209.逃亡開始 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
「レーダー探知範囲内、当面敵艦なし」
高揚した戦闘感情が引くと、アカリの口調はすぐにあの読経に近い平板なモードに戻った。
彼女の前のレーダー投影がまだ索敵の波紋を更新し続けていなければ、さっきまでレーダーで帝国の追撃艦を捉えていたのではなく、全宇宙に向けて何かの超度儀式の進行表を読み上げているのかと疑うところだ。
「レーダーによる早期警戒を継続、交代で監視を」
真紀は手を上げて赤色警報を解除し、同時に艦橋の遮蔽を解除した。
次の瞬間、空間全体が、獲物を噛み砕いたばかりの猛獣から、金を燃やすためだけの神殿へと戻った。
艦橋を覆っていた冷青の戦術光が層ごとに収束し、上昇していた全息戦術幕壁も再び柱列と穹頂の奥深くへと折り畳まれた。重厚な作戦遮蔽パネルが退くと、前方のアーチ型観景面が再び開き、黒く青みがかった宇宙とまばらな星の光が一緒に流れ込んできた。暗金の装飾、黒曜石のような床、中軸に沿って控えめかつ正確に伸びる金線、そして艦橋中央にある、軍艦にはあり得ないような観星歩道——すべてが数秒のうちに「戦闘艦橋」から「皇族の高級ヨットの観景御座廳」へと戻った。
この切り替えを見るたびに、私は真剣に問いたくなる。
帝国は一体どうやって「殺人兵器」と「高級品展示センター」という二つの概念を同じ製品にまとめたのか、と。
しかも最も荒唐無稽なのは、今この、帝国の予算そのものが顕現したかのように豪華な艦橋に立っているのが、全員帝国黒制服を着ていながら、実際には帝国の第二皇子を船ごと蒸発させた連邦の学生たちだということだ。
修学旅行でここまでやれば、連邦の校史に書こうとしても、教務処から悪ふざけの投稿として突き返されるだろう。
「これからどうする?」
私は真紀を見た。
言葉が出た瞬間、艦橋の視線もほとんど彼女の方へ落ちた。
これは誰かが意図的にやったことではなく、ごく自然なことだ。先ほどの交戦で、彼女はすでに「アスガルド艦長」という位置を確固たるものにしていた。名義上でも、便宜上でもなく、船全体の人間が身体で覚えたのだ。これからの方向は、彼女が決めるのだと。
真紀は艦長席に座り、長く沈黙した。
躊躇ではない。
どちらかといえば、まだ高速で回転しているすべてのものを、一つ一つ彼女の頭の中の然るべき場所に押し込んでいるような感じだった。たった今フライブルクと帝国第二皇子を宇宙の空白区へ送り込んだばかりなのに、今すぐ「よし、次は艦内行政と負傷者の対応だ」というモードに切り替えなければならない。この心理的な切り替え能力だけでも、すでに普通の学生とはかけ離れている。
しばらくして、彼女はついに口を開いた。
「まずは船の上の問題を処理するわ」
合理的だ。
そして命取りに現実的だ。
真紀は手を伸ばして艦長席の傍らの通信器を取り、短く内部回線を繋いだ。すぐに、前方のサブ投影に二階堂の顔が弾き出された。
彼女の表情は普段通りで、「もし今日世界がルールを守らないなら、私が世界を廊下に立たせてやる」という安定した圧迫感を帯びていた。背景はどこかの艦内通路のようで、後ろには帝国黒制服を着た学生が何人か行き来しており、遠くには一箇所に集められた元帝国艦員と、臨時に張られた警戒線がぼんやりと見えた。
「はい?」
「九島よ」
真紀の口調に余分な起伏はない。
「今、船の上の状況はどう?」
「制御範囲内よ」
二階堂の答えは非常に歯切れが良かった。
「学生たちは今のところ落ち着いているわ。負傷者は全員医務室に送った。Dが反抗しそうな元艦員を見張っていて、艦内の主要通路もすでに区分けし直した。少なくとも今のところ、混乱に乗じて英雄になれると勘違いしている馬鹿はいないわ」
