208.トール・ハンマー 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
「焼き抜いて」
その言葉が落ちるのと同時に、真紀が引き取った。
「副艦長、執行」
……よし。
さっきの一連の混乱——奪艦、開砲、AIに腹を立てて脳溢血になりかけた過程の中で、艦橋はすでに自然に役割を分担し終えていたらしい。
九島真紀が艦長。
私、星野シモが副艦長兼火器管制戦術長。
正直なところ、この配置は非常に合理的だ。
彼女は帝国の歴史書に出てくるような、高台に立って三文字で艦隊全体の生死を決める人間を担当する。私は彼女の隣に立って、すべての面倒と汚れ仕事と爆発しそうなものを処理する、不運な副官を担当する。
……待って、こう考えると私が損をしていないか?
「了解」
私はその場違いな不満を押し込み、指を火器管制確認キーに落とした。
「ムスペルヘイム、左舷前部一番、二番。ミュールハイムへ、連続攻撃。発射」
次の瞬間、アスガルドはついに本当の牙を見せることにしたようだった。
艦体左前方の二つの隠蔽式砲座が展開し、黒い装甲が花弁のように滑り開き、底部の深く青みがかった高温砲身が露わになった。粗暴な後座震動もなく、俗っぽい火光もない。ただ一瞬、二条の過剰に直線的で、過剰に清潔な赤白色の高熱光流が宇宙港外縁の闇を引き裂いた。
それは「光線」ではなかった。
どちらかといえば、溶けるほど怒り狂った神経が二本、敵艦の顔面に叩きつけられたようなものだった。
「ロイ、左舷微偏三度、空振りさせないで」
私は射界を見ながら叫んだ。
「とっくにやってる」
ロイは両手で操舵環を握り、声は今日天気がいいとでも言うように安定していた。
彼の帝国黒制服が冷青の戦闘光の中で薄い鉄色を反射し、連邦学生会の会計担当というより、帝国の冷血な提督のために道を切り開く、艦橋に元から居るべき若い操舵士官のように見えた。
……認めざるを得ないが、この黒制服は本当によく人を騙す。
さっきまで校外学習をしていた学生たちが着ているのに、「失礼、最初からこの船を接収しに来ました」という荒唐無稽な気勢を醸し出せている。
ロイの微調整の後、ムスペルヘイムの二条の射線がミュールハイムの左舷前中段に正確に噛み付いた。
一発目が装甲を剥ぐ。
二発目が底部のまだ完全に転向できていなかった推進連結環を直接焼き抜いた。
私はその無畏級帝国戦艦が、まるで脇腹を刺されたように艦体全体を激しく震わせ、次に左側の姿勢制御が突然自分の存在を忘れたかのように機能を失い、艦全体が収まりきらない怒りを抱えたまま横へと傾いていくのを見た。
「命中、ミュールハイム左舷主姿勢帯破断、前部散熱甲板溶穿!」
アカリの語速は速く、ガラスを切るナイフのように清潔だった。
「バランスを失っています……いいえ、持ちこたえられない。左舷角度が拡大し続けている!」
余分な叫び声もなく、場面が大きくなるほど声が上ずる癖もなかった。
それは良いことだ。
戦闘で最も怖いのは緊張ではない。誰かが緊張を全艦に向けて演じることだ。
ミュールハイムは強引に修正しようとしたが、あの一撃のダメージが深すぎた。左舷前段は骨を抜かれたように、艦全体が慌てて噴出した姿勢制御の尾焰の中で惨めに半回転し、続いて宇宙港外縁のまだ完全には離れていない軌道防壁に激突した。
即座の爆発はなかった。
そんな簡単に終わらせてやるわけにはいかない。
まず艦腹が凄惨な白熱の火痕を擦り付ける。
次に、まだ閉合できていなかった二次弾薬庫が、衝撃で引き起こされた連鎖震波によって内側から炸裂した。
ミュールハイム全体が、脊椎を断ち切られながらもまだ完全には死にきれない魚のように、真空の中で激しく痙攣し、それから後中段から乱れた火光を一列噴き出した。
「……あら」
私は思わず間の抜けた一音節を発した。
真紀は私の左前方に立ち、頭すら向けず、ただ淡々と一言尋ねた。
「十分?」
「帝国軍の士気という意味なら、たぶん足りないわ」
私はすでに素早く距離を取り始めているショプフハイムを見つめた。
