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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
士官学校編
55/66

14. 遅延性薬品相互作用 3

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

ドアチャイムが鳴ったとき、俺はまだ眠れていなかった。


正確に言えば、ただ体を平らにして、不眠と穏やかに共存しているふりをしていただけだ。


ここが普通の学校の寮なら、思春期の少女の憂鬱として包装できたかもしれない。


残念ながらここは聯邦特戦キャンプだ。


今の俺の状態は、殴られて変形したまま修理に出せていない軍用品に近い。


壁の時計は〇四三七を示していた。


上出来だ。


この時間にチャイムを鳴らしに来るのは、狂人か上校のどちらかだ。


ベッドから起き上がると、肩と肋骨が連名で抗議した。昨夜アイスパックを当てた箇所が、今は鈍い熱い痛みに変わっている。小型の鉄板を何枚か肉の中に押し込まれたみたいだ。


チャイムがもう一度鳴った。


短く、乾いていて、「お休みのところ失礼します」という気配が一ミリもない。


床を踏んで歩いていき、開錠ボタンに手を当てる前に、一度自分を見下ろした。


訓練用のショートトップ、外套を無造作に羽織っただけ、髪は乱れ、顔色は白い。どう見ても雑誌の表紙に使えない状態だ。


まあ、考えてみれば当然だ。


夜中の四時過ぎに身だしなみを気にしているのは軍人じゃなくて、精神科のケースだ。


ドアが開いた。


レオが外に立っていた。


軍装は一分の乱れもなく、ボタンは全部閉まっていて、肩のラインまで定規で引いたみたいだ。廊下の冷たい照明の下でその顔はさらに温度を失い、灰青色の目が俺の上を一度流れた。まだ分類されていない刃物をスキャンするような目だ。


俺はドア枠に手をかけて、彼を見た。


「大佐、普通の人間はこの時間に寝ているってご存知ですか」


レオは一秒、俺を見た。


「眠れていないな」


……本当に嫌な男だ。


無駄話まで尋問調書みたいに言う。


俺は口元を引き上げた。


「わあ、バレましたか。正直者に小さなバッジでも授与していただけます?」


彼は俺の軽口を受け流して、静かに言った。


「入っていいか」


本当は駄目と言いたかった。


ここは十四歳の少女の個人空間なので、長官には人権と基本的礼節を尊重していただきたい、とでも続けたかった。


でもここは聯邦特戦キャンプで、童話の森じゃない。


上校が直接ドアの前に来て「入っていいか」と聞いてくれるだけで、すでに十分お行儀がいい。


「どうぞ」俺は一歩脇に退いた。「どうせこの部屋は俺のものじゃない」


レオが入ってきて、視線が自然に部屋を一周した。


ベッドサイドに開いたままの医療セット、低い光を灯したままの訓練端末、まだ完全に溶けていないアイスパック、それから昨夜俺を人としての一線から引き戻すのに苦労させたミニバー。