……よし。
どうやら二階堂は、意志の力と風紀委員長の天職だけで、奪ったばかりの帝国の巨艦を、辛うじて社会と呼べる状態に維持しているらしい。
「医官はいないの?」
真紀がまた尋ねた。
「いないわ」
二階堂は考えるまでもなかった。
「でもあそこの設備はわかりやすいわ。インターフェースが学校の保健室より親切に作られてる。猿でも機械を操作して人を救えるレベルよ」
私は思わず傍らで眉を挑ねた。
実にわかりやすい比喩だ。
しかも忌々しいほど説得力がある。何しろこの船は元々帝国の皇族特造艦なのだ。医療設備を専門家が一字一句解説しなければ使えないようでは、皇族本人に喧嘩を売っているようなものだ。設計段階からデフォルトになっているのだろう。いつか皇女殿下が熱を出しながら文句を言っても、片手で救命プログラムを完了できるように、と。
「そのまま維持して」
真紀は頷いた。
「まずは学生、負傷者、艦内の秩序を安定させる。もし元艦員に不穏な動きがあれば、封鎖を優先し、道理を説く必要はないわ」
「了解」
二階堂は答え終え、また少し間を置いた。
「それと、私たちがさっき何をしたか、今では船中のみんなが知っているわよ」
この言葉が出て、艦橋が一瞬静まり返った。
「私たちがさっき何をしたか」と尋ねる者はいなかった。その質問自体が愚かすぎるからだ。
私たちがさっきやったことを簡単に要約すれば——銀河帝国皇族の一部を、皇帝級戦闘巡洋艦と一緒に宇宙から削除した、ということだ。
こんなニュースが、艦橋だけで留まるはずがない。
「それで?」
私は口を開いた。
二階堂は私を一瞥した。
「それで、今半分の人間は自分が夢を見ていると思っていて、もう半分の人間は、自分たちはおそらくもう一般的な校則では処理されないだろうと思っているわ」
「正しい判断ね」
私は言った。
「個人的には後者だと思うわ」
「私もよ」
二階堂は極めて平静に答え、通信を切った。
投影が消えると、艦橋はまた短い沈黙に包まれた。
私は息を吐き出し、主座の方へ歩いていった。
ヘートヴィヒはまだそこに座っていた。
さっきの戦闘中、自分自身を何らかの皇族機能の中に閉じ込めているようだった状態に比べると、今の彼女は明らかに静かだった。虚弱でもなく、崩壊でもない。すべての外界の音が少し退いた後、本来なら構う暇のなかった何かが、ようやくゆっくりと追いついてきたかのように。
私は彼女のそばで立ち止まり、声を潜めた。
「大丈夫?」
ヘートヴィヒは前方の星の海を見つめ、苦笑した。
「あまり大丈夫じゃないわね」
それもそうだ。
私は考えていた。引き金を引いたのは彼女ではないが、最後に頷いたのは彼女だ。
フェーゲラインがさっき公共周波数でどれほど汚い言葉で罵ろうと、どれほどそのまま宇宙ゴミの分別表に突っ込まれるべき人間であろうと、ヘートヴィヒにとって、彼はやはり異母兄なのだ。
私がそう考えた矢先、彼女は小声で続けた。
「自分の異母兄を殺せと命令したのに、私、何も感じなかったの」
私は呆気に取られた。
ヘートヴィヒは俯き、ほとんど独り言のように軽い声で言った。
「憎しみでも、痛快さでもない。悲しみとすら呼べない。私はさっきただ……撃たなければ、私たちが死ぬ、あなたたちも死ぬと思った。だから彼を死なせた」
彼女は笑ったが、その笑みは泣くよりも見ていて辛かった。
「そして今思い返してみて、私が一番怖いのは、あの命令を下したことじゃない」
彼女の指先がかすかに震え、スカートの裾を——いや、今はスカートの裾ではない、帝国黒制服の過剰にすっきりとした裾を、そっと掴んだ。
「私が、何の躊躇もなかったことよ」
そう言って、彼女は低くすすり泣き始めた。
コントロールを失った大泣きではない。
