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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
臨界の星穹:月面都市コペルニクス
531/575

184.二人きりのクリスマス・ディナー  2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

店員がタブレット端末を二つ置き、熱いお茶を注ぎ足してくれた。その手つきは、祝日前夜に社会に叩きのめされ、最後には酢飯とお湯でかろうじて人間の形を保とうとする労働者(サラリーマン)を見慣れているかのようだった。


湯飲みを両手で包み込み、熱気で顔を少し蒸らす。そうしてようやく、自分の魂の一部が校門口からゆっくりと回収されていくのを感じた。


「先に注文しちゃいましょう」

メニューを自分のほうへ引き寄せ、私は言った。

「まだ食べ物の写真を識別できる能力が残っているうちに」


向かいに座る真紀は、うつむいて画面をスクロールしていた。その動作は相変わらず安定している。彼女だって今日、私と一緒に校門口で丸一日立ちっぱなしだったのだ。保護者対応、用務の処理、業者との交渉から夕方の引き継ぎまでこなしたのだから、精神的な消耗は私と大差ないはずだ。なのにこの人は、疲労を隠すのが本当に上手い。まるでその辞書には「限界」という選択肢が存在しないかのようだ。


彼女がこうしているのを見るたびに、実は人間の正常な代謝システムに属していないんじゃないかと、本気で疑いたくなる。


「おすすめからは見ないの?」

私が尋ねると、


「おすすめはたいてい、優先的に在庫を処分したいものよ」

と、真紀。


私は少し動きを止め、顔を上げて彼女を見た。


「真紀、その発言は危険だわ」


「どこが危険なの?」


「寿司屋のメニューを見ているのか、生徒会の年間予算表を見ているのか、一瞬区別がつかなくなった」


真紀は顔も上げない。


「本質は同じよ」


この店は、標準的なチェーン寿司屋のアップグレード版といった佇まいだ。卓上の注文パネルから直接厨房を呼び出せるし、画面には食材の産地、おすすめの組み合わせ、本日限定などが表示され、ご丁寧にカロリーやタンパク質の比率まで記載されている。夕食を食べながら自制心の仮面を保ちたい人間にはぴったりだろう。


残念ながら、今日の私はその分類には入らない。


今の私は、食べ物がテーブルに乗った瞬間、それが温かいか、食べられるか、そして今日処理した厄介事を一時的に忘れさせてくれるかを確認するだけの、原始的な生物に近い。


私は素早く画面をスクロールしながら、ぶつぶつと呟いた。


「マグロ、サーモン、真鯛、炙りえんがわ、玉子、軍艦、茶碗蒸し……この時間にメニューを見てると、疲労の葬儀の配色を選んでるみたいね」


「あなたの比喩、最近ますます陰湿になってきてるわよ」

真紀が言う。


「今日十二時間も校門に立ってたから」

私は炙りサーモンを二皿タップした。

「普通の人間がこの時間まで働いたら、少し陰湿になるのは基本的人権よ」


「今のあなたは、糖分が足りていないように見えるわ」


「今日足りてないのは人権と休息と文明。糖分の優先順位はもっと下」


真紀はようやく目を上げて私を見、私が選んだ注文を淡々と一瞥した。


「ずいぶん脂っこいものを頼むのね」


「これは被災後の合理的な補償」


「じゃあこれは?」

彼女は手を伸ばし、私がさっきついでに追加したエビフライロールの画面を軽くタップした。

「これも補償?」


「それは連邦の祝日制度に対する精神的慰謝料」


真紀は私を見て、半秒ほど沈黙し、意外にも一度頷いた。


「一理あるわね」


「毎回公文書を承認するみたいな口調で同意しないで」


「あなたの主張はたいてい、アーカイブする必要があるから」


この人は本当に面倒くさい。

ちゃぶ台をひっくり返したくなるような面倒くささではない。毎回、最も平坦な口調で、私の愚痴を一見合理的に見えて実はさらに恥ずかしい文字記録に加工してしまう、そういう類の面倒くささだ。


私は白目を剥きたい衝動を抑え、さらに下へと注文を続けた。


「あんたはどうなの? 寿司を食べるって言ってたのに、今まで三つしか追加してないじゃない。真鯛、赤身、それから――」

目を細めて彼女の画面を覗き込む。

「穴子?」


「ええ」


「退職官僚の夕食みたいな注文ね」


「それは褒め言葉?」


「違うわよ。ただ、あんたの好みは、食べながら学校の規則の細則を審査しそうな感じだってこと」


真紀は画面の上で指を止め、淡々と私を一瞥した。


「なら、あなたのメニューは被災地から撤退してきたばかりみたいね」


「少なくとも、私たちが今日同じ戦場から降りてきたってことの証明にはなるわ」


「否定はしないわ」


彼女のその言葉はとても平坦だったけれど、なぜか私の手元の動きを一瞬止めさせた。


内容が曖昧だったからではない。むしろ、この言葉はこれ以上ないほど普通だった。だが彼女が「私たち」という言葉をあまりにも自然に使うと、私の脳内は不甲斐なくも、さっきの校門口での失言と、それに続く彼女の『そう。よかった』を思い出してしまうのだ。