「でもアスガルドが飾りのために奪われたわけじゃないと知らしめるという意味なら、十分よ」
「なら次」
彼女は穏やかに言った。まるで次の料理を出す時間だと提案しているかのように。
……まずい、この女が帝国黒制服を着てそういうことを言うと、本当に皇族の宴席で滅艦令を下す人間みたいに見える。
「ショプフハイムが変針! 艦首を引き上げ、前部主砲軸線で切り込もうとしています!」アカリがすぐに続いた。
メイン投影上で、二隻目のドレッドノート級戦艦はミュールハイムのように急いで圧してこず、より慎重で、より厄介な角度を選んでいた。斜め切り込みでアスガルドの前部射界を避けながら、同時に自分の主砲帯を私たちの左前方に直接噛ませられる位置へと持っていこうとしている。
「前の艦より賢いわね」
私は舌打ちした。
「前の艦より賢いだけで、表彰状をもらえるほどではないけれど」
「副艦長、右舷エネルギー調度の要請です」
ジェスの声が私の右後方から届いた。行政書類を整理しているかのように冷静だった。
私は彼女の方を一瞥した。
彼女も同じ帝国黒制服を着て、沈下式システム席に座り、指先が幾層もの投影インターフェースの間を素早く切り替えていた。彼女の仕事は美しいことを叫ぶことではなく、連邦の財政部門が集団失神しそうなこの怪物が、本当に戦闘が始まった時にエネルギーの分流ミスで高価なゴミに見えないようにすることだ。
「言って」
「ムスペルヘイムの連射を維持すると、本艦の左前砲列は七十二秒後に熱飽和に入ります。パルジファル発射シーケンスへの切り替えを推奨します。ヘカトンケイルとフェンリルで先に護衛弾幕を処理してください」
私は瞬いた。
よし。
これがジェスの好きなところだ。
彼女は「たぶんいけるかも」タイプではなく、「従わなければ七十二秒後に私たちは艦橋で一緒に恥をかく」タイプだ。チームワークに非常に役立ち、サボりには全く向かない。
「採用」
私は即座に切り替えた。
「ジェス、ショプフハイム前部反制予測を開いて。ヘカトンケイルを迎撃に転換、フェンリル二組を先行放出」
「切り替え完了」
彼女の指先が落ちると、艦体外層の近接防衛と反制モジュールが即座に稼働し始めた。
次の瞬間、ショプフハイムが先に撃ってきた。
今度は試探的な光線ではなく、帝国軍が「私は怒っている」と表現する時によく使う典型的な複合弾幕だ。数条の中出力光線とミサイル群が一緒に飛んできた。まるでミュールハイムが失った面目を全部私たちに補填しようとするかのように。
「ヘカトンケイル、迎撃開始」
ジェスが平坦に報告した。
艦体の縁に近接防衛の火線が一圈圈灯り、その密度はほとんど暴力的だった。
本来は航空機とミサイルを引き裂くための火網が、真空中で素早く、頭皮が粟立つほど細密な死の帷幕を織り成した。数発のフェンリルが前方へ先行して飛び出し、前方で大規模な妨害雲を炸裂させ、ショプフハイムの弾幕をばらばらに引き裂いた。
「空窓、二秒」
アカリが突然言った。
私は即座に顔を上げた。
彼女はすでにショプフハイムの姿勢シミュレーションをメイン画面の中央に拡大し、一本の赤い予測線が相手の艦腹下縁に沿って伸びていた。
「私たちの前部砲列を避けるために、下側の転角を大きく取っています。腹部副弾倉カバーが二秒以内に露出します」
彼女の声に余分な起伏は一切なかった。
「打つなら、今です」
この言葉が終わった瞬間、私は本当に微妙な感覚を覚えた。
「わあ、すごい」という大げさな感動ではない。
あの——そう、そこよ。この人が今立っている場所が、彼女が立つべき場所だ、という感覚。
アカリは主人公の威風を引き立てるために大声を上げに来たのではない。
彼女は「半秒遅れたら消える」チャンスを、正確に私の手の中に押し込みに来たのだ。
「ロイ、その二秒をくれ」
「三秒でもいい」
彼は顔も上げず、アスガルドは彼の手の中で、感情のない冷たい黒い巨大魚のように、ほとんど見えないほど微かに角度を変えた。
その一偏。
メイン投影上で、ショプフハイムの艦腹側下方の装甲の隙間が、本当に開いた。
