214.心肺停止 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
目が覚めた時、喉が乾いていた。
エウロパの氷層を全部粉砕して、漏斗で気管に流し込んだかのような乾きだった。
一息するたびに微かな刺激があり、肺胞がまだ自分に勤務継続の資格があるかどうか確信できていないようだった。頭も重く、昨夜が帝国の潜水艦を強襲していたのではなく、アスガルド全体に圧し潰されながら眠っていたかのような重さだった。
視界がゆっくりと焦点を合わせる。
天井は医療室特有の、うんざりするほど標準的な白だった。専門的な白さ、退屈な白さ、まるで患者全員に「おめでとう、あなたはまだ生きている。ただし、これから向き合う請求書と恥ずかしい記録も同様に生きている」と告げているような白さだった。
動こうとすると、左手の甲に引っ張られる感触があった。
点滴だ。
右側の腰肋はまだ痛く、肩も誰かに一度バラして雑に戻されたようだった。結構。これはわたしが優雅に気を失い、優雅に救われたわけではないという証明だ。人生というのはそういうものだ。肝心な場面で女主人公らしい体裁を保とうとしても、現実はわたしを塩漬けの魚にして病床に放り込む。
それから、思い出した。
回収甲板。
落ちた視界。
ジェス。
わたしはほとんど反射的に体を起こした。
「っ――」
よし、腹筋はまだ死んでいない。ただし、一緒に引きずり込もうとしてくる。
「ジェスは」
声が出た。砂利を踏みしめたような声だった。
病床の傍には誰もいない。
医療室は静かすぎた。本来なら、わたしのように外から引き上げられたばかりで状態が完全に安定していない人間の傍には、医療班が一人はついているはずだ。最悪の場合、真紀が床尾に立って「まず反省文の構成を考えなさい」という目でこちらを見ているはずだ。でも今は誰もいない。カーテンの向こうから、押し殺した声が数人分聞こえてくるだけで、何か言いようのない空気が漂っている。
静かすぎる。
静かさが、おかしい。
わたしは点滴の針を乱暴に引き抜いた。
正直、これは推奨できない行動だ。痛いし、血も出るし、医療班に記録される。でも「ジェス」という名前の神経が突然限界まで張り詰めた時、人間は看護の手順を先に考えない。
素足で床に降りると、足裏に即座に寒気が走った。医療室の床は、患者全員に対して一定の敵意を持っている。「生きて戻ってきたのは結構。でも静かにしろ」とでも言いたげな冷たさだ。
カーテンを引いた。
外に何人かいた。
蘭が一番前にいて、目が赤かった。普段の怒りで充血した赤でもなく、徹夜で世界と和解しかけた時の赤でもなく、本当に泣いた後の赤だった。後ろにも、同じように表情が重い人間が二人いた。まるで全員揃って、早めの卒業式の弔辞コーナーに入ろうとしているかのような顔だった。
心臓が一気に沈んだ。
まさか。
まさかそんなことは。
こんな冗談は、ありえない。
蘭がわたしの起き上がった姿に気づき、肩が軽く震えた。それからすぐに顔をそらした。わたしを見ようとしない。
この一点が、どんな言葉よりも悪かった。
蘭は普段、わたしを怒鳴りたい時は目が正面から刺さってくる。人の尊厳をついでに剥いでいく眼光で。それが今、わたしを見ない。これは太陽が「今日は光りたくない」と言い出したくらい、荒唐無稽なことだ。
「起きてたのね」
蘭が言った。声が低かった。
わたしは蘭を見つめた。
「ジェスは」
誰も、すぐには答えなかった。
空気が、誰かの手に首を絞められたように止まった。
胸の、まだ消えていない鈍い痛みが、突然もっと重くなった。体の痛みではなく、もっと厄介な種類の何かだ。その感覚は嫌だった。氷水からようやく引き上げられたのに、本当に体を冷やしていたものはまだ後ろにいると、誰かに告げられたような感覚だ。
「医療班は……全力を尽くしました」
蘭はそう言って、手で目尻を拭った。
その瞬間、わたしは本当に半秒、空白になった。
劇的な目眩でも、文学作品に書かれるような「世界が色を失う」感覚でもなかった。そんなに綺麗じゃない。スパナで頭の中の部品を一つだけ、正確に叩き落とされたような感覚に近かった。思考が止まり、呼吸が止まり、さっきまでの痛みさえ一緒に持っていかれたようで、ただ醜い空洞だけが残った。
