15. プロトタイプ 6
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
夜、宿舎に戻ったとき、初めてこの部屋が「静かすぎる」と感じた。
昼間はまだ気にならなかった。授業があり、照明があり、教官がいて、端末があって、「考えている暇はない」と言い訳できるものがたくさんあった。でも夜になってドアを閉めると、部屋は広い空白を一つ用意して、俺と俺自身を向き合わせようとする。
今一番向き合いたくないのが、俺自身だった。
端末を机に放り投げ、上着を脱いで掛ける。動作がゆっくりなのは、急に優雅になったわけではなく、体の中に残った疲労が湿った砂みたいに関節に積もっていて、一つ一つの動作に半拍の遅れが出るからだ。
後頭部のパッチは低用量の安定型に替わっていて、冷たさはずいぶん薄くなった。朝の「おとなしくしていろ」という医療的な威圧より、今は「継続的で上品な監視」に近い感じだ。
机の前に立ち、自分の戦術授業のノートを二秒ほど見つめた。汚い字でいくつかのキーワードが書いてある。
封鎖 補位パニック 撤退の歪み 視線の死角が問題なのではない。心理的な死角こそが問題だ
その数行を見て、少し居心地が悪くなった。字が汚いからじゃない。あまりにも「俺の字」に見えるからだ。
午後の教室であの質問に答えたとき、深く考えていたわけじゃない。本当に考えていなかった。ただ、見えた。どこで乱れるか、どこで詰まるか、どこで誰かが「生き延びたい」と思って一歩踏み出し、結果として他の人間まで道連れにするか。
その感覚は「推理が当たった」ときの快感じゃない。道を歩いていて、ふと視線を落としたら、他の人間には見えない血痕の方向を、ごく自然に読んでいた——そういう感覚に近い。
才能じゃない。後遺症に近い。
椅子を引いて座り、顔を両手で覆って、深く息を吐いた。
「……最悪だ」
声が手のひらに吸い込まれて、自分の声に聞こえなかった。
この場所で一番怖いのは、殴ってくること、薬を使ってくること、昨日より武器に近い形に削っていくことだ——ずっとそう思っていた。でも今日初めて気づいた。本当に怖いのは、彼らが俺に何をするかじゃない。
俺が、それを受け止め始めていることだ。
カールに殴られて、殴られない方法を学んだ。ミラに追い詰められて、乱流の中で引き金を引くリズムを学んだ。戦術授業で地図を渡されたら、自分が認めたいより速く読めてしまった。
この場所は、最悪で、残酷で、恐ろしく効率的な鋳型だ。そして一番怖いのは——俺を入れたら、形がぴったり合ってしまいそうなことだ。
ゆっくり顔を上げて、窓の外を見る。基地の夜の灰青色の照明、遠くのタワーの警告灯が点滅している。故障具合が安定した星みたいだ。防風壁の向こう、この星はまだ「人間が生きるのに向いていない空気」を吸い続けている。低酸素、金属塵、工業放射線、重力の圧迫。世界全体が「適応できないものは死ね」と言っているみたいだ。
理論上、俺はここが嫌いなはずだ。猛烈に嫌いなはずだ。毎日罵って、毎晩罵って、この星が恥ずかしくなって自転を止めるまで罵り続けるべきだ。
でも今日、俺が本当に怖かったのは「嫌い」じゃない。いつかその「嫌い」がなくなったとき、どうなるんだろう、ということだ。
カールの拳が、ただのリズムの一部になる日が来たら。ミラの毒舌が、普通の授業に聞こえる日が来たら。戦術地図を開いて、最初に「どこで人を救えるか」ではなく「どこで死ぬのが最も効率的か」が見える日が来たら。
そのとき俺は、壊れたことになるのか。それとも、ただ正しい場所に置かれたことになるのか。
その考えが浮かんだ瞬間、背中が一気に冷えた。
「……嫌だ」
空っぽの部屋に向かって、小声で言う。「頼むから、嫌だ」
返事はない。部屋にはエアコンの音と、自分の呼吸しかない。
