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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
士官学校編
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14. 遅延性薬品相互作用 4

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

レオが去ったあと、部屋は一気に静かになりすぎた。


その静けさは優しくはない。


外科手術が終わって、医者がメスをトレイに戻したあとで、やっと周りが「静かにしなきゃ」と思い出したような静けさだ。


洗面台の前に立ったまま、縁に手をついている。顎から落ちる水滴が、一定のリズムでシンクに当たる。鏡の中の顔は「軍指定・病弱サンプル」とラベルを貼られても文句は言えない白さで、目の下は青く、口元は引きつり、髪はめちゃくちゃで、どう見ても「訓練成果良好の将来有望株」には見えない。


どちらかといえば、壊れかけているのに、無理に再起動しようとしている安物デバイスだ。


数秒、自分を見つめ、それからうつむいて、深く息を吸い込む。


今崩れるわけにはいかない。


今崩れたら、ただの見苦しい。


それに、あと五十分で集合だ。


「さっき大佐にミリ単位で測られた結果、ちょっと情緒にノイズが入りまして」なんて理由で欠席願いを出すわけにはいかない。


もう一度、冷水を顔に浴びせる。


いい。冷たい。


神経の隙間に砕いた氷を押し込まれたみたいな冷たさだ。


人間というのは本当にしょうがなくて、体が十分冷えていれば、「まだ自分で自分を制御できる」と錯覚しやすくなる。


制服に袖を通すとき、指が一瞬だけ震えた。


目立ちはしない。


でもこれはただ寝不足なだけじゃないと、自分が一番よく分かっている。


昨夜の不眠、さっきの会話、それまで積み上がってきた訓練疲労が、骨の中に何層にも重なっている。声にして喚けるような痛みじゃない。もっと陰湿で、静かに内側で待機していて、俺が少しでも気を抜いた瞬間、全部まとめて崩れ落ちる類いのものだ。


最後のボタンを留めて、鏡に向かって口元を引き上げる。


「よし、星野霜」


鏡の中の顔色の悪い少女に言ってやる。


「今のところ、かろうじて立っていられる軍用品には見える。おめでとう」


鏡の中の奴は何も答えなかった。


礼儀知らずめ。


---


朝の整列場の風は、容赦がなかった。


ポエムに出てくるような朝風じゃない。


この星に吹く風は二種類しかない。「人を削ぎ落とす風」と「今から削ぎ落とす風」だ。


隊列に入ったとき、空はまだ灰色で、遠くの防風壁が巨大な墓石の列みたいに立ち並び、基地のタワーに灯る警告灯が点滅を繰り返している。星全体が「眠るふりをする気もない」と言っているようだ。


周りは一様に静かだった。


自律がどうこうじゃない。


まだ昨日のカリキュラムから帰還しきっていないだけだ。


肩を固定帯で巻いている奴、手の甲に医療パッチを貼っている奴、目の焦点が合わず、昨夜魂だけ宿舎に戻り損ねたみたいな奴。聯邦特戦キャンプの朝には、いつだって「大規模食肉処理ライン、始業五分前」のようなプロの静けさがある。


重心を落として、昨夜一晩中、記憶とレスリングしていたことがバレないように、できる限り普通の顔を保つ。


残念ながら、カールは一目見ただけで口を開いた。


「寝てないな」


……素晴らしい。


今日は何だ、《高級幹部と化け物教官による・星野のボロボロ具合観察会》の開催日か。


表情を変えず、前を向いたまま答える。


「報告。寝ました、教官」


カールの義眼の赤い光が一瞬だけ閃いた。


「嘘のテンポが、昨日のお前のパンチより悪いな」


「それはそれは、ご期待に添えず申し訳ありません」と返そうとしたが、その前に、隊列の端から別の声が割り込んできた。


「今日は、彼女はこちらで預かる」


ハインリヒ・フォン・シュタイナー博士が、病的なまでに白い白衣を纏い、灰色の朝の光の中をゆっくり歩いてくる。金縁の丸眼鏡の奥の淡い青の目は、計算し尽くされた氷片のように冷たい。胸ポケットから下がる銀の懐中時計の鎖が歩調に合わせて微かに揺れている。その姿は、礼儀正しく、上品で、だが完璧な手際で人間を解体しまた組み立てる悪夢そのものだった。


カールが博士を一瞥する。


「午前は格闘訓練のカリキュラムだ」


「把握している」博士は朝食のメニューを読み上げるような軽さで言う。「今日も神経反射を完全に保ちたいなら、先に私に預けてもらおう」


カールはそれ以上何も言わなかった。


俺はその場に立ったまま、二人の専門家に引き渡される危険物サンプルみたいな気分だった。


光栄な話だ。


他の十四歳の女の子は制服のスカートの長さで悩んでいる時間に、


俺は神経反射のメンテナンスを予定されている。


---


第一特別運用科の医療訓練区は、朝見ると夜以上に「人間のための場所」には見えなかった。


照明は白すぎ、機材は眩しすぎ、金属と消毒薬の匂いが混じり合い、不安になるほど清潔だ。ここは医務室というより、「生命への配慮」という四文字を化学薬品で洗い落とした後に残る、純粋な技術空間だ。


博士は俺を連れて二重の気密扉を抜け、最後に半透明の個室の前で止まる。


中には固定椅子が一つ、生体モニタラック一つ、そして見ただけで引っ越しを考えたくなる注射器の列がある。


俺はドアの前で二秒ほど黙った。


「今からカールのところに戻って殴り合いに参加したら、まだ間に合います?」


博士が振り返る。


「間に合わない」


「残念です」


「そうですか?」


「嘘です」


博士は俺の強がりをスルーし、手で座るよう指示した。


「今日は疼痛管理と薬物適応の第一回統合課です」端末を調整しながら、淡々と、まったく淡々と話してはいけない内容を述べていく。「理論上、兵士の崩壊は致命傷から始まることは少なく、多くは痛み、めまい、恐慌、呼吸リズムの乱れ、判断の遅滞から始まる。つまり——」


彼は目を上げて俺を見る。


「最初に学ぶべきは、自分の体に裏切られない方法だ」


椅子に腰を下ろす。背中が冷たい硬質の背もたれに触れた瞬間、ろくでもない予感がした。


「質問してもいいですか」


「どうぞ」


「自分の体はもう聯邦に裏切られてる気がするんですが、この授業、まだ間に合います?」


博士は眼鏡を指で押し上げた。


「興味深い修辞だ」彼は言う。「では始めよう」


次の瞬間、両側から金属の留め具が「カチリ」と音を立てて閉まり、手首と上腕が固定された。


見下ろす。


「……これが『始める』?」


「学習過程で非効率な抵抗を行わないための措置だ」


「人を縛るのを、よくそんなに授業の補助器具みたいに言えますね」


「ありがとうございます」


……礼を言うなよ。


「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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