それから、自分の声が聞こえた。
「……もう一度言って」
声が小さかった。
自分でも驚くほど小さかった。
蘭は唇を噛み、頷く動作がひどくゆっくりだった。一秒一秒を引き伸ばすように。
「ジェスは、持ちこたえられなかった」
後ろの二人も頭を下げた。
一人は力を込めて鼻を啜った。
本物すぎた。
本物すぎて、わたしはなぜ彼らがこんなに本物なのかを恨みたくなった。
わたしはもう何も訊かなかった。
もう一度聞けば、二度目を聞くことになる。人間というのは時々、おかしなものだ。一度目で十分に心臓を切り裂かれているのに、それでも二度目を恐れる。傷があることを知っているのと、もう一度その輪郭をなぞられるのは、別のことだからだ。
わたしは蘭が開けてくれた方向へ歩いた。
一番窓側の病床に、半分だけカーテンが引かれていた。
そこに、一人が横たわっていた。
頭のてっぺんから足先まで、白い床単に覆われていた。
非常に古典的だった。古典的すぎて、思わず罵りたくなるほどだった。こういう光景は普通、安っぽい刑事ドラマや、度胸試しの肝試し大会や、趣味があまり良くない学校の怪談に出てくるものだ。でも実際に医療室に現れると、陳腐さは痛みを和らげてくれない。むしろ腹が立つ。死にまでこんなありきたりな手順を踏まれると、生きている人間への敬意が足りない気がしてくる。
わたしは床の傍に立った。
すぐには手を伸ばせなかった。
正直に言えば、怖かった。
これは自慢できる告白ではないが、あの時のわたしは本当に怖かった。掲げた後に、ジェスのあのいつも殴りたくなる顔が、突然別人のものみたいに静かになっているのを見るのが怖かった。何でもおもしろがって見るあの目が、ただ閉じたままでいるのが怖かった。そして何より怖かったのは、この瞬間になってようやく認めることになるのが――わたしはこれを受け入れる準備が、まだ全然できていなかったということだ。
ジェスはいくらでも騒いでいい。口が悪くていい。最悪のタイミングで冗談を言っていい。危険を全部週末の部活みたいに扱っていい。でもジェスが白い布に覆われてここに横たわっているのは、だめだ。
それはあまりにも最悪だった。
この宇宙の脚本家を全員引っ張り出して、わたしに個人的な恨みがあるのかと問い詰めたくなるほど。
わたしは手を伸ばした。
指が微かに震えていた。
情けない。
銃撃戦と真空から命を拾ったばかりなのに、床単一枚を引くのに手が震えている。でも体というのは、時として口よりずっと正直だ。口はまだ冷静を保とうとしているのに、手はもうとっくに、自分がどういう状態にあるかを教えてくれる。
「ジェス……」
低く、呼んだ。
返事はなかった。
喉が締まり、胸の穴がどんどん広がっていくようで、空気を入れても満たされない。
わたしは白い床単の端を摘まんだ。
ゆっくりと、引き上げていく。
何かを驚かせるのが怖いような、何かを確認するのが怖いような、ゆっくりさで。
そして――
「うわあっ!!」
床単が一気に塊ごと弾け飛んだ。
見慣れた、殴りたくて仕方ない、あの顔が、下から真正面に飛び出してきた。ジェスは白い布を頭に乗せたまま、半分教務システムを吹き飛ばした問題学生のような笑顔で、目を二本の弧に細めた。
「ははっ、びっくりした――」
「た」の音が落ち切る前に、わたしの拳が先に着いた。
ふわっとした、ハートマーク付きの軽い打撃ではない。
本気で殴った。
拳がジェスの肩に当たった音は非常に実在感があり、蘭すら息を呑んだほどだった。白い布が半分ずり落ち、ジェスは得意満面から一瞬で衝撃に変わった顔で、ベッドの内側へ傾いた。
「痛い!!」
「この、クソ――!」
二発目が即座に続いた。
今度は手のひらで、ジェスの頭を直接叩いた。パンという乾いた音が医療室に響き、関係者全員の良心が一緒に揺れたと思う。ジェスは頭を抱えて後退し、床単を引っ張り上げて盾にしようとしたが、わたしに掴まれ、人ごと布ごと一緒にベッドから引き剥がされた。
「ちょ、星野、一回落ち着いて――」
「落ち着けるか!」
今は落ち着きたくない。
誰が落ち着くか。
