208.トール・ハンマー 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
「両舷微速」
ロイの声は、何も起きていなかったかのように安定していた。
アスガルドの黒に近い青みがかった艦腹が、帝国軍宇宙港の鉄の閘門から一インチずつ滑り出ていくのを私が目で確認していなければ、彼が今、学園祭の展示艇を駐車場に入れているだけだと本気で思っていたかもしれない。
両側のモニターには、ようやく追いついた帝国軍の兵士たちが映っていた。
追いついたといっても、それは「自分の失職した人生を見上げるのに十分な距離まで追いついた」というだけのことだが。
レーザーライフルを構えて、すでに艦体の半分が宇宙に飛び出しているアスガルドに向かって乱射している者がいる。手持ちの無反動砲を持ち出した者さえいた。全長千三百五十メートルの皇族特造艦を、歩兵装備で思い直させようとしているかのように。
その光景を見ながら、私は帝国軍の教育もなかなか感動的だと思った。
少なくとも彼らは、「勝ち目がなくても忠誠を尽くして死ぬ」ということを最後まで体現しようとする。
ただし、反対側から見れば、その精神には時として別の名前をつけることができる。
——現実に対する最低限の敬意の欠如、と。
「星野」
真紀が口を開いた。声は刃を掠めるように冷たかった。
「あの羽虫を排除して」
「了解」
私の返答も速く、手も速かった。
ヘカトンケイルの制御インターフェースが目の前に展開し、艦体外縁に沿って冷青色の射界フレームが一列に灯る。本来は飛来するミサイルや機群を引き裂くために設計された近接防衛システムを、私はためらいなく対人制圧モードへと切り替えた。
正直に言えば、帝国の軍備の美学については以前から少し意見があった。
人を殺すための道具を、皇室の宝飾品や宗教的な聖遺物、あるいは触れることすら憚られる高価なコレクションのように仕上げてしまう。
だがこういう時には認めざるを得ない。「優雅さ」と「過剰な暴力」をここまで融合させられるのは、それはそれで病的なまでに実りある文明の成果だと。
私は軽く確認ボタンを押した。
次の瞬間、モニターの世界が無数の密集した精確な火線によって切り裂かれた。
その光景がどれほど凄惨だったかを詳述するつもりはない。
一つには今日は十分忙しく、戦地の詩人を兼業する余裕がないからだ。二つには、この距離でヘカトンケイルにロックされた人間は、基本的に参考にできる意見書を残してくれるほど完全な形では残らないからだ。
とにかく、効果は上々だった。
熱血と命令だけを頼りに突進してきた帝国の兵士たちは、頭から骨まで氷水を浴びせられたように、一瞬で動きを止めた。残った者たちは転がるようにして掩体の後ろへ退き、それ以上アスガルドの機嫌を人体で試そうとする者は誰もいなくなった。
「よろしい」
真紀は私の右側に立っていた。その口調は、カーテンを引いてくれるよう頼んだだけのように平坦だった。
艦橋の暗金と深青の光の中で、彼女の帝国軍装は異様なほど際立っていた。清潔で、反則に近いほどに。こんな時に「まずい、会長がこの格好で羽虫を排除と言うと、高級晩餐会の挨拶みたいに聞こえる」などと思っている自分の精神状態は、思っていたより頑強らしい。
この時点で、アスガルドはすでに艦体の半分が船渠を脱していた。前方には深宇宙、後方には帝国の怒号と警報。
私たちは逃げているのではない。
帝国が自ら作り上げた王冠を、その頭から強引に引き剥がしているのだ。
「艦長、左舷に艦影。帝国戦艦です」
アカリの澄んだ声が響いた。
艦長。
その言葉が落ちた瞬間、艦橋の誰一人として反論しなかった。
躊躇もなく、訂正もなく、「ちょっと待って、それは早すぎないか」という遠慮がちな沈黙もなかった。
ただ、受け入れた。
私の心の中で、まだふざけていた角が突然一秒間静まった。
アカリの手元の識別投影が素早く拡大され、三つの赤いマーカーが戦術ウィンドウに浮かび上がった。
「艦種照合完了。ドレッドノート級——ミュールハイム、ショプフハイム。もう一隻は皇帝級戦闘巡洋艦、フライブルク」
私はその三つの名前を見つめ、最初に頭に浮かんだのは危機感ではなく——帝国は本当に、自国の兵器を酔っ払った神話辞典のくじ引き結果のように命名するのが好きだという感想だった。
次の瞬間、その荒唐無稽な考えを押し込んだ。
「全員戦闘配置。全要員、直ちに戦闘位置へ」
私は息を吸い、声を安定させ、明確に命令した。
ほんの数時間前まで、私は連邦二年生の副会長だった。
今は帝国の皇族特造艦の艦橋に立ち、動く神話の奢侈品に向けて全艦戦闘配置を発令している。
