213.アビス・チェイサー 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
わたしとジェスは装備を整えた後、整備区画からアスガルド後部の最も外側にあるメンテナンスハッチまで歩いた。
外殻に近づくほど、皇族特造艦特有の豪華さは薄れ、代わりに冷ややかな機能性が顔を出す。ここには星穹もなく、温泉の湯気もなく、絶対にバーとは認めようとしないあの高級軍官クラブもない。
あるのは、何層にも重なる金属の隔壁、壁に沿って這う太いパイプ、そして、船全体が呼吸を殺した後に肋骨の隙間に残るような、低い震動だけだ。
メンテナンスシャフトの入り口はそこにあった。
斜め下に向かって切り込まれた狭い排気通路。奥はひどく暗く、金属の内壁には薄っすらとシモが降りている。入り口の縁に立って下を見ると、非常に嫌な予感がした――世界が口を開けていて、自分からそこへ這い入らなければならないような。
「着替えたわよ。これでようやく答えを教えてくれるんでしょ?」わたしは、人間が通るようには見えないその細い通路を見下ろし、人生の采配に対する不信感たっぷりの声で言った。「まさか、このろくでもない場所を普通に歩いて下りろなんて言わないよね」
「ご名答」隣に立つ蘭の答えは、一ミリも安心できるものではなかった。「歩くんじゃない。滑るの」
眉間がピクリと跳ねた。
「こういう時くらい、もう少し人間味のあるオブラートに包んで答えられないの?」
「無理ね」アカリが言った。「だって事実として、それ以外の方法がないもの」
よろしい。
さすがはアスガルド艦橋の情報班とレーダー班だ。彼女たちの最も信頼できる点は、他人を慰めるために絶対に時間を無駄にしないことだ。
排気シャフトの内部は並んで進むには狭すぎるため、縦に並ぶしかなかった。ジェスが先に入り、わたしが後ろに続く。
滑降の速度をコントロールし、低重力環境で溝に蹴り落とされた缶詰のようにぶつかり合うのを防ぐため、わたしは後ろから両足でジェスの腰を固定し、肘と靴底の吸着ポイントで摩擦と姿勢を調整しなければならない。
この姿勢自体が、すでに屈辱的だった。
甘酸っぱい意味での屈辱ではない。
万が一ここで死んだ場合、検死報告書が非常に書きづらいことになるという意味での屈辱だ。
ジェスは先に上半身を通路に突っ込み、角度を試してから、振り返ってニッと笑った。
「おいで、フロスト01」
「お前のその笑顔のせいで、余計に下りたくなくなった」
深呼吸をして、わたしも滑り込んだ。通路の内壁は恐ろしいほど冷たく、背中の宇宙服の外層が金属のパイプに触れると、かすかな摩擦音がした。姿勢をずらし、両足を前に挟み込んで、ジェスの腰を固定する。
「01」ジェスが突然口を開いた。
「なんだよ」
「太もも、あったかいね」
頭の中で何かがブチッと鳴った。
感動ではない。
殺意だ。
反射的に、足の力を強めた。
ジェスが即座に、くぐもった悲鳴を上げる。
「こ、降参!」ジェスが前で喚く。「死ぬ、マジで死ぬ!」
「クソが、もう一回ふざけたこと言ってみろ」わたしは彼女の耳の後ろに顔を寄せ、声を低くして歯切れよく言った。「今のわたしは機嫌が最悪なんだ。お前がエウロパで最初の『口の利き方が悪くて殉職した隊員』になっても、一向に構わない」
ジェスは息を呑みながらも、命知らずな返事をしてきた。
「怪力……カニのデカいハサミみたい……」
「黙れ」
「了解、フロスト01・大バサミのお姉さん」
今回の任務が終わって、もし二人とも生きていたら、絶対にジェスを浮き輪ごと人工ビーチの深水エリアに放り込んでやると心に誓った。
姿勢を固定し、滑降を開始する。
最初は斜面だった。
パイプの内部は細長く、シモが降りており、わずかに下へ傾斜している。まるで凍りついた食道のようだ。わたしは左手を側面のメンテナンス溝に引っ掛けて速度を制御し、右手で胸のセラミックナイフとショートライフルの固定帯を護る。ジェスは前で肩と背中、肘を使って方向を導く。前後の二人は、まるで同じ薬莢に詰め込まれた弾丸のようだった。
三段目まで滑り降りた時、問題が起きた。
通路の前方に、突然、薄い赤い線が点灯した。
警告灯ではない。
センサーネットだ。
「止まれ」わたしは低く言った。
