ミアのこと
王都に戻ったのは、それから五日後だった。
南の街で一泊して、それから街道をゆっくり戻った。
初日の夜、野営をした。
焚き火を囲んで全員が座った。
シオンが鼻歌を歌った。
レオンが止めた。
フィリアが星を見ていた。
テオが焚き火に近づきすぎて宗一郎に引き戻された。
いつも通りだった。
私は火を見ながら、ソラのことを考えた。
楽しかった、と言っていた。
ちゃんと楽しい時間があったのだ。
それは救いだったのではないかと思えた。
そのことをフィリアに伝えた。
フィリアは「そうか」とだけ言って、目を伏せた。
ソラが最後に笑った顔が、頭の中にあった。
子供の頃のような笑い方だった。
フィリアが語っていた笑い方はきっとあんな感じだったのではないか。
あの笑顔を、覚えておこうと思った。
「エレナちゃん」
シオンが隣に来た。
「なんですか」
「難しい顔してる」
「考えていました」
「ソラさんのこと?」
「はい」
シオンは焚き火を見た。
「なんかすっきりしない感じ?」
「そうかもしれません」
「それでいいんじゃないかな」
「なぜですか」
「すっきりしたら、それはそれで怖いじゃん。相手も人間なんだからさ」
私はシオンを見た。
「シオンさんは、賢いですね」
「またそういうこと言う」
「何度でも言います。賢いので」
シオンが笑った。笑ってから、少し真顔になった。
「ねえ」
「なんですか」
「ミアのこと、少しだけ話してもいい?」
「聞かせてください」
シオンは焚き火を見たまま、静かに話しだした。
十四の時のことを。
ミアのことを。
間に合わなかったことを。
私はただ黙って聞いていた。
「今回は、間に合った」とシオンが言った。
「エレナちゃんを助けられた」
「助けてくれました」
「うん」
「ミアさんも、きっとシオンさんが隣にいてくれたことを、わかってると思います」
シオンは少し黙った。
「そうだといいな」
「そうです」
シオンが毛布を引き寄せた。
「ありがとう、エレナちゃん」
「こちらこそ」
焚き火が静かに燃えていた。
レオンがフィリアに何か話しかけていた。
フィリアが答えていた。
珍しい組み合わせだった。
テオが宗一郎の膝の上に乗っていた。
宗一郎が空を見ていた。
私はその横顔を見た。
今夜は聞かなかった。
帰ってからでいい。
帰ってから、聞こう。
二日目の昼、街道沿いの村に立ち寄った。
小さな村だ。
井戸があって、水を分けてもらった。
村の入口に、子供が数人いた。
私たちを見て、最初は遠巻きにしていたが、テオを見た途端に駆け寄ってきた。
「なにこれ! 光ってる!」
「かわいい!」
テオが嬉しそうに光った。
「触っていいですよ」と私が言った。
「触るな」と宗一郎が止める。
「なぜですか」
「調子に乗る」
「もう乗っていますよ」
テオが子供たちに囲まれて、甲高い声で何か言っていた。
子供たちが笑った。テオが光って、また笑った。
宗一郎がため息をついた。
宗一郎は腕を組んで、子供たちに囲まれたテオを見ていた。
私はその様子を見ながら、この光景を覚えておこうと思った。
ただ覚えておきたかった。
私は、きっと、こういうものを守りたかったのだ。




