201.張り詰めた糸 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
翌朝、私は極めて正確な時間に目を覚ました。
自分の体がヴァイスラン大佐と密かに奴隷契約でも結んでいるのではないかと疑いたくなるほどの正確さだ。残念ながら、私が認めたかろうとなかろうと、任務中の体内時計は人格よりも頼りになる。これも訓練の最大の副作用の一つだろう。怠けることも、疲れることも、心の中で上司を三百種類の違った形に罵倒することもできるが、起きるべき時間には必ず起きる。
顔を洗い、存在感の薄い外出着に着替える。学校の制服は着ないし、昨夜鏡の前で私を苦しめたあの偽装身分の皮にも触れない。今朝の最初の目的地は、武官府だ。あんな退屈な場所に制服の出番はない。間違えて着ていけば、葬儀に水着で行くような無礼にあたる。
コペルニクス月面都市の朝は、遮光シールドシステムによって人工的に明るくされる。
太陽が本当に昇るわけではない。
単に都市が「今は明るくすべき時間だ」と決定しただけだ。
こういう文明の進歩というやつは、世話焼きを自称する大人を思い出させる。いつ起きるべきか、いつ寝るべきかまで、お節介にも決めてくれようとする連中だ。唯一の違いは、シールドの方が人間より礼儀正しいことくらいか。少なくとも起床時に「あなたのためよ」などと余計な一言は添えてこない。
銀河連邦月面駐在武官府は、昼間に見ると昨夜よりもさらに巨大なファイルの束のように見えた。
四角く、清潔で、効率的。そして一切の娯楽性を排除した安全感。この手の建築の長所は人目を引かないことであり、短所は人に好かれないことだ。魂に申請書をホッチキスで打ち込んでくるような建物に、愛着など湧くはずもない。
中に入り、前日記憶した動線に従って、二重のセキュリティチェックと、永遠にコピー用紙の匂いがする廊下を抜ける。そして、さほど広くもなく、採光も良くないが、平凡な顔の男を配置するには打ってつけのオフィスのドアの前で立ち止まった。
ドアを叩く。
すぐに中から声がした。
「どうぞ」
ドアを押して中に入る。
男はやはり、あの様子だった。
平凡な顔。
真面目に平凡だ。
不細工でも個性的でもない。五分前に会っていても、十分後には目鼻立ちの配置を正確に思い出すのが困難なほどの平凡さだ。この顔を諜報活動に使ったら反則だろう。情報界はこの手の顔面に特別手当を支給すべきだ。
男は顔を上げて私を見ると、一瞬だけ呆気にとられ、それから昨夜の引き継ぎ資料、今朝のスケジュール、そして私の存在意義を頭の中で素早く照合し直したかのように、口を開いた。
「綾瀬さん」
「おはようございます」
私は椅子の前に立ち、すぐには座らなかった。
男は私をちらりと見た。今日私が月面都市の飲食文化について語り合いに来たわけではないと察したのだろう、公文書だか遺書だかわからない書類を手放した。
「補給が必要な項目はありますか」
単刀直入。
素晴らしい。
私はこういう人間が好きだ。愛想がいいからではない。自分がこの手の物語においてどういう機能を与えられているかを理解しているからだ。
「はい、ございます」と私は答えた。
男は机の上の電子パッドを自分の方へ向け、記録の準備をする。
「どうぞ」
私は彼を見据え、抑揚のない声で告げた。
「三百件、お願いいたします」
男のペン先が止まった。
「……三百件の、何でしょうか」
「あの品です」私は言った。「昨日お伝えした追加要件の分です。サイズ展開と規格は後ほど補足いたしますので、まずは数量の記録をお願いいたします」
男は顔を上げ、私を見た。敬意を抱くほどに平凡なその顔に、今日初めて感情らしきものが浮かんだ。驚愕ではない。困惑だ。極めて含みのある、極めて抑制された、極めてお役所的な困惑だ。要するに、「この要求はおかしいと思うが、上層部からは全力で協力しろと命じられているから、この困惑は呑み込んで、もっと上品な言葉で表現したほうがいいだろう」という顔である。
「かなりの数量ですね」と男は言った。
「承知しております」
「当初の概算を上回っています」
「それも承知しております」
彼は少し沈黙した。
「昨日の現場は、それほど深刻な状況だったのでしょうか」
