16. 水中爆破処分訓練 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
装備を整えると、彼はシミュレーター横のブリーフィングエリアへと俺を連れて行った。
壁面が光り、水中施設の立体モデルが投影される。前線用の小型補給拠点のように見える。深海の海底か、液体メタンの湖底に半ば埋まっていて、周囲にはセンサー杭、二重の耐圧殻、エネルギーシャフト、通信マスト、外部へ伸びる数本の輸送パイプがある。
数秒、そのモデルを眺める。
「これを今日、爆破するんですか」
レナードは投影の前に立ち、細いポインタを手にしていたが、すぐには答えなかった。
「敵後破壊」彼は言う。「新人の多くは、最後の二文字しか覚えない」
ポインタが施設中央のエネルギーシャフトを指す。
「エネルギーシャフトが見えれば、爆破したがる」
次にメインハル。
「主殻が見えれば、爆破したがる」
さらに通信塔。
「マストを見ても、爆破したがる」
彼はポインタを引き、俺を見る。
「お前は?」
モデルを見つめる。正直に言えば、最初に目が行ったのはエネルギーシャフトだ。
当然だ。
直感的だし、映画で主人公がやりがちなことでもある。
ただ、レナードがわざわざ聞いてくるあたり、この答えは顔面に「ここを殴ってください」と書くようなものだと分かる。
もう二秒だけ、モデルを観察する。
エネルギーシャフトは目立つ。メインハルもそうだ。反対に目立たないのは、施設下部の圧力バランスパイプ、環境制御ノード、側部区画とつながる補助ポンプ群だ。
口を開く。
「……目的によります」
レナードは頷かず、首も振らない。
「続けろ」
指を伸ばして投影を指し示す。
「ただ爆破したいだけなら、メインのエネルギーシャフトを叩くのが一番早いです」
「でも、中の人間に適切な対応をさせない、あるいは事故を押さえ込めないようにするのが目的なら、一番目立つところから壊すのは違うと思います」
施設側面下部を指差す。
「ここ、圧力バランスパイプ。ここ、補助ポンプ。あと、ここが環境制御の交換部です」
レナードは静かに問う。「理由は」
「メインのエネルギーシャフトを吹っ飛ばせば、即座に『攻撃だ』と分かるからです」俺は言う。「警報が鳴って、区画封鎖がかかって、バックアップ要員が飛び出してくる。結果として、施設全体が『まだ何とかなる』モードに入る」
一度言葉を切り、モデルを見つめる。
「でも、先に圧力バランスと環境制御を壊せば、初期段階ではただの故障に見える可能性が高い。人はまず修理しようとする。すぐに戦闘モードには入らない。異常が『故障じゃない』と気づいたときには、すでに内部のリズムが崩れている」
レナードは変わらぬ淡い目で俺を見つめる。
「続けろ」
昨日の戦術の授業の後遺症か、この数日殴られすぎたせいかは分からない。ただ、目の前の設計図を見たとき、俺が考えているのはもう「どこが派手か」ではなく、「どこが一番えぐいか」になっていた。
「もっと性格悪くするなら」俺は言う。「いきなり本体は爆破しない。先に通信を切る。次にポンプを触って、一部の区画だけじわじわ浸水させたり、減圧させたりする。そうすれば、当直チームは救助と補修と原因確認に人を割かざるを得なくなる。そのタイミングで第二手を打つ」
レナードがようやくわずかに動いた。
表情ではなく、視線が。
水面の下でじっとしていた何かが、少しだけこちらを向いたような気配。
「第二手とは」
投影を見つめたまま、思ったよりも早く口が動いた。
「退避ルートです」俺は言う。「あるいはバックアップ電源」
レナードは今度ははっきりと頷いた。
小さく。
だが、確かに頷いた。
「よい」彼は言った。「今日お前が学ぶ最初のことだ。敵後破壊とは、物を爆破することじゃない」
投影を縮小する。剥き出しになった心臓の模型のように、施設全体が宙に浮かぶ。
「一つのシステムが、最も秩序を保とうとする瞬間に、その秩序を失わせることだ」
その言葉が落ちたとき、後頭部が妙に冷えた。
爆破理論の話というより、「世界の壊し方」そのものを教えられているような感覚。
レナードは再び手を上げ、いくつかのポイントを指し示した。
「エネルギーシャフトを吹き飛ばすのは、『攻撃』だ」
「通信を切断するのは、『隔離』だ」
「圧力バランスを壊すのは、『空間に人間を裏切らせる』ことだ」
「バックアップを無力化するのは、『手順に人間を裏切らせる』ことだ」
「退避経路を塞ぐのは、『希望に人間を裏切らせる』ことだ」
俺の方へ顔を向ける。
「最後までやれば、爆発はただの『お知らせ』になる」
……くそ。
表情の乏しいその顔を見ていると、カールの拳が急に人間らしく思えてくる。
「大佐」俺は心からの気持ちで言った。「ご自分で分かってます? そういう話し方、高学歴な深海の悪霊みたいですよ」
レナードは一秒だけ俺を見た。
「ちゃんと聞いているということだ」
「違います。聯邦の教官採用基準のほうを心配し始めただけです」
「心配するのが遅い」
……だな。
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