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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
臨界の星穹:静音潜航
588/642

209.逃亡開始 1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

フライブルクが消滅した後、艦橋はまるで空気の塊をくり抜かれたかのように静まり返った。


音がないわけではない。


警報は鳴り続け、メインシステムは低く唸り、ロイの前の航行投影は軌道線を絶え間なく更新し、ジェスの側のダメージコントロール画面も相変わらず次々とデータを流している。


だがその瞬間、すべての音が遠くへ押しやられたように感じた。あまりにも遠く、自分の心臓が肋骨を不様に叩く音しか聞こえない。まるで、神様が人間の法則を紙くずのように丸めて捨てるのを、ただ見ているだけの傍観者のように。


……いや。


傍観者なわけがない。


あの砲を撃ったのは私だ。


「報告」


全員をその空白から最初に引き戻したのは、アカリだった。


彼女の声はピンと張り詰めていた。震えもなく、わざと低く押し殺すこともない。彼女が報告を続けられる限り、この船はまだ秩序の中にあると言わんばかりに。


「フライブルクのメインシグナル、消失。周辺の残留熱源は二次爆発を構成するには不十分。外周の追撃艦隊……停止しました」


私は目を上げてメイン投影を見た。


さっきまで悪犬のように噛み付いてきた帝国の追撃網が、本当に止まっていた。


撤退ではない。


停止だ。


獲物を分け食おうと群がっていた狼たちが、獲物が群れのリーダーを骨ごと影まで消し去るのを目の当たりにし、すべての本能が同じ一秒の間に結び目を作ってしまったかのように。


私は喉が少し乾いた。


「止まったの?」


「はい」


アカリは素早く外周の敵情マーカーを拡大した。肉薄していたいくつかの赤い点が明らかに秩序を失い、急旋回するもの、減速するもの、本来の包囲位置から完全に離脱するものもあった。


「外環警備艦、本艦の火力レベルを再確認中。港外砲台も射撃を一時停止。敵の通信量が急増し、指揮系統に混乱が生じています」


私は半秒沈黙した。


そして、極めて正直な結論を出した。


「正常ね。私が彼らの立場でも、今自分が見たのが本当に第二皇子が艦ごと蒸発した光景だったのか、まずは確認したくなるわ」


「訂正します」


ユグドラシルがのんびりと口を挟んだ。


「既存の観測データによれば、『蒸発』は通俗的な表現としては許容されますが、厳密には高密度の正反物質対消滅による瞬時の——」


「黙りなさい。今はあなたの科学講座の時間じゃないわ」


私は容赦なく遮った。


「了解しました」


AIは一秒間を置いた。


「ですが、もしご興味がおありでしたら、後ほど——」


「興味ない」


「承知いたしました」


……こいつ、本当に分解されたいらしい。


「星野」


真紀が淡々と私を呼んだ。


私は横を向いて彼女を見た。


彼女はまだ艦長席に座っていた。帝国黒制服の襟元と肩のラインが冷青色の戦術光に鋭く切り取られ、まるで一つの処刑儀式を進行し終え、今からとても教養豊かに次の儀式を引き受けようとしているかのようだった。


「集中して」


「してるわよ」


私は口ではそう返しつつ、手はすでに次の戦術マップを引き出していた。


彼女の言う通りだ。


今はまだ呆然としている時ではない。


フライブルクが消えたからといって、私たちが安全になったわけではない。


むしろ逆だ——今頃、帝国の港区全体が「艦を奪った学生の追跡」から「第二皇子暗殺、皇族特造艦逃亡、全員首を懸けてでも取り戻せ」へとアップグレードされているはずだ。


こんな時にその場に留まって自分の戦果を鑑賞するのは、墓穴の縁に立って自撮りするのと同じくらい賢い行為だ。


「艦長」


私は真紀を見た。


「追撃網は散らされたわけじゃない、再編成されているだけよ。あと一分、いや、三十秒も与えれば多すぎる」


「わかってる」


彼女は一度頷いた。その平穏な口調は、「会長」という言葉と「お願いだからこれからもずっと私の隣に立っていて」という言葉を同じ遺書に書き込みたくなるほどだった。


「だから今から、私が大まかな指示を出す。副艦長は細部を引き継いで」


「了解」


よし。


正式に交代で仕事に入る。


真紀は目を上げ、艦橋全体を見渡した。


「全艦、注意。第一種戦闘配置を維持。ロイ、最短の離脱軸を取り、港外砲台の交差射界からの離脱を優先。蘭、外部通信を封鎖、強制アクセスはすべて拒否。ジェス、主砲の熱負荷と艦体構造を確認。ハーヴィー、機関室で待機、短時間の超過推進に耐える準備を」