私は彼を見た。ごく普通の質問のように聞こえるが、同時にある事実を露呈している。ヴァイスラン大佐が彼に与えた権限は、おそらく「全力で協力しろ」までであり、「何も聞くな」までは含まれていないのだ。当然だろう。大半のまともな人間にとって、開口一番に三百件を要求し、おまけに規格は一旦秘匿しろなどと言い出せば、月面都市で規模の大きすぎる学園祭でも開くつもりなのかと疑いたくなる。
残念ながら、今日の私は彼に多くを語る気になれなかった。
「深刻でないのなら、わたくしは今ここに立っておりません」
男は再び沈黙し、それから頷いた。
「わかりました」
よし。話が早い。
「それから」私は言葉を継いだ。「表向きの記録は、武器、弾薬、通信予備品、および一般後方支援物資の補充として処理してください。数量は分散させ、一箇所に集中させないようお願いいたします」
今度は即座に頷くことはなく、男は二秒ほど私を見た。その二秒は短いが、控えめな職業意識を感じ取るには十分だった。彼は全く分かっていないわけではない。ただ、普段はここまで分かっている必要がないだけだ。今、正式な報告書には書きにくい要求の束を机の上に置かれ、彼は行政的な直感と自己防衛本能だけを頼りに、将来内部監査が入ったときに心臓が止まらずに済むような形に包装し直さなければならないのだ。
「……承知しました」と男は言った。
私はここでようやく椅子に腰を下ろした。
「納品時期についてですが」
「今日の夕方までに、第一陣が到着します」男は記録しながら言った。「すべて揃うのは、遅くとも明日の昼になります」
「遅すぎます」
彼が顔を上げる。私は彼と視線を合わせ、声の調子を変えずに言った。
「今日の夜までに、少なくとも半数は揃えていただきます」
男の喉仏が微かに動いた。素晴らしい。これが単なる「学校行事の支援」ではないことに、ようやく気づき始めたようだ。
「善処します」
「善処ではなく、やり遂げてください」
言い終わってから、自分でも少し聞き覚えがある気がした。……くそ。こういう口調は、やはりヴァイスラン大佐のそばに長く居すぎると悪影響を受ける。
男も私のこの言葉に少し詰まったようだが、反論はせず、うつむいて最後の数行を記録し終えると、電子パッドを引っ込めた。
「他に何かご要望は」
私は少し考えた。
「はい。朝食を」
男が固まる。
「……朝食、ですか」
「こちらに用意はございますか」
「あるには、ありますが」
「では、お願いいたします」
男は私を見て、その表情に初めて空白に近いものが浮かんだ。彼が何を考えているかは大体わかる。「この綾瀬という女性は、つい先ほど人生の履歴書に書くべきか迷うような品を三百件も要求しておきながら、今は何事もなかったかのようにオフィスに座って朝食の有無を尋ねている」。この落差は、普通の行政職員にとって、たいてい精神衛生上よろしくない。
だが、これはヴァイスラン大佐のせいだ。昨日の通信で、彼の朝食に対する執着は一種の呪いに近いレベルに達していた。もし今、空腹のままクラスに紛れ込んだら、教室でうっかり教師に向かって敬礼してしまうかもしれない。あんな恥ずかしい場面は、冒険できない。
だから十分後、私は武官府の質素だが意外と本格的なダイニングテーブルに座り、「行政機関が自分たちにも生活能力があることを証明しようと努力した」ような食感の朝食を食べていた。同時に、あの平凡な顔の男がドアのそばに立ち、端末に向かって小声で今日の調達を手配しているのを眺めていた。見ているうちに、ふと彼のために黙祷を捧げたくなった。この男は自分の今日の仕事が、見習武官の学校行事支援に協力することだと思っていたのだろう。結果として、午前中が過ぎる頃には、彼の任務はこう変わっていた。「若々しい顔をしているのに、話し方がますます大佐に似てきた人間のために、帳簿上で表立って言えない三百件の要求を分割処理し、ついでに朝食を運ぶこと」。
人生とは厳しいものだ。
朝食を終え、立ち上がる。男もちょうど通話を終えたところだった。
「今日の昼前には、一旦生徒の隊列に戻ります」私は言った。「進展がありましたら、昨日の回線でご連絡を」
「承知しました」
歴史に見過ごされるのにぴったりな彼の平凡な顔を見ながら、私はふと、この男は実はかなり優秀なのではないかと思った。このレベルの物語の中で、何の特徴もなく生きていられること自体が、一種の才能なのだ。
