エレナの答え
翌朝の訓練場で、気づいたことがあった。
いつも通り構えを作って、いつも通り振り始めた。
一。二。三。
体の感覚が、今までと少し違った。
重心が、自然に前に来ていた。意識しなくても、前に来ている。
レオンに直してもらった時は、意識しないと戻ってしまっていた。
しかし今日は、意識しなくても前にあった。
つま先の向きも、自然に外を向いていた。
体が、変わっている。
覚醒によって、体が変わったということか。
いや、そういう単純な話ではないと私は思った。
積み重ねてきたものが、昨日の覚醒で一つになった。
そういう感じがする。
ばらばらに積んでいたものが、昨日の光の瞬間に、一本の筋として繋がった。
うまく言えなかったが、身体はそうなっている。
振りながら、剣を見た。
昨日は光っていた剣が、今日は普通の剣だった。
温かさも、もうなかった。
でも昨日の感触は、まだ手の中にあった。
同じ血を持つ者として、ただそこにいると伝えた時の感触。
温かくなった時の感触。
それが今日も、かすかに残っていた。
気のせいかもしれなかった。
でも、この感覚は覚えておきたい。
そう思った。
しばらくして、気配がした。
「宗一郎さん」
「ああ」
「今日で何回目ですか、ここに来るの」
「覚えていない」
私は笑いながら振り続けた。
「何回目でも、いいです」
「そうか」
「見ていてください」
「ああ」
木剣を振った。
宗一郎が壁にもたれていた。
テオが肩の上で光っていた。
遠くで、街が起き始めていた。
物売りの声が聞こえ、馬の蹄の音がした。王都が動き始めていた。
日が昇り始めた。
私はずっと木剣を振り続けた。
百回。二百回。三百回。
四百回を過ぎた頃、宗一郎が静かに言った。
「一つ聞いていいか」
私は振りながら答えた。
「なんですか」
「世界を救う、というのは、どういう状態を指すと思う」
私は手を止めて、振り返った。
宗一郎が壁にもたれたまま、私を見ていた。
いつも通りの顔だった。でも目が、少し違った。
召喚の日に王に向けた問いと、同じ問いだった。
あの日は、誰も答えられなかった。
私は考えた。
木剣を握ったまま、考えた。
「わかりません…いえ」
そう言いかけて、止まった。
今日は、少しだけ、わかる。
「今ここにいる人間が、明日もいること」
私は答えた。
「それだけだと思います。大きな答えではないかもしれませんが、今の私にはそういう答えしかできない」
宗一郎はじっとこちらを見た。
「それでいい」
「そうですか」
「それで十分だ」
テオが甲高い声で何か言った。
「そうだ、と言っていますか」
宗一郎が少し間を置いた。
「腹が減ったと言っている」
「今日はいつもより間が短かったですね」
「そうか」
「そうです」
私は前を向いた。
木剣を構え、振り始めた。
五百回まで、あと少し。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
面白い!と感じた方は高評価ブックマーク感想等お願い致します!
作者のモチベーションにつながります。
毎日17:10更新です。
次回も見て頂けると嬉しいです!




