レオンと宗一郎
その夜、一行は街道沿いの宿に泊まった。
夕食を済ませて、エレナはいつも通り宿の裏手で素振りを始めた。
宿の中では、シオンがテオと遊んでいた。フィリアが紅茶を飲んでいた。
レオンは外に出た。
宗一郎が宿の壁にもたれて、空を見ていた。
テオは今シオンのところにいるから、珍しく一人だった。
レオンは少し考えてから、宗一郎の隣に立った。
「少し、いいか」
宗一郎がレオンを見た。
「なんだ」
「エレナのことを頼みたい」
宗一郎は少し間を置いた。
「頼む、とはどういう意味だ」
「そのままの意味だ」
レオンは空を見た。エレナが木剣を振る音が、裏手から聞こえてきた。一。二。三。
「俺にはできないことがある」
「何が」
「言葉で届けることだ。俺は言葉が下手だ。頭に手を置くことしかできない。でもエレナには言葉が必要な時がある。そういう時に、俺じゃ届かない」
宗一郎は何も言わなかった。
「お前は言葉で届けられる。昨日の打ち合いの後、土台がある、と言った。あれはエレナに届いた。俺には言えなかった言葉だ」
「なぜ俺に言う」
「パーティを組んでいないと言っているのは知っている。それでも道が同じなら、一緒にいることになる。一緒にいるなら、頼んでおきたい」
レオンは少し間を置いた。
「お前がエレナをどう思っているかは、俺には関係ない。ただ、エレナには隣に人間が必要だ。折れそうになった時に、言葉で支えられる人間が」
宗一郎はレオンを見た。
「お前はエレナが折れそうになった時に、どうする」
「黙って隣にいる」
「それだけか」
「それしかできない」
宗一郎は少し間を置いた。
「お前は、エレナのことが好きなのか」
レオンは少し黙った。
「関係ない話だ」
「そうか」
「ただ」
レオンは空を見た。
「エレナが変わっていくのを、一番近くで見てきた。その変化を、ちゃんと見ていてやれる人間がいてほしい。俺以外にも」
宗一郎は何も言わなかった。
空を見ていた。エレナが木剣を振る音が続いていた。
「わかった」
短く言った。
レオンは頷いた。それ以上は何も言わなかった。
宿の中に戻ろうとして、少し振り返った。
「ありがとう」
「礼はいらない」
「言葉にして、伝えたかった」
宗一郎は何も言わなかった。
レオンは宿に入った。
宗一郎はしばらく空を見ていた。エレナの木剣の音が、続いていた。
一。二。三。
変わらないリズムで、木剣が空を切る音だけが、ずっと。




