204.ノックなき訪問 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
ヘートヴィヒが去った後、真紀は添削し終えた演説原稿を整理し、机の隅に置いた。ページ順に問題がないことを確認してから、ようやく顔を上げて私を一瞥した。
「先に寝て」
「その言い方、医療スタッフが失血患者に言う口調とほとんど同じね」
「今のあなた、社交活動に放血されたばかりみたいに見えるから」
「ありがとう、九島らしい励ましだわ」
真紀は私を無視し、着替えを取って浴室へ入った。ドアが閉まって数秒も経たないうちに、細かな水音が聞こえてきた。規則正しく、静かで、彼女という人間そのものだ。シャワーを浴びることすら、効率が正常で手順が正確なメンテナンス作業を実行しているかのようだ。
私はベッドに横になり、片手を頭の後ろに敷いて、天井を見つめた。
眠れない。
それも別に意外ではない。晩餐会というのは、もともと人をリラックスさせる場所ではない。本質的には、照明、音楽、食器、綺麗な服で包まれた観察の場だ。全員が礼儀正しく笑いながら、目で計算している。誰が誰に近づいたか、誰が誰を避けたか、誰の間が半秒余分にあったか、誰の誘いが慣れすぎていたか、誰の手が半寸低かったか、誰の視線がきれいに止まらなかったか。すべて情報だ。ただ社交として包まれているだけで。
私は寝返りを打ち、横向きになり、今夜のことを頭の中で改めて広げた。
まず表面的なことから整理する。
レティシア女爵が消えた。普通の晩餐会の欠席ではない。南側の手配網がまとめて麻痺するほどの消え方だ。言い換えれば、彼女は飾りではなく、ノードだった。ノードが切れると、網全体が揺れる。
その下を整理する。
帝国側が本当に恐れているのは、連邦の圧力だけでも、私のようなどこから湧いて出たかわからない厄介な学生だけでもない。二人の皇子の警戒は、明らかにもっと深く、もっと大きい。エリザベート・フォン・ホーエンローエ、そしてホーエンツォレルン。
一人は帝后で、もう一つは直径百二十キロメートル、質量約六百兆トンの人工天体要塞だ。
普通の人間がこの規模を目にしたら、最初の反応は畏敬で、次の反応は人類は正気かという疑問だろう。だが帝国の皇族にとって、この二つは単なる力ではなく、正統性であり、象徴であり、権力の卓上を傾けるに足る物的証拠だ。つまり、ヘートヴィヒが本当に厄介なのは、彼女自身だけのことでは決してない。
彼女は鍵だ。
詩的な意味ではない。「彼女が誰かの心の扉を開く」といった安っぽい言い方ではなく、本当の意味での、政治的・軍事的な鍵だ。彼女を手に入れた者は、普段は開かない扉に触れられる可能性がある。その扉の向こうに何があるか――平和なのか、停戦なのか、軍権の移譲なのか、要塞の制御権なのか、あるいはもっと醜いものなのかは、鍵を持つ者が誰かによる。
問題は、ヘートヴィヒ自身もおそらくそれを知っているということだ。
そこまで考えたところで、私は腕を目の上に被せ、ため息をついた。
「平和のために」
あの言葉が彼女の口から出た時、一瞬だけ、本物のように聞こえた。
それが嫌なのだ。
もし彼女が標準的な帝国の皇女のテンプレートで、傲慢で、空虚で、美しい言葉しか言えないなら、ずっと楽だった。「危険な政治的飾り」に分類して、観察して、利用して、必要があれば切り捨てる。簡単で、すっきりしていて、感情を無駄にしない。
だがヘートヴィヒはそうではない。
あの巨大な自分の肖像画の隣に立って、「飾るなと言ったはずなのに」と小声で文句を言える人間だ。深夜に真紀を訪ねて演説原稿を直してもらいに来て、しかも本当に直してもらっている。誰かに殺されようとしていると聞いた時、顔に浮かんだのは驚きではなく、悲しみだった。
それは、彼女がすでに何かを知っていて、まだ話していないということを意味する。
そしてその「話さない」という態度は、計算のようには見えない。むしろ、彼女の背後に簡単には口にできない何かが一式あるような感じだ。こういう人間が一番厄介だ。純粋な敵とも見なせないし、かといって仲間と見なすのも怖い。あの最も消耗する中間線に置くしかない。「危険だが、今のところ死んでほしくない」という暫定分類に。