「パルジファル、二発、間隔〇・八秒。目標、ショプフハイム腹部副弾倉。発射」
私は迷わず命令した。
「発射完了」
ジェスが報告した。
二発の対艦大型ミサイルがアスガルドの艦側ミサイル脊から前後に脱離した。映画のような誇張した尾焰はなく、ただ短く冷静な推進光だけがあった。帝国の予算でよく養われた二人の刺客が、静かに目標へ向かって飛んでいくようだった。
一発目が相手の腹部外装甲に命中し、内凹型の火光を炸裂させた。
二発目は一発目が引き裂いた破口に沿って、ほとんど理不尽なほど潜り込んだ。
次に起きたことは、ミュールハイムよりずっと手際よかった。
ショプフハイムはまず横転しなかった。壁にも激突しなかった。
彼女は内側から点火されたのだ。
艦腹全体がまず一度光った。
爆発ではなく、何か非常に不吉な、棺桶の中で誰かが火を点けているような光り方だった。
それから——
轟。
艦全体が中腹から前方へ直接吹き飛ばされた。
まだ維持しようとしていた艦首の角度が瞬時に制御不能となり、前部主砲陣列が連根抜きにされたかのように横へ弾き飛ばされ、次に二次誘爆が艦内から艦背へと追いかけ、そのドレッドノート級戦艦を強引に、まだ燃え続けている前半分と、自分が負けたことをまだ認めたくない後半分に爆散させた。
「命中。副弾倉誘爆、ショプフハイム構造断裂」
アカリは報告を終え、一拍置いてから、非常に正直に付け加えた。
「終わりました」
「見ればわかるわ」
私は言った。
そう言ってから、自分の手のひらが汗でびっしょりになっていることに気づいた。
当然のことだ。
私は生まれつき神話級特造艦の艦橋に立って、帝国の軍艦を標的艦として撃ち続けるのに向いた人間ではない。
ただ、圧力に首を絞められそうになった時に、逆に絞り返すのが比較的得意なだけだ。
そして今、二隻のドレッドノート級戦艦が——一隻は半分の骨を焼き断たれて廃艦となり、もう一隻は私にミサイルで腹の中から爆破された。
アスガルドの艦橋が、一瞬だけ静まり返った。
誰も仕事をしていないのではない。
全員が仕事をしていたが、その半秒の間に、全員が何かをはっきりと意識したようだった——
私たちは本当に勝った。
真紀は私を見なかった。
ただ艦長席の側面の指揮欄に手を置き、視線を真っ直ぐ三つ目の赤い識別フレームへと向けた。
フライブルク。
あの皇帝級戦闘巡洋艦は、最初から前の二隻のように焦って圧してくることはなかった。ずっと距離を保ち、仲間が切り刻まれるのを見ながらも本能を抑えられる獣のようだった。
こういう敵が最も厄介だ。
怒れないのではなく、いつ計算すべきかを知っているのだから。
「残り一隻、手強いわ」
私は低く言った。
「見ればわかる」
真紀は淡々と返した。
「だから二人で一緒に対処するのよ」
その「一緒に」は、ごく軽く言われた。
だが私には妙にはっきりと聞こえた。
まずい。
こういう時に同盟宣言みたいなことを突然言わないでほしい。私は忙しいし、心拍数が付き合って乱れる余裕がない。
私は咳払いをし、視線をメイン画面に戻した。
「ロイ、艦首をフライブルクの予測線に合わせて。最大正面は不要、主砲軸線をクリーンに保つだけでいい」
「了解」
「ジェス、トール・ハンマーのウォームアップ状態は?」
「メインシステムは待機済み。ただし ユグドラシルが最適配準のためさらに八秒待つよう推奨しています」
「あの子の推奨の口調がもう少し遅かったら、椅子を主機に投げつけてやりたいわ」
「椅子を支えてあげる」
真紀が平静に言った。
私は横を向いて彼女を見た。
彼女は笑っていなかった。
だからこそ、その言葉はかえって殺傷力が高かった。
……私は本当に終わりだ。
こんな時に会長が椅子を支えてAIを砲撃するのに付き合ってくれると言って少し嬉しくなるなんて、私の人生設計はかなり早い段階から狂っていたに違いない。
「フライブルクの主砲列が充電を開始」
アカリの声が再び割り込んだ。
「すぐに圧してこず、中距離の対峙を維持しています。まるで何かを待っているような……」
