静かな夜
南への道は、東部への道より広かった。
街道が整備されていて、行き交う商人も多かった。
このあたりは戦争が近いと知っていても、人は動いているようだった。
二日目の夜、野営をした。
焚き火を囲んで全員が座った。静かな夜だった。
シオンが珍しく、黙って火を見ていた。
「どうしたんですか」
「なんか、緊張してきた」
「今更ですか」
「今更だけど。なんか、今回は違う気がして」
「違う、というのは」
「前回は魔族の先遣隊だったじゃん。今回は、なんか、もっと大きい何かがある気がして」
私は少し考え込んだ。
「私も、そう思います」
「そうだよね」
シオンが膝を抱えた。
「ねえ、エレナちゃん」
「なんですか」
「今回も、終わったら何か食べようね」
「はい、今回も」
「なんでもいい。なんでもいいから、終わったら食べよ」
「終わったら食べましょう。全員で」
シオンが少し笑った。
「うん」
宗一郎は焚き火を見ていた。テオが膝の上で丸くなっていた。
私は宗一郎を見た。
「宗一郎さん」
「なんだ」
「今回は、少し違うと思いますか」
「ああ」
「何が違いますか」
「魔王の気配がある」
「感じるんですか」
「南に近づくにつれて、強くなっている」
私は焚き火を見つめる。
「怖いですか」
「慣れた」
「魔王に、ですか」
「そうだ」
「慣れた、というのは」
「何度も同じような気配を感じてきた。怖くないわけではない。ただ、怖さに慣れた」
私はズレを感じた
「……宗一郎さんの言う怖さと、私の言う怖さは、種類が違う気がします」
「どう違う」
「私は、力が足りないことが怖い。あなたは、何が怖いんですか」
宗一郎は少し間を置いた。今日の中で一番長い間だった。
「……また繰り返すことが、怖い」
「繰り返す」
「救って、終わって、また次の世界へ行く。それが繰り返される。終わりがない。その繰り返しが」
私は宗一郎を見た。
焚き火の光が、その横顔に揺れていた。
それが、この人の抱えている怖さ。
力があるからこそ終わりが来ない。
終わりが来ないから、繰り返し続ける。
「一つ聞いてもいいですか」
「なんだ」
「この世界が終わったら、次はどこへ行きますか」
「わからない」
「わからない、というのは」
「決まっていない。次があるかどうかも、わからない」
私は少し黙った。
「この世界に、残る可能性はありますか」
宗一郎は答えなかった。
答えなかったことが、答えではないと思った。
ただ、まだ決まっていない、ということだと。
テオが目を覚ました。甲高い声で何か言った。
「残ってほしい、と言っていますか」
宗一郎が長い間を置いた。
「腹が減ったと言っている」
「今日は一番間が長かったですね」
「そうか」
「そうです」
焚き火が静かに燃えていた。
私は空を見上げた。星が瞬いていた。
力がない私は、繰り返せない。
この世界しかない。
この世界しかないから、ここで生きていくしかない。
それは弱さだと思っていた。
でも――それは強さになりうるのかもしれない。