わたしはさっき、本当に信じた。本当にここまで歩いてきた。本当にあの白い布の前に立って、ジェスが二度と目を開けないことを想像した。あの数秒間、胸の中で何かが冷えていく感覚は、今もまだ消えていない。それなのにこいつは布の下に隠れて飛び出してきた。
これはもう悪ふざけじゃない。
ぎりぎりのところから這い上がってきた人間に対する、二度目の爆破だ。
「楽しかったか!」わたしはジェスの病衣の襟を掴んで揺さぶった。「楽しかったのか、ジェス!」
「ちょ、ちょっと待って、わたしは――」
「待ってとは何! わたしが死にそうになるかどうか確認して、ついでに担架が足りるか試したかったのか!」
ジェスはわたしに揺さぶられてまくらに叩きつけられ、いつもの余裕の顔に、初めてちゃんとした動揺が浮かんだ。蘭は最初は泣き演技の主犯格だったのに、今や状況が違う方向に転がったと察して割り込もうとしてくる。
「星野、ちょっと待って、顔は打たないで!」
「あんたも一枚噛んでるでしょ、蘭!」
わたしは振り返りもせず、反手で枕を投げた。
蘭は横に躱したが、枕は後ろにいた共犯者の胸に直撃し、相手はひどく情けない声でうめいた。
「違う、わたしたちは最初ちょっとだけ驚かそうと思っただけで――」
「ちょっと」
わたしは振り返り、笑った。
あの笑い方は、わたしが普段一番嫌いな種類の悪役に近かったと思う。
「これをちょっとと言う」
後ろの数人が瞬時に黙った。
よし。ようやく自分たちが何をしたか分かってきたらしい。
わたしは向き直り、ジェスへの処理を再開した。
今度はジェスも本当に逃げ始め、ベッドの隅に縮こまり、白い床単を腕に巻き付けて、非常に安っぽいゴースト・ボクサーのような姿勢を作った。問題はジェスの口がまだ完全に閉まり方を覚えていないことだった。
「でも、効果はすごかったじゃん、ほら、ちゃんとびっくりして――」
「まだ言うか!」
わたしはベッドの縁に片足を乗せ、手を伸ばしてジェスの頬を掴んだ。
「痛い痛い、星野、顔、顔が変形する――」
「全部作り直せ!」
今度は医療班まで飛び込んできた。
「患者が患者を殴ってはいけません!」 「その機器に触れないで!」 「ベッド! ベッドのキャスターロックが外れてる、誰が外したんですか!」
医療室は一瞬にして、軍紀を失った鍋の中身と化した。
白い床単が床に落ち、カーテンが斜めに傾き、点滴スタンドが当たられてガチャガチャと鳴り、蘭はわたしを止めようとしながら笑っていて、笑いすぎて涙まで出ていた。さっきの泣き演技が半分は本当の演技で、半分は後でまずいことになることへの予防的な恐怖だったことが完全にバレた。後ろの共犯者たちはもっとひどく、さっきまで遺体の告別式を演じていたくせに今や部屋中を逃げ回り、「わたしの発案じゃない」「最初からやめた方がいいと思ってた」と言い続けていた。共犯者の現場切り離しとしては、その速度だけは見事だった。
もう一発ジェスに入れようとした時、手首を掴まれた。
強い力ではなかった。
むしろ、少し頼りなかった。
でも、わたしは止まった。
掴んだのがジェスだったから。
ジェスが仰向けでわたしを見上げていた。さっきの欠けた笑いがまだ半分残っていたが、その下にようやく別のものが浮かんでいた。哀れを演じているのでも、単純に許しを乞うているのでもない。少し遅れて、自分が踏み越えた線に気づいた時の、あの居心地の悪さだった。
「……あんたがそんなに怖がると思わなかった」
ジェスはそう言って、短く息を吸った。さっきの拳が本当に痛かったらしい。
もう一度罵ろうとした。
たくさん罵ろうとした。
できれば二十歳の誕生日まで続く量を。
でも、その一言が出た瞬間、わたしは詰まった。
ジェスが馬鹿にしているわけではないと、聞けば分かった。
ジェスは本当に、少し呆然としていた。
わたしが白目を剥いて、無言で、白い布をそのままジェスの頭に被せ直して「次は本当に埋めろ」とでも言うだろうと思っていたのだろう。まさかベッドの前で手が震えているとは、思っていなかった。あの数秒の空白が怒りではなく、恐怖だったとは。
さらに情けないのは、今もまだ震えているということだ。
わたしは自分の手を見た。
