196.定期便 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
「やめ」
最初に口を開いたのは、ペンドルトン元帥だった。
手に常にパイプを持ち、苛立ちすら軍令のような重みを持つその老人は、まず薫を冷たく一瞥した。その目には失望がなかった。失望より傷つく何か――取り上げるまでもない、という感覚だけがあった。
「役立たずめ」
吐き捨てる声は、茶を卓に戻すような気軽さだった。振り返りもせず、もう一度見ることもなく、そのまま立ち去った。
統合作戦本部次長・蓮見圭介中将はその様子を見て、すぐについていくしかなかった。いつも水も漏らさない微笑みは、今は高級な公文書が急遽改版を迫られたようで、体裁は保っているが、明らかに急いでいた。
薫は床の上で半秒ほど静かにしてから、ゆっくりと起き上がった。
あの、肌が白すぎるほど白く、銀の短髪が耳に沿い、男とも女とも判断しにくい侍衛は、呼吸を整えてから、私に向かって端正に一礼した。それから無言でペンドルトン元帥の後を追った。
私はその場に立ったまま、その背中を見送り、しばらく複雑な気持ちだった。
……くそ。
なんで私が悪役みたいな気分になってるんだ。
呼び出されたのは私で、さっき解体されかけたのも私なのに、今の絵面では、私が訓練熱心で礼儀正しい素直な子を公衆の前でいじめたように見える。
この世界の道徳的視点は、どんどん私が生きにくい方向に進化している。
「わあ」ヴィスラン大佐が隣に立って、もっともらしく嘆いた。「次の予算、削られそうだな、うちの部署」
残念ながら、どう押さえても抑えきれない口元の笑みが、この一言の信憑性を装飾品レベルにまで削いでいた。
まだ痺れている手首を回しながら、白眼を剥いた。
「次は八百長試合なら先に言って」
ヴィスラン大佐が肩をすくめた。その表情は殴りたくなるほど飄々としていて、最初からこの結末を期待していたのではないかと疑いたくなる。
「まさか本当に勝つとは思わなかったよ」
「思ってなかったなら最悪ね」
「星野」彼は良心のかけらもない顔で笑った。「君のことは、ずっと買ってたよ」
「今の言い方、私が宣伝ポスターに使われそうな予感しかしない」
言い終えた瞬間、別の声が割り込んできた。
「なかなかやるじゃないか、お嬢さん」
九島征玄だった。
さっきまで人が臨時に午後の余興を加えるのを面白がって見ているような顔をしていた老人が、今は少し離れた場所に立ち、目に本物の真剣さを帯びていた。長老が子どもをあやすときの真剣さではなく、もっと実際的で、もっと値打ちがあり、もっと頭皮がぞわりとするものだ。
九島征玄はゆっくりと聞いた。
「自分がたった今、何に勝ったか、わかるかね?」
正直に首を振った。
わからない。
本当にわからない。
さっきは生き延びることで手一杯で、相手の製品カタログを作る余裕などなかった。
九島征玄は、この反応が当然だとでも言うように頷き、それから場を凍りつかせるのに十分な一言を、ごく平坦に落とした。
「たった今君が倒したのは、九島重工の最新型安全警衛だ。薫という」
一拍置いた。何かわずかに気まずいが、それでも自社の宣伝文句であることに変わりはないものを思い出すような間だった。
「会社のキャッチコピーは何だったかな。ああ、そうだ」九島征玄は言った。「『不敗』だ」
固まった。
頭の中が一秒間空白になり、それからひどく間の悪い企業危機意識がゆっくりと追いついてきた。
……ああ。
……ああ。
ああ、申し訳ない。
ほぼ反射的に頭を下げた。
「すみません、わざとではありません」
社交辞令ではない。
本当に少し焦った。
今のは単に侍衛一人に勝ったのではなく、政商軍の大物が揃った目の前で、九島重工の最新型、しかも「不敗」を自称する安全警衛をカーペットの上に引き倒したのだ。
これは喧嘩ではない。
公開での台無しだ。
しかも普通の台ではなく、大企業のハイエンド製品発表会レベルの台だ。
ところが九島征玄はまず一瞬目を丸くして、それから本当に笑い出した。
愛想笑いでも、長老が若者に向ける寛容な笑いでもない。本当に面白いと思っている、むしろこの展開の方が元の予定より値打ちがある、そういう笑い方だった。
「謝らなくていい」九島征玄は手を振った。「これの方がいい。改善の余地があるということだ、はっはっは」