この分類は、我ながら格好がつかない。
私は腕を外し、天井を見つめながら考え続けた。
次は明日のことだ。
二年生全員が月面都市へ向かう。行程表は修学旅行のように見えるが、実際には丁寧に包装された行動路線図だ。午前中は武官府。午後は制服に着替えて、クラスの列に紛れ込み、まあまあ優秀な普通の学生のふりをして、連邦の学生に見せても安心な帝国文明の成果を見学しに行く。
あの「普通の人」さんのことを考えると、笑いそうになった。
外交体制というのは不思議なものだ。普通でない人間ほど、見た目が普通になる。あの方の顔は今思い出しても、コンビニの列に並んで缶コーヒーを買いながら、後輩にレシートをちゃんと受け取るよう注意するような平凡なサラリーマンにしか見えない。なのに三百着の制服の話をする時、口調は明日の弁当の数と味付けを確認するように落ち着いていた。
三百着。
しかも詳細は秘密で。
この手の発注が普通の世界に放り込まれたら、ある後方担当者を直接調査室に送り込む羽目になるだろう。だが今の状況では、ちょうどいい。本当に命取りになるのは数量ではなく、その服が最終的に誰に着られ、どんな時間、どんな場所、どんな照明の下に現れるかだからだ。
私は少し頭を傾け、部屋の隅を見た。
黒いスーツケースが静かにそこに立っていた。卓上ランプの届かない影の縁で、無害な旅人のように大人しくしている。
だが私は知っている。無害ではないと。
少なくとも、もうすぐ無害ではなくなる。
浴室の水音はまだ続いていた。真紀はまだ終わっていないらしい。私は視線を戻し、考え続けた。
もしヘートヴィヒが本当に鍵なら、今夜の「平和のために」という言葉は単純な理想論ではなく、ある種の方向宣言だ。だが平和という言葉は、厄介な言葉だ。誰でも口にできる。違いは、ある人が平和と言う時は死者を減らしたいからで、別の人が平和と言う時は反対する者を全員殺してから世界がようやく静かになったと宣言したいからだ。
ヘートヴィヒがどちらなのかは、まだ見えない。
ただ少なくとも、観光で連邦に来たわけではないことは確かだ。
彼女がここへ来ることは、ある意味で自分を人質リストに入れるようなものだ。それでも来たということは、安全に賭けたのではなく、必要性に賭けたということだ。この一件の意味が、自分を差し出すに値するほど大きいと判断したということだ。
となると、残る問いは二つだ。
一つ、彼女が本当に手に入れたいものは何か。
二つ、帝国側のどの人間が、この取引を潰そうとしているか。
そこまで考えた時、ベッドサイドの小型端末が不意に光った。
着信ではない。通知音もない。ただ抑制された白い光が、暗い部屋の中で灯った。まるで訓練された割り込み方のようだ。人の思考を遮るにも礼儀を忘れない。実に武官府らしい。
私は手を伸ばして端末を取り、一瞥した。
送信者の欄には名前がなく、わざと普通に見せたような識別コードだけがあった。
内容はさらに短い。
「貨物、準備完了。格納済み」
私はその一文を二秒間見つめ、それからごく軽く笑った。
早い。
あの方らしい。挨拶なし、説明なし、余分な保証なし。ただ、品物は揃った、場所に収めた、後はどう取り出してどう使うか、いつ蓋を開けるかは、そちらの仕事だと。
私は端末を置き、視線を再び隅のスーツケースへと移した。
部屋は静かで、浴室の水音がドア越しに聞こえてくる。別の、安定したリズムを持つ、ここと関係のない世界のようだ。だが私は知っていた。この瞬間から、今夜が本当に終わったとしても、明日はすでに始まっているのだと。
私はそのスーツケースを見つめ、口角がゆっくりと冷たく持ち上がった。
「では次は、帝国側の役者たちが、舞台に上がるかどうかを見せてもらおうか」
そう言ってから、私はスーツケースに向かって冷笑を一つ送った。
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翌朝、目が覚めて最初にしたことは、歯を磨くことでも、自分がまだ生きているかを確認することでもなかった。