よし。

せっかくあの事を忘れかけていたのに、彼女はまた完全に無害な角度からそれに触れてきた。


真紀は私が止まったことに気づかなかったのか、あるいは気づいていても指摘するのが面倒だったのか、ただ極めて平静に画面を下にスクロールし続けた。


「味噌汁はいる?」


私は我に返った。


「いる。大きいやつ。もし今日の昼間の記憶ごと茹でてくれるバージョンがあるなら、なおいいんだけど」


「そんなメニューはないわ」

彼女は味噌汁を押し、さらに茶碗蒸しを一つ追加した。

「でも、これが一番近いはずよ」


彼女の指が画面で注文をタップするのを見ながら、私はふと極めて現実的な感想を抱いた。


「真紀」


「何?」


「あんた、死にかけの人間の世話をするのにすごく慣れてない?」


真紀は少し手を止め、ようやく顔を上げた。


「あなた今、指導教官としての責任を問うているの? それとも私を非難しているの?」


「現象を述べてるだけ。朝のコーヒーから今の味噌汁まで、あんたの今日の支援物資の投下は非常に系統立っているわ」


「あなたの今日の故障も、非常に系統立っていたからよ」


「そういう言い方されると、あんたに良心があるのかないのか、一瞬本気でわからなくなるのだけど」


「で、わかったの?」


「……現在審査中」


彼女は私を一瞥し、それ以上は何も言わず、最後の甘エビを買い物リストに入れ、注文パネルを机の中央に押しやった。


「これで足りる?」


私はうつむいて一瞥した。

炙りサーモン二皿、赤身、真鯛、穴子、甘エビ、エビフライロール、玉子、軍艦、味噌汁、茶碗蒸し、それにアジの塩焼きと大根の漬物が小皿で一つ。


非常に真面目に評価してみる。


「朝から晩まで立ちっぱなしだった二人にしては、保守的ね」


「なら追加して」


「その言葉、予算委員会がようやく口を割ったみたいに聞こえる」


「今のあなたの状態だと、否決するのは運営リスクになりかねないから」


「真紀、これ以上そんなこと言ってると、私が何かの修理待ちの重要設備なんじゃないかと本気で錯覚するわよ」


「考えすぎよ」


「ああ、なら安心した。私はただの一般設備ね」


「いいえ」

真紀は湯飲みを持ち上げ、最終分類をするかのように平静な口調で言った。

「あなたはどちらかというと、高消耗型ね」


私は彼女を睨んだ。

彼女はお茶を飲んだ。


結局私が先に折れ、うつむいてイクラ軍艦を二皿追加した。


注文を送信すると、テーブルの横の小さなプロジェクターが光り、

【ご注文を承りました。約四分でお届けします】

と表示された。そのカウントダウンを見ていると、ふと自分の人生も補給の投下を待っているような錯覺に陥った。


この数分間、店の中は静かだった。


完全に無音というわけではなく、祝日の夜特有の静けさだ。隣のテーブルには家族連れがいて、両親の声は低く抑えられ、子供はすでに疲れ果てて椅子に半ば突っ伏しながらも、配膳レーンを一生懸命見つめている。少し離れたところには、仕事終わりに合流したらしい二人の若者がいて、食事をしながら、誰の家の年寄りがまた年末の予定を急に変更したと愚痴をこぼしている。頭上のホログラム広告は今日限定のマグロのトロを綺麗に回転させ、配膳ロボットが通路を無音で滑り抜け、時折軽い通知音を鳴らす。


湯飲みの外側に手を当てる。この温度が、突然危険に思えた。


熱いからではない。


ちょうどいいからだ。


ちょうどよすぎて、一日中張り詰めていた神経が緩み始め、今日がこのまま過ぎ去り、世界も一晩くらいは休戦してくれるのではないかと錯覚しそうになる。


「さっきの言葉、まだ考えてるの?」


真紀が突然尋ねた。

指が震え、危うくお茶をこぼしそうになる。


「……真紀、私が忘れかけてる時にわざわざ思い出させるのはやめてくれない?」


「忘れかけてたの?」


「忘れてないわよ。私はただ、まだ普通に夕食を食べられる人間のフリをしようと努力しているだけ」


「なら、その努力はうまくいっているわ」


「今の言葉は慰め? それとも観察報告?」


「半分半分」


「嬉しいわね。食事中にまでハイブリッドな評価をもらえるなんて」


真紀の口角が少し動いたように見えたが、すぐにまた元に戻った。彼女のその、ほとんど目立たない笑いは、本当に腹が立つ。一度捉えてしまうと、気にせずにはいられなくなる。なのに彼女は、それを追及できない程度の幅に正確に制御してくるのだ。