「お疲れ様です」と私は言った。
男は一瞬呆気にとられた。私がそんな言葉を付け足すとは思っていなかったようだ。その後、彼はごく軽く頭を下げた。
「どういたしまして」
私は背を向け、オフィスを出た。
武官府を出る頃には、月面都市の白い光は朝よりも少し明るさを増していた。生徒たちの車列は昼前後に到着する予定だ。そして私がこれからやらなければならないことは、昨夜シャンパンを運んだことと比べても、ある意味でさらに疲れる作業だった。
戻って、学校の制服に着替えるのだ。そして、星野シモという存在を再び「ただの平凡な二年生」の形に折りたたみ、クラスに紛れ込む。スケジュール通りに進む、教育的意義に満ちた、表面上は平和な――実際には旅程表に「爆弾」と書かれていないだけの学校行事に参加するために。
……人間社会というのは、時として吐き気がするほど精巧にできている。
宿泊先に戻った後、武官府から持ち帰った細々とした資料と自分の荷物をしまい直し、学校の制服を取り出す。部屋に掛けられているその服は、いっそ無害にすら見えた。濃い色合い、端正、青春。大人を安心させ、宣伝用の写真を美しく見せ、生徒たちに自分たちにはまだ普通の日常があるのだと錯覚させるために特別にデザインされた、布の組み合わせ。
制服に袖を通す。鏡の中の人間は、たちまち数歳若返った。顔が変わったのではない。空気が変わったのだ。武官府、ホテル、貴族のスイートルーム、人工天体要塞。そういったものがすべてポケットの中に隠され、表面には修学旅行の年齢の女子生徒だけが残った。
……本当に便利だ。
そして、本当に吐き気がする。便利なのは、偽装が。吐き気がするのは、世界が本気でこんな偽装の存在を許容していることが。
襟元を整え、鏡の前に立ち、もう一度自分を見直す。今ヘートヴィヒを見ても、単なる面倒な同級生には見えないだろう。鍵が見える。ホーエンツォレルンが見える。帝后エリザベート・フォン・ホーエンローエが見える。第一皇子と第二皇子の両者が、喉から手が出るほど先手を取りたがっている理由が見える。未来のある日、あの巨大な人工天体がどちらに傾くか、さらには何人が生き残り、何人が死ぬかを決定づける可能性が見える。
そして昼には、私はこの制服を着て、その鍵と一緒に隊列に並び、教師の点呼を聞き、同級生の雑談を聞き、行事のブリーフィングを聞いて、自分がただの普通の学生であるかのように振る舞わなければならない。
普通なものか。
私は俯き、最後のボタンを留めた。
「……まあいい」
実年齢よりもずっと無害に見える鏡の中の自分に向かって、私は言った。
「授業の時間だ」
そして鞄を手に取り、ドアを押し開けて外に出た。
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月面都市、コペルニクス、宇宙港。
私がそこに着いたときには、修学旅行に参加する二年生たちはすでに到着していた。見渡す限り、濃い色の制服の群れだ。整然と、静かに、背筋を伸ばして立っている。まるで誰かが若い士官候補生の箱を宇宙港の床にぶちまけ、ついでに平らに均したかのようだ。その光景は実に壮観だった。この集団の中に、旅程表を戦術地図と見なす奴が何人いて、戦術地図を部活動だと見なす奴が何人いるかを知らなければの話だが。
私は少し離れた場所に立ち、数秒間観察した。
「……ん?」
おかしい。もう一度よく見て、何が欠けているのかを思い出した。
上院の連中がいない。それも当然か。上院の坊ちゃん嬢ちゃんたちが、教師すらろくに引率しておらず、妙に骨のある貧乏くさい規格の一泊二日の修学旅行になんて参加するはずがない。あの連中は今頃、豪華な船室に座り、人間よりも高価な上着を羽織って、名前からして私有の荘園の匂いがするような星系へ向けて飛び立ち、甲板で星の海に向かって「宇宙は本当に美しい」などと感想を述べているに違いない。
奴らは美しいと言う。その下で燃料を計算し、護衛を計算し、空域のリスクを計算している人間は、おそらく奴らをまとめて真空に放り込みたいと思っているだろう。
教師については……私は視線を人だかりの外周へと巡らせた。まともな大人は本当に数えるほどしか見当たらない。