……人生は本当に、段階的な進歩という概念を尊重していない。
「了解。全艦、赤色警報発令」
ジェスの指がコンソールの上で連続して落ちた。
次の瞬間、艦橋全体が動いた。
照明が暗くなるような小賢しい変化ではない。
空間全体が、高慢なまでに傲慢な巨獣が、ついに本当に人を噛む牙を見せようとしているかのように変わった。
元々の艦橋は、過剰なほど豪奢な観星の間だった。
巨大なアーチ型の観景面の前には安っぽい密集した制御台などなく、ただ黒曜石の中軸通路が一直線に伸びているだけだった。穹頂、柱列、暗金の紋様と星の海が一緒に広がり、空間全体を帝国皇族専用の宇宙サロンのように仕立てていた。それは「指揮室」ではなく、どこかの皇女がお茶を飲みながら幾つかの星系の生死を決めるような場所に近かった。
だが今は違う。
低く重い機構音と共に、艦橋のメインプラットフォームが緩やかに沈み始めた。観景面の外層に幾重にも重なる光盾の紋様が浮かび上がり、元々は開放的なほど傲慢だった星の海の視野が戦術情報によって覆われた。両側の壁体が割れ、柱列の内部に収納されていた全息投影モジュールが回転展開し、冷青色の光幕が一道一道と、祭司が掲げる経文のように、あるいは処刑台の縁に立てられた刃のように立ち上がった。
中軸通路に細い青白色の誘導線が灯り、両側の沈下式戦闘席がプラットフォームの再構成に合わせて層ごとに点灯していった。
暖かな金色の柔らかな光が退き、代わりに残ったのは、より冷たく、より薄く、より容赦のない光だった。
さっきまでそこが皇室の観星御座廳だったとすれば、今それは、帝国が最高の予算をかけて作り上げた殺戮の神殿だった。
私は中軸の先端に立ち、突然ひどく荒唐無稽な感覚を覚えた。
お金がある程度を超えると、「戦闘態勢に入る」こと自体が、権力のために用意された儀式のようになるらしい。
「……これはやりすぎでしょ」
私は思わず小声で言った。
「気に入らないの?」
真紀がちらりと私を見た。
「いいえ、ただ帝国がなぜ衰退するのか、少し理解できた気がしただけよ」
「集中して」
彼女は平坦に返した。だが口角がごく軽く動いたような気がした。
正直なところ、この瞬間を記録しておきたかった。
艦橋の変形ではない。九島真紀が赤色警報の下でも私の吐き捨てに反応できているという、この稀有な光景の方を。その価値は、特造艦一隻に劣らないかもしれない。
「ミュールハイムが砲撃!」
アカリの声が私を走神から引き戻した。
左舷のメイン投影に、高エネルギー光線の軌跡が闇を引き裂き、アスガルドへ向かって真っ直ぐ飛んでくる。
私はほとんど反射的に防御ページを引き出した。
「対光線システムはどこ? どこにある? 違う——普通こういう時はあるでしょう? シールド展開、反制幕、緊急偏向、何か——」
私は猛スピードでインターフェースを漁り、漁るほど悪態をつきたくなった。
ない。
ない。
まだない。
「星野?」
真紀の声にようやく一糸の緊張が滲んだ。
「対光線システムが見つからない——」
「直撃! 本艦、被弾!」
アカリの報告と衝撃がほぼ同時だった。
アスガルド全体が軽く一度震えた。
本当に一度だけ。
天地が揺れて杯が飛び散るような災害映画式の揺れではなく、誰かが神殿の外扉を礼儀知らずに一回叩いたが、神殿の側はそれを一瞥する気にもなれない、そんな感じだった。
私は半秒呆気に取られた。
もう半秒呆気に取られた。
それから俯いてパネルを見た。
警報の洪水はない。
区画の減圧もない。
火災も、亀裂も、隔壁の崩壊も、システムの赤字が乱れ飛ぶこともない。
まるで今の光線がただ、帝国から私たちへの、あまり成功しなかった感情表現だったかのように清潔だった。
「ダメージ報告?」
私は尋ねた。
「報告、ダメージなし」
ジェスが返した。その冷静さは、午後のお茶がまだ届いていないと報告しているかのようだった。
「……どういうこと?」
「本艦の外装甲はナノ再構成装甲『スヴァルトアルフヘイム』を採用しております」
ユグドラシル(ユグドラシル)のゆったりとした、安定した、殴りたくなるほど穏やかな声が艦橋に響いた。
「高い対光線・対実体弾打撃性能を有しております。先ほどの敵艦の攻撃は脅威閾値に達しなかったため、追加防御プログラムは発動しておりません」
私は前方の光幕に向き直り、血圧が文明社会では推奨されない揺れ方を始めた。
「言ってくれればよかったじゃない! 今本当に死ぬかと思ったわよ!」
「お聞きになっていなかったからです」
ユグドラシルが答えた。
語速は平穏。
語気も平穏。
平穏すぎて、それが故意かどうかを即座に証明するのが難しいほどに。
私は二秒間沈黙した。
……このAI、絶対に私と因縁があるでしょう?