私が何か言い返そうとした時、頭上の通知ランプが音を立てた。

第一陣の寿司が到着した。


配膳レーンが厨房から滑り出し、私たちのテーブルの横で止まった。一番前にあるのは炙りサーモン。表面にはちょうどいい焦げ目がつき、脂が照明の下で理不尽なほどの光を放っている。その隣には赤身と真鯛が綺麗に切り揃えられ、シャリの温度もちょうどよさそうだ。さらに味噌汁と、しっかりと蒸し上がった茶碗蒸しが続き、熱気が一斉に立ち上ってきた瞬間、私は飲食の物流システム全体に頭を下げて敬意を表したくなった。


「……よし」

非常に厳粛に宣言する。

「今日は世界を五分間だけ許すわ」


真紀は味噌汁を私の方へ押しやった。


「先にこれを飲んで」


うつむいて一口すする。

塩気、熱さ、普通。奇跡はないし、人生を揺るがすような高級な味わいもない。だがこの時間帯において、それは合法的に認証された精神修復液のようなものだった。熱さが喉を伝って落ちていく瞬間、今日一日、校門口で風に吹かれ、人に尋ねられ、書類に吸い取られて毛羽立っていた部分が、ようやく少し平らに撫でつけられた気がした。


目を閉じ、二秒静止する。

それから、非常に正直に結論を下した。


「……前言の一部を撤回」


「どの部分?」


「チェーン店も立派な文明ね」

私は言った。

「少なくとも、早朝から夜まで働き詰めた人間にとっては、理想や信念よりも頼りになるわ」


真紀は真鯛を一貫つまみ、極めて淡々とした口調で言った。


「その言葉、いくらか人間らしいわね」


「あんた今日、私がまだ人間に見えるかどうかの確認に執着しすぎじゃない?」


「昼間、人間らしくない時間帯がいくつかあったから」


「クソ、どの時間帯のことか自分でわかってしまうのが悔しいわ」


箸を取り、炙りサーモンを一貫つまんで口に放り込んだ。

次の瞬間、その場で涙を流しそうになった。


神がかっているからではない。所詮はチェーン店だ。サーモンが私の口の中で宇宙レベルの感動を咲かせるはずがない。だが、脂、温かいシャリ、少し熱い表面、そしてちょうどいい塩気が合わさると、今日ほぼ一日コーヒーと怨念だけで動いていた人間にとっては、完全に十分な殺傷力があった。


飲み込み、皿を二秒ほど見つめる。


「首都星デュナンの第一級水産養殖業者も、そこまで疑うほどじゃないと急に思えてきたわ」


「本当に飢えていたのね」

と、真紀。


「真紀、人が飢えている時は、科学倫理や産地の考証は後回しになるのよ」


「なら、今日のあなたの優先順位は正しいわ」


彼女はそう言うと、穴子も一口食べた。その動作はごく普通で、むしろ非常に優雅と言えた。チェーン店で夕食を食べているのではなく、同窓会の会報に載るような高級料亭で夜の社交をしているかのようだった。それでいて食べるのが遅いわけでもなく、姿勢を保とうとするわざとらしさもない。ただ単に、彼女は何をするにも安定しているのだとわかる。


二貫目の炙りサーモンを噛みながら、たまらず口を開いた。


「真紀」


「何?」


「あんたは本当に、もっと高級な世界で生きるのに向いてるわ」


「例えば?」


「少なくとも今日みたいな世界じゃない」

自分を指差し、それからテーブルの上の寿司を指差す。

「校門の戦場から撤退した後に、地球時代の魚類を再現したチェーン店の寿司を食べるような世界じゃないのよ」


真紀はそれを聞いて、意外にも真剣に少し考えた。


「私は気にならないわ」

と、彼女。

「高級な世界は、たいていもっと面倒だから」


「……その答え、いかにも真紀らしいわね」


「それに」

彼女は箸を置き、私を一瞥した。

「今日私と一緒にそこに立っていたのはあなたであって、他の誰でもないわ」


一瞬、言葉を返せなかった。


彼女の言い方はあまりにも普通だった。文末に余計なニュアンスすら乗っていなかった。だが普通すぎるからこそ、その言葉は針のように軽く落ちてきて、私がちょうど聞かなかったフリをしにくい場所に刺さった。