椅子を少し後ろに引いて、背もたれに深く沈み、手で目を覆う。暗闇が落ちた瞬間、午後の地図がまた浮かんでくる。路地、破口、交差点、撤退ライン。人の流れが乱れると、ルートが変わる。最初に退く者、一歩遅れた者、仲間を救おうと振り返った者、最後に死ぬ場所がそれぞれ違う。
分かる。分かりすぎるほど、速く分かる。それが怖い。
学んだのなら、教師のせいにできる。でも最初から読めていたのなら——自分の中に、何かおかしいところがあるんじゃないかと、疑わずにはいられない。
手を下ろして、天井をしばらく眺めてから、立ち上がって洗面台に向かい、冷水で顔を洗う。
鏡の中の俺は、まだ同じ顔だ。銀色の髪。年齢に合わない輪郭。目の下にうっすらとした青い影。どう見ても、試験や課外活動で悩んでいる普通の少女に見える。
でも、違う。少なくとも、もう違う。
顔の水を拭いて、鏡に向かって上手くいかない笑みを作る。
「おめでとう、星野霜」
小声で言う。「お前は命が丈夫なだけじゃなく、このろくでもない場所に向いているかもしれない」
言い終えて、二秒ほど自分で黙った。それから、素直に認める——
殴られるよりずっと、きつい。痛みは外から来る。でもこれは、内側から育ってくる。
ベッドの端に腰を下ろし、机の端末を手に取った。明日のカリキュラムでも確認して、新しく罵れるものを見つけようと思っていただけだ。
開いた瞬間、一番上に更新通知が出ていた。
訓練スケジュール改訂:次段階適応予告
眉をひそめて、開く。二行だけだった。
環境適応拡張:深圧/無光/液体作業基礎評価 高G神経接続前測定:短時間三次元姿勢耐性判読
下に担当教官の名前が二つ。
レナード・ムーア J.J.・リコス
その二つの名前をしばらく見つめた。
最初の名前は、文字を見ただけで「人間を海底に放り込んで、息をするのをやめる決断が何秒後に来るか観察する」ような陰湿さがある。二番目は真逆で、短く、弾むように明るく、「笑顔で失速ロールの中に詰め込んで、スリルあるだろ?と聞いてくる」種類の精神異常者の名前だ。
上出来だ。新しい地獄が来た。
ベッドの端に座ったまま、その二つの名前をもう一度見た。それから、なぜか口元が少しずつ上がっていった。
期待しているわけじゃない。新しい折磨が好きになるほど病んでいるわけでもない。
その瞬間に分かったのは、一つの不愉快な事実だ。レオたちも、見えていた。俺が殴られて撃てるだけじゃないことが。俺の頭の中の何かが、このシステムに開かれ始めていることが。このまま進めば、もっと深いところへ送られることが。
だから彼らは、次のドアを俺の目の前に直接押し付けてきた。
その二つの名前を見下ろし、静かに息を吐く。
「聯邦の教官選びのセンスは、一貫して最悪だな」
端末の冷たい光が手の上に落ちて、部屋はまだ静かで、外の基地の夜間照明も相変わらず点滅している。世界全体が、これを当然のこととして受け入れているみたいだ。
俺が先に進むことを。次の怪物たちに会いに行くことを。そして俺が本当に、ここにどんどん馴染んでいくかもしれないことを。
端末を閉じて、ベッドに倒れ込み、暗くなった天井をしばらく見つめた。
胸の奥の冷たさはまだある。でもその隣に、もう一つ別の感情が育ち始めていた。興奮ではない。でも、近い。
崖の縁に立って下を覗き込むとき、胃が空洞になって、手のひらが汗ばんで、それでも——自分は多分、前に踏み出すと分かっているような感覚。
「……最悪だ」
もう一度、言った。今度は、さっきほど抱怨には聞こえなかった。どちらかといえば、承認に近かった。
窓の外の高重力の惑星は、相変わらず静かに全てを押しつぶしながら、明日また誰が先に砕けるかを待っていた。
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