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勇者が二人  作者: にのぴ
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29/41

暴走

 翌朝、私は宿の裏手に出た。


 いつも通り木剣を振る。一。二。三。


 百回を数えた頃、気配がした。

振り返らなかった。


 「今日は通りかかっただけとは言いませんね」


 「そうだな」


 「珍しく認めましたね」


 「たまにはな」


 私は木剣を下ろして振り返った。


 宗一郎が壁にもたれていた。

テオが肩の上にいた。

いつも通りだった。


 「緊張していますか」


 「していない」


 「本当ですか」


 「お前は?」


 「しています。でも昨夜よく眠れました」


 「それでいい」


 私は木剣を握り直した。


 「宗一郎さんは、今日が終わったらどうしますか」


 「どうする、とは」


 「この世界に、しばらくいますか」


 宗一郎は少し間を置いた。


 「わからない」


 「わからない、ですか」


 「決まっていない」


 私は夜明けの空を見上げた。

まだ暗かったが、東の端がほんの少しだけ白み始めていた。


 「いてほしいとは言いません」


 「そうか」


 「言いたいですが、言いません。あなたが決めることだから」


 「……そうか」


 「ただ」


 私は少し考えて、言った。


 「今日、終わったら、考えてもらえますか」


 「わかった」


 「答えが出たら、教えてください」


 「ああ」


 テオが何か言った。短かった。


 「行こう、と言っていますか」


 宗一郎が少し間を置いた。


 「腹が減ったと言っている」


 「今日は少し間がありましたね」


 「そうだな」


 「そうでした」


 宗一郎は空を見た。


 「行くぞ」


 「はい」


 


 トルバンの森に着いたのは、昼前だった。


 前にも来た道だ。

でも今日は空気が違った。


 重かった。


 木々の間を風が通っていたが、その風は冷たい。

冷たく、密度が高かった。

何かが溶け込んでいるような空気だった。


 フィリアが立ち止まった。


 「宗一郎」


 「わかっている」


 呼びかけに即答える。


 私にも感じられた。先日来た時とは違う空気。


 何かが変わっていた。

森の奥から、力が滲み出てきていた。


 「暴走が始まってる」とフィリアが言った。


 「前より、ずっと強くなっている」


 「暴走、というのは」


 「意図しない力の放出じゃ。ソラの意志と、魔族の血の力が、乖離し始めている。意志が弱まるほど、魔族の血が表に出る。表に出た力は、意志では制御できない。ソラ自身が望まなくても、周囲に影響が出始める」


 「止められますか」


 「儂には止められない。おそらく宗一郎にも――」


 「なぜですか」


 「外から力で抑えても、血は止まらない。中から働きかけられるのは、同じ血を持つ者だけじゃ」


 私はその意味を考えた。


 「私が、ということですか」


 「そうじゃ」


 「どうやって」


 「わからない」とフィリアが言った。


「方法は儂にもわからない。ただ、できるのはお主だけじゃ」


 わからない――三百年生きた人間でも。

 

 方法はわからない。

でも行く。


 行くしかない。


 「行きます」


 私は森の奥に向かった。

魔王の力の暴走を、止めるために。


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毎日17:10更新です。

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