魔王の望み
木々が開けた。
先日と同じ、小さな空き地だった。
空き地の中心に、ソラがいた。
先日と同じ場所に立っていた。
フードは被っていなかった。
白い髪が、乱れていた。
そして空き地の周囲の木々が、少しずつ、朽ちていた。
音もなく、静かに、朽ちていた。
葉が落ちるのではなく、木そのものが内側から崩れていく。
それがソラを中心に、じわじわと広がっていた。
崩れた木の粉が、空気に溶けるように消えていた。
空気が重い――
ただそこにいるだけで、体に何かが積み重なっていく感覚があった。
押しつけているのではない。滲み出している。
意志のない力が、器に収まらないまま滲み出していた。
「来たか」
ソラの声は、先日より低かった。
疲れていた。先日以上に疲れていた。
しかし声の奥に、疲労感以外の何かがあった。
待っていた。
ただ立って、待っていた。
「来ました」
私は前に出た。
ソラは私を見た。
目が、先日と少し違った。
焦点が定まりきっていない目だ。
こちらを見ているが、見えているかどうかわからない。
そういう目をしていた。
「わかっているか」
「何がですか」
「俺が、もう長くないということが」
私は黙った。
おそらくそうだろうことはわかっていた。
力が大きくなりすぎて器が耐えられなくなってきているのだ。
「力が、言うことを聞かなくなってきた。意志で抑えられなくなってきた。このまま放置すれば、この森だけでは済まない。次は村が、街が、影響を受ける」
空き地の端で、木が一本、崩れた。
音もなかった。
「止めたいですか」
ソラは少し黙った。
「止めたい」
「止め方がわからないんですか」
「わからない」
宗一郎が言っていた言葉と、同じ言葉だった。
楽になる方法がわからない。
止め方がわからない。
「だから次が決着だと言ったんですか」
「お前に来てほしかった。来てくれれば、何かが変わるかもしれないと思った。根拠はなかった。ただ、同じ血を持つ者なら、あるいは」
ソラは言葉を切った。
空き地の反対側で、また木が崩れた。
「時間がない」とフィリアが言った。
小声だったが、全員に聞こえた。
「暴走が加速している。このまま一刻も経てば、森全体に広がる」
「一刻で、どこまで」
「森を抜けて、村に届く。村の次は街だ」
私は剣の柄に手をかけた。
「一つだけ聞かせてください」
「なんだ」
「暴走を止めることが――あなたの望みですか」
ソラはじっと、私を見た。
焦点が定まりきっていない目が、今日初めて、少しだけ私に向いた。
「そうだ。それが今の俺の望みだ」
静かな声だった。
「これ以上誰かを――この世界を傷つけたくない。自分では止められないなら、誰かに止めてほしい」
「――わかりました」
私は剣を抜いた。
その瞬間、ソラの表情が変わった。
変わった、というより、崩れた。
意志が緩んだ。その瞬間を、私ははっきりと感じた。
まるで何かの栓が抜けるような感覚だった。
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