彼は見た。


俺も、彼が見たのを見た。


でも二人とも、暗黙の了解で、あれが存在しないことにした。


助かった。


人生の記録に「未成年軍人、深夜に飲酒未遂」という一行を加えたくない。


レオはソファには座らず、窓際に直接立った。灰白色の夜明けを背に。基地外側の照明塔はまだ灯っていて、遠くの金属製防風壁が沈黙した墓石の列みたいに並んでいる。


俺は机の端に寄りかかって、腕を組んだ。「俺は全然平気で、一晩中眠れなかったなんてことは全くない」という顔を作る。


あいにく肋骨が非協力的で、力を入れた途端に痛みが走って、眉が動きそうになった。


レオはそれを全部見ていたが、見ていないふりをして口を開いた。


「今日はどうだった」


俺は笑いそうになった。


「どの部分ですか。体、それとも精神?」


「どちらでも」


「体は軍用搬送機械に愛されたみたいな感じです」俺は言う。「精神的には、聯邦が俺の教育に本気で投資してくれていることを、大変光栄に思っています」


レオは俺を見て、笑いもしなかったし、訂正もしなかった。


「昨日の進歩は速かった」


「では表彰状でも授与しに来てくださったんですか」


「違う」彼は言う。「進歩が制御可能な範囲内かどうか、確認しに来た」


部屋が一瞬、静まり返った。


エアコンの風は安定して流れ続け、俺の剥き出しの手首を撫でていく。冷たさが、ちょうどいい。


俺は彼を見て、ようやく理解した。これは慰問じゃない。


少なくとも、それだけじゃない。


これは面談だ。


一対一の。


博士もいない、教官もいない、端末のデータもない。


ここにいるのは一人の大佐と、飼い主に噛みつくかどうか確かめたい武器が一つ。


俺は少し首を傾けた。


「つまり、今は口頭試問の時間ですか」


「そう解釈していい」


「挙手してから答えたほうがいいですか」


「必要ない」レオは言う。「無駄話をしなければ」


……容赦ない。


この男は俺の主戦力の半分を、いきなり封印してきた。


軽く息を吸う。肩はまだ痛い。


「どうぞ」


レオは俺を見て、最初の質問から全く容赦がなかった。


「聯邦を憎んでいるか」


俺は二秒黙った。


この質問はよくできている。


直球すぎて、逆に罠みたいだ。


憎んでいると言えば、はい結構、不安定要素が一つ追加される。


憎んでいないと言えば、それはもっと笑えない。自分でも吐き気がする。


俺は目を上げて、彼を見た。


「どちらかといえば、不眠のほうが憎いです」俺は言う。「あと、朝四時半にチャイムを鳴らしに来る人も」


レオの表情はほとんど動かなかった。


「答えになっていない」


「じゃあ言い方を変えます」俺は肩をすくめかけて、途中で痛みに殺意が湧いた。「俺にはそんな高級な感情はないんです。政体を憎むって、暇が有り余ってる人の趣味っぽく聞こえます」


彼を見据えて、ゆっくりと言い切った。


「俺が生き延びてるときって、大体、息するので手一杯で」


レオはすぐには何も言わなかった。


ただ俺を見ていた。この言葉の中に、どれだけ本音があり、どれだけ防御があり、どれだけわざと茶化しているのか、測っているような目で。


最後に、軽く一度頷いた。


「忠誠を装うより、その答えのほうがいい」


俺は危うく眉を上げそうになった。


へえ。


ここ、演技はゼロでいいらしい。


聯邦は俺が思っていた以上に現実的で、あるいは、思っていた以上に面の皮が厚い。


「じゃあ、今度はこっちが気になる番ですね」俺は言う。「大佐は俺に忠誠を求めてるんですか、それとも使い勝手の良さですか」


レオの答えは速かった。


「使い勝手だ」


……正直すぎて、拍手したくなる。


彼は一歩前に出て、俺から遠すぎず近すぎない位置で止まった。その距離感は絶妙だった。圧迫でもなく、弛緩でもない。尋問机の向こう側みたいな、標準的な軍用対人距離だ。


「忠誠は最も不安定な資質の一つだ」レオは言う。「感情、信仰、罪悪感、崇拝に左右される。今日あっても、明日はないかもしれない。忠誠よりも、俺が重視するのは予測可能性だ」