うつむいて玉子をつまみ、急に甘い卵焼きに高度な集中力を発揮し始めたフリをする。


「……真紀」


「何?」


「あんた今日、人が食事に集中しようとしている時に、ついでに一刀両断するのがすごく上手くない?」


「刀じゃないわ」

真紀は湯飲みを持ち上げ、ゆっくりと一口飲んだ。

「ただ事実を述べただけよ」


「あんたが『事実』って言う時、いつもそれを合法的な鈍器として使ってるみたいに聞こえるんだけど」


「それは、効果があるということね」


深呼吸をし、彼女を真似て湯飲みを持ち上げた。


「よし、わかった」

私は言った。

「今日はあんたを追及しないでおくわ。寿司が先に来たから、あんたは一時的に安全」


「私の寛大さに感謝しなさい」


「どういたしまして。今ここでちゃぶ台をひっくり返したら、食べ物がもったいないからね」


今度こそ、彼女は声を出して笑った。


相変わらず淡いが、さっきよりははっきりしていた。その笑い声を聞いて、私はふと思った。夜明け前から暗くなるまで立ちっぱなしで、制度に引きずり回されて寿司屋に逃げ込んだ今日という一日も、決して労働と疲労だけではなかったのかもしれない、と。


少なくとも目の前のこのテーブルは本物で、熱いお茶も本物で、第一陣の寿司も本物だった。


胃が働き始めると、脳も回復する。脳が回復すると、昼間のあの乱雑な光景が再び再生され始める。保護者、訪問者、臨時の出入申請、搬入伝票、配達のサイン、配置――そして「ちょっとだけだから」を社会的な免罪符だと思っている人間たちが、すべて私の脳内で秩序正しく列を作り始めた。


二貫目の炙りサーモンを飲み込み、箸を置き、非常に厳粛に結論を下した。


「今なら客観的に言えるわ。今日一番恐ろしかったのは年末年始の当直じゃない」


向かいに座る真紀は、ちょうど穴子の一貫を二口サイズに切り分けていたところだったが、それを聞いて目を上げた。


「じゃあ何?」


「保護者よ」

私は言った。

「特に顔に『ただ子供を迎えに来ただけで、何の迷惑もかけません』と書いておきながら、口を開いた瞬間に校門の動線全体を踏みにじるタイプの保護者ね」


真紀は頷いた。


「午前八時七分に、車で直接寮の側門に入ろうとしたあの父親は、確かにとても代表的だったわね」


動きを止める。


「……時間まで覚えてるの?」


「あの時、あなたが『駄目です』を『考えないでください』と言い間違えそうになっていたからよ」


「私はただ意味を凝縮しただけ」


「あれは感情の直訳に近いわね」


真真面目な顔で真鯛を一貫つまんだ。


「真紀、今日もし私みたいな感情直訳型の人材が負担を分け合わなかったら、あんたは礼儀正しさだけで、昼前には三十七回の『すみません、ちょっとよろしいですか』に集団で削り取られて昇天してただろうね」


「しないわ」

真紀はお茶を飲んだ。

「昇天する前に、あなたに処理させるから」


「……ありがとう。組織の分業精神に非常に合致しているわ」


彼女は今度は返事をせず、ただ口角をほんのわずかに動かした。はっきりと笑っているわけではないが、見ていると歯痒く、それでいて「笑っている」と指摘することもできない程度だ。


私は合理的に疑っている。九島真紀の人生の楽しみの一つは、他人が制度と自分の口の悪さによって自滅していく様子を観察することだ。


第一陣を半分ほど食べたところで、配膳ロボットが滑ってきた。その胸のサンタクロースのマグネットは、照明の下で、喜びを演出しようと努力しているものの、人類の苦痛をまったく理解していない無邪気さを漂わせていた。ロボットはテーブルの横に止まり、画面に第二陣の料理の到着を告げる通知が光った。


リストを一瞥し、その場で二秒黙り込んだ。


「……このラウンド、なんだか少しおかしな方向に向かってる気がするわ」


真紀は私の視線を追った。


「どこがおかしいの?」


「儀式感よ」

私は言った。

「前まではただの寿司だった。でもここから『土瓶蒸し』、『最高級ウニとキャビアの木箱入り』、『備長炭炙りウニ寿司』なんてのが出てくる。こんな名前、夕食というより、祝日限定の会場で行われる宗教的な慰撫儀式みたいじゃない」


真紀は極めて平静だった。


「あなたは今日、慰撫される必要があるわ」


「それは否定しない」

私はメニューの補足画像を見下ろした。

「でもウニとキャビアで慰撫するなんて、学校側が知ったら、生徒自治幹部の精神的補助の範囲を超えていると言い出しかねないわよ」


「学校側は今日、ここにいないわ」


「その言葉、すごく安心する」


言い終わるや否や、店員が自ら第二陣を運んできた。

最初にテーブルに置かれたのは、土瓶蒸しだ。


小ぶりな土瓶本体は温かく、蓋を開けると、湯気とともにダシ、柚子の皮、そして海の香りが一斉に広がった。その香りは、さっきの炙りサーモンのように直接的ではなく、エビフライロールのように率直でもない。それは精巧に設計された降伏勧告のようだった――気づかれないように近づき、気づいた時には、その温もりに鼻腔から胃の奥まで完全に慰撫されているのだ。