「いい度胸してるな、学校側も」
私は小声で呟いた。生徒会と風紀委員会に丸投げで、一学年全員を放し飼いにするとは。普通の学校でこんなやり方をすれば、PTAの署名運動で校門まで焼き討ちにされるだろう。残念ながら、ここは普通の学校ではない。校則が動員令のように書かれており、制服の折り目が一般家庭の躾よりも厳しい場所なのだ。
そもそも、今回の修学旅行は最初から修学旅行らしくなかった。低コスト版の他拠点展開演習に近い。
私はもう一度、生徒たちを見た。悪くない。少なくとも表面上は、かなり軍人らしい。隊列は観光客の集団のように乱れていない。話し声も抑えられている。集合や移動の反応も遅くない。普段教室で座り方も立ち方もだらしない数名でさえ、学校を出て場所が変われば、それなりに格好がついている。この学校の最も恐ろしいところは、人をどれだけ優秀に育てるかではなく、「規律」というものを骨の髄まで叩き込み、校門を出る頃には歩き方から自然とそれが滲み出るようにしてしまう点だろう。
私がその場に立ち尽くし、客観的かつ辛辣に全校二年生の総合評価を下していたとき、遠くから、いくら聞き慣れていても公の場ではあまり関わりたくない声が、人混みを突き抜けて飛んできた。
「あっ! 見つけた! 見つけたよ、星野!」
……素晴らしい。ジェスだ。
顔を上げると、ジェスが手を振りながら、私が次の瞬間には再び月の裏側へ失踪してしまうのではないかと恐れるような勢いで、人混みの向こうから突進してくるのが見えた。ジェスの後ろには、真紀、D、ハーヴィー、ロイ、蘭、アカリも揃っている。ヘートヴィヒは少し後ろに立っており、相変わらず世界とあまり馴れ合いたくないという様子だった。
それもそうだ。世界が毎日自分を鍵として使おうと狙っているなら、馴れ合えないのも人情というものだ。
「あんた、一体どこ行ってたのよ」ジェスは私の目の前に着くや否や一息つき、すぐさま私を睨みつけた。「月面都市に標本として展示されちゃったのかと思ったじゃない」
「展示館にそんな低価値の収蔵品を置くスペースがあるかどうかが先だな」
「口答えできるってことは、壊れてないみたいね」ジェスは満足そうに診断を下した。
真紀はジェスのノリには付き合わず、まず頭の先からつま先まで私を観察した。その視線は普通の心配などではなく、極めて冷静な人体パーツの確認プロセスに近かった。右手と左手、肩と首、歩き方、視線、さらには私の呼吸が普段より少し早いかどうかまで、九島真紀はおそらくついでに記録したはずだ。
「平気、シモ?」
真紀は極めて平坦に尋ねた。その言葉に含まれている内容が、「昨夜はよく眠れたか」といった平和な時代の問いかけなどではないことは分かっている。真紀が聞いているのは、怪我はないか、素性はバレていないか、目をつけられていないか、自分でも収拾がつかないような事態を引き起こしていないか、ということだ。
「ああ、絶好調だ」
私も平坦に返した。
真紀は私を二秒ほど見つめ、その場では追及しなかった。素晴らしい。これが私が九島真紀を評価している点の一つだ。彼女は何も聞かないわけではない。ただ、大衆の面前で聞くべきではないタイミングをわきまえているのだ。
私は視線を逸らし、そばにいる長身と小柄な、まるで二種類の異なる災害警報のようにスタイルの違う二人組に目を向けた。
「お前たち二人は? 試合の結果はどうだった」
アカリは相変わらず、停電した部屋から出てきたばかりのような生気のない表情だった。だが今回、アカリはなんと私に向かって小さくピースサインを作ってみせた。他の人間がやればごく普通の動作でも、アカリがやると、火山が自ら安全を報告してくるに等しい効果がある。
「私、一位」アカリは天気を読み上げるような平坦な口調で言った。「射撃部主将」
「おめでとう」私は心から言った。
アカリはこくりと頷いた。ごく軽い動作だが、ピースサインの後に頷くなど、基本的には彼女の今日の機嫌がすこぶる良いと見なしていい。
「星野ォ、すまねえ!」
次の瞬間、Dの声が現場の音量を一気に引き上げた。あの黒い巨大な壁が――比喩ではない。Dは本当に、自ら謝罪してくる重装防盾のような見た目をしているのだ――涙目で飛びついてきた。母星を失陥したばかりのような悲痛な口調だ。
