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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
臨界の星穹:静音潜航
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213.アビス・チェイサー 3

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

エウロパの海水は、とても教養のある冷たさだった。


その場で人間をアイスキャンディーに変えるような粗暴なやり方ではない。黒いドレスを着た貴婦人が、まず優雅に首の後ろへ手を置き、それからゆっくりと背骨に沿って滑らせ、最後に最も礼儀正しい方法で教えてくれるような冷たさだ。――もしこの多機能防護服を着ていなければ、わたしは三十秒以内に現代的な氷の彫刻作品に変わり、しかも無料で展示されることになっていただろう。


わたしは手を上げ、ジェスに合図を送った。


ジェスは半秒も無駄にせず、即座にDPVのエンジンを起動した。


そのDPVは、怪しいほど小さかった。さっき装備バッグから引き抜いた時の第一印象は、「これに人が乗れるのか」ではなく、「整備班の誰かが高級ドライヤーを紛れ込ませたのか」だった。ところが、エンジンを入れた途端、その小さな機械は実力でわたしをわからせてきた。推力が爆発した瞬間、わたしは猛烈な勢いで前へ引っ張られた。見えない深海の悪意に足首を掴まれ、果てのない暗海底へ引きずり込まれるような感覚だ。


ソナーのインターフェースが点灯すると、暗闇にも形が生まれた。


次の瞬間、頭上の水層を高速で切り裂く、低く鋭い音が聞こえた。


格闘艇だ。


アスガルドが動き始めた。


結構なことだ。上の連中もようやく舞台を整えてくれたらしい。もしこの宇宙に人生のタイトルを決める監督がいるなら、今のシーンは間違いなく『深海猟殺』と名付けられるだろう。ダサい名前だが、雰囲気は完璧だ。黒い水、伏兵、帝国の潜水艦、そして防護服を着て軍事ドキュメンタリーに密航してきたような二人の少女。うん、興行収入が爆死する前の自信に満ち溢れている。


わたしは推力を最低まで落とし、体を氷層の下の影に沿わせて滑空した。


やがて、アクティブ・ソナーのパルスがやってきた。


それは音というより、見えない指先が何重もの輪になって暗闇の奥から伸びてきて、海水、氷層、そして人が隠れられそうなあらゆる角を撫で回していくような感覚だった。パルスが通り過ぎるたび、骨をコツンと叩かれたような気がする。帝国の潜水艦は明らかに散歩に出ているわけではない。何かを探している。しかも、非常に真剣に。期末テストの前に突然生徒の近況を気にし始める教官のように、不気味なほど真剣だった。


わたしとジェスは同時に動きを止めた。


DPVの推進も切った。


わたしたちは、宇宙のゴミ箱に捨てられた二つの黒いパーツのように、氷層の影の縁で静かに宙吊りになった。通信の話し声はない。装備の内循環システムの微弱な気流音と、ジェスの極めて軽い呼吸音だけが聞こえる。奇妙なことに、血すら凍りそうなこの場所では、そのわずかな呼吸音のほうが、加熱モジュールよりもよほど「生きている証明」のように感じられた。


そして、ヤツが来た。


最初はぼんやりとした暗影、次に輪郭。


帝国の潜水艦が黒い水の奥からゆっくりと浮上してくる。まるで神話から泳ぎ出た鉄色の巨鯨だった。艦体は細長く陰鬱で、外殻には電波吸収塗料が施されている。艦首のアクティブ・ソナー・アレイは無表情な顔のように、何度も何度も周囲に網を投げていた。艦腹の下のライト帯が時折、氷の霧や浮遊粒子をかすめる。潜水艦全体が、水中でパトロールする一本の刃のようだった。ゆっくりとしているが、人を真っ二つにするには十分だ。


それは、わたしたちのすぐ後ろを通り過ぎていった。


遅い。


わざと人を拷問しているかのように遅い。


わたしは身動き一つできなかった。ジェスも同じだ。二人は影に張り付き、生存欲求すら一時停止したかのように静まり返っていた。潜水艦は危険な距離を擦るように滑り、アクティブ・ソナーは何度もスキャンを繰り返す。諦めの悪い猟犬が、同じ床を何度も嗅ぎ回るように。


正直なところ、その数秒間は、帝国を呪う感情すら順番待ちをしなければならないほどだった。


潜水艦が前方へある程度進み、ソナーのパルスも艦体の移動に伴って逸れてから、わたしはようやく再び手を上げ、ジェスに二つ目の合図を送った。


ジェスが軽く頷きを返す。


二台のDPVが再び音もなく起動した。


わたしたちは艦体の真後ろを追うのではなく、右後方へ切り込み、乱気流の縁に沿って接近した。汚いルートだが、生き残れるルートだ。巨大な艦体が水中を進む時、その後方には複雑な流れが生まれる。精密なソナーにとって、それは高級な交響楽の演奏中にスプーンで鉄鍋をかき回すようなものだ。混乱し、うるさく、そしてこっそり忍び寄るには最適だった。


すぐに目標が見えた。


尾部の推進フェアリングと、右舷深度舵の付け根の境界エリア。


そこには、メンテナンスを容易にするために半露出状態になった制御メインパイプがある。油圧と信号を深度舵と微調整ノズルに送る役割を担っている。普段は装甲スカートで大半が覆われているが、整備効率のために、完全な一体型の重装甲にはなっていない。言葉を選ばずに言えば、帝国の貴族の良心くらい薄い。見た目は立派だが、触ってみればすべてが偽物だとわかる場所だ。