本来ピンと張っていた糸が、ほんの少しだけ緩むことを許された場所で、ついに切れてしまったかのように。抑圧的で、自制的で、少し悔しそうにさえ見えた。泣くという行為すら、自分が普通の人間らしくできていないと感じているかのように。
私は一時、何と言えばいいかわからなくなった。
人を慰めることなど、元々私の専門ではない。
私が得意なのは、事態が爆発しそうな時に他人を一緒に狂気へ引きずり込み、ついでに誰が先に死ぬか笑い飛ばすことだ。自分の兄を吹き飛ばすよう命じ、今自分が「何も感じない」ことで人格が壊れているのではないかと疑い始めている帝国の第三皇女と向き合うこと——これは学生会副会長兼臨時副艦長の選択科目の範囲を超えている。
私は仕方なく、ハンカチを彼女に手渡した。
ヘートヴィヒは目を上げて私をちらりと見、それを受け取り、小声で「ありがとう」と言った。
そして、私は気づいた。
艦橋の全員が、こちらを見ている。
露骨にじろじろ見ているわけではない。
だが、「えええ皇女殿下が泣いてるのに星野副艦長が隣にいるんだけど今どうすればいいの」という盗み見の視線が、低出力のサーチライトのように四方八方から向けられていた。
特にジェスだ。
彼女のはもう盗み見のレベルではない。
今にも椅子を担いで私たちの隣に座り、ついでにお菓子の皿でも持って「お二人とも続けて、私はただ聞いてるだけだから」と言い出しかねない勢いだ。
何で私を見るのよ。
私が泣かせたわけじゃないのに。
それに、こんな時に私が皇女殿下の背中を適当に叩いたり、抱きしめたり、小説の男主人公が言いそうなことを言ったりしたら、振り向いた瞬間にジェスが絶対あの冷やかしの顔で、これを「アスガルド艦橋危険人間関係事件」として現場命名するに決まっている。
私が立っているべきか、しゃがむべきか、いっそその場で蒸発した方が自然かと考えた時、真紀が口を開いた。
「星野」
私は顔を上げた。
彼女は私を見て、ヘートヴィヒを一瞥し、極めて合理的で、ゴシップの価値が微塵もない職務命令を下すように冷静な口調で言った。
「あなた、先に殿下を部屋に送って休ませて」
「え?」
私は無意識に主座を振り返った。
「でも彼女が離れたら、船が止まったりしない?」
ヘートヴィヒはハンカチで目尻を押さえ、なんとまだ声を上げて笑う余裕があった。
「私がずっと主座にいなければならないのは、起動と特定の権限操作の時だけよ」
彼女は鼻をすすり、声には泣いた後の柔らかさがまだ残っていたが、すでにあの理不尽な優雅さを取り戻していた。
「もし飲食や排泄の時すら離れられないなら、これは主座じゃなくて、便器に改装すべきよ」
艦橋が一拍静まり返った。
そしてジェスが一番に吹き出した。
「ぶっ——黄金の便器!」
彼女はダメージコントロール席から滑り落ちそうになるほど笑い転げた。
この言葉の威力は凄まじく、さっきまで宇宙の法則を暗唱しているようだったアカリでさえ、明らかに半秒動きを止めた。ロイは顔を背けて低く咳払いをした。十中八九、突然艦橋の空気にアレルギーを起こしたふりをしているのだろう。蘭は口角を必死に抑え込んでいたが、その「本当に笑っちゃいけないんだけど、本当に面白すぎる」という表情がすでに彼女を裏切っていた。
ヘートヴィヒはジェスの方を向き、目尻はまだ少し赤かったが、笑顔は再び何事もなかったかのように美しくなっていた。
「想像力が豊かですね、ジェス」
彼女はゆっくりと言った。
「今度、あなたの家に便座を郵送するようにリマインドしてちょうだい」
今度は、艦橋全体が本当に爆笑の渦に包まれた。
私でさえ危うく腰を折って笑いそうになった。
その言葉が下品だからではない。