「あんなにデカい口叩いたのに、結局三位だった!」Dは胸を押さえ、ひどいショックを受けた様子だ。「一位と二位は完全にチートだろ!」
「Dのせいじゃないよ」アカリはごく自然に手を伸ばし、Dの頭を撫でた。口調は相変わらず起伏に欠けていたが、大型犬を宥めるような手つきは妙に手慣れていた。「上位二人は機械化手術を受けてた。一位なんて全身義体化だし」
「それ、もう競技じゃないだろ」
「人間の脳に機械義体の組み合わせは、根本的に無敵だからね」ハーヴィーが横で総括した。研究者特有の感慨が少し混じっている。「反応速度、安定性、そして修正速度だけで勝負するなら、Dが負けたのも無理はない」
「ハーヴィー、お前の慰め方は本当に安定して嫌な感じだな」ロイが横からツッコミを入れる。
「俺は正直なだけだ」
「正直と殴られたくなる案件は、時に紙一重だから」蘭が淡々と付け足した。
こいつらを見ていると、とても奇妙な気分になる。昨夜、私は帝国ホテルで、貴族や皇子派の連中がヘートヴィヒの背後にあるホーエンツォレルン要塞を巡って、熱湯をかけられた虫の群れのように騒ぎ立てるのを聞いていた。それが今、振り返ってみれば、ここでは射撃大会が義体化人間によって公平性を壊されたかどうかを議論しているのだ。
同じ宇宙。まったく異なる二種類の不条理。
「あんたは?」ジェスが顔を近づけてきた。「何かお土産は持って帰ってきたわけ?」
「ああ」
「マジで?」
「疲労と睡眠不足」
ジェスは即座に「チッ」と舌打ちをした。
「誰がそんなお土産いるのよ」
「それは良かった。私が独り占めしよう」
全員が軽く笑った。真紀の目にあった、あの張り詰めた検査官のような光も、少しだけ緩んだ。
そして、私の視線は不可避的に、後ろでずっと口を挟まずにいた人物へと落ちた。
ヘートヴィヒ。
制服を一糸乱れず着こなし、佇まいは清潔で、そこに立っている姿は、鞘にきちんと収められた細身の刃のようだ。最も眩しく輝くような美しさでもなく、最も愛嬌のある可愛らしさでもない。端から全員を心地よくさせるつもりなどない、そういう種類の精緻さ。彼女は歩み寄ってもこないし、ジェスのように大騒ぎもしないし、真紀のように私の四肢がまだ揃っているか直接確認することもしない。ヘートヴィヒはただ、私を見ていた。
ほんの一瞬、見ただけだ。
だが今の私にはわかる。それは単なる同級生の視線ではない。私の目には、ヘートヴィヒの背後にあるのは、もはや一つの名前だけではない。
エリザベート・フォン・ホーエンローエ。
ホーエンツォレルン。
そして、二人の皇子が修学旅行全体を屠殺場に変えてでも、先手を取りたがっている理由。
だから、その一瞥は、急激に重みを増した。
ヘートヴィヒは、私が見つめる時間が普段より半秒長いことに気づいたのだろう。眉間がわずかに動いた。
「何よ」
声は相変わらず冷ややかだ。
「いや」私はごく自然に視線を戻した。「お前がまだ生きているか確認しただけだ」
ジェスが吹き出す。ハーヴィーがそっぽを向く。蘭が片眉を上げる。ロイが「いかにも星野らしいセリフだ」という顔をする。真紀は笑わず、私がそう言うと最初から予測していたかのように、瞳の奥にわずかな呆れをよぎらせた。
そしてヘートヴィヒは――ヘートヴィヒは私を一秒見つめ、それからごく軽く鼻を鳴らした。
「それはご期待に添えなくて残念だったわね」
……ほう。
私はその場でこの皇女殿下に拍手を送りたくなった。口答えできる。結構なことだ。自分が鍵として扱われていると知って、不機嫌な顔をすることしかできないような人間ではないらしい。
「いや」私は言った。「お前が生きていると面倒だが、みんなのためにはその方がいい」
今度はヘートヴィヒが私を見る番だった。私が一体どこまで知っているのか、それとも単に私らしい奇妙な言い回しをしているだけなのかを判断しているようだ。結局彼女は何も言わず、ただ顎をわずかに上げ、視線を逸らした。
その動作はごく小さい。だが私にはわかる。ヘートヴィヒは、本気でその場を立ち去りたくなるほど不機嫌になったわけではない。
よし。どうやら今日は、宇宙港で皇女と同級生の公開決裂を演じずに済みそうだ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