わたしとジェスが張り付いた時、艦体から伝わる低周波の震動を肌で感じた。


その震動は手袋と磁気マウント越しに手のひらへ伝わり、まるで巨大な獣の背骨を撫でているかのようだった。ジェスが先に左側の爆薬を固定する。わたしは右側を担当した。黒い水の中での動作は、偏執的なまでに安定していなければならない。磁気ベースの吸着、安全ピンの回転、遅延の同期、シグナルランプの緑色への点灯。どのステップも間違えてはいけない。こういう時に手が滑ったら、物語は熱血のクライマックスには入らず、直接「任務失敗時の人員特別弔慰金規定」へと飛ぶことになる。


ジェスが最後の爆薬をセットし終えた時、振り返ってわたしを見た。


水と反射のせいでマスク越しの表情はよく見えなかったが、ジェスが笑っていることだけはわかった。あの嫌な笑い方だ。たいてい「さあ、また普通の人間が絶対引き受けないことをやってるよ、わたしたち」という意味だ。


わたしはジェスに向かってカウントダウンのサインを出した。


三。


二。


一。


起爆。


水中の爆発は、映画のように天地を揺るがす派手なものではなく、もっと陰湿だった。一瞬の白い閃光の後、衝撃波が見えない重い拳のように、わたしの胸と歯に直接叩きつけられた。黒い水全体が激しく震え、大量の気泡と破片が尾部から湧き上がる。推進フェアリングに凄惨な裂け目が走り、右側の深度舵は即座に制御を失い、露出したメインパイプからは明滅するアーク放電が吹き出した。


潜水艦の尾部全体が猛然と傾いた。


次の瞬間、艦体は苦しげに姿勢を修正し始めた。


片側の精密な制御を失った帝国の潜水艦は、舞踏会でヒールを折ってしまったのに、まだ優雅を装おうとしている貴族の令嬢のようだった。最初の半秒はなんとか体裁を保とうとしたが、次の半秒には最も現実的な選択肢――浮上――を選ぶしかなかった。


「成功だ」わたしは低く言った。


ジェスが通信越しに短く笑った。その短い音には、なぜか人を安心させる力があった。


わたしたちは艦体の上部に沿って素早く追従した。損傷した潜水艦は、姿勢の修正を試みながら、強制的に上昇していく。上方の水の色が次第に薄くなり、氷層が反射する微光が冷え切った銀のように見えてきた。艦体がようやく薄い水面エリアを突き破ると、潜水艦全体からくぐもった金属の喘ぎ声が漏れ、わたしとジェスもその勢いに乗って上層ハッチの付近へ張り付いた。


ハッチが開いた。


「02、出てくるぞ」わたしは言った。


「見えてる」ジェスが短く返す。


最初の帝国兵が頭を出した。自分がなぜこんなろくでもない場所で任務に就いているのか理解する間もなく、彼の胸にはわたしが撃ち込んだ熱い穴が開いた。二番目の兵士は反応が早く、銃を構えようとしたが、ジェスの射線が彼の動作を上回り、そのままハッチの中へ吹き飛ばした。後ろに続く兵士たちは、ひっくり返された缶詰の中身のように次々と這い出しては、次々と倒れ込んでいく。正直、上品な光景とは言い難かったが、本物の伏兵を前にしては、帝国の軍紀も「綺麗に整列して倒れる」という長所を残すのみだった。


「02!!」


わたしは叫んだ。


わたしが口を開くのとほぼ同時に、ジェスはその意味を理解していた。


次の瞬間、開いたハッチから手榴弾とスタングレネードの束が見事に投げ込まれた。お歳暮のギフトセットを投函するような手慣れた動作だった。唯一の違いは、受け取った側がレビューを書きたがらないことくらいだ。


爆音、白光、悲鳴。そして金属の艦内を乱反射する反響音が、潜水艦の中を尊厳の一切ない熱湯の鍋へと変えた。ついさっきまで深海の墓穴のように陰鬱だった艦内は、誰かが軍の宿舎に新年の花火を持ち込み、ついでに機嫌の悪い幽霊の群れを放ったかのような騒ぎになった。ある意味、帝国の兵士たちも今夜はお祭り騒ぎと言えるだろう。プログラムの内容が少々刺激的すぎるだけで。


わたしは混乱に乗じて、前腕のインターフェースに光子シールド(フォトン・シールド)発生器を固定した。システムのライトバーが装甲の縁に沿って冷たい白光の輪を描く。これを起動していると安心感があるが、代償として、小型冷蔵庫を半分抱えて戦場に出ているような気分になる。もっとも、他人の船に乗り込んで至近距離の挨拶を交わす準備をしている今、重量に対するわたしの寛容さは普段よりずっと広い。


「02、シールドを確認しろ。シューティングゲームに付き合ってやってる暇はないぞ」


「了解」ジェスは答えた後、一拍置き、わたしの耳元に貼り付くような声で言った。「先に死なないでよ。このボロ船を一人で観光する気はないからね」


「縁起でもないこと言うな」と返しそうになったが、口に出す前に、ふと笑ってしまった。


本当に厄介なやつだ。


こういう時に、ジェスは人を笑わせる才能がある。


わたしはハッチの横のタラップを掴み、下を覗き込んだ。金属のステップには海水と、震動で落ちた細かい氷の欠片がこびりついており、エウロパから直接祝福を受けたかのように冷たかった。前腕のシールドモジュールが低いハム音を立て、艦内に残る白い煙と点滅する警報の光が一緒に巻き上がってくる。下では誰かが咳き込み、誰かが叫び、誰かが再び抵抗の態勢を整えようとしていた。結構。それは彼らがまだ死に絶えていないことを意味し、わたしたちが突入した後、事態が今よりさらに醜悪になることを意味している。


だが、それがどうした。


アスガルドはすでに海面で舞台の幕を開けているのだ。


わたしとジェスが今やるべきことは、この急ごしらえの地獄の入り口に沿って、最後まで歩いていくことだけだ。

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