ジェスは即座に手を引っ込め、体をなんとか点検用ノードの脇に押し込んだ。わたしも靴底の吸着パッドで内壁を力任せに踏みつけ、ほとんど彼女の背中に張り付くような形で、なんとか滑降の勢いを止めた。
通路の中は異常なほど静かだった。
二人のヘルメットの中の呼吸音と、下から聞こえる規則的な低周波のハム音だけがある。
わたしは腕を上げて微光スキャンを起動した。赤い線の奥に、完全な構造が浮かび上がる。低出力の赤外線グリッドがパイプの中央を覆い、その横には熱感知ノードが接続されていた。設計者はなかなかに陰湿だ。排気口を通る人間が正面から来るとは思っていないらしく、侵入者対策というより、ネズミ捕りに近い警戒システムだった。
「ご丁寧なことで」わたしは小声で言った。「帝国はこういうところには、ずいぶん気を遣うらしい」
「越えられる?」ジェスが訊く。
「越えられるか、バカ」わたしは数値を睨む。「ここじゃ狭すぎる。強行突破すれば確実に線に触れる」
上をちらりと見て、下も見る。最後に、右側にある少し出っ張ったメンテナンスパネルに視線が止まった。
排気シャフト。
赤外線。
熱感知。
そして、循環している高温の排熱流。
次の瞬間、理解した。
「02、右手で横から三番目の点検パネルを触れ」わたしは言った。
「これ?」
「そうだ。固定バックルを外せ」
ジェスは手先が器用で、二度ほどいじっただけでパネルを外した。中から白シモのついた細い管が顔を出す。「冷却還流」という文字が見え、わたしの口角がようやく少し緩んだ。
「よし。下に押し込め」
「本気?」
「本気じゃない」わたしは言う。「でも、定年退職までここで待ってるわけにはいかないだろ」
ジェスが押し込んだ瞬間、細い管から耳障りなヒス音が鳴り響いた。次の瞬間、極寒の霧が裂け目から猛烈に噴き出し、狭い通路を一瞬で満たした。赤外線が白い霧の中で乱反射し、熱感知ノードの表面数値が狂ったように跳ね上がる。
「行け!」わたしは鋭く言った。
わたしたちは同時に支点を離し、霧に乗って一気に滑り抜けた。赤い光が体の横を閃き、ふくらはぎの外側をかすめるように通り過ぎて、心臓が縮み上がった。だが、システムは鳴らなかった。
賭けに勝った。
「シモ」ジェスの声が前からくぐもって聞こえる。「あんた、たまにマジでちょっとカッコいいよね」
「黙って滑れ」
「今のセリフ、なんか口説き文句みたいに聞こえてきた」
今すぐここでもう一度挟み潰してやりたかった。
残念ながらその機会は訪れなかった。次の瞬間、排気シャフト全体が突然、激しく震えたのだ。
爆発ではない。
圧力波だ。
下方の排熱システムがサイクルの切り替えを終えたらしく、獣の喉鳴りのような低い轟音が深部から猛然と湧き上がってきた。通路内の気流が一瞬で重くなり、熱霧と冷シモが逆流して、わたしたち二人をその場に吹き飛ばしそうになる。
「しっかり掴まれ!」わたしは叫んだ。
ジェスは腕を前方のブラケットにねじ込み、わたしは体を後ろに反らせて重力ロープを張り詰め、両足で彼女の腰を死に物狂いで固定した。排気波がパイプを駆け上がってきた時、背中の外部装甲を気圧に叩きつけられる感触があった。濡れたバスタオルで思い切り引っぱたかれたような衝撃だった。
「クソッ」ジェスが前で歯を食いしばって言う。「ゲームより刺激強すぎ」
「今更気づいたのか!」
圧力波は約七秒間続いてから引いた。
わたしたちは二人とも無言のまま、風音と余震の中で静かに息を整えた。その数秒間、わたしはふと、艦橋でヘートヴィヒがわたしを見つめ、静かに「生きて帰れ」と言った時の声を思い出していた。
本当に、厄介だ。
こういう時にあの言葉を思い出すなんて、自分に余計なプレッシャーをかけているようなものだ。
誰かにあんな目で見られ、あんな風に念を押されたら、自分の命をただの自分の命として扱うのが難しくなる。
「01?」ジェスが小さく呼んだ。
「生きてる」わたしは返す。
「よかった」彼女は言う。「さっき二秒くらい静かだったから、脳内でわたしの遺影でも選んでるのかと思った」
「安心しろ、一番ブスな写真を選んでやるから」
「ひどくない?」
「お前にはその価値がある」
排気シャフトは下に行くほど湿気を帯びてきた。