……初めて、本物の大商人と普通の人間の精神構造は、本当に異なる文明の層にあるのかもしれないと、深く理解した。
普通の人間がこの状況に遭遇した場合の第一反応は、
うちの看板を潰してくれたな、だ。
九島征玄の第一反応は、
よし、どこを改良できるかわかった、だった。
これは心が広いのではない。
金が一定の水準を超えると、恥さえも投資の素材になるということだ。
予想通り、九島征玄は次の瞬間にはヴィスラン大佐の方へ向かっていた。
歩みは速くなかったが、確かで、雑談をしに行くのではなく、中型の予算案をついでに買い取りに行くような足取りだった。
「あなたたちのその計画とやらだが」九島征玄は単刀直入に言った。「必要なら、九島家が全額出資する。上を気にする必要はない」
私はその場に立ったまま、手はまだ少し痛く、頭もまだ動いていたが、それでもその一言に心の中で思わず唸った――
こういう投資の仕方を、初めて見た。
計画の内容、リスク評価、資金用途、戦略の方向性、回収サイクル、何も聞かない。
態度は大体こうだ。
金が要るか? 私は相当持っている。
この豪快さはもう「太っ腹」ではなく、会議の手順を踏み越えていける類の何かだ。
ヴィスラン大佐の顔の笑みがたちまち濃くなった。さっき私に散々言われた分が、この一瞬で元利ごと取り戻されたようだった。
私は傍らに立ちながら、今日の開幕式はここに来て、もう学校行事ではなくなったと思った。
外は儀仗隊、チアリーダー、校旗、歓声、青春と栄誉。
内は元帥の怒り、侍衛の敗北、企業総裁の現場追加投資、そして「不敗」という二文字を踏んでからもう一度値付けし直すという一幕。
本当に健全で前向きで、教育的意義に溢れた朝の校園風景だ。
もっとも、この大物たちも本当に長居はしなかった。
来るのが早く、風のようだった。
去るのも早く、また別の風のようだった。
ペンドルトン元帥は「この余興もやはり十分ではなかった」という不満を顔に貼ったまま立ち去り、蓮見圭介中将が影のようについていく。薫は無言で後に続いた。あの一礼の光景がまだ頭に残っていて、今もどこか微妙に良心が痛む。九島征玄はヴィスラン大佐と資金と計画の話をしながら、昼食にデザートを追加するかどうかを話すような軽い口調で出ていった。
あれほど政商軍が詰め込まれ、縮小版の戦略会議室のような空気だった貴賓室が、あっという間にまた空になった。
暖房はまだ吹いていた。
外の中継はまだ流れていた。
ガラスの向こうの試合は、賑やかに前へ進んでいた。
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すぐに貴賓室は静かになった。
「誰も喋らない」だけの静けさではない。
台風が通り過ぎた後のようだった。ドアも窓もまだあり、お茶も溢れておらず、床も行儀よく清潔なままだ。でも何かが吹き飛ばされて、今はまだ誰もそれを正式に指摘していない、そういう静けさだ。
さっきまで政商軍の大物で埋まっていた暖房室には、今は私と九島真紀、そしてヘートヴィヒ・フォン・ヴィッテルスバッハだけが残っていた。
ガラスの外の試合はまだ続いていた。
歓声もあった。
放送もあった。
中継スクリーンの分割画面は一コマずつ流れ続けていた。徒手格闘では誰かが投げ飛ばされ、障害長距離走では誰かが泥の縁でぎりぎり踏みとどまり、白兵武器格闘のコマではDが模擬ロボットに生命の脆さを非常に真剣に再教育し続けていた。精密射撃の数値は静かに、別の世界のように、冷たく上がっていた。
でもそれらの音は、ガラスを越え、空調を越え、今しがたの「接待プログラムとは言い難い接待プログラム」を越えて入ってきたせいで、全部ひどく遠くに聞こえた。
私はさっき即席の格闘場になりかけた空き地の端に立ち、自分の手を見下ろした。
指の関節が少し赤い。
手首にも、じわじわと体裁のよくない痛みが浮き上がってきた。
脇腹のあの一発はさらに確かで、今夜風呂に入ったとき、光栄な戦傷のカラーサンプルが一枚追加されるのではないかと疑った。
自分のこの有様が労災申請の対象になるか評価していたところで、真紀が口を開いた。
「接待の流れに余興を加えるのが得意ね」
声は平坦だった。
プリンターから吐き出されたばかりの、内容がどう見ても人を喜ばせない通知書のような平坦さだった。
顔を上げた。
真紀はその場に動かず立っていた。白金の学生会礼装は相変わらず真っ直ぐで、高いポニーテールには一本の乱れた毛もなく、さっきの臨時の試合がただの流れの中の取るに足らない挿話であったかのようだった。
