19.格闘艇訓練 7
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
彼は私の固定ベルトを外したが、すぐに立たせはしなかった。横に立って、端末に流れ込む前測データを眺めている。
「同期率は天才型ってほどじゃない。G耐性も、まだ人生観を疑わせるだけの余地がたっぷりある。」彼は言った。「でも一つ、すごく厄介な長所がある。」
私はなんとか目を上げた。
「ありがとうございます。最近その言い方でよく褒められます。」
J.J.が歯を見せた。
「苦しくなると、脳が鈍らない。」
彼は私を見下ろし、珍しく軽口の分量を減らした声で続けた。
「性格が悪くなる。」
一瞬、固まった。
J.J.は指で私の額を軽くつついた。
「大抵の奴は、ギリギリまで追い込まれると、まず安定させようとする。生き延びようとする。状況を『普通』に戻そうとする。」
「君は違う。」
「局面がぐちゃぐちゃになった瞬間に、『じゃあついでに敵も巻き込めないか』から考え始める。」
彼は笑った。その笑いは相変わらず殴りたくなるが、同時に的確だった。
「それが非正規空戦のタネだ。」
私はシートに凭れたまま、喉がからからで、胃もまだ機嫌が悪かったが、意味ははっきりわかった。
飛び方が上手いと言われたわけではない。
反射が速いとも言われていない。
言われたのは——追い込まれて一番悪いところまで落ちたとき、最初の本能が「ルールを守ること」ではなく、「ルールをバラして罠にすること」だ、ということだ。
ろくでもない。
だが間違いなく致命的な資質だ。
私はしばらく黙ってから、やっとの思いで口を開いた。
「教官、その評価……どう聞いても、私が生まれつき正義の味方に向いてないって話ですよね。」
J.J.は声を上げて笑った。
「正義の味方は、たいてい先に死ぬ。」彼は端末を閉じ、横を向いて私を見た。「君は最後まで生き残って、脚本家に『道徳教育どこで間違えた?』って頭抱えさせる側だ。」
……こればかりは否定できなかった。
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課後
訓練後、J.J.はすぐには出て行かなかった。
観測台の前に立ち、星野霜の前測データを頭から尻尾までスクロールしていった。
同期率、眼球焦点の偏移、前庭系の安定度、呼吸リズムの回復、戦術判断の反応速度、即時ルート修正。どの欄も「最高値」ではないが、一つだけ飛び抜けて目を引く項目があった。
高圧・不均衡状態において、戦術思考が保守化せず、むしろ攻撃的に偏倚。
J.J.はその行を見つめ、口元をゆっくりと吊り上げた。
「やれやれ、面倒なガキだ。」
彼は内線を呼び出した。
相手はすぐに出た。
「レオ。」
「俺だ。」J.J.は背もたれに寄りかかり、いつものだるい声だが、その笑いには、評価を終えた後のきっぱりした色が混ざっていた。「銀色の小魚、見終わった。」
端末の向こうで、半秒の沈黙。
「結果。」
J.J.は前に浮かぶ前測カーブを眺め、一度笑った。
「正規のエースのタマじゃない。」
一拍置いて、言葉を継ぐ。
「だが、そこを勘違いするな。綺麗に飛ぶタイプでもないし、教範どおりに飛ぶタイプでもない、って意味だ。」
レオの方は口を挟まない。
J.J.は続けた。
「でもな、高Gで、バランスを崩して、内耳が全力で罵倒してるような状態でも、真っ先に考えるのは『どこで借りる』『どこで釣る』『どこで半秒騙せる』かなんだ。真っ直ぐじゃない。綺麗でもない。可愛げもない——」
笑みが、さらに深くなる。
「だけど、一帯全部を犯罪現場に変えるにはちょうどいい。」
通信の向こうが二秒ほど静かだった。
やがて、レオが淡々と訊く。
「結論は。」
J.J.は、第三ラウンドの姿勢修正で星野霜が残した、小さく、しかし迷いのない操作軌跡を見下ろした。
「結論は一つだ。正規空戦のテンプレに押し込むな。」
「堂々たる撃墜数で表彰台に立つようなタイプじゃない。」
「向いてるのは、非正規空戦だ。」
彼は一語一語、はっきりと言った。
「誘導、陽動撤退、ドラッグ・アンド・バッグ、借り砲、デブリ帯キルゾーン、火網誘引、疑似失速、ポジションずらしからのカウンター。」
「そういう手は、普通の奴より早く覚える。元から『どう正しく飛ぶか』なんて考えてない。」
J.J.は口の端を上げた。滅多に出回らない危険物にラベルを貼るみたいな仕草で。
「考えてるのは、『どうやって相手をちょうどいい死に方に持っていくか』だ。」
端末の向こうは、しばらく無言だった。
最後に、レオが一言だけ訊いた。
「零式は、飛べるか。」
J.J.が片眉を上げた。
「飛べる。」
「ただし一つ忠告。『格好よく飛ぶ』なんてくだらない癖は、あんまり早く覚えさせない方がいい。」
「こいつの一番の価値は、空の騎士ごっこじゃない。」
「空そのものを道具として使えるところだ。」
今度はレオも、ほとんど間を置かずに返した。
「了解した。」
通信が切れる。
J.J.は暗くなった端末画面を見下ろし、低く笑った。
「ようこそ、小魚ちゃん。」彼は呟いた。「その悪どい頭は、空じゃきっと綺麗に育つ。」