いや、厳密に言えば、私たちが正式に協力し始めたのは今日が初めてのはずだ。
それでも初日の協力でここまで人を主機を外したくさせられるとは。帝国第七代人工補助知能システムの開発チームは、きっとその全員が穏やかな定年退職を迎えられなかった人たちに違いない。
「星野」
真紀が横を向いて私を見た。
その一瞥は重くなかった。だがどんな警告よりも効いた。
眉をひそめるでもなく、声を上げるでもなく、ただ簡単に思い出させてくれた——今はAIと口論している場合ではないと。
「集中して」
「……はい、はい」
私は飛び出しかけた意識を引き戻した。
それからもう一度メイン投影を見た。
左舷方向、ミュールハイム、ショプフハイム、フライブルクの艦影が徐々に展開している。赤い識別フレームが三本の釘のように、私の目の前にしっかりと打ち込まれていた。
今度は、手が慌てなかった。
主砲と副主砲の制御権限を手前に引き、射界、エネルギー、冷却、旋回角と交戦解算を一層ずつ展開させた。アスガルドの武装リストは美しすぎて、軍艦の装備というより、どこかの正気を失った皇族が神話の名録を手に武器局へ向かって「これを全部くれ」と言ったかのようだった。
トール・ハンマー。
ムスペルヘイム。
パルジファル。
フェンリル。
ヘカトンケイル。
ナグルファル。
よし。
贅沢で、誇張があって、危険で、値段が反感を覚えるほど高い。
今の私には非常に向いている。
「 ユグドラシル」
私はミュールハイムの艦影を見据え、ゆっくりと口を開いた。
「敵三艦の航路予測、装甲弱点、光線充電のリズム、それから本艦の最適発射解を全部よこして」
「了解」
今回は素早く答えた。
目の前にいる感情管理に課題のある臨時艦長が、戦闘後に本当に音声モジュールを引き抜きに来るかもしれないと、ようやく思い出したのかもしれない。
大量のデータが目の前に広がった。
数値、軌跡、敵艦の姿勢と予測線が互いに重なり合い、吐き気がするほど巨大な銀河神経図のようだった。だが奇妙なことに、私はこの圧迫の中でかえって冷静になっていった。
おそらく、選択肢がついに少なくなったからだ。
私たちにはもう後退の道がない。
「もう少し見てみよう」もない。
「話し合いの余地があるかもしれない」もない。
「援軍を待とう」もない。
私たちは帝国の皇族特造艦を奪い、宇宙港の扉を爆破し、その尊厳を踏みにじった。
次にやるべきことは、むしろ単純なほど清潔だ。
——勝つ。
真紀が私の隣に立っていた。
触れてもいないし、何も言い足しもしない。ただその肩のラインが私と並んで安定しており、最も吝嗇で最も頼もしい方法で告げていた——あなたが命令するなら、私はここに立っている、と。
その瞬間、胸の中で騒いでいた何かが沈んだ。
よし。
会長が暗黙のうちに私にこの船の艦長を続けさせてくれているなら、少しはそれらしく振る舞わなければ。
でないと恥ずかしい。
しかも彼女の前で恥をかく。
そのレベルは違う。死んだ後でも這い起きて記録を消したくなるような恥だ。
私は手を上げ、ムスペルヘイムの前部射界を左舷目標にロックした。
「トール・ハンマーはまだ動かさないで」
私は言った。
「あれは豪邸を手に入れて初日に主梁で刀を試す放蕩者のやることよ。まず副主砲で反応を測る」
「目標、ミュールハイム」
アカリがすぐに続いた。
「敵艦姿勢予測を適用済み」
「航路偏折修正完了」ロイが低く引き取った。「本艦左舷姿勢安定、射界を開ける」
「火器管制同期」ジェスが言った。
「真紀」
私は低く呼んだ。
彼女が見てきた。
「もし私が第一発を外したら、どうする?」
「まず場を持ちこたえさせる」
彼女は迷わず答えた。
私がその言葉に心拍が半拍乱れる前に、彼女はごく平静に追い打ちをかけた。
「それから打ち終わったら、あなたに請求書を出す」
……よし。
これが私の知っている九島真紀だ。
頼もしく、美しく、冷静で、ついでに精神的な圧迫兵器も兼ねている。
私は思わず小さく笑った。
「なら余計に外せないわね」
私は発射確認に手を置いた。
赤色警報の下、戦闘艦橋全体が目覚めかけの暗色の神殿のようだった。
冷青色の光幕が視野の縁に層をなして灯り、遠くの敵艦の輪郭がロックオンフレームに確実に噛まれている。アスガルドの艦首が帝国の船渠の影から完全に飛び出し、ついに鞘を抜いた黒い長槍のように見えた。
それから、私は静かに命令した。
「ムスペルヘイム、左舷前部一番、二番。あの追いつくのが遅くて、撃つのは速い連中を——」
私はミュールハイムを見て、口角をゆっくりと持ち上げた。
「焼き抜いて」
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