私だけが知っている。
真紀の声が平坦であればあるほど、この件は彼女の中でまだ終わっていない。
「私だって望んでなかった」私は言った。「でもペンドルトン元帥は、『失礼ですが本日の私の担当は来賓のご案内のみで、ウォームアップの武闘は含まれておりません』という答えを受け入れる人に見えなかった」
「もっと拒絶らしく断れたはず」
「拒絶らしく断っていたら、今ごろ地面で転がっている私を接待することになってたと思う」
真紀が私を見た。
その目は淡かった。
淡くて、殺傷力があった。
「さっき一瞬、本当に倒れるふりをしようとしたでしょう」
半秒、黙った。
「……その正直な衝動に対して法的責任を負うつもりはない」
真紀が目を閉じた。
幅は小さかった。
でも見えた。それは呆れではなく、私のせいで具体的な形を持ち始めた何かを、彼女が押し込んでいる動作だった。
そのときヘートヴィヒが口を開いた。
「倒れていた方が、効果としては悪くなかったかもしれないけど」
振り向いた。
「あなたが私の味方をするの?」
「味方じゃない」ヘートヴィヒは静かな顔で言った。「政治的効果として推測しているだけ。現場で失態を演じた学生と、現場で元帥の侍衛を倒した学生では、波及の方向が違う」
「……学術的な慰め方をありがとう」
「慰めてない」
「わかってる」私は言った。「二人とも今日、なんで事実で人を殴るのが好きなの?」
ヘートヴィヒが静かに返した。
「あなたが今日、自分を使って人を殴りに行ったから」
その一言で、喉が詰まりそうになった。
正直、ヘートヴィヒが一番すごいと思うのは、冷たさではない。
ヘートヴィヒはいつも、非常に穏やかで、非常に理性的で、まったく個人的な感情を込めずに、一言を地面の中の鉄筋のように言う。こちらがぶつかって初めて、それがそこにあったとわかる。
咳払いをして、少し自分に有利な方向へ話を戻そうとした。
「でも、勝ったから」
真紀がすぐに受けた。
「それで?」
「……」
この「それで?」は危険だった。
単純な問い返しではない。
完全版は大体こうなる。
それで? 勝ったからといって、他に何も後がないと思ってるの?
それを言わせるのは得策ではないと判断した。
少し真顔に戻った。
「少なくとも、その場で二人の顔に泥を塗らなかった」
真紀の視線が私の顔の上で二秒止まった。
それから、真紀はゆっくりと言った。
「私が気にしてるのは、そんなことじゃない」
……これが厄介だった。
真紀が「手順を間違えた」「余計なことをした」「流れを乱した」と責めるなら、それは公務の話だ。
でも真紀が、手順の問題に持ち込めるのにわざとそこを迂回して、顔の問題ではないと言った瞬間――この帳簿は別の場所に記録され始める。
喉が少し乾いた。
ヘートヴィヒは体裁よく口を挟まなかった。
あるいは、ヘートヴィヒは沈黙が言葉より圧力になる瞬間をよく知っていた。
真紀が二歩前に出て、私の前で止まった。
近くも遠くもない距離。
公の場ではまだ合理的だが、「今は君だけを処理したい」とはっきり伝わる距離だ。
それから真紀は、私の右手を持ち上げた。
力を込めてでも、乱暴にでもなく。
ただごく自然に手首を支えて、表面に浮き上がってきた赤い痕を見た。
「……っ」私は非常に英雄的ではない声を正直に出した。
真紀の眉がすぐに少し下がった。
「今になって痛いの?」
「さっきは元帥の前で泣き言を言う場面じゃなかった」
「元帥だとわかってたのね」
「わかってたよ」私は言った。「しかも殴りたくなる顔だった」
「星野シモ」
「はい、黙ります」
真紀は私を無視して、親指でその赤い痕のそばを軽く押した。深さを確かめているようだった。
反射的に手を引こうとした。
痛みのせいではない。
主に、真紀という人間が、公務的な距離を保てる場面でこの程度の確認動作をしてきたとき、その殺傷力は叱責の二言より大きいからだ。
真紀は低く言った。
「ペンドルトン元帥が品定めをしたいなら、それは元帥の問題よ」
真紀の睫毛を見ていた。
近かった。
近すぎて、迂闊に返事もできなかった。
「でも、あなたは品物じゃない」
……終わった。
こういう言葉が真紀の口から出ると、普通の程度の厄介では済まない。
真紀が普段言うのは「先に順序を整えて」「わかってるのと実行できるのは別」「余計なことを言わないで」という、筋道が通っていて、境界線があって、判子を押すのに適した言葉たちだ。
