南への道中 二日目
南への二日目の夜、一行は街道沿いの宿に泊まった。
夕食を済ませた後、私は宿の外に出た。
夜風が冷たかった。
空には星が出ていた。
しばらく一人でいると、足音がした。レオンだった。
「外にいたのか」
「少し風に当たりたくて」
レオンは隣に立った。
空を見た。
しばらく、二人とも何も言わなかった。
レオンとこうして黙って並んでいることは、子供の頃から何度もあった。
言葉はなかった。
それがこの幼馴染との距離感だった。
「レオン」
「なんだ」
「怖いですか」
「怖い」
「どんな風に怖いですか」
レオンは少し考えた。
「お前に何かあった時に、俺が間に合わないことが怖い」
「間に合わない」
「お前が東部で負傷した時、俺はもう少し後ろにいた。もう少し前にいれば、防げた。そういうことが、また起きるかもしれない」
私はレオンを見た。
「あの時は、私が前に出すぎていました。レオンのせいじゃない」
「それはわかっている。でも怖い」
「怖さの理由がわかっていても、怖いんですね」
「そうだ」
エレナは空を見た。
「レオン、一つ聞いてもいいですか」
「なんだ」
「昔から、私のそばにいてくれていますね」
「そうだな」
「なぜですか」
レオンは少し間を置いた。
「放っておけないから」
「放っておけない、というのは」
「お前は一人で抱えすぎる。昔からそうだ。抱えて、抱えて、折れる寸前まで抱えて、それでも顔に出さない。そういうお前が、放っておけない」
私は少し黙った。
「今も、そうですか」
「今は少し違う」
「どう違いますか」
「今のお前は、人に頼れるようになった。宗一郎に欠点を直してもらって、シオンに隣にいてもらって、フィリアさんから話を聞いて。昔は全部一人で抱えていたが、今は違う」
「変わりましたか、私」
「変わった」
「どう変わりましたか」
レオンはしばらく黙った。
「顔が、違う」
「どう違いますか」
「以前は、正しくあろうとしている顔だった。今は、ただそこにいる顔だ」
私は少し考えた。
「ただそこにいる顔」
「うまく言えないけどな。以前は、勇者でなければならないという顔をしていた。今は、エレナという顔をしている」
私は返す言葉が見つからなかった。
「レオン」
「なんだ」
「ありがとうございます」
「礼はいい」
「でも言葉にしたいので」
「……そうか」
レオンは空を見た。
「宗一郎さんに頼む、と言ったんですか」
私が言うと、レオンが少し動きを止めた。
「聞いていたのか」
「聞こえてました」
「驚いたか」
「驚きました。でもありがたかったです」
レオンは少し間を置いた。
「言ったのはお前だけのためじゃない。俺のためでもある」
「どちらでも、ありがたいです」
「そうか」
「レオンが言いたいことを、代わりに言ってくれる人がいる、ということが、私には心強いです」
レオンはしばらく黙っていた。
それから、短く言った。
「……そうか」
それだけだった。
でも私には、それで十分だった。
「寒くなってきました。中に入りましょう」
「ああ」
二人で宿の中に入った。
食堂では、シオンがまだ何か食べていた。
「まだ食べていたんですか」
「お腹すいてたから」
「夕食を食べたばかりですよ」
「テオと同じって言ってたじゃん。代謝が高いんだよ、私も」
テオが甲高い声で何か言った。
「仲間だ、と言っていますか」
「腹が減ったと言っている」
「今食べているのに」
「テオは常に腹が減っている」
レオンが苦笑した。フィリアが紅茶を飲んだ。
私は席に着いた。
外は寒かったが、食堂は温かかった。