端末を確認することだった。
私は寝返りを打ち、ベッドサイドから端末を手探りで取った。画面が点いた瞬間、昨夜よりもさらにまともでない笑みが浮かびそうになった。
さすが連邦情報部。
効率というものは、正しい人間の手に渡ると、世界が少しだけ絶望的でなく見えるようになる。昨夜、あの「普通の人」さんがどこまでやってくれるかと思っていたら、今朝起きた時には、最も退屈で最も安心できる方法で、必要なものをすべて揃えてくれていた。
余分な説明なし、自己賞賛なし、数文字だけ。
「貨物、準備完了。格納済み」
すっきりして、無駄がなく、官僚体制の顔面に一発叩き込んで、その官僚体制が心から「よくやった」と言わざるを得ないような仕上がりだ。
「何してるの?」
隣から真紀の声がした。起き抜けの、まだ完全に戦闘準備には入っていないが、すでに私に対して疑念を抱き始めている静けさを帯びた声だ。
私は振り向いた。
彼女は隣のベッドの端に座り、制服を半分着終えたところで袖口のボタンを留めていた。眉間のあの淡い訝しみは、訓練された尋問官のように精確だった。
「いやな笑い方をしてる」彼女は私を見て言った。「また何か良からぬことでも企んでいるの?」
私は端末を胸に押し当て、起き上がり、勲章でも受け取りに行くような厳かな口調で言った。
「心外ね。私は上から与えられた任務を懸命にこなしつつ、生徒会の業務も並行してこなしているのよ。こんなに辛抱強く、徳と才能を兼ね備えた優秀な学生を、『良からぬこと』なんて下品な言葉で表現しないでほしいわ」
真紀は二秒間私を見た。
その視線は、私を枕ごと窓から投げ出すかどうかを評価しているようだった。
「何か隠してるでしょ、シモ」
その呼び方で直接来られると、私は心の中でいつも一瞬だけ引っかかる。
後ろめたいからではない。もっと厄介な何かだ。
私は端末を脇に置き、顔を上げて彼女を見た。笑顔は無害そうに作った。
「まだ起きていないことを話すことはできないわ」
真紀はもう一度私を見た。
それから、一言だけ言った。
「わかった」
たった一言。
追及なし、尋問なし、「後で説明してもらうわよ」といった仲間意識に満ちた脅しもなし。ただそれを受け入れた。その線を、今は私が自分で処理するものとして残してくれた。
こういう信頼は、問い詰めるよりずっと対処しにくい。
私は突然、話したくなった。
スーツケースの中身は普通の修学旅行生が持ってくるようなものではないと言いたかった。武官府のあの過剰なほど普通な顔の方が用意してくれたのは、普通の人間の保身策ではないと言いたかった。今日もし帝国側の誰かが本当に最後まで演じ切るつもりなら、こちらも観客だけでいるつもりはないと言いたかった。
だが言葉が口まで来て、私は止まった。
真紀を信頼していないからではない。
信頼しているからこそ、今は言えない。
言葉というのは一度口に出すと、人を引きずり込む。真紀はすでに十分近くに立っている。その一歩まで省略して、直接私の予備計画の中に彼女を押し込みたくはない。
だから結局、私は俯いて、黒いスーツケースを引き寄せるだけにした。
車輪が絨毯の上を転がる音は、ごく軽かった。
立ち上がった時、胸の中の言えなかった謝罪が、熱湯のようにゆっくりと込み上げてきた。少し不快なほどに。
真紀にはおそらく気づかれていた。
それでも彼女は何も聞かなかった。
だから私はスーツケースを引きながら、平静を装った口調で言うしかなかった。
「行きましょう。今日は殿下の演説もある。帝国が少なくとも昼間くらいは文明的な生き物のふりをしてくれることを祈るわ」
「楽観的すぎるわ」真紀は言った。
「ありがとう、最近前向きな人間になろうと努力しているの」
「明らかに失敗してる」
「あなたの励ましは本当に温かいわね」
部屋を出る時、私はやはり振り返らずにはいられなかった。
そして心の中で、言えなかった謝罪に、静かに一本線を引いた。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