彼女の言葉が終わらないうちに。
乱暴に扉を蹴破るような通信割り込み音が、艦橋全体に突然差し込んだ。
接続要求ではない。
強制割り込みだ。
次の瞬間、怒りを押し殺し、テーブルを三枚ひっくり返した直後のような粗野な男の声が、艦橋全体に溢れた。
「アスガルド! 聞こえるか、この連邦の雑種どもが!」
その声の大きさに、私の眉間が引きつった。
これが標準的な帝国軍高級将校のコミュニケーション術というわけだ。
事態が掌握範囲を超えた時、まず音量と脾気を同時に最大にする。まるで十分に大きな声を出せば、事態が怖くなって自動的に正常に戻るとでも思っているかのように。
メイン投影の端に相手の識別情報が弾き出された。
——皇帝級戦闘巡洋艦、フライブルク。
「連邦の雑種」という四文字が艦橋全体に響き渡った時、私だけでなく全員が眉をひそめたのは確かだった。
私たちが普段の言葉遣いが上品だとは言わない。
正直なところ、奪艦から今まで、全員の頭の中を本当に流れていた悪態を逐一印刷したら、連邦の青少年には不適切な戦地語録が一冊仕上がるだろう。
問題は言えるかどうかではない。
問題は——誰も本当に公共周波数で市場の酔っ払いのように吐き散らかしたりしないことだ。
それは凶暴なのではない。
恥ずかしいのだ。
私はメイン投影の端にあるフライブルクの強制通信フレームを見つめ、一時的に帝国軍の軍紀教育に同情すら覚えた。苦労して制服の整った、立ち姿の美しい、死ぬ時も叙勲を受けるように死ぬ軍人を育て上げたのに、いざ肝心な時に最も高貴なはずの人間が先に口を開いて、路上の喧嘩現場を演じてしまうとは。
「通信を開きますか?」
蘭が通信席の傍らで尋ねた。
彼女の帝国黒制服は非常に整然としていた。肩線は真っ直ぐで、指先はすでに接続権限の上で止まり、一言を待っていた。
「ふん」
真紀は冷たく鼻を鳴らし、まつ毛一本上げることもなかった。
「まず吠えさせておいて、それから」
……笑える。
吠えさせておく。
彼女は本当に相手を獣として扱っている。
そして最悪なことに、この形容が正確すぎて反論できない。
強制通信の向こうで、フライブルクの艦長を自称し、ついでに何か偉大な存在も兼任しているその男は、真紀の期待を裏切らず、続く言葉が公共周波数上で精神状態を凌空崩壊させていくかのようだった。
もう面子を保つつもりがないなら、こちらも遠慮しない。
私は通信ボタンを押した。
「私たちを雑種と呼ぶの?」
私は全く丁寧にする気はなく、声をわざと平坦に保った。
「じゃあ、あなたはどんな近親交配から生まれた知恵遅れなの?」
艦橋が〇・五秒静まり返った。
それから潔絲の方から非常に怪しい音が聞こえた。
彼女は私に背を向けてシステム席に座っていたが、肩が明らかに一度、また一度と揺れていた。怖がっているのでも、被弾したのでも、操作ミスでもない。副艦長の一言で職業倫理を直接打ち砕かれた、何かが懸命に専門性を維持しようとしているがもう無理な、そういう反応だ。
よし。
少なくとも私にはまだ自分の人間を笑わせる能力がある。それは私の精神状態が戦闘艦橋によってまだ完全に平坦化されていないことを意味する。
通信の向こうが明らかに詰まった。
堂々たる皇帝級戦闘巡洋艦の強制通信を入れてきて、返ってきたのが助命でも狼狽でもなく義正詞厳の宣言でもなく、直接家系図へ向かう挨拶だとは、相手も想定していなかったのだろう。
やがて、その男の声がほとんど炸裂した。
「貴様は何者だ! 偉大なる本王子にこんな口を利く気か!」
王子。
この言葉が出た瞬間、ヘートヴィヒが席から立ち上がった。
立ち上がる動作は大きくなく、いつも通りの笑顔すら保っていた。だがその目の色は変わっていた。狼狽でも悲しみでもなく、ある種の複雑で冷たいもの。まるで誰かが、ずっと丁寧に包まれていた古い傷口を、突然また切り開いたかのようだった。
私は横を向いて彼女を見た。
「誰?」
「第二皇子、フェーゲライン」
ヘートヴィヒは非常に平静に答えた。