彼女の口調は早くない。


だが一言一言が落ちるたびに、誰かが鉄の釘で船全体を骨組みに打ち直していくようだった。


「副艦長」


彼女は最後に私を見た。


「私たちを外へ連れ出して」


……そのセリフは本当に反則だ。


華やかだからではない。


あまりにも理にかなった言い方で、彼女がこの仕事を私に任せるのが、ごく自然な取り決めであるかのように聞こえるからだ。


私は息を吸い込んだ。


「了解」


そして私は戦術マップを前方に展開した。宇宙港外縁の構造、残骸の分布、砲台の射線、敵艦の再集結予測ルートが、瞬時にメイン投影を埋め尽くした。


「ロイ、正規の離脱軸は通らないで」


私は左下で拡散している破片の雲を指差した。


そこはミュールハイムが激突して残した放熱板、砕けた装甲、半凝固の金属流が形成した残骸帯で、パルジファルで真っ二つにされたショプフハイムの乱雑な艦体ゴミも混ざっていた。言い換えれば、まともな人間なら誰でも汚い、乱雑だ、視界が悪いと嫌がるルートだ。


そして私は、そういうルートが大好きだ。


なぜなら、まともな軍人であればあるほど、まともでないものを嫌うからだ。


「残骸雲の後ろを通る。ミュールハイムとショプフハイムの死体を盾にして、砲台の視線を一部遮るのよ。アスガルドは大きすぎて隠しきれないけど、向こうの射角を不格好にすることはできる」


ロイは投影を見つめ、瞬時に目を輝かせた。


それは喜びではない。


退屈な航路に長年耐えてきた奴が、ついに狂っていて、正確で、手を下す価値のあるルートを見つけた時の顔だ。


「了解」


彼は両手で操舵環を押し込んだ。


アスガルドの巨大な艦体が、宇宙港の外縁で極めて微細な、しかし極めて理不尽な旋回を始めた。それは普通の船が持つべき機敏さではなく、ましてやこのサイズの怪物が取るべき姿勢ではない。


だがロイは、見事にそれをやってのけた。


私はいつも思う。この男は天賦の才があるか、あるいはニュートンを全く眼中に置いていないかのどちらかだと。


彼が今、帝国の黒制服を着て、帝国の皇族特造艦の舵を握り、私たちのために逃走していることを考えれば、後者もあながち不可能ではないと思える。


「右側三号砲台、追尾を再開!」


アカリが素早く報告した。


「左後方の港防駆逐艦二隻が起動、さらに四組の高速艇が外周から切り込んできます——彼女らは近づくのを恐れていますが、本艦を残骸帯から追い出そうとしています」


「いいわ、ようやく目が覚めたのね」


私は口角を歪めた。


「なら、もう一度寝かしつけてあげる」


「副艦長、夜中に叩き起こされた人みたいな口調ですよ」


ジェスが顔も上げずに言葉を返した。


彼女の目の前にあるダメージと熱負荷の画面は狂ったように跳ねているはずだが、それでも私に口答えする余裕があるということは、少なくとも彼女が笑えなくなるほど事態は悪化していないということだ。


「報告。主砲は冷却期間に入りました。トール・ハンマーは当面発射を推奨しません。ムスペルヘイムは低頻度のバースト射撃なら維持可能です。外装甲の微小表層の受熱は正常、本艦の現在の最大ダメージは依然として皆の常識です」


