を破ったのに?」


「事情はありうる」


「事情」


「病気、事故、災害、誤解、能力不足、相手側の不履行」


「はい」


「だから悪人かどうかは別に見る」


「でも責任は?」


「残ることがある」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 悪意がない。

 だから責任がない。


「これは?」


「飛躍です」


「そうだ」


「事情がある」


「はい」


「だから契約違反ではない」


「これも場合によりますね」


「そうだ」


「悪人ではない」


「はい」


「でも損害は出た」


「はい」


「なら?」


「処理がいる」


「そうだ」


 博士はうなずいた。


「契約違反で重要なのは、人格を裁くことではない」


「では?」


「壊れた約束をどう処理するかだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 履行。

 修正。

 解除。

 損害賠償。

 謝罪。

 再発防止。


「実務ですね」


「だから契約違反は実務だ」


 博士は続けた。


「ここでカントを借りよう」


「約束ですね」


「そうだ」


「約束を破るな」


「かなりカントですね」


「カントはかなり厳しい」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 約束を破るつもりで約束するな。


「強いですね」


「強くてよい」


「最初から守る気がない契約は?」


「相手を手段として使っている」


「カントに怒られますね」


「怒られる」


「では、守るつもりだったけど守れなかった場合は?」


「そこは事情と責任を見る」


「なるほど」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 守る気がなかった。

 守れなかった。


「混ぜるな」


「かなり大事ですね」


「大事だ」


 博士は言った。


「ミルならどう見るか」


「危害ですか」


「そうだ。契約違反は、相手の自由や計画を壊すことがある」


「はい」


「納品されない」


「はい」


「支払いがない」


「はい」


「約束した仕事がされない」


「はい」


「相手は時間、金、計画を失う」


「迷惑や危害ですね」


「そうだ」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 契約違反は、相手の未来を崩す。


「未来」


「契約は未来を固定する道具だからな」


「なるほど」


「未来は不確実だ」


「はい」


「だから契約で少し固定する」


「はい」


「それを破ると?」


「相手の未来設計が崩れる」


「そうだ」


 博士は続けた。


「アリストテレスなら?」


「共同体ですね」


「そうだ」


「契約が守られない共同体は回らない」


「はい」


「信用回ですね」


「そうだ」


「一度破ると?」


「信用が下がる」


「謝罪すれば?」


「謝罪は別」


「許されれば?」


「赦しは別」


「賠償すれば?」


「処理は進む」


「信用は?」


「別に回復を見る」


「かなり分けますね」


「混ぜると事故る」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 謝罪。

 賠償。

 赦し。

 信用回復。


「混ぜるな」


「契約違反は、周辺が多いですね」


「多い」


「謝ったから終わり?」


「違う」


「払ったから全部なかったこと?」


「違う」


「許したから次も任せろ?」


「違う」


「信用回でやりましたね」


「やった」


 博士はうなずいた。


「ニーチェなら疑う」


「また刺しますか」


「刺す」


「何をですか」


「その契約は、本当に対等だったのか」


「あ」


「来たな」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 契約。

 同意。

 服従。


「混ぜるな」


「契約したなら自己責任、では?」


「雑だ」


「雑ですか」


「雑だ」


 博士は言った。


「断れない立場で契約した」


「はい」


「情報が隠されていた」


「はい」


「意味が分からないまま署名した」


「はい」


「圧力があった」


「はい」


「それを全部、契約だから、で済ませると危ない」


「なるほど」


 博士は紙ナプキンに書いた。


 署名がある。

 だから完全な合意である。


「これは?」


「飛躍です」


「そうだ」


「契約を守れ、も大事」


「大事だ」


「でも契約の成立も見る」


「そうだ」


「契約違反を見る前に?」


「契約そのものが有効かも見る」


「実務ですね」


「契約は実務だと言った」


 博士は今日の答えをまとめた。


 契約違反とは、外に出した約束を、外側で破ることである。

 期待、約束、契約、契約違反は違う。

 期待外れと契約違反を混ぜるな。

 内心は不問でも、外に出した契約は見る。

 気持ちは変わっても、契約は残る。

 納得できなくなったなら交渉する。

 勝手に破れば契約違反になる。

 ただし、契約違反だから悪人とは限らない。

 悪意がないから責任がない、も導けない。

 契約違反で見るべきなのは、人格ではなく処理である。

 守る気がなかったことと、守れなかったことを混ぜるな。

 契約違反は、相手の未来設計を崩すことがある。

 謝罪、賠償、赦し、信用回復を混ぜるな。

 契約したから完全な合意である、も導けない。

 契約違反を見るなら、契約そのものの成立条件も見る。


「博士」


「何かね」


「チンポジで言うなら?」


 博士は少し考えた。


「君と私は約束する」


「はい」


「私は君の椅子を蹴らない」


「当然ですね」


「君も私の椅子を蹴らない」


「当然です」


「その約束がある」


「はい」


「私が君の椅子を蹴る」


「契約違反ですね」


「そうだ」


「本当は悪気はなかった」


「事情だ」


「でも蹴った」


「外側の行為だ」


「謝った」


「謝罪だ」


「椅子を直した」


「賠償に近い」


「私は赦した」


「赦しだ」


「でも博士の隣にはもう座らない」


「信用の問題だ」


「全部違いますね」


「全部違う」


 博士は最後に一文を書いた。


 契約違反とは、互いのベスポジを守るために外側へ置いた約束を、合意なく崩すことである。


「かなり綺麗ですね」


「私は哲学者だからな」


「名前以外は」


「その評価をしない契約を結びたい」


「破ります」


「契約前に言うだけ誠実だ」


 博士は静かにコーヒーを飲んだ。

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