天気でも言うように、あるいは遅かれ早かれ腐ると最初からわかっていた食べ物について言うように。
「なるほど」
私は頷き、向こうの口調に対してより完全な理解を得た。
ある人間は皇子になったから傲慢なのではない。
これほどの傲慢さを持ちながら、たまたま十分に裕福な母親から生まれたから、宇宙全体が彼と一緒に我慢するしかないだけだ。
「お兄さんと話してみる?」
私は傍らの通信マイクをヘートヴィヒの方へ少しずらした。
彼女は私を見て、首を振った。
それから、笑った。
あの美しく、穏やかな、断られた相手さえ優しく扱われたと感じさせるような笑顔だった。だが口から出た言葉は、帝国の墓地から吹き抜けた風のように冷たかった。
「まだ獣の言葉は学んでいないので、遠慮しておくわ」
「ぷっ——」
潔絲の方からついに抑えきれない奇妙な音が漏れた。
彼女は即座に頭を下げ、データを確認しているふりをした。
だが、さらに明らかに揺れているその肩には、あまり説得力がなかった。
私も危うく吹き出しそうになった。
本当に素晴らしい。
帝国皇族の内紛という、本来なら血の歴史書に書き込まれるべき場面で、艦橋で最初に笑いを堪えきれなくなったのが潔絲だとは。
通信の向こうが一瞬沈黙した。
それから、フェーゲラインはついに自分の最も馴染んだ表現方法——つまり罵倒——を取り戻したようだった。
「わかったぞ、ヘートヴィヒのあの淫売が唆したんだろう!」
その言葉が出た瞬間、ヘートヴィヒの顔の笑みが少し薄れた。
消えたのではない。
冷えたのだ。
元々刃の上を覆っていた灯りが誰かに取り除かれ、刃だけが残ったように。
「ヘートヴィヒ、この側室腹の雑——」
通信が切れた。
斧で線を断ち切ったかのように、乾いた音と共に。
私は瞬いて、蘭を見下ろした。
彼女の手はまだ通信切断の上に死んでいた。指の関節が白くなるほど押さえていた。
これはどう見ても手が滑ったのではない。
どちらかといえば、全力の教養を使って、通信を切断するだけにとどめ、相手の周波数を焼き払うことをしなかった、という感じだった。
「申し訳ありません」
蘭は無表情に言った。
「手が滑りました」
艦橋の誰一人として彼女を責めなかった。
当然だ。
これを責められるとしたら、この船の全員がまず宇宙に向かって謝罪の列に並ぶべきだ。
ヘートヴィヒが改めて私を見た。
彼女の顔にはまたあの温柔で、ほとんど無害に見える笑みが戻っていた。だが今回は、その笑みの底に柔らかさのかけらも残っていないことが私にははっきりわかった。
「星野さん」
その声は軽く、茶会への招待のようにさえ聞こえた。
「無駄話は終わりましたね。開火しましょうか?」
……よし。
この言葉は今日の最も優雅な殺意ランキング上位三位に入る。
「了解」
私は深く息を吸い、注意力をメイン火器管制画面に引き戻した。
艦橋の全員がまだ帝国黒制服を着ていた。
ロイは操舵席でアスガルドの軸線を安定させ、潔絲はメインシステム、エネルギーフロー、武装制御を最適状態に再ロックし、アカリの方はフライブルクの航路、主砲充電リズム、相対距離を一層ずつメイン投影に積み上げた。
丸ごと奪った帝国の皇族特造艦一隻。
帝国軍服を着ながら、帝国の皇子を蒸発させようとしている艦橋一つ。
この光景を誰かが撮影したら、将来連邦の政治宣伝教材に入れられるだろう。タイトルは私が考えてあげる——
敵国の財産を優雅に自国の発言権に変える方法。
「艦首シールド閉鎖」
潔絲が報告した。
メイン投影上で、アスガルドの前方を覆っていた細密な防護紋様が潮のように収束して退いた。黒い長槍のような艦首が、深宇宙の中でより赤裸で、より危険な輪郭を露わにした。
「反応炉出力、限界安全値まで引き上げ」
「主砲射線クリア」
アカリが続いた。
「フライブルクは正面圧制姿勢を維持。回避していない」
「躱したくないのではない」
真紀がついに口を開いた。
彼女は艦長席に座り、帝国黒制服が戦闘艦橋全体とほとんど一体化していた。肩線と横顔だけが冷青の戦術光によって鋭い輪郭を切り出されていた。