後半はもはや滑降というより、冷たい喉の奥へ飲み込まれていくような感覚だった。金属の内壁には薄い結露の膜ができ始め、靴底が時折滑る。わたしたちは重力ロープと肘を交互に使ってブレーキをかけながら、一段ずつ下へ切り込んでいった。途中、半開きの熱感知ドアにも遭遇した。ドアパネルが弁のように通路の中央に引っかかっており、かろうじて一人通れる程度の隙間しか残っていなかった。
「また何これ?」ジェスが小声で文句を言う。
わたしはドアの横に頭を寄せ、内部の規則的な音を聞いた。
「差圧ドアだ」わたしは言った。「次の排気リズムを待つ」
「なんで分かるの?」
「わたしが帝国のエンジニアでも、こういうドアは排気リズムと同期させる設計にするからだ」一拍置いて、付け加える。「じゃないと、お前みたいなバカが勢い任せに滑り込んでくるだろ」
「シモ、あんたの信頼の示し方、マジで歪んでるよね」
三秒後、低い機械音が再び深部から響いた。
「今だ」
わたしは片手でドアを押し、もう片方の手でジェスを前へ押し込んだ。金属の縁をかすめるように滑り抜け、肩当てが擦れて鋭い音を立てた。ドアが再び閉まる直前、わたしたちは最後の斜面へと転がり込んだ。
今回はもう障害物はなかった。
ただ加速するだけだ。
パイプは急に険しく、滑りやすく、一直線になり、まるで施設側が演技をやめて、わたしたちを直接ゴールへ吐き出すことに決めたかのようだった。わたしとジェスは制御不能のまま下へ下へと滑り落ち、やがて前方の暗闇が突然裂け、冷たい白い空間が一気に広がった――
到着した。
出口は円形の井戸のような場所だった。
より正確に言えば、ムーンプールのような入り口だ。
氷層、金属、そして深海に共同で包まれた垂直な空間。井戸の下にあるのは地面ではなく、底なしに近い黒い水だった。周囲のプラットフォームには薄暗い作業灯が設置され、水面と通路の境界から白い霧がゆっくりと立ち昇っている。エウロパ全体がここに呼吸を隠しているかのようだ。さらに下の水域では、時折ごく淡い冷光が揺らめき、深海の遠くで何かが音もなく寝返りを打ったように見えた。
わたしはまず姿勢を整え、それから通信を切り替えた。
「フロスト01よりオーバーロード」
インカムからすぐに真紀の声が返ってきた。
『オーバーロード、受信。報告せよ』
わたしはその黒い水面を一瞥し、ジェスを見た。
「これから潜る」
たったそれだけの言葉なのに、自分の命に一時的な出国手続きを申請しているような気分になった。
真紀の側が半秒ほど静まり返った。
『了解』真紀が言った。『こちらも準備は整っている。フロスト小隊、自主判断で動け。任務を優先せよ』
「了解」
わたしは近距離チャンネルに切り替え、防水バッグからDPVを取り出した。
小型の水中推進器は手の中でずっしりと重く、表面の金属は氷層から掘り出したばかりのように冷たかった。もう片方の手で、アサルト・レーザーライフルを胸の磁気マウントに固定し、酸素マスクのロックと空気供給の数値をもう一度確認する。この時ばかりは、手元のあらゆる動作が自然と遅くなる。一度水に入れば、留め忘れたバックル一つが、十分後に非常に見苦しい遺体の説明書に変わる可能性があるからだ。
ジェスも装備のチェックを終えた。
彼女は手を上げ、わたしに向かってOKのサインを作った。
彼女を見て、わたしはふと笑みをこぼした。
「フロスト02」
「ん?」
「もしこの後、水の中でも『太ももあったかい』なんて言ったら」わたしは言った。「そのまま水底に沈めるからな」
ジェスはマスク越しにわたしを見て、その目を細めた。
「了解、フロスト01」彼女は言う。「じゃあ、『しっかり抱きしめてくれてる』に変える」
「……お前、本当に口が減らないな」
わたしはDPVをスタンバイモードにし、下方の黒い水を見下ろした。
エウロパの内海がそこにある。
帝国の潜水艦もそこにある。
そしてわたしたち二人――運命に名指しされたように不運な星野と、突撃艇を遊園地のアトラクションのように乗り回す損害管制官――が、今から本当にそこに飛び込もうとしている。
わたしは息を吸い込んだ。
「フロスト01」わたしは言った。
そして、一歩前へ踏み出す。
「行くぞ」
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