私はその土瓶をじっと見つめ、心の底から言った。


「これは、今日の引き継ぎ手順よりも尊重に値するように見えるわ」


真紀は自分の小さなお猪口を手に取り、私の土瓶の蓋も少し角度を変えてくれた。


「先に飲んで」


「真紀、あんた今日、本当に被災地から拾ってきた奴を餌付けしてるみたいね」


「今のあなたの状態が、まさにそれだからよ」


「せめて、もう少し高級な被災地の遺留品であってほしいんだけど」


「今のところ、高級には見えないわね」


私は鼻を鳴らし、お猪口を手に取って一口飲んだ。


次の瞬間、私は理解した。なぜ人類文明は制度、誤解、残業、そして非効率な行政に満ちているのに、今日までかろうじて存続してこられたのかを。


土瓶蒸しがあるからだ。


その一口のスープが喉を通ると、昼間校門口に立ち、風に吹かれ、人に尋ねられ、書類に精気を吸い取られていた内臓が、ようやく礼儀正しく正しい位置に戻されたような気がした。ダシには厚みがあるが重くなく、柚子の爽やかさが少し加わって、一日中体に溜まっていた疲労を一層洗い流してくれた。


私はお猪口を置き、二秒静止してから、低い声で言った。


「これ、ちょっと反則」


「美味しくない?」


「美味しすぎるわよ」

私はその小さな土瓶を見つめた。

「今日ここまで労働してきたのは、この一口のスープにたどり着くための前哨クエストに過ぎなかったんじゃないかと思えてくるくらいだわ」


真紀は頷いた。


「そう考えた方が、生き延びやすいわね」


私は彼女を睨んだ。


「あんたもそう考えたことがあるの?」


「たまにね」

と、彼女。


この「たまに」は、いかにも九島真紀らしい。短く、保守的で、他人に分析の材料を少しも與えようとしない。だが、彼女があまりにも平坦に言うからこそ、その「たまに」は十中八九一度や二度ではないと思わせるのだ。


私は土瓶蒸しをもう一口飲んだ。


「よし、今日の校門口の価値は、今ここで証明されたわ」


「こんなに早く買収されるの?」


「私が安上がりなのは認めるけれど、これは安上がりとは言わないわよ」

私は土瓶蒸しを指差した。

「これは文明」


真紀は私を一瞥した。


「さっきはチェーンの寿司が文明で、今は土瓶蒸しが文明。あなたの文明の判断基準はずいぶん浮動的ね」


「朝から今まで文明崩壊の瀬戸際で生きてきたのよ。少しでもまともなものはすべて称賛に値するわ」


彼女は意外にも頷いて同意を示した。


一向に、第二品目が運ばれてきた。

最高級ウニとキャビアの木箱入り。


その箱を見た瞬間、私は思わず眉をひそめた。


「……本格的すぎるでしょ」


それは普通の盛り付けではなかった。店員が運んできたのは四角い木箱で、表面には店のロゴが押され、横にはわざとらしいほど小ぶりな、しかし絶妙にちょうどいい木のスプーンが添えられていた。


箱の蓋が開いた瞬間、中に整然と敷き詰められたウニと黒光りするキャビアは、まるで高級ブランドの新作発表会のようだった。黄金色と漆黒が照明の下で極めて理不尽なコントラストを描き、今日昼間に校門口で臨時駐車証の手続きを説明していた私のような人間でさえ、一秒間思わず粛然としてしまった。


私はごく小声で言った。


「これ、私たち二人の前に現れるべきじゃないものに見えるんだけど」


真紀は極めて平然と返した。


「もう現れているわ」


「その態度は危険よ。権力者が規格外の資源配分に直面した時、出所を追及せず、直接分配を始めるのによく似ているわね」


「追及しても減るわけじゃないから」


「……筋が通りすぎていて腹が立つわ」


店員は初めて木箱を前にして呆然とする客を見慣れているのだろう、とても丁寧にもう一言付け加えた。

「まずはそのままお召し上がりいただき、その後少量のキャビアを合わせていただくと、より層のある味わいをお楽しみいただけます」


私は戦術説明を聞くように何度も頷いた。


店員が去った後、私はその箱の中身をさらに二秒ほど見つめた。


「真紀」


「何?」


「もし今日の昼間の保護者たちが、私たちが今これを食べていると知ったら、生徒会は実は恵まれすぎていると思うかしら?」


「思わないわ」

彼女は木のスプーンを手に取った。

「彼女たちは今日の校門口に立っていないもの」


……クソ。

この言葉も筋が通っている。


私はウニを少しすくって先に食べた。口に入れた瞬間、私の人生において「ウニ」著の実質的な認識が、非常に高級な形で上書きされた。


生臭さはほとんどなく、ただ柔らかさと、滑らかさと、理不尽なほどの甘い鮮度だけが残っていた。まるで海全体からすべての粗さと真実が濾過され、最後に人が世界を信じ続けるための説得力だけが残されたかのようだった。