「常識は後で直せるわ」


私は即座に返した。


「まずはあの高速艇を直して」


「了解、御意のままに、副艦長閣下」


彼女のその「閣下」という言葉には、かなりからかうような響きがあった。


普段なら、「やめなさいよ、さっき肩をあんなに震わせてたくせに、よく真面目ぶれるわね」と言い返してやるところだ。


だが今は、この借りを戦後まで預けておくしかない。


「ヘカトンケイル、後方近接領域へ切り替え。フェンリル二組を散布、あの小動物たちを艦尾に近づけないで。ナグルファル、放出準備」


私の言葉が終わるか終わらないかのうちに、ヘートヴィヒがついに主座から口を開いた。


「ユグドラシル」


彼女の声は高くなく、普段よりもむしろ柔らかかった。


だがなぜか、艦橋の全員が無意識に少し静かになった。


「『ニフルヘイムの霧』予備プログラムを起動」


「確認しました。特殊光学迷彩、待機段階に入ります」


私は彼女を見た。


ヘートヴィヒは相変わらず背筋を伸ばし、権力の中枢の最も深い場所に座るのが天性のように似合う、あの優雅な姿を保っていた。だが今の彼女は、さっきよりも少し冷たく見えた。


崩壊した後の冷たさではない。


ビロードに包まれていたナイフを抜き、さらに深い場所に挿し直したような冷たさだ。


私は何か言おうとした。


例えば「大丈夫?」といったような無駄話を。


だがすぐに気づいた。そんな質問は、今持ち出すべきものではないと。


彼女の実の兄、より正確に言えば、さっき公共周波数で彼女の出自を汚い言葉で罵ったばかりの第二皇兄は、アスガルドの一撃によって宇宙から抹消されたのだ。


こんな時に「大丈夫?」などと聞くのは、クーデターの当事者に向かって今日の顔色はどうかと尋ねるようなものだ。


ヘートヴィヒは私の視線に気づき、わずかに顔を向けた。


「どうしました、星野さん?」


私は半拍止まった。


「……何でもないわ」


私は一瞬ためらったが、やはり本当に言いたかった言葉を口にした。


「ただ、あなたが今も私たちの側に立っていることを確認したかっただけ」


口に出してから、自分でも馬鹿げていると思った。


だが馬鹿げているとはいえ、今のこの船で、これ以上に重要な問題はない。


ヘートヴィヒは私を見つめ、不意に笑った。


さっき第二皇子に向けたような薄い笑いではない。


本当に少し柔らかさを帯びた、ほとんど温和な笑みだった。


「私はもう、ここに座っているじゃありませんか」


彼女は静かに言った。


「それに、さっき発射ボタンを押したのは私ではありません」


彼女は視線を前方の残骸雲へと戻した。


「だから今、私の兄を悼むことができるのは、私ではなく、あなたたちの敵です」


……よし。


もう十分だ。


この一言で十分だ。


私は彼女から目を逸らし、再び戦術マップに意識を集中させた。


「アカリ、あの高速艇の最短衝突時間を教えて」


「第一組、三十四秒。第二組、四十六秒」


彼女が指を滑らせると、数本の赤い線が即座にアスガルドの後半部に噛み付いた。


「右後方の駆逐艦が、私たちを破片の遮蔽から追い出そうとしています。それと——」


彼女は一拍置いた。


「港外の主砲台が、全力で撃つのをためらっています」


「港内の味方に当たるのを恐れているの?」


「フライブルクの二の舞になることも恐れているのでしょう」


彼女はきっぱりと言った。


私は危うく吹き出しそうになった。


素晴らしい。


皇子の命はやはり価値がある。たとえ彼が塵一つ残さず消え去ったとしても、残された政治的圧力は、私たちが数秒稼ぐのに十分役立っている。


「なら、最後まで利用させてもらうわ」


私は即座に命令を下した。


「蘭、さっきのフライブルクの最後の友軍識別コードの残留物に、偽のシグナルを一層被せて、右外側へ投げて。あっちにまだ友軍の反応が残っているんじゃないかと、彼ら自身に疑わせるのよ」


「了解」


蘭の操作は相変わらず簡潔だった。


彼女とロイは、それぞれ通信席と操舵席にいて、甘ったるいやり取りなど何一つないのに、なぜか非常に自然な同調感があった。彼女が偽の識別コードを右外側に放つとほぼ同時に、ロイはアスガルドを左下へと切り込ませ、より深い残骸帯へと潜り込んだ。二人のリズムは、まるで事前にリハーサルしていたかのように合っていた。