それなのに今、真紀は私に言っている――
あなたは品物じゃない。
この一言は甘くさえない。
どちらかといえば、何か硬いものを直接私の手に置いて、さっきのことを彼女が舞台の演目として見て終わりにしたわけではないと告げているようだった。
すぐには返せなかった。
返せないのではなく、このタイミングで気の利いたことを言ったら天罰が当たっても仕方がないと思った。
真紀が顔を上げて私を見た。
「さっき負けていたら、ペンドルトン元帥は後始末をしない。ヴィスラン大佐もしない。それは彼らの仕事じゃないから」
ようやく自分の声を取り戻した。
「じゃあ、あなたがするの?」
真紀が少し止まった。
短かった。
でも、真紀が聞こえなかったのではないとわかった。今日、私をどのくらい楽にさせるかを決めているだけだ。
最後に真紀は言った。
「現場から連れ出す」
笑い出しそうになった。
真紀という人は、本当に厄介だ。
ここまで話を持ってきておいて、最後はやはり最も公務的で、最も抑制的で、最も甘みを与えることを拒む形で締めくくる。
でも、だからこそ余計に効く。
下を向いて、真紀がまだ離していない手を見た。
「さっき、少し怒ってた?」
「どう思う?」
「怒ってたと思う」
「今回の判断は正常だった」
「今回だけ?」
「今日は、とりあえずこの一回だけ」
笑いをこらえきれなかった。
この一言は、表向きは私を貶しているように聞こえる。
でも真紀がこういう局面でまだ私を貶せるということは、大体、事態はまだ制御可能な範囲にあるということだ。真紀が本当に貶すのをやめたとき、それが本当にまずい。
ヘートヴィヒがゆっくりと近づいてきた。
「九島真紀」ヘートヴィヒは言った。「星野シモの教育を続けるなら、先にドアを閉めることをお勧めする」
私と真紀が同時にヘートヴィヒを見た。
ヘートヴィヒは相変わらず冷淡で、金髪は整い、軍装は真っ直ぐで、ここで格闘があったのではなく、あまり理想的ではない流れのテストがあっただけのような顔をしていた。
「廊下にまだ人がいる」ヘートヴィヒが補足した。「今の距離感、外から見ると、暖房室の中で学生会長が問題学生を個別に尋問しているように見える」
真紀を見て、またヘートヴィヒを見た。
「まず、その表現のどこが間違ってるの?」
真紀がようやく私の手を離し、冷たく一瞥した。
「まだ冗談を言える余裕があるということは、手加減が足りなかった証拠ね」
「それ、かなり怖い発言だよ」
「覚えておいて」
言い返そうとしたとき、ヘートヴィヒがすでに視線をガラスの外の試合場へ向けていた。
「それと」ヘートヴィヒは言った。「精密射撃の方が第二回の校正に入る」
その一言で、部屋の中のひどく私的で、微妙で、公式記録に残すには不向きな空気が、ようやく誰かの指一本で元の位置に戻されたようだった。
私も窓の外を見た。
スクリーンの上で、数値は冷静に跳ね上がり続けていた。
射撃場はきれいで、静かで、別の宗教のように精密だった。
アカリの名前がその区画にあった。細い釘のように、初選全体の中で最も精度を必要とする場所に、静かに打ち込まれていた。
一つ息を吐いた。
「つまり二人の言いたいことは」私は言った。「さっき貴賓室のカーペットの上で解体されかけたこの件は、一旦記録に残して後で清算する、ということでいい?」
真紀はきっぱりと答えた。
「そう」
ヘートヴィヒはさらに穏やかだった。
「それと、かけた、ではない。あなたは本当にもう少しで負けていた」
「……温かい励ましをありがとう」
「どういたしまして」
二秒沈黙してから、仕方なくガラスの前に向き直った。
外の試合はまだ続いていた。
内の帳簿も、まだ清算されていなかった。
でも少なくとも今、私はまだ生きていて、手も動いて、真紀は怒ってはいるが私を回収不能として分類してはおらず、ヘートヴィヒも「厄介だが今のところ機能している」という目でしか私を見ていない。
言い換えれば――
今日はまだ、なんとか続けられそうだ。
今夜真紀に個別清算されるかどうか、あるいはヘートヴィヒが私を高リスク不安定要素として静かに評価し直しているかどうかは、それは今夜以降の話だ。
人間、絶望は段階を踏んでやるものだ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