私は目を上げて真紀を見た。

彼女も一口食べ、表情に大きな変化はなかったが、動きが止まる時間が普段よりコンマ数秒長かった。


彼女にとって、これはすでに強烈な肯定を意味する。


「どう?」


「悪くないわ」


「『悪くない』?」


私は目を丸くした。


「真紀、もしこの箱の中身に自尊心があったら、あんたのその評価を聞いて海に飛び込みたくなるわよ」


「もともと海から来たものよ」


「環境適応能力が高すぎる理屈で、自分の低温評価を正当化しないで」


真紀は私を無視し、ただ木のスプーンを取り、ウニの上にキャビアを少し乗せた。

そして、それをそのまま私の前に押しやった。


「こうやって試してみて」


その動作があまりにも自然で、私は一瞬反応が遅れた。


気づいた時、木のスプーンは私の目の前で止まっていた。ウニとキャビアは照明の下で過剰なほど輝いており、彼女はただ極めて平静に私を見つめていた。まるでごく普通の味覚検証を行っているかのように。


……よし。

今夜の高度なリスク管理に、また新しい項目が追加されたわね。


私は咳払いをして、それでも受け取った。


「そんな風に渡されると、味の分析に集中しにくくなるのだけど」


「それはあなたの問題ね」


「なんであんたは毎回、責任をそんなに綺麗に切り離せるの?」


「普段から書類の分類をしているから」


私は黙ってその一口を口に運んだ。


次の瞬間、私は彼女のさっきの言葉に含まれていた三十パーセントの故意を、一時的に許すことにした。


ウニだけでも十分に誇張されているのに、さらにキャビアが重なることで、その塩気と鮮度がかえって甘みをよりクリアに引き立てていた。まるで誰かが海水と贅沢な後ろめたさを極薄の一層にすり潰し、正確に舌の先に貼り付けたかのようだった。


私は丸三秒間、沈黙した。


真紀が私を見た。


「それで?」


私はゆっくりと木のスプーンを置いた。


「それで、もしこれが宗教儀式なら、私は入信するわ」


真紀の口角が、ついにはっきりと曲がった。


「入信の条件は?」


「学期末ごとに一箱支給されること」

私は言った。

「生徒会への優先配給としてね」


「公私混同が始まったわね」


「違うわ。これは高ストレス労働を安定したインセンティブ・メカニズムに変換しているだけ」


「あなたが提案書に書きそうな言葉ね」


「もし本当に通るなら、今夜帰ってから書くわよ」


私たちはそうやって食べながら、昼間の荒唐無稽な出来事をもう一度引っ張り出しては話題にした。


どの保護者が一番扱いにくかったか。どの業者が「ちょっと置くだけだから」を戦術兵器のように使うのが一番上手かったか。どの臨時申請が生徒会を願い事の泉だと思っているように見えたか。昼間に用務の時間を即席の陳情會――ではなく陳情会に引き延ばした外部団体の連絡員でさえ、私たちは名指しで一通り批判した。


話の途中で、私はたまらず木のスプーンで真紀を指した。


「今日一番すごかったのは、やっぱりあんたよ」


「どこが?」


「午前九時過ぎに、『そこをなんとか融通してもらえませんか』と粘ってきたあの保護者に対して、あんたは三つの異なるバージョンの丁寧な断り方を連続で繰り出したわ」

私は非常に誠実(せいじつ)に言った。

「あれはもう行政能力じゃない。何かの呪術に近いわね」


真紀はお茶を飲んだ。


「直接断ると、彼女たちはまだもう一度試せると思ってしまうから」


「だから退路を全部まとめて塞いだの?」


「ええ」


「……恐ろしいわね」


彼女は平然と私に一言返した。


「あなたも今日、似たようなものだったわよ」


「私のは違うわ」

私は自分を弁護した。

「私は顔色で勝負してるんだから」


「だから言ったでしょ、あなたは高消耗型だって」


この人は本当に根に持つ。


私が反撃する暇もなく、三品目が運ばれてきた。

備長炭(びんちょうたん)炙りウニ寿司。


これはもう普通の配膳ではなく、現場でのプレゼンテーションだった。店員が小型の耐熱台を運び込み、その横に処理済みのウニ寿司を置き、備長炭の火を使って最後の炙り仕上げを行った。その火の光は実際にはそれほど大きくなかったが、十分に明るく、テーブルの上で跳ねるように光り、ウニの表面に極薄の熱気と香りを焼き付けた。