「ロマンチックですね」俺は言う。「大佐の慰め方って、手術刀でケーキ切ってるみたいです」


「慰めに来たわけじゃない」


「それは見れば分かります」


彼は俺を一瞥して、抑揚なく続けた。


「どういう状況なら、お前は命令を拒否するか知りたい」


今度こそ、本当に黙った。


窓の外、基地のどこかで交代を告げる低い音がする。金属が遠距離で別の金属を擦ったときのような響きだ。


俺はレオを見ながら、妙な感覚に襲われた。


彼は抽象的な質問をしているんじゃない。


哲学ごっこをしているわけでもない。


本気で知りたがっている。俺の底線がどこにあるかを。


守るためじゃない。


事前にマーキングして、迂回するか、いずれ踏み潰すために。


乾いた唇を舌でなめる。


「命令がすごく馬鹿だったら、拒否したくなります」


「『したくなる』と『する』は別だ」


「それは、その命令出した人が、どれだけ俺を殺しにかかってる顔してるかによります」


「お前を殺すことが、任務の一部だったら?」


俺は彼を見た。


「せめて、理由をもっとマシに聞こえるよう説明してください」


レオの表情は動かない。


「撤退を命じられたとして、お前はその場に留まればあと二人は救えると分かっている」


「撤退します」


自分でも驚くくらい、早く答えていた。


レオの目がわずかに細くなる。


俺は自分の指先を見下ろしながら、声はむしろ平らになった。


「俺、英雄じゃないですよ、大佐。なる気もない。自分の始末もつけられてないのに、聖人の真似する暇はないです」


一拍置いて、喉が少し乾く。


「それに、人を救うって話は、大抵見た目ほどコスパ良くない」


六A倉の鉄錆びた匂いが、どこかの隙間からまた滲み上がってくる。


そこに留まる前に、ナイフで切るみたいに話を断ち切った。


レオは数秒、俺を見ていた。さっき自分で端子を晒して、慌てて溶接し直した機械部品でも見るような目で。


「『自分の側』を撃てと命じられたら?」


俺は笑った。


「いかにも聯邦らしい設問ですね」


「答えろ」


彼を見上げて、わざと少し声を軽くする。


「その『自分の側』が、その時点でまだ自分の側かどうか、ですね」


今度はレオの眉が、ほんのわずかに動いた。


何か、彼が望んでいた種類の答えに触れたと分かった。


道徳的に正しいわけじゃない。


戦場としては、正しい。


気持ち悪い。


けど、現実的だ。


ついでにもう一刺ししておく。


「そんな目で見ないでくださいよ、大佐。俺が生まれつき腐ってるんじゃなくて、この環境の教育が行き届いてるだけです」


レオは否定しなかった。


「だから、お前は飲み込みが早い」


「どうも。今日二回目ですよ、その手の言葉。さすがにちょっと照れますね」


「褒めてはいない」少し間を置いてから、「警告だ」


お、来た。


やっと本題だ。


背筋をほんの少し伸ばす。背中の筋肉が即座に抗議してきて、盛大に痛んだが、顔には出さない。


レオの声は平板だった。まるでテーブルの上に刃物を置いただけで、振り下ろしもせず、引きもせずにいるような声。


「星野。聯邦を愛さなくていい。ここにいる誰も、愛さなくていい。俺を嫌っても構わない」


「だがこのシステムにいる限り、要所で情緒に任せて引き金を引くことは許さない」


俺を見据えて、一語一語区切る。


「俺はお前に忠誠を求めない。求めるのは、精度だ」


部屋の中には、エアコンの音しか残っていなかった。


その一言が落ちてきた瞬間、妙なことに、どんな愛国スローガンより説得力があった。


崇高だからじゃない。


温度が、低いからだ。


真実に近い冷たさがあった。


首を少し傾ける。


「もしある日、その精度と『生き延びること』がぶつかったら?」


レオは俺を見ていた。


「そのときは、生き延びろ。あとで、より正確に帳尻を合わせればいい」


……この答え、正気とは思えない。


でも、いかにもレオだ。


そして一番怖いのは——ちゃんと意味が分かる自分だ。


目を伏せて、鼻で笑った。


「大佐、ご存じですか。そういう話し方、子どもを『将来メンタルが危ない大人』に育てるのに最適ですよ」


「分かっている」彼は言った。


しかも自覚している。


否認すらしない。


本当に、取り繕う気がない。


深く息を吸う。胸の奥が少しきゅっとする。


「じゃあ、今度はこっちから一つ」


「聞こう」


「いつか、本当にあなたの望む通りの俺になったとしたら」彼を見つめる。「それは、まだ『俺』って言えるんですかね」


今度の沈黙は、さっきより少し長かった。


長くはない。


でも、「考えたことがないわけじゃない」と認めるには十分だった。


窓の外から少しずつ朝の光が差し込んできて、軍服の肩線に冷たい白い縁取りを作る。


最後に、彼は口を開いた。


「お前が、『お前』をどこまで含めるつもりかによる」


……ひどい答えだ。


上級幹部用の哲学系きれいごとにしか聞こえない。


でも厄介なことに、これが彼なりに現実に一番近いところまで下ろした答えだということも分かってしまう。


口角を引き上げる。


「大佐にも、そういうきれいなことを言う引き出し、あったんですね」


「きれいごとじゃない」レオは言う。「現実だ」


彼は向きを変えた。ここまでで十分だと言うように。


ドアのほうへ歩き、手をかける前に一瞬だけ止まる。振り返りはしない。


「五十分後に整列だ」彼は言う。「遅れるな」


机に寄りかかったまま、思わず言葉を返す。


「大佐」


「何だ」


「今日わざわざここまで来て、まとめると——」


一度咳払いをして、妙に丁寧に言葉を選んだ。


「聯邦は、俺が聯邦を愛してるかどうかはどうでもよくて、とにかく時間どおりに、正確に、感情を安定させて人を殺せるかどうかだけを気にしてる。違います?」


レオはドアの前で一秒黙った。


それから、半分だけ顔をこちらに向けて、ほとんど残酷なくらい平板な声で言った。


「違う」


一瞬、言葉が出なかった。


続きが落ちてくる。


「生きて戻ってくることも含む」


ドアが閉まった。


部屋にまた静寂が落ちた。


その場に立ち尽くして、二秒ほどしてから、小さく笑い声が漏れた。


「……くそ」


今の一言のほうが、さっきのより性質が悪い。


さっきのはただ冷たかった。


今のは、その冷たさの奥に、もっと面倒な何かがある。


彼が兵士に向かって話しているというより、「まだスクラップにするには惜しい兵器」に、要求仕様を一行追加しているような感じ。


ゆっくり体を起こし、洗面台に向かって冷たい水を顔に当てる。


鏡の中の少女は、顔色がまだ悪くて、目の下にはうっすらとした青い影があり、肩は相変わらず痛そうで、急に強くなったようには全く見えない。


結構だ。


少なくとも見た目だけは、まだ「それなりに繊細な十四歳の女の子」の皮をかぶっていられる。


中身については——


視線を上げて、鏡の中の自分と目を合わせる。


レオは俺の忠誠を取りに来たわけじゃない。


採寸しに来た。


どこで暴走するか、どこで壊れるか、次の工程に流す価値があるかどうか、その寸法を測りに。


そして一番気持ち悪いのは——それを侮辱と感じていない自分だ。


ただ、「その通りだ」と思っている自分がいることだ。


そこが、一番たちが悪い。


水を止めて、制服の上着を取りに行く。


空が白み始めていた。


新しい一日。新しい授業。新しい青痣。新しい記録。


そして、「お前がどう思うか」より「お前が何ができるか」を気にする大佐が一人。


なんてロマンチックなんだろう。


「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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