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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
士官学校編
58/62

15. プロトタイプ  1

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

ドアが開いた瞬間、シュタイナー博士が消毒液と学術的災厄の匂いをまとって入ってきた。


白衣の折り目は一つも乱れていない。金縁眼鏡の奥の淡い青の目がまず俺をひと撫でし、それから床のアイスパック、机上のコップ、ベッドの端で俺が握りしめてぐしゃぐしゃにしたシーツを順に確認し、最後にレオの顔で止まる。


一秒にも満たない短い時間。


でもその一秒で、部屋の温度が二度は下がった。


「大佐」博士が口を開く。声は相変わらず、文明的で平坦だ。「状況は——」


「黙って処置しろ」レオが言った。


……おお。


夜明け前に大佐にボロボロのところを見られただけでも充分恥だったのに、次の瞬間には博士が真正面から遮られるのを見る羽目になるとは。聯邦上層部の内輪揉めは給料にはならないが、観賞用としては悪くない。


博士は半拍だけ動きを止めた。


驚いたわけじゃない。高精度の機械をいきなり素手で叩かれたとき、「この人物を故障要因に含めるべきか」計算している、そんな間だ。


結局、何も言わず、すぐにベッドの脇まで来て、携帯医療ケースを開いた。


「星野、こっちを見て」注射器を開封しながら問う。「動悸の頻度は? めまいの程度は? 吐き気、筋痙攣、四肢の冷感、感覚の過敏化はあるか?」


ベッドヘッドに背を預けたまま、喉はまだカラカラだ。


「ある。うざい。ある。少し。ある。全部まとめてそちらの『恥ずかしい症例集』に載せる価値あり」


「言語機能は正常。判断力も残存」博士は観察記録のように低く呟く。


「ありがとうございます。人間扱いしていただけて光栄です」


博士は相手にせず、指先を俺の首筋に当てて脈を取り、手のひらで額を触り、それからモニターに目を落とした。レオは俺が気づく前に指先センサーを装着していたらしい。本当にありがとう。俺の人生設計より、アフターサービスのほうがよくできている。


博士は数値を二秒ほど見つめ、眉間をほんの少しだけ動かした。


ああ、この表情は知っている。


——本気で計算を外したときの顔だ。


「交感神経の過剰興奮に、前庭系の不均衡が残存」低く言う。「単独薬剤の過量ではなく、相乗反応だ」


レオはベッド脇に立ち、氷室から出した言葉みたいに冷たい声で問う。


「聞いているのは、どの二本かだ」


博士がようやく顔を上げる。


その視線は薄く、冷たく、そして不本意さを帯びていたが、それでも口を開いた。


「短時間作用型疼痛フィルター『L-7』と、代謝ブースト微量剤『Helix-3』」


目を閉じて、頭の中でその二つの名前を書き留める。


結構。犯人には名前がある。この二本のせいで死んだら、墓碑銘はもう少し具体的に書いてもらえる。


博士は続ける。「L-7は一部の痛覚とストレス信号の判断層への到達を遅延させ、Helix-3は代謝と神経伝達効率を高める。本来の個別投与量は安全域内。しかし彼女は昨日、暴風シミュレーションを経ており、その前夜は不眠、今朝は高圧な面談の後という自律神経不安定な状態だった——」


「つまり、もともと縁の端にいた人間を、お前が一押しして外に落とした」レオがまとめる。


博士の口元がわずかに引き結ばれた。


「遅延発症の確率を過小評価した」


「過小評価ではない」レオは言う。「賭けに使っただけだ」


部屋の空気が一瞬で静まり返った。


高級な静寂だ。階級の高い二人が、上品な単語を選びながら、お互いの正気を疑っているときの静けさ。


ベッドの上で俺は、当事者であるにもかかわらず、どこか法廷の傍聴席で学術的殺人事件を聞いているような気分だった。


博士は透明な薬液を新しいシリンジに吸い上げながら、まだ平然とした声で続ける。


「特別運用科の適応訓練はすべて、本質的にはリスクの消失ではなく、リスクマネジメントです」


レオは薄く見据える。


「分かっている。問題は、お前の今日の『マネジメント』が、酔っ払いのギャンブラー並みだという点だ」


……おっと。


冷たいだけの男かと思っていたが、冷えすぎると毒も出るらしい。


博士の手が、初めて明確に止まった。


「大佐、申し上げますが、可用期間前の成形時間を短縮するには、ある程度リスクを——」


「まず彼女を安定状態に戻せ」レオはばっさり切る。「そのあとで『必要性』について議論しよう」


博士はレオを見て、その淡々とした青い目の中に、ごく薄い不快の亀裂を走らせたが、すぐに消した。


俺のほうを向き、いつもの不愉快なほどプロフェッショナルな声に戻る。


「星野、これから急性抑制を行う。冷たく感じる。眠気が来る。短時間の吐き気や脱力を伴う可能性がある。だが、今よりははるかにマシだ。安心しなさい」


彼の手にある針を見ながら、口角を引き上げる。


「博士、あなたが『安心しなさい』って言うたびに、遺書を書きたくなるんですが」


「それは、基本的な判断力が育っている証拠だ」


「まだ伸びしろがあるようで何よりです」


俺の腕をくるりと返し、静脈を探る手つきは、自分の手の内を知り尽くした機械を扱うように滑らかだ。針が刺さる瞬間、やはり反射的に身がすくむ。


冷たい。


ただの冷たさではない。非常にクリーンで、容赦のない冷たさが血管を伝って広がり、体内で暴れていた熱を区切りながら押し込めていく。


呼吸が一瞬止まり、肩が無意識に強張り、そのあとゆっくりと緩んでいく。


もう片方の手で、博士は頸部にパッチを貼り付ける。


「神経抑制パッチ。四十分後からピークダウンが始まる」低く説明する。「前庭安定補正を追加し、残留している方向感覚の乱れを抑える」


「それ、今説明してるのは、」掠れた声で言う。「俺を安心させるためですか? それとも、死ぬときに事情を分かったうえで死なせるためですか?」


「両立する」


……どうも。


ちっとも慰めにならない正直さは、嫌いじゃない。


二本目が入り、全身を包んでいた「どっちつかずの張り詰め」がようやく抜け始める。消えるわけではない。ただ、耳障りな火災警報がようやく止まり、煙はまだ残っているが、「次の瞬間いきなりショートしそうだ」という感覚からは遠ざかった。


ベッドヘッドに背中を預け、大きく息を吐く。


まだ少し頭はぼんやりしている。顔はまだ熱い。でも、自分を土に埋めたくなるようなあの情けない失調は、だいぶ後ろに下がっていった。


博士はモニターの数字を確認し、ようやく小さく頷く。


「下降している」


レオが横で、簡潔に尋ねる。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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