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勇者が二人  作者: にのぴ
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28/41

決戦前夜

 夕食の後、私は部屋に戻った。


 珍しく、訓練場には行かなかった。

木剣を手に取ったが、すぐに置いた。


 今夜は体を動かすより、頭の中を整理したかった。

整理、というより、ただ座っていたかった。

ただそこにいたかった。


 寝台に腰を下ろす。


 明日のことを考えようとした。

でも、考えが広がらなかった。


 明日のことを考えるより先に、今日のことが頭の中にあった。


 ソラに会って、話をした。

次が決着だと言われた。


 決着。


 その言葉の意味を考える。


 決着というのは、どういうことなのか。

ソラを倒すことなのか。

しかし倒す、という言葉が、今日のソラには似合わない気がした。


 楽になりたい、とソラは言った。


 楽になれるかどうかが、決着なのかもしれない。


 自分にそれができるかどうかは、まだわからなかった。


 方法がわからなかった。


 フィリアも知らないと言っていた。

宗一郎も教えてくれなかった。


 方法がわからないまま、明日、動かなくてはならない。


 それはいつものことだ。

答えが出ないまま動いた日は、何度もあった。


 王のところへ自分から行った日も、レオンに教えを請いに行った日も、東部で川岸に飛び出した日も、答えが出てから動いたことは一度もなかった。


 でも今日は、少し違った。


 今日は、方法が出ないまま動くことへの不安より、明日に向かう気持ちの方が大きかった。

なぜなのか、考えた。


 レオンが来てくれる。

シオンさんが来てくれる。

フィリアさんが来てくれる。

宗一郎さんが道を作ってくれる。


 一人ではない――


 それだけだった。


 それだけだったが、それだけのことが今日はとても大きく感じられた。


 ソラには、誰もいなかった。

心が折れた時に、隣に誰もいなかった。


 自分には、いる。

 自分には信頼できる仲間がいるということが、今夜は特別に感じられた。


 扉をノックする音がした。


 「エレナちゃん、起きてる?」


 シオンだった。

扉を開けると、シオンが毛布を一枚抱えて立っていた。


 「眠れなくて」


 「私も起きていました」


 「一緒にいていい?」


 「どうぞ」


 シオンが入ってきた。毛布にくるまって、床に座り込んだ。エレナも隣に座った。


 しばらく何も言わなかった。


 並んで座っているだけでよかった。


 「シオンさん」


 「うん」


 「怖いですか」


 「うん」


 素直に肯定した。


 「どんな風に怖いですか」


 シオンは少し考えた。


 「明日終わるかどうか、じゃなくて。うまくできるかどうか、が怖い」


 「うまくできるかどうか」


 「エレナちゃんが倒れた時に、ちゃんと回復できるかどうか。遅れないかどうか。ミアの時みたいに、後で、にしないかどうか」


 私はシオンを見た。


 「できます」


 「わかる?」


 「わかりません。でも今回は、遅れないと思います」


 「なんで?」


 「シオンさんが、そのために来てくれているから」


 シオンは少し黙った。


 「……エレナちゃんにそう言われると、緊張するな」


 「緊張しなくていいです。いてくれるだけで十分です」


 シオンが少し笑った。


 「それはこっちの台詞だよ」


 「そうですね」


 二人でしばらく黙った。


 「ねえ、エレナちゃん」


 「なんですか」


 「明日終わったら、何か食べようね。なんでもいいから」


 「約束します」


 「なんでもいいけど、できれば甘いもの」


 「甘いものにしましょう。菓子屋があると言っていましたね」


 「そう! シュークリームみたいなやつ!」


 「帰ってきたら、一番に行きましょう」


 シオンが笑った。

今度は頑張って笑っている顔ではなかった。


 どのくらい経ったか、シオンの肩がエレナに寄りかかってきた。

寝息が聞こえてきた。


 私は起こさないようにそのままで外を眺めていた。


 窓の外に、夜の街が見えた。

灯りがいくつかあった。


 明日、ここにいる人間が全員帰ってこられるかどうかはわからない。


 シオンの寝息が聞こえる。

その音が、私に大切なことを伝えてくれている。


 目を閉じた。


 静かな夜に、私の意識は溶けていった。


ここまでお読み頂きありがとうございます!


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毎日17:10更新です。

次回も見て頂けると嬉しいです!

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