私はその短いオペレーションを見ながら、非常に複雑な気分になった。


「私は今日、校門口で業者の搬入伝票にサインをして、今はここに座って備長炭炙りウニ寿司を見ている」

私は低い声で言った。

「人生の高低差が、当事者に対して少しリスペクトに欠けていないかしら」


真紀は至って冷静だった。


「その方がバランスが取れるわ」


「どこがバランス取れてるのよ?」


「前半が十分に苦しかったのだから、後半は補償があるべきよ」


「その言葉、本校には労働損害ウニ補助金が本来あるべきだと言っているように聞こえるんだけど」


「ないの?」


「もしあるなら、今の私の制度に対する忠誠度は少なくとも四割は上がるわね」


店員が去った後、テーブルの上のウニ寿司は、まだ火に触れたばかりの香りをわずかに漂わせていた。その香りは絶妙で、粗暴な炙りの匂いではなく、どちらかといえば誰かが元々非常に柔らかいものを、そっとさらに危険な方向へ押しやったような感じだった。


最初の一口を噛んだ瞬間、私はなぜ人類が、このようなパフォーマンスのように見えて実際に味に違いが出るものに喜んで金を払うのかを理解した。


前の生鮮な甘みに比べて、このバージョンは少しの温かさと香ばしさが加わり、ウニ自身のあの贅沢なまでの柔らかささえもさらに際立っていた。それは本来の味を消してしまうのではなく、かえって非常に薄く、非常に反則的な説得力を一層追加したかのようだった。


私は飲み込んだ後、長く沈黙した。


真紀が私を見た。


「また入信するの?」


「いいえ」

私は顔を上げ、非常に重々しい口調で言った。

「今回は私が宗教を創るわ」


彼女はついに声を立てて笑った。


大きくはないが、本当に笑っていた。


その瞬間、テーブルの上の火の気配、お茶の香り、熱気、木箱、寿司、看守――じゃなくて、窓の外の雪の光がすべて混ざり合い、理不尽な錯覚を抱かせた。夜明け前から今まで続いたすべてのトラブルの少なくとも一部が、本当にこのテーブルによって適切に収められたかのような錯覚だ。


彼女が笑うのを見て、私の心の中のどこかが、とても軽く緩んだ。


そして、私が早く安心しすぎないように警告するかのように、真紀は湯飲みをテーブルに戻し、極めて淡々とした口調で一言付け足した。


「でも、あなたがさっき『私たちには関係ないものだ』と言った時、確かにとても自然だったわね」


私の手から箸が滑り落ちそうになった。


……来た。


わかっていた。


彼女が本気で見逃してくれるはずがないと、わかっていた。


しかも、彼女が選んだタイミングがあまりにも正確だった。私が一番緊張している時でもなく、最も警戒している交差点でもない。私が土瓶蒸し、木箱のウニ、配置――そして備長炭炙りウニ寿司に集団で慰撫され、警戒心をほとんど失いかけていた時に、まるで最後の料理に塩を振るように、そっとこの一言を補ってきたのだ。


容赦ない。


本当に容赦ない。


私は箸を握り直し、彼女を睨みつけた。


「真紀」


「何?」


「あんた、人が今夜はもう無事に着地できると思いかけた瞬間に、ついでに世界が信用できないことをもう一度証明するのが好きでしょ?」


「いいえ」

と、彼女。

「私はただ、あなたがさっき言った言葉の主語の選び方が、とても面白いと思っただけよ」


「あれは主語の選び方が面白かったんじゃないわ」

私は無理やり弁明した。

「あれは言い間違い」


「言い間違いは、たいてい習慣に近いものよ」


「これ、もう雑談じゃないじゃない。言語学的な現場尋問よ」


「あなたがそう理解したいのなら、構わないわ」


私は彼女を睨みつけ、二秒間睨み合(あ)った後、最後には自分から視線を外すしかなかった。


仕方がない。


彼女の言い方が平坦すぎたのだ。平坦すぎて、私が思い切り反論するのに適した角度がまったく見つからず、その言葉が小さな釣り針のようにそこに引っ掛かったままになるのを許すしかなかった。血が出るほどではないが、完全に気づかないふりをすることも不可能な状態だ。


私は仕方なくうつむいて土瓶蒸しを飲み、今、ダシに対して崇高な敬意を抱いているフリをした。


真紀もそれ以上は追及してこなかった。


彼女はそういう人間だ。一太刀浴びせて、止める。


残りは、私に自分でゆっくり考えさせるのだ。


工程通り、私が一番嫌なのは、彼女のそういうところだ。


なぜなら、彼女は毎回ちょうどいいところで止める。何事もなかったフリを許さない程度に点を突き、かといってその場でちゃぶ台をひっくり返せるほど多くは言わない。この精密な制御力を校務プロセスに向けたら、学校の混乱は半分に減るだろうに。残念ながら、彼女は明らかにその一部を私に向けることも楽しんでいる。