これがカップルの恐ろしいところだ。


普段は「へえ、仲がいいのね」と思う程度だ。


だが艦橋に上がると、それは仲がいいのではなく、二人用戦術の汚染だと気づく。


「偽シグナル投下完了。右側の港防艦隊に躊躇が見られます」


蘭が付け加えた。


「再識別を開始しました」


「よし」


真紀が再び命令を下した。


「全艦、短時間の超過推進に備えよ。ハーヴィー」


通信の向こうからすぐにハーヴィーの声が聞こえてきた。背景には、機関室特有の、いつでも爆発しそうだが実はまだ爆発していない低い轟音が混ざっていた。


「いるぞ」


「四基の炉を同期させて、この船が今すぐ記念碑にならないギリギリの限界を出して」


「安心できる言葉だな」


ハーヴィーはまずお決まりの文句を言い、それから語気を引き締め、簡潔に報告した。


「四基のヘリウム・水素駆動炉、同期完了。三号、四号炉の熱量がやや高いが、まだ制御ライン内だ。お前らに二十秒の美しい加速をくれてやる。二十秒後にもっと美しくなりたいなら、副艦長を機関室に呼んで俺と一緒に燃えてもらうしかないな」


「お断りよ」


私は即答した。


「私は上で人に口出しする方が向いてるわ。下で炉心と感情を語り合うのはごめんだから」


「残念だ」


ハーヴィーは言った。


「本当の火の気というやつを見せてやりたかったんだが」


「二人とも」


真紀が非常に冷静に割り込んできた。


「愛の語らいは後にして」


艦橋が一瞬、半秒静まり返った。


それからジェスが本当に声を出して笑った。


「艦長、今の言葉、主砲より危険ですよ」


「黙って仕事しなさい」


「了解」


これが私がジェスを好きな理由だ。


口は一番うるさいが、手は絶対に遅れない。


「副艦長」


アカリが突然私を呼んだ。


「高速艇がヘカトンケイルの射程に入りました」


私は目を細めた。


「撃て。右後方を優先的に掃討、艦尾に張り付かせるな」


次の瞬間、アスガルドの後半艦体の縁に細密な火光がリング状に灯った。


ヘカトンケイルは元々、人と道理を説くための兵器システムではない。対艦には小さすぎるかもしれないが、高速艇に対しては薄紙を嵐で打つようなものだ。最初に突っ込んできた帝国の高速艇の第一組は、第二段階の回避運動に完全に入る暇もなく、理不尽なほど高密度の近接防衛火網によって、燃え盛る破片の連なりへと引き裂かれた。


第二組は少し賢く、高度を上げてアスガルドの上方から噛み付こうとした。


「フェンリル」


私は言った。


ジェスが指を弾く。


二発の対空ミサイルが艦側から離脱し、冷血なまでに正確に高速艇の群れの真ん中へと潜り込み、眩い光球を炸裂させた。かっこいいドッグファイトも、悲壮な決死の突撃もない。


ただ一方的な技術格差が、勇気を残骸へと処理しただけだ。


「後方、一時的にクリア」


アカリが報告した。


「外環追撃艦隊は依然として再編中。港外主砲台は本艦の安定したロックオンを喪失」


「ニフルヘイムの霧、起動可能です」


ユグドラシルが平穏に補足した。


ヘートヴィヒはためらわなかった。


「起動」


その瞬間、メイン投影の外縁の星の光が、ごく細かく歪むのを私ははっきりと見た。


単なる透明化ではない。


アスガルドという船全体が、極めて薄く、極めて冷たく、ほとんど透明な霧に覆われたかのようだった。その霧は本物の霧ではなく、観測と判読をわずかに滑らせる歪みのような感覚だ。視覚的な輪郭はあり、熱源もあり、質量もある。だが瞬きをするたびに、船全体が宇宙そのものによって軽く半歩横へ押しのけられたように見えるのだ。


