表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
士官学校編
65/96

16. 水中爆破処分訓練 2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

装備を整えると、彼はシミュレーター横のブリーフィングエリアへと俺を連れて行った。


壁面が光り、水中施設の立体モデルが投影される。前線用の小型補給拠点のように見える。深海の海底か、液体メタンの湖底に半ば埋まっていて、周囲にはセンサー杭、二重の耐圧殻、エネルギーシャフト、通信マスト、外部へ伸びる数本の輸送パイプがある。


数秒、そのモデルを眺める。


「これを今日、爆破するんですか」


レナードは投影の前に立ち、細いポインタを手にしていたが、すぐには答えなかった。


「敵後破壊」彼は言う。「新人の多くは、最後の二文字しか覚えない」


ポインタが施設中央のエネルギーシャフトを指す。


「エネルギーシャフトが見えれば、爆破したがる」


次にメインハル。


「主殻が見えれば、爆破したがる」


さらに通信塔。


「マストを見ても、爆破したがる」


彼はポインタを引き、俺を見る。


「お前は?」


モデルを見つめる。正直に言えば、最初に目が行ったのはエネルギーシャフトだ。


当然だ。


直感的だし、映画で主人公がやりがちなことでもある。


ただ、レナードがわざわざ聞いてくるあたり、この答えは顔面に「ここを殴ってください」と書くようなものだと分かる。


もう二秒だけ、モデルを観察する。


エネルギーシャフトは目立つ。メインハルもそうだ。反対に目立たないのは、施設下部の圧力バランスパイプ、環境制御ノード、側部区画とつながる補助ポンプ群だ。


口を開く。


「……目的によります」


レナードは頷かず、首も振らない。


「続けろ」


指を伸ばして投影を指し示す。


「ただ爆破したいだけなら、メインのエネルギーシャフトを叩くのが一番早いです」


「でも、中の人間に適切な対応をさせない、あるいは事故を押さえ込めないようにするのが目的なら、一番目立つところから壊すのは違うと思います」


施設側面下部を指差す。


「ここ、圧力バランスパイプ。ここ、補助ポンプ。あと、ここが環境制御の交換部です」


レナードは静かに問う。「理由は」


「メインのエネルギーシャフトを吹っ飛ばせば、即座に『攻撃だ』と分かるからです」俺は言う。「警報が鳴って、区画封鎖がかかって、バックアップ要員が飛び出してくる。結果として、施設全体が『まだ何とかなる』モードに入る」


一度言葉を切り、モデルを見つめる。


「でも、先に圧力バランスと環境制御を壊せば、初期段階ではただの故障に見える可能性が高い。人はまず修理しようとする。すぐに戦闘モードには入らない。異常が『故障じゃない』と気づいたときには、すでに内部のリズムが崩れている」


レナードは変わらぬ淡い目で俺を見つめる。


「続けろ」


昨日の戦術の授業の後遺症か、この数日殴られすぎたせいかは分からない。ただ、目の前の設計図を見たとき、俺が考えているのはもう「どこが派手か」ではなく、「どこが一番えぐいか」になっていた。


「もっと性格悪くするなら」俺は言う。「いきなり本体は爆破しない。先に通信を切る。次にポンプを触って、一部の区画だけじわじわ浸水させたり、減圧させたりする。そうすれば、当直チームは救助と補修と原因確認に人を割かざるを得なくなる。そのタイミングで第二手を打つ」


レナードがようやくわずかに動いた。


表情ではなく、視線が。


水面の下でじっとしていた何かが、少しだけこちらを向いたような気配。


「第二手とは」


投影を見つめたまま、思ったよりも早く口が動いた。


「退避ルートです」俺は言う。「あるいはバックアップ電源」


レナードは今度ははっきりと頷いた。


小さく。


だが、確かに頷いた。


「よい」彼は言った。「今日お前が学ぶ最初のことだ。敵後破壊とは、物を爆破することじゃない」


投影を縮小する。剥き出しになった心臓の模型のように、施設全体が宙に浮かぶ。


「一つのシステムが、最も秩序を保とうとする瞬間に、その秩序を失わせることだ」


その言葉が落ちたとき、後頭部が妙に冷えた。


爆破理論の話というより、「世界の壊し方」そのものを教えられているような感覚。


レナードは再び手を上げ、いくつかのポイントを指し示した。


「エネルギーシャフトを吹き飛ばすのは、『攻撃』だ」


「通信を切断するのは、『隔離』だ」


「圧力バランスを壊すのは、『空間に人間を裏切らせる』ことだ」


「バックアップを無力化するのは、『手順に人間を裏切らせる』ことだ」


「退避経路を塞ぐのは、『希望に人間を裏切らせる』ことだ」


俺の方へ顔を向ける。


「最後までやれば、爆発はただの『お知らせ』になる」


……くそ。


表情の乏しいその顔を見ていると、カールの拳が急に人間らしく思えてくる。


「大佐」俺は心からの気持ちで言った。「ご自分で分かってます? そういう話し方、高学歴な深海の悪霊みたいですよ」


レナードは一秒だけ俺を見た。


「ちゃんと聞いているということだ」


「違います。聯邦の教官採用基準のほうを心配し始めただけです」


「心配するのが遅い」


……だな。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