私たちはその後、比較的普通の締めくくりとして二皿追加した。一皿はネギトロ軍艦、一皿は炙りホタテだ。どちらも味がよく、いわゆる「締め」が終わりではなく、前の構成――前のオブジェクト、前の儀式感の強すぎる数品に対して緩やかな着陸を行うための締めくくりとして十分だった。


食べ終わる頃には、テーブルの上の空き皿もかなり積み上がっていた。


その満腹感は胃がもたれるようなものではなく、人を労働状態から完全に引きずり出し、「少なくとも今夜はまだ生きていると言える」正常な区間に再び押し込んでくれるものだった。店内の人も減っていた。隣の席の子供はすでに親に抱えられて会計に向かい、遠くにまだゆっくりと食べている二組が残っているだけだ。タブレットの画面は相変わらず回転し、配膳ロボットは相変わらず滑り、外の雪の光がガラスに反射して、店全体がごく薄いミュートの層に包まれているように見えた。


私は椅子の背もたれに寄りかかり、長く息を吐き出した。


「よし」

私は言った。

「今なら認めちゃうわ。今夜外に食べに来るという決定は、家に直行して倒れ込むよりもはるかに賢明だったわね」


真紀は最後の一口のお茶を飲み干した。


「なら、後で意思決定評価に私の貢献を書き込んでおくことね」


「まだ手柄を主張する気?」


「私が提案し、店を選び、あなたが干上がりそうな時に継続的に補給を提供したのよ」


「継続的に言語的トラウマも製造したけどね」


「それは付加サービスよ」


「そんな付加サービス、まったく感謝したくないわ」


真紀は私を見て、その表情はとても淡かった。


「でも、今のあなたは座ったばかりの時より、ずっと静かに食べているわ」


私は少し動きを止めた。


この言葉自体には何の問題もない。


問題は、今の彼女が何を言っても、無意識に第二層の意味が隠されているのではないかと疑ってしまうことだ。


私は目を細めた。


「その言葉、単純な意味?」


「とても単純よ」


「私はもう、あんたの『単純』の定義をあまり信用していないのだけど」


「それもあなたの問題ね」


「ほら、またそれだわ」


彼女は今度は否定せず、ただごく淡く笑い、手を上げてテーブルの上のタブレット端末を私の前に押しやった。


「まだ追加するか見てみて」


私はうつむいてデザートのセクションを一瞥し、それから自分の現在の満腹度を見て、短いが現実的な葛藤に陥った。


理性が、ここで手を引べきだと告げている。


感情は、今日一日を経験した後なら、クリームブリュレを一つ追加しても過言ではないと告げている。


最終的に、私は非常に自制心を発揮してデザートのページを戻し、飲み物の欄で止めた。


「やめておくわ」

私は言った。

「これ以上食べたら、明日の朝、とても不真面目な形で目覚めることになりそうだから」


「珍しく明日を覚えているのね」


「私の職業本能がまだかろうじて息をしているからよ」

私はタブレットの電源を切り、指先でテーブルの端を叩いた。

「それに、今日のこの締めくくりはすでに十分に贅沢。これ以上追加したら、運命に対して見せびらかしているみたいになるわ」


真紀は頷いた。


「じゃあ、ここまでね」


彼女はごく普通に言った。


だがなぜか、私は突然、この食事が次の手順に早く進むのを少し引き留めたくなった。まだお腹が空いているからでも、この数品が本当に名残惜しいからでもない。どちらかといえば……今日の早朝から今まで持ちこたえてきた、校門、保護者、業者、引き継ぎ、夜番、極薄、あの「私たちには関係ないものだ」、道中の風、土瓶蒸しの熱気、ウニの木箱を開けた時のあの理不尽なほどの重々しさ、そのすべてが、このテーブルの上で一時的に居場所を見つけたような気がしたからだ。


会計を済ませてしまえば、この時間は本当に終わってしまうような気がした。


看守――じゃなくて、私はまだ、今夜のどの部分を疲労に分類し、どの部分を面倒に分類し、どの部分を……分類しない方が安全か、完全には考え終わっていなかった。


私はテーブルの上の半分空になった急須を見つめ、会計に伸ばしかけた指先を止めた。


「……もう少し、座っていよう」

私は言った。


真紀は私を見て、急かすことも、理由を聞くこともなく、ただ極めて静かに自分の湯飲みを少し前へ押しやった。


「なら、お茶を飲み干しなさい」


「真紀」


「何?」


「あんたみたいな人間は、本当に恐ろしいわ」


「今頃気づいたの?」


「今頃気づいたんじゃないわよ」

私は湯飲みを持ち上げ、うつむいて中で微かに揺れるお茶を見つめた。

「今日、それが特別に完全な形で確認できただけ」


真紀は返事をしなかった。


私も、それ以上は何も言わなかった。


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