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勇者が二人  作者: にのぴ
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24/41

接近

 報告が来たのは、翌朝の夜明け前だった。


 私は日課の訓練をしていた。

宿の裏手の空き地で木剣を振っていると、レオンが駆けてきた。


 「斥候が戻った」


 木剣を置いて、詰所に向かう。


 斥候は若い兵士だった。

青ざめた顔をしている。

夜通し動いていたというだけではない顔色だった。


 「南の部隊は動いていません。陣を維持したまま、こちらを牽制する動きだけです」


 「陽動ですね」


 「おそらく。ただ」


 兵士が言葉を止めた。


 「北の方向で、街が一つ、燃えていました」


 室内が静かになった。


 「燃えていた、というのは」


 「遠くから煙が見えました。昨夜のうちに何かがあったと思います。街の名前はトルバンといいます。小さな街で、守備隊は少ない場所です」


 私は地図を開く。


 トルバン。

王都から南に一日半ほどの場所にある街だ。

ここから北東に向かえば、半日で着く。


 「魔王が動いたということですか」


 「断言はできません。ただ、魔王がいないとしても北の部隊だけでどこまで耐えられるか……」


 私は地図に目を向けたまま考える。


 南の部隊が留まっている。

北でトルバンが燃えた。

魔王の気配が北に向かっていると宗一郎が言った。


 線が繋がる。


 「南は囮です。魔王は北から動いている」


 「そうだな」


 いつの間にか宗一郎が隣に立っていた。


 「トルバンに向かいますか」


 「向かう必要がある。だが、行けば魔王と接触する可能性がある――」


 「わかっています」


 「――覚悟はできているか」


 私は少し考えた。


 できているかどうかはわからない。ただ、行かなければならないことはわかっていた。


 「行きます」


 宗一郎は頷いた。


 一時間後、全員が揃った。


 シオンは食堂にいた。パンを食べていた。


 「なんで夜明け前に」


 「眠れなかったんだよね。なんか、今日何かある気がして」


 「勘ですか」


 「当たってた?」


 「当たっていました」


 シオンが神妙な顔をした。


 「行くんでしょ」


 「はい」


 「わかった。行く」


 城門を出た。空が白み始めていた。

北東の方向に、かすかに煙が見えた。

焦げた匂いがする。


 誰も何も言わなかった。

ただ、北東へ向かった。


 トルバンに着いたのは、昼前だった。


 街は、半分が燃えていた。

燃え尽きて煙だけが残っている建物があった。

まだくすぶっている建物があった。

倒れた柵、散らばった荷物。


 人の姿はなかった。


 「生存者を探します」


 私がそう言うと、一行が散った。


 私は街の中心に向かった。

瓦礫の中に、人影があった。


 老いた男だった。

動けないようだが、生きている。


 「大丈夫ですか」


 「勇者、様か」


 「はい。何があったか話せますか」


 「昨夜、来た。一人で。ただ、歩いてきた。それだけで、街が」


 「一人が来ただけで」


 「ただ歩いていただけで、こんなことに」


 魔王の力だろうか。

話を聞くに、何かしらの攻撃を加えたわけではないらしい。

歩いていただけ――


 話している最中にシオンが駆けてきて老人に回復魔法をかけた。


 「他に残っている人はいますか」


 「いないと思う。みんな北の森に逃げた」


 老人を安全な場所に移動させながら、私は街を見回した。


 たった一人が歩いただけで、街が崩壊した。


 おそらく、魔王だ。


 そしてもう一つ、わかったことがあった。


 老人が昨夜ここにいて、逃げ遅れた。

その老人が今、生きている。


 魔王は、逃げ遅れた者を殺さなかった……?


 老人に気づかなかったのか、それとも――。


 他の生存者がいないことを確認して、全員が広場の瓦礫の前に集まった。


 「魔王が一人でやったみたいだ」とレオンが言った。


 私は疑問を口にした


 「なぜここを」


 「王都への道を確認したかったか、あるいは俺達を呼ぶために。動きが遅い。見せているんだろうな。ここにいると」


 私は瓦礫を見た。

崩れた建物。

焦げた石畳。


 怒りがあった。今回は向かう先がわかった。


 「会いに行きます」


 全員の視線が集まる。


 「そんなに見てほしいなら、こちらから会いに行く。会いに行って、話を聞く」


 「危険じゃ」とフィリアが言った。


 「わかっています。でもいきなり戦うより先に、聞きたいことがあります」


 「何を聞く」


 「なぜ魔王になったのか。そして」


 少し間を置いた。


 「老人を、なぜ殺さなかったか」


 宗一郎が私を見た。


 「気づいたか」


 「はい。殺さなかった。意図的に殺さなかったとしたら、理由がある」


  宗一郎は私の目の奥を覗き込むように見続けている。


 「わかった」


 テオが甲高い声で何か言った。


 「行こう、と言っていますか」


 「腹が減ったと言っている」


 「今は信じません」


 「そうか」


 今日は否定しなかった。


 「行きましょう」


 一行が出発する。

魔王の気配は、北の森の奥にあった。



ここまでお読み頂きありがとうございます!


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毎日17:10更新です。

次回も見て頂けると嬉しいです!

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