「私たちが本当に撃つ気があるとは信じていないのよ」
この言葉が出た時、私はフェーゲラインが実は少し気の毒だと思った。
血統、順位、面子、そういうものばかりを見る場所に長くいると、非常に奇妙な錯覚が生まれる——
自分がその肩書きを持っている限り、世界は最後の瞬間に自分のために手を止めてくれるはずだ、という錯覚。
残念ながら。
この船の上で今最も価値のないものが、ちょうど皇族への畏敬だった。
私は主砲確認ハンドルに手を置いた。
トール・ハンマーの発射手順は普通の艦砲とは違う。
粗暴なカウントダウンもなく、人の血を沸かせるような騒々しさもない。逆に、それは過剰なほど静かだった。アスガルド全体が一緒に息を吸い、すべての高価で危険で神話化された力を、同じ一本の中軸に沿ってゆっくりと前方へ押し出していくかのように。
艦体の深部から低い共鳴が伝わってきた。
震動ではない。
どこかの巨大な神殿が暗闇の中で目を開けたような感じに近かった。
前方の砲門が順次展開した。
多層の装甲が両側に滑り開く様子は異様なほど優雅で、戦闘というより、ある種の盛大な儀式の序幕のようだった。だが私にはわかっていた。これが帝国の病だということを。人を存在ごと消し去る兵器であっても、彼らは芸術品のように仕上げることにこだわる。
「 ユグドラシル、主砲誘導」
「接続完了」
AIのゆったりとした声が響いた。
「『トール・ハンマー』射線校準完了。誘導光路安定。発射を推奨します」
「今回はずいぶん早いわね」
「今回はお聞きになったからです」
……よし。
戦闘中でも刺してくることを忘れない。
このAIの人格モジュールを設計した人間は、きっとスプーンで育てられた子供時代を送ったに違いない。
「真紀」
私は低く呼んだ。
彼女は前方を見たまま、振り返らなかった。
「命令を」
彼女は半秒沈黙した。
それから、艦橋全体を押さえつけるほど冷たいその声が、はっきりと落ちた。
「トール・ハンマー」
真紀が言った。
「発射」
「副艦長、執行」
私は小さく笑った。
「了解」
私の手が前へ押し下げられた。
本来、反物質そのものは肉眼で直接観賞するのに適したものではない。
透明で、不可視で、詩情もなく、人間が理解できる形もない。だからこそ、それが兵器に作り上げられた時に、誘導光を加える必要があった。照準のため、修正のため、そして操作者が少なくとも、自分が今放った一撃が、どの方向に向かって世界を切り開いたのかを知ることができるように。
だから私は見た。
アスガルドの艦橋から見て、異常な質量感を帯びた一条の光が、艦首の中軸に沿って真っ直ぐに射出された。
それは普通の明るさではなかった。
レーザーでも、プラズマでも、私が以前教科書や軍事演習の映像で見た「砲火」の何れでもなかった。
それはまるで、形を強引に与えられた破滅だった。
重く。真っ直ぐ。感情のないほど冷たく。
まるで宇宙のどこかに、本来人間が手に握るべきでない法則が存在していて、この瞬間アスガルドがそれを玉座から引き抜き、処刑の道具として使っているかのようだった。
フライブルクは完全な回避を完了する時間すらなかった。
相手の艦首がわずかに偏った時、誘導光はすでに彼女の中心線に激突していた。
次の瞬間、正反物質の対消滅が始まった。
豪快な火球はなかった。
だらだらとした連鎖爆発もなかった。
伝統的な意味での「一隻の船が沈む」時にあるべき、もがきも悲鳴もなかった。
フライブルクはただ——
消えた。
まず艦体の中央が消し去られた。
炸裂したのではなく、消し去られたのだ。まるで誰かが現実の一塊を持ち去ったかのように。
それからその空洞が急速に拡大し、艦体の有機物と無機物の構造が接触した瞬間に同時に蒸発した。金属、骨格、装甲、区画、火器管制、血肉、権力、血統、姓名、すべてが等しく、余地のない同じ終点へと引き込まれた。
光がついに通り抜けた後、かつてフライブルクがあった場所には、黒々とした虚無だけが残っていた。
残骸すら完全ではない。
爆発すら余分に感じられる。
まるで宇宙が嫌気さして、何かを消しゴムで拭い去ったかのような感覚だった。