「特殊光学迷彩、正常に稼働中」


ユグドラシルが言った。


「今すぐの離脱を推奨します」


「艦長」


私は真紀を見た。


「今よ」


彼女はすぐには叫ばなかった。


まず私を一度見た。


その一瞥。


私の判断を確認し、命令全体の重さの半分を私の肩に押し付け、同時に——わかった、あなたが言うなら、行こう——と単に言っているような。


そして、彼女は口を開いた。


「アスガルド、全艦前進」


声は高くない。


だが刃が落ちるように清潔だった。


私が引き継ぐ。


「ロイ、全開。私たちを外へ連れ出して」


「了解」


ハーヴィーが同じ秒に怒鳴り返した。


「二十秒のカウントダウン開始! 帝国の金庫を丸ごと盗んだみたいに速く走れよ!」


「私たちは、まさにそれをやったのよ」


私が返し終えると、アスガルドは猛然と前へ飛び出した。


普通の意味での加速ではない。


安定した艦橋の床に立っているのに、胃だけが一瞬その場に置き去りにされるような、あの前推感だ。四基の主炉が艦体深部に蓄積された力を一気に解放し、黒い巨艦はもう誰とも理屈をこねる気はないとばかりに、残骸帯と迷彩の歪みを盾にして、帝国港区の最後の追撃網を真っ直ぐに引き裂いた。


メイン投影上の赤い識別フレームが次々と滑り落ちていく。


数隻が追いついてきた。


数本の砲線がかすめた。


新しい捕捉カーソルがいくつか、再び私たちに噛み付こうとしていた。


だが遅い。


すべてが半拍遅い。


そしてこのレベルの逃走において、半拍あれば、獲物から伝説へと変わるには十分だ。


「港外主砲の最大脅威エリアまで、十五秒」


アカリが報告した。


「十二」


「九」


「七」


私の手は、いつの間にか艦長席の横の手すりをきつく握りしめていた。


真紀は相変わらずしっかりと座っており、船全体の傾斜と推力でさえ、彼女の計画の一部であるかのようだった。その帝国黒制服を着た彼女には、荒唐無稽な説得力があった——彼女は元々ここに座るべき人間で、ただ帝国が運悪く彼女を自国に生まれさせなかっただけだ、と。


「三」


「二」


「一——」


アカリの声が止まった。


「本艦、帝国の第一追撃圏を離脱。港外主砲群、有効射界を喪失。外環追撃艦隊、ロックオン維持不能」


艦橋にはすぐに歓声が爆発しなかった。


みんなが喜んでいないわけではない。


その言葉が重すぎて、全員がそれを自分の頭に収めるのに一秒必要だったのだ。


——離脱した。


私たちは本当に、アスガルドを丸ごと帝国の口の中から奪い取ったのだ。


私はゆっくりと手を離し、指先が少し白くなるほど強く握っていたことに気づいた。


ジェスが最初に長い息を吐き出した。


「やったぁ」


彼女は背もたれに寄りかかり、声には死線を越えた後の疲労と、それでも一言言わずにはいられない楽しさが混じっていた。


「本艦の現在の最大ダメージ、ようやく『帝国の顔面の大破』に正式に変更できるわね」


ロイが低く笑ったが、手はまだ制御環から離れていなかった。


蘭の方もようやく肩の力を少し抜いたようだったが、口ぶりは相変わらず淡々としていた。


「訂正、通信システムにも損傷があります」


「どこが?」


私は振り返って尋ねた。


「さっき私が、もう一度首を絞めてやりたいくらい強く押しすぎたので」


……よし。


この船にはやはり、まともな人間は一人もいない。


私は思わず笑い出した。


そして、真紀が立ち上がった。


彼女が艦長席から立ち上がる動作は大きくなかったが、艦橋全体が再び自然に静まり返った。


「各席、警戒を維持」


彼女は言った。


「私たちは第一追撃圏を離脱しただけで、戦争から離脱したわけではないわ」


その言葉は冷水のように、上ずりそうになっていた感情を正確に押し戻した。


そうだ。


その通りだ。


私たちはまだ家に帰っていない。


安全だとすら言えない。


だが少なくとも——


少なくともこの一秒から、私たちは港に閉じ込められ、帝国軍に四方を塞がれた学生旅行団ではなくなった。


私たちはアスガルドを丸ごと奪い去り、ついでに帝国の第二皇子を宇宙の空白へと変えた武装逃亡者だ。


修学旅行は、正式に銀河級の事故へとアップグレードされた。


私が何かツッコミを入れようとした時、真紀が突然私の方を向いた。


「副艦長」


「はい」


「次の段階の離脱計画を立てて」


私は一拍呆気に取られた。


そして俯いて笑った。


「了解、艦長」


……仕方ない。


どうやら今日はまだ退勤できそうにない。

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