晩餐
その夜、全員で食卓を囲んだ。
シチューとパンと、シオンが頼んだ骨付きの肉と、フィリアが選んだ甘い菓子が並んだ。
テオが全部に顔を近づけた。
「テオ」と宗一郎が言った。
テオが甲高い声を発した。
「全部食べたい、と言っていますか」
「腹が減ったと言っている」
「似たようなものですね」
「そうかもしれない」
シオンが「テオに全部あげよう」と言った。
「甘やかすな」と宗一郎が制止する。
レオンがテオの分を取り分けて、テオは嬉しそうに食べた。
宗一郎がため息をついた。
フィリアが菓子を食べながら言った。
「エレナよ」
「はい」
「お主の母親は、甘いものが好きだった」
テーブルが少し静かになった。
「母も甘いものが好きだったんですね」
「甘いものを食べている時だけ、真面目な顔が崩れた。そういう人だった」
「王妃様も、母のことを話してくれました」
「そうか」
「強い人だったと、みんなが言います」
「強い人じゃからな」
私はシチューを一口飲んだ。
温かかった。
「ありがとうございます」
「礼はいい」
フィリアが小さく笑った。
宗一郎は何も言わず、テオが静かに光った。
シオンが「エレナちゃんのお母さんも甘いもの好きだったんだね」と言った。
「そうらしいです」
「じゃあ菓子屋行こうよ、明日」
「行きましょう」
「全員で」
「全員で」
レオンが「俺も行く」と言い、フィリアが「当然じゃ」と言った。
シオンが宗一郎を見た。
「宗一郎さんは?」
宗一郎は少し間を置いた。
「……どこだ、その店は」
シオンが笑った。
テオがまた何か言った。
「行く、と言っていますか」
「腹が減ったと言っている」
「食事中ですよ」
「テオは代謝が高い」
「何度目ですか、それ」
「何度でも言う」
テオがぷいと顔を背けた。
食卓に笑い声が上がった。
私は笑いながら、この光景を覚えておこうと思った。
今夜も、理由はわからなかった。
ただ覚えておきたかった。
それだけだった。
窓の外に、夜の王都が広がっていた。
魔王はいなくなった。
でも問題は残っている。
派閥争いも、魔族の存在も、解決していない。
明日からも、問題はある。
でも今夜は、ここにいる全員と夕食を食べることができた。
テオが光っていた。
宗一郎が静かにシチューを飲んでいた。
なんでもない光景。
それだけで、明日に進める気がした。
私はシチューを飲んだ。
シチューは、まだ温かかった。
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