フィリアの問い
二日目の夜、野営の焚き火が落ち着いた頃、フィリアが静かに言った。
「一つ聞いてもよいか、宗一郎」
全員が少し驚いた。
フィリアが宗一郎に直接話しかけることは、あまりなかった。
宗一郎は焚き火を見たまま答えた。
「なんだ」
「お主は今まで、何度世界を救ってきた」
「覚えていない」
「数え切れないほど、か」
「そうだ」
フィリアは少し間を置いた。
「その中で、この世界は何番目だ」
「数えていないから、わからない」
「では聞き方を変える。この世界は、他と違うか」
全員が静かになった。
焚き火が、ぱちりと音を立てた。
宗一郎は少し間を置いた。
「違う」
「どこが違う」
「うまく言えない」
「言えるところだけで良い」
宗一郎は焚き火を見たまま、少し考えた。
「他の世界では、来て、救って、去った。それだけだった。この世界では」
少し間を置いた。
「去りたくない、と思う瞬間がある」
焚き火が静かに燃えていた。
シオンが何か言いかけた。レオンが視線で止めた。シオンが口を閉じた。
フィリアが続けた。
「なぜだと思う」
「わからない」
「わからない、というのは本当にわからないのか、言いたくないのか」
「どちらでもある」
フィリアは少し笑った。
「正直じゃな」
「嘘をついても仕方がない」
フィリアは焚き火を見た。
「儂は三百年生きてきた。この世界しか知らないが、この世界の長い時間を見てきた。その中で、去りたくないと思ったことは、何度かある」
「何が引き留めた」
「人間じゃ。関わる人間が、儂をここに引き留めた」
宗一郎は黙っていた。
「お主をここに引き留めているものが何かは、お主が一番わかっているはずだ」
「……そうかもしれない」
フィリアはそれ以上何も言わなかった。
テオが甲高い声で何か言った。
「同じだ、と言っていますか」と私は言った。
「腹が減ったと言っている」と宗一郎が返した。
間があった。
いつもより長い間だった。
シオンが「テオにおかわりあげよう」と言った。
宗一郎が「甘やかすな」と止めた。
レオンが静かにテオの分を取り分けた。
いつも通りだった。
けれど、今夜の焚き火は、いつもより少し明るく、暖かかった。