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帰宿
寮に戻る道中は、正直、まだ持ちこたえていた。
本当に。
J.J.を頭の先からつま先まで心の中で罵倒する余力もあったし、ついでに連邦の人材育成システムに対する誠意ある苦情文案まで脳内で添えていた。
ただ、身体というやつは、ときどきわざとタイミングをずらしてくる。
部屋のドアを閉めた瞬間、上着を脱ぐ暇もなく、胃の底から這い上がってきた悪意が、見事なアッパーで喉元をぶん殴ってきた。
まともな罵り文句を一文仕上げる暇もない。浴室に飛び込み、洗面台の縁を掴んで、頭を垂れたまま吐いた。
……くそ。
……本当に吐いた。
しかも、まったく優雅さのかけらもない。
前半は朝食の残された尊厳、後半は今日、魂が家出しかけた分の全ての鬱憤だった。胃酸がみぞおちから喉まで焼き上がって、目尻まで熱を持ち、片手で洗面台をつかみ、もう片方の手で腹を押さえながら、宇宙に一度丸洗いされて戻ってきたみたいな有様だった。
最初の一波をどうにかやり過ごし、顔を上げて鏡を見た。
鏡の中の顔は、説得力のあるほど真っ白で、目の縁は赤く、髪は汗で頬に張り付いている。見事なまでの「連邦高等課程・実害者」の見本だった。
自分を二秒ほど見つめ、それから小さな声で悪態を吐いた。
「J.J.、このクソ……」
後に続く言葉があまりにも品がなかったので、正式な記録への記載は保留することにした。
口をゆすいで、冷水を顔に叩きつけた。
顔が冷たい。
胃はまだ機嫌が悪い。
頭もまだ少し浮いている。平衡感覚を外して洗いに出して、まだ正しい位置に戻ってきていないような感じだ。
洗面台に凭れてしばらく息を整えていたら、不意に笑いが出た。
可笑しいからではない。
あまりにも馬鹿げているからだ。
昨日はまだ深圧シミュレーション艙の中で、どうやって敵の施設を内側からじわじわと病気にさせるかを学んでいた。
今日は遠心艙に座らされて、ゴミみたいな暴言を吐く彗星教官に回されながら、敵を砲口に引き込む方法を考えさせられた。
そして今、過剰に立派な一人部屋の浴室で、洗面台に向かって人生観が揺れるまで吐いている。
青春って素晴らしい。
工業災害の啓発映像みたいに素晴らしい。
もう一度顔を下げ、蛇口を開けて、冷水を手首まで流した。
でもJ.J.が今日言ったあの言葉が、まだ頭に引っかかって取れない。
苦しくなると、脳が鈍らない。性格が悪くなる。
腹立たしい。
なぜなら、正確だから。
カールは見抜いた。私が殴られながら抜け道を探すことを。
ミラは見抜いた。私が乱流の中でリズムを拾うことを。
レナードは見抜いた。私がまず他人がどこで誤るかを考えることを。
そしてJ.J.は今日、最後の一層まで剥いて見せた——
最悪で、最も混乱していて、最も吐きたくて、最も不快なとき、私の最初の反応は安定を求めることではない。
汚くやることだ。
汚いのが好きなわけじゃない。
汚いものの方が、生き延びやすいと知っているだけだ。
鏡の中の、醜いほど本物の顔を見つめていたら、薄く、鬱陶しく、背筋が少し冷えた。
これらの教官は、私に新しいものを与えているのではない。
私がもともと持っていたものを一層ずつ掘り出して、専門的に名前をつけているだけだ。
近接戦闘適応。
即応射撃。
敵後方破壊工作。
非正規空戦。
なんと綺麗な言葉だろう。
要するに、生き延びるために身につけた汚い習慣を、一つ一つ連邦の使える作戦科目に整理しているだけだ。
洗面台に凭れ、目を閉じ、低い声でまた悪態をついた。
「……本当に上手い教え方だ。」
これはJ.J.一人に向けたものではない。
この場所全体に向けたものだ。
なぜなら、ここはよくわかっているから。
私のどこが使えるかを。
私のどこが歪んで伸びるかを。
私が正統な軍刀に仕上げられる人間ではないことを。
ここが私を、別の何かに磨こうとしていることを。
誰も見ていない角度に現れて、最も体裁悪く生き残って、ついでに局面をぐちゃぐちゃにする、そういう何かに。
ゆっくりと息を吐き出し、タオルで顔を拭いた。
腹の中の波がようやく少しだけ引いた。
少なくとも、今のところは。
ベッドに戻って腰を下ろし、そのまま後ろに倒れ込んで、天井を見上げてぼんやりした。
「単座式無重力格闘艇・零式……」
小さな声で一度呟いた。
それから、非常に真剣に後半を付け足した。
「やっぱり棺桶缶詰だ。」
部屋の中に返事はない。
エアコンだけが淡々と回っていた。何も起きていないかのように。
でも私にはわかっていた。変わった、と。
J.J.は今日、また私の一層を見通した。
そして最悪なのは——
私も見えてきてしまったことだ。
天地がひっくり返っているとき、自分が本能的に考えていることが。
自分が辛いなら、ついでに敵をもっと辛くできないか。
これは名誉ではない。
才能でもない。
どちらかといえば、ひどく見苦しい生存本能だ。
でもここでは、そういうものがやけに値打ちを持つ。
ベッドに横たわり、天井を見上げたまま、しばらく経ってから、低く笑い声が漏れた。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




