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勇者が二人  作者: にのぴ
19/21

南へ

 翌朝、王から呼び出しがあった。


謁見の間ではなく、執務室だった。

王は机の前に座っていた。

地図が広げられていた。


 「座れ」


 私は王の対面に座った。


 「単刀直入に言う」


 王は地図を示した。

東部に印がついていた。

それ以外にも、いくつか印があった。


 「魔族の本隊が退いた後、北と南、二か所で魔族の小規模な部隊が確認された。東部を陽動に使って、別の場所から攻めるつもりかもしれない」


 「北と南、同時にですか」


 「そうだ。どちらかが陽動で、どちらかが本命の可能性もある」


 私は地図を見た。北は山岳地帯。南は平野が続く。


 「どちらを優先しますか」


 「それを聞きたかった。お前はどう思う」


 「南です」


 「理由を言え」


 「北の山岳地帯は地形が複雑で、大軍を動かすには不向きです。小規模な部隊が確認されているなら、陽動の可能性が高い。南の平野は逆で、大軍が動きやすい。本命は南だと思います」


 王はしばらく地図を見ていた。


 「余も同じ判断だ」


 「では」


 「だが問題がある」


 王は地図の南に指を置いた。


 「南には大臣の息がかかった街がいくつかある。大臣自体は異世界の勇者の擁立をやめたものの、配下の者たちは南への出兵に異議を唱えている。お前ではなく、異世界の勇者を南に送れと言っている」


 やはり、大臣が擁立をやめたところで、配下の者たちはそのまま鞍替えとはいかない。

人の心とはそういうものだろう。


 「大臣派の言い分は理解できます、ですが」


 私は少し息をついて、続ける


 「南を異世界の勇者が救っても、その後どうなりますか。大臣派が影響力を持つ街を、大臣派が擁立した勇者が救う。大臣はその後、南の街に対して大きな発言力を持ちます」


 室内が静かになった。

王はしばらく黙って地図を眺め、そして口を開いた。


 「お前には南に行ってもらう」


 私は頷いた。


 「一つ聞いていいですか」


 「なんだ」


 「血統のことです」


 王の背中が、少し固まった。


 「知ったか」


 「フィリアさんに教えてもらいました」


 王はしばらく窓の外を見ていた。振り返らなかった。


 「……すまなかった」


 静かな声だった。


 「言うべきだったかもしれない。しかし言えなかった。お前が幼い頃から、なんと言えばいいか、ずっとわからなかった」


 私は王の背中を見た。老いた背中だ。


  「なんでもない事、と言ったら嘘になります。でも今は、それより先に進みたいと思っています」


 王は振り返った。

 今日の目は、いつもと違った。

もっと素直な目だった。

老いた父親が、子供を見るような。


 「お前の母親も、強い人間だった」


 「大臣も、王妃様も、フィリアさんも、同じことを言います」


 王が少し、口元を動かした。


 「続けよ」


 三度目の言葉。


 承認でも謝罪でもなく。

ただ、続けろ、という言葉。


 迷いはなかった。。

私は頭を下げて、執務室を出た。


 廊下に出ると、宗一郎が壁にもたれていた。


 「また廊下にいますね」


 「たまたまだ」


 「執務室の前で、たまたま」


 「長い廊下を歩いていたら、たまたまここだった」


 私はため息をついた。


 「南に行くことになりました」


 「知っている」


 「少し聞いていましたか」


 「半分くらい」


 「それは盗み聞きですね、完全に」


 宗一郎は特に反論しなかった。

テオが肩の上で何か言った。


 「一緒に南へ行く、と言っていますか」


 「腹が減ったと言っている」


 「みんなに話します。それから準備を始めます」


 「ああ」


 「シオンさんはまた飛び込んできそうです」


 「そうだな」


 「レオンはもう申請を出していそうですね」


 「たぶんな」


 私は歩き出す。宗一郎がついてきた。

廊下を歩きながら、南の地図を頭の中で広げた。

やることは山積みだった。


 でも今日は、昨日より少し頭が軽かった。

血統の秘密はまだ消化しきれていなかった。

でも、それは私を止める理由にはならない。


 ――筋はいい。今やっていることは無駄ではない。


 宗一郎が言った言葉が浮かんだ。

 まだ完全には信じられない。

 でも信じようとすることは、できる気がした。


 予想通り、シオンは飛び込んできた。


 「南でしょ、聞いた、行く」


 「誰から聞いたんですか」


 「城の噂は筒抜けって何度言えば」


 予想通り、レオンはすでに申請を出していた。


 「早いですね」


 「お前が南に行くと決まった時点で出した」


 予想通り、フィリアは当然の顔をしていた。


 「続きの話がある。行くしかなかろう」


 翌朝、全員が城門の前に集まった。

宗一郎はいつの間にか城門の外に立っていた。

テオが肩の上にいた。


 「来るんですか」と私は聞いた。


 「行き先が同じだ」


 「パーティではなく」


 「道が同じなだけだ」


 テオが甲高い声で何か言った。


 「一緒に行く、と言っていますか」


 「腹が減ったと言っている」


 「出発前からですか」


 「テオは時間を問わない」


 シオンが「かわいい」と言った。レオンが苦笑した。フィリアが外套を整えた。


 夜明けとともに、再び発つ


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