あまりにも的確すぎたからだ。さっきまでフライブルクの蒸発と第二皇子の死の影に押し潰されていた艦橋が、ついに合法的に生き返れる隙間を見つけたかのようだった。笑い声はあの大袈裟に豪華な穹頂の下で弾け、暗金の梁と星の海の窓面にぶつかり、そしてまた一人一人の胸の中へと落ちていった。
その瞬間になって初めて、私は突然、ありありと実感した——
私たちは生きている。
戦術マップ上の「本艦、戦闘能力維持」ではない。
レーダー報告の「当面敵艦なし」ではない。
ユグドラシルの、人を分解したくさせるような正確なアナウンスでもない。
本当に、生きているのだ。
帝国の第二皇子を蒸発させたばかりの艦橋で、黄金の便器の一言で声を出して笑えるほどに、生きている。
この生命力は、悪く言えば、ほとんど厚かましい。
だが今日のような日には、厚かましく生き残ることの方が、何よりも重要なのだ。
私はヘートヴィヒに向き直り、手を差し出した。
「行きましょう、殿下」
彼女は目を上げて私を見た。
私は少し考えてから、付け加えた。
「少なくとも、目で野次馬をしているこの連中からは離れましょう」
ジェスが即座に手を挙げた。
「副艦長、抗議します。こっちは心配してるのであって、野次馬じゃありません」
「まずはその口角を元に戻してから抗議しなさい」
「無理です。さっきの黄金の便器、本当に高級すぎました」
「黙って仕事しなさい」
真紀が平坦な一言を投げつけると、艦橋全体が即座に八割方大人しくなった。
残りの二割は、おそらくジェスが人生の楽しみのために永遠に残しておく違法建築だろうから、私も取り壊す気にはならなかった。
ヘートヴィヒは私の掌に手を乗せ、その力を借りて立ち上がった。
彼女の手は少し冷たかった。
私は何も言わず、無意識に握る力を少しだけ緩めた。彼女が立ち上がった後、真紀に向かってわずかに頷いた。真紀はごく淡い視線を返しただけだったが、その意味は明白だった——ここは彼女に任せて、ヘートヴィヒは先に休め、と。
私はふと思った。こういう、多くを語らずとも引き継ぎが完了する暗黙の了解は、本当に恐ろしい。
安心できるほどに恐ろしい。
そして、ほんの少しだけ羨ましいほどに。
「副艦長」
私が振り返る前に、真紀がまた呼び止めた。
「殿下を送ったら、戻ってきて会議よ」
私は振り返って彼女を見た。
「つまり、皇女を部屋に送るというご褒美みたいな任務すら、私には短い体験版しかないってこと?」
「艦長の副艦長に対する信頼と搾取が並行していると理解していいわ」
「なんて重い名誉かしら」
「ならしっかり背負いなさい」
彼女の口角がごく軽く動いた。
私は〇・一秒呆気に取られ、それからひどく情けないことに、自分の機嫌がその一瞬で少し宥められて良くなっていることに気づいた。
……本当に救いようがない。
九島真紀というのはおそらく、正式な褒め言葉を一つも口にしないのに、それでも人に「この人のためにもう少し命を張ってもいいか」と理不尽に思わせる、数少ないタイプの人間なのだ。
私はヘートヴィヒの手を引いて艦橋の出口へ向かって歩いた。背後には、再び稼働し始めた各席、再び静かになったが先ほどよりも完全なチームのようになったアスガルドの艦橋、そして相変わらず観景面の外に広がる、底なしに黒い宇宙があった。
さっきの一砲が、私たちと本来の修学旅行を、完全に二つの世界へと切り離してしまった。
そして今、私は自分の兄を殺すよう命じ、しかし自分が「何も感じない」ことで泣いた帝国の第三皇女を連れて、帝国で最も高価な神話の艦橋を歩いている。
……もし学校がまだこれを「修学旅行」にカウントする気なら、帰ったら私が自らの手で学生会に法改正を提案してやる。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