艦橋全体が静まり返った。
勝利の歓声の前の停止ではない。
全員が少し時間を必要としていた。自分たちが今見たものを理解するための時間を。
私は口を開いた。
また閉じた。
また開いた。
最後にひどく情けないが、現場の雰囲気に完全に合致した感想を一言だけ絞り出した。
「……くそ」
誰も訂正しなかった。
おそらく全員の頭の中に最初に浮かんだ言葉も、同じレベルだったから。
私は虚無となったその場所を見つめ、喉がわずかに乾いた。
「私たち……」
私は一拍置いた。
「今、銀河帝国の第二皇子を、粉すら残らず消し飛ばしたの?」
潔絲はすぐには答えなかった。
彼女もまだ自分の世界観を処理中だったのだろう。
最後に、 ユグドラシルが非常に職業倫理高く口を開いた。
「訂正します」
それは平穏に言った。
「現場の残留質量の判断から、目標の残存量は『粉』と呼べる量には達していません」
私はゆっくりと頭を向け、まだ微かに光り続けているメイン投影を見た。
……このAI、いつか私の私怨で廃棄されることになるだろう。
艦橋がまず一秒間沈黙した。
次の一秒で、ロイが低く息を吸い込んだ。
その次の一秒で、潔絲はついに顔を手の甲に埋め、肩が不自然に揺れ始めた。
アカリは報告の姿勢を保とうとしていたが、「今は真剣な顔をすべきか」と「これはあまりにも度を越している」の間で明らかに引き裂かれていた。
蘭はまだ片手を通信制御の上に置いたまま、表情は普段より冷たかったが、奇妙な平静さがあった。まるで切断したのが通信の一本ではなく、運命の喉だったかのような。
真紀は艦長席に静かに座り、前方を見つめていた。
数秒後、彼女はようやく淡々と口を開いた。
「副艦長」
「はい」
「よくやった」
それだけだった。
誉め言葉が多すぎず、わざと抑えてもおらず、人を居心地悪くさせるような正式な表彰でもなかった。
だがこの三文字が、あまりにも平坦に言われたせいで、私の胸の中の何かが逆に余計に熱くなった。
本当に救いようがない。
私は今、帝国で最も高価な神話兵器を使って帝国の第二皇子を宇宙から削除したばかりなのに、今最も気が散る原因が、九島真紀の短い「よくやった」だとは。
口に出したら本当に恥ずかしい。
でもどうしようもない。
人間が生きていれば、反物質主砲より危険なものがいくつかある。
会長の称賛もその一つだ。
ヘートヴィヒが傍らに立ち、あの温柔でほとんど無害に見える笑みを再び浮かべた。
「これで、本当に後戻りできなくなったわね」
彼女はごく軽く言った。
私はその虚無を見つめ、ゆっくりと息を吐き出した。
「そうね」
後戻りできない。
アスガルドを宇宙港から出した時から、多くのことはすでに引き返せなかった。
だが今の一撃が終わって初めて、私はそれを本当に実感した。
私たちは逃げていたのではない。
時間稼ぎをしていたのでもない。
運がいいだけの奪艦劇を演じていたのでもない。
私たちは自らの手で、帝国皇族の一部を、皇帝級戦闘巡洋艦一隻と一緒に、宇宙から消し去ったのだ。
この後、連邦であれ帝国であれ、歴史書であれ指名手配書であれ、おそらく私たちを普通の学生として扱うことはないだろう。
そう思うと、私は思わず小さく笑った。
「真紀」
「ん?」
「帰ってから、校則違反の処分はたぶんもう重要じゃなくなったと思うわ」
彼女がようやく横を向いて私を見た。
「今頃気づいたの?」
「さっきは忙しかった」
「皇子に啖呵を切るのに忙しかったの? それとも彼を蒸発させるのに?」
「両方」
私は正直に答えた。
真紀の、冷静すぎるほど冷静なその目が私の顔に少し留まった。私がまだ正常に呼吸できているか、正常に思考できているか、この船を一緒に道連れにしない程度に正常な副艦長でいられるかを確認するかのように。
それから、彼女はごく軽く口角を上げた。
「なら続けましょう」
私も笑った。
「了解、艦長」
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