本当に情けない。
あんなに本気で殴ったのに、手がまだ震えている。
ジェスも、見えたらしかった。
だからジェスは少し目を瞬かせ、それからまだ病床に横たわりながら、死にきれない性格で、小さく付け加えた。
「でも、それって……目が覚めて、最初に探したのがわたし、ってことじゃん」
わたしはジェスを見つめた。
ジェスもわたしを見た。
その一秒間、医療室全体が誰かに消音ボタンを押されたようになった。蘭が動かなくなり、医療班が叫ぶのをやめ、後ろの共犯者たちも所定の位置で静止し、全員が「ああ、そういう方向か」という微妙な顔になった。消毒液の匂いが、突然やたらと鮮明になった。
わたしの耳の後ろが熱くなった。
くそ。
よりによってこのタイミングで。
よりによってジェスが悪ふざけをやり終えて、殴られて、頭がまだ乱れている状態で、あの一言を投げてくるとは。正式な告白でも、耳に心地よい言葉でもない。むしろ殴りたくなる言い方だ。でも、だからこそジェスらしかった。それほどジェスらしいと、先に殴り続けるべきか、先に顔の熱を処理すべきか、どちらが急ぎかも分からなくなる。
わたしは最も正しくて、最も格好のつかない選択をした。
もう一発、打った。
今度は力を抜いて、ジェスの胸の前の掛け布団に拳を落とすだけにした。
「自意識過剰」
わたしは歯を食いしばって言った。
声が完璧に凄んでいたかは、自信がない。
なぜなら蘭が横で、とても分かりやすい「おー」という声を出したからだ。
「何が『おー』だ!」わたしは即座に振り返った。
蘭は両手を上げ、肩を震わせながら笑っていた。
「いや、なんか、さっきのあの顔が、本当に未亡――」
「蘭」
わたしは微笑んだ。
「白い床単、試してみる?」
蘭は即座に黙った。
医療班がようやく隙を見てわたしとジェスを引き離し、一方でジェスの乱れた病衣とモニターの配線を整え直した。ジェスはまだベッドに横たわり、肩の痛みに顔をしかめながら、それでも笑いを止められなかった。その笑いは嫌だった。得意げさが少し、痛みが少し、後ろめたさが少し、そしてこちらが最後まで怒り続けるのを難しくさせる何かが少し、混ざっていた。
わたしはベッドの傍で息を整えた。頭がまだ少し回り、目の奥が少し熱かった。
本当に嫌だ。
こういう時に涙が出たら、完全に負けだ。
だから、ただジェスを睨んで、胸から溢れかけていたものを必死に押し戻した。ところがジェスはまだ懲りずに手を伸ばしてきた。
「星野」
無視した。
「星野」
まだ無視した。
ジェスは少し間を置き、今度は声を落とした。
「……ごめん」
医療室が半拍、静まった。
「ごめん」という言葉自体が珍しいわけではない。ただ、ジェスの口から出ると、珍しさが標本保存に値するレベルになる。蘭は端末を取り出して録音しておこうかどうか迷っているような顔をした。タイトルは「ジェス・まれに見る真誠発言事件記録」にして、全艦の歴史教育に使うために。
わたしはジェスを見た。
ジェスもわたしを見た。
最後に、わたしは手を伸ばした。
ジェスの手を握るためではない。
床に落ちていた白い床単を拾い上げ、思い切りジェスの頭に被せ直した。
「黙って療養してろ」
ジェスが布の下でくぐもった笑い声を上げた。
「こわ」
「これ以上うるさくしたら、本当に遺体として送り出すから」
「少なくとも、直接見送ってくれるのはシモじゃん」
わたしのこめかみがピクリと動いた。
蘭が横で笑い崩れた。
わたしはその場に立ち、人生を別の路線に乗り換えるか、友人を乗り換えるか、いっそ人生のルートごと変える申請を出すべきか真剣に考えた。三つとも現実的でなかったので、ただ長く息を吐いて、顔を横に向けた。自分がもうそれほど怒っていないことを、誰にも見られないように。
結局のところ、この騒動の本当に怖いところは、ジェスが殴り殺されかけたことではない。
あの白い布を引き上げようとした瞬間、わたしが本当にジェスを失うのだと思っていたことだ。
そういうことは、一度で十分だ。
次にやったら、白い床単ごと人ごと医療廃棄物回収箱に放り込む。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




