182.聖夜の前夜 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
食事が終わった後も、誰もが本当の意味で息を抜けたわけではなかった。
ただ全員が、バッテリー残量一パーセントの『瀕死』から、辛うじて『起動中』の状態へと移行したに過ぎない。
弁当箱が片付けられ、熱いお茶とコーヒーが注ぎ足されると、生徒会室は再び第二ラウンドの稼働に入った。
だが、このラウンドは昼間よりもずっと静かだった。全員が終着点はすぐそこにあると理解しているため、余計な口を叩く体力を惜しんでいるかのようだった。
ロイが最終版の総予算を編み直し、真紀がその数字の整合性を冷徹に確認していく。
蘭とハーヴィーは環境、機材、観客、避難という四つの動線をもう一度重ね合わせ、ゴミ箱、仮設トイレ、回収時間が絶対に互いの致命傷にならない位置へとすべてを調整し直していた。
ディランは保健委員にさらに二通のメッセージを送り、担架と救急パネルの配置をこれ以上狂いようがないところまで確定させた。
ヘートヴィヒは今日のすべての会談記録を正式な公文書にまとめ、一件ずつファイルに挟み込んでいく。その手つきは、書類の山を片付けているというよりは、まるで**壊れかけた世界の調律**を行っているかのように、鮮やかで、どこか神聖ですらあった。
そして私は、真紀の要求に従い、副会長の備忘録を単なる要約から、後世の人間が幸運にもこれをめくった時――「我が生徒会がいかにして、睡眠不足の集団によって世界を支えていたか」を十分に理解できるような、ある種の『従軍手記』へと書き上げていった。
窓の外の雪はさらに激しさを増していた。
時折誰かが顔を上げると、窓の外の街灯に照らされ、斜めに打ち付ける白い線が見える。キャンパスはすっかり静まり返り、遠くを巡回する警備車両のランプが時折かすめるのと、風が積もった雪を柵のそばに押しやる音だけが低く響いていた。
時間はゆっくりと、後ろへと滑っていく。
十九時半。
二十時。
二十時四十分。
――そしてついに、二十一時を少し回った頃。
真紀が最後の確認ページをめくり終え、ペン先を止め、バインダーをパタンと閉じた。
「終わったわ」
彼女は言った。
たった一言。だがその言葉が落ちた瞬間、オフィス全体が、長時間縛り付けられていた不可視の呪縛から突然解放されたかのようだった。
私は真っ先に椅子の背もたれに体重を預け、その場で魂が昇天しそうになった。
「……マジか、本当に終わったのか……」
「生きたまま、今年の終着点を見届けられるなんて……!」
ジェスは直接額を机にぶつけ、大げさだが心からのうめき声を上げた。
ロイはペンを置き、椅子の背にもたれかかって二秒ほど目を閉じた。彼にとってはこれでも盛大な弛緩と言える。蘭は長く息を吐き出し、最後の重ね図を片付けた。
ハーヴィーは定規とマーカーシールを一つ一つ定位置に戻していく。動作は相変わらずブレがなかったが、その肩からは明らかに力が抜けていた。ディランは首を回し、骨をボキボキと鳴らした。大型の重機が、ようやくスタンバイモードに入ることを許可されたかのようだ。
ヘートヴィヒは整理し終えたファイルを見つめ、一番上のページを細い指で軽く押さえ、それからとても静かな声で言った。
「これで、今年の業務は……すべて『結審』、ということでいいのでしょうか?」
「ええ。今年の業務は、ここで結審よ」
真紀が頷く。
誰からともなく、一秒間の沈黙が落ちた。そしてほぼ同時に、全員が半拍遅れて、ある驚愕の事実に気づいたかのようだった。
ジェスが真っ先に顔を上げた。
「ねえ」
「なんですか?」
蘭が問い返す。
「数日後って……もしかしてクリスマス?」
オフィスが一瞬で静まり返った。
私は窓の外でしんしんと降る雪を振り返り、それから机の上に積まれた、今この瞬間まで格闘してようやく収束させた公文書の山を見下ろした。
「……あんたが言わなきゃ、完全に忘れてたぞ」
「私も忘れていた」
ロイが眉間を揉む。
「無理もない」
ハーヴィーが淡々と言った。
「人間は長時間、予算とゴミ箱の配置を処理し続けると、自然と祝祭日に対する感知能力を失うものだ」
「今年の私たちの青春に、そんな冷徹な注釈をつけてくれてありがとう、ハーヴィー」
「待って、これってすごく雰囲気良くない!?」
ジェスが突然背筋を伸ばし、その両目をキラキラと輝かせた。
「外は雪、仕事は終わった、もうすぐクリスマス――」
「今ここから歌い出そうとしたら、あんたを窓から放り投げるからな」
「なんで!? クリスマスソング歌うのにぴったりなシチュエーションじゃん!」
「今日、私が季節のロマンに対して持っていた許容量は、放送委員の『謎の儀式感』を阻止するために全部使い切ったんだよ」
ヘートヴィヒが横で、クスリと低く笑い声を漏らした。
とても小さく、微かな鈴の音のような声だった。だが、私の耳にははっきりと聞こえた。
真紀は書類を綺麗にまとめ、手短に命令を下した。
「片付けて、帰る準備をして」
「わあ、生徒会長の口からようやく人間らしい指示が出た!」
ジェスが感動したように大声を上げる。
「早く帰らないと、雪が本格的に積もるわ」
真紀は淡々と言い放つ。
「それに今日はもう結審したんだから、これ以上ここに残る合理的な理由もないもの」
「真紀、その言葉、あんたにも実は人の心があるんじゃないかって勘違いしそうになったぞ」
「あるわよ。ただ、たいていはプロセスの円滑化のために使っているだけ」
「前言撤回。あんたはやっぱり、いつもの冷徹なあんただ」
全員が荷物を片付け始めた。
弁当箱、空のコップ、定規、図面、バインダーが一つ一つ定位置に戻されていく。その片付けの音は、どこか奇妙な心地よさを持っていた。昼間のようなヒリついた緊張感はなく、かといって放課後の教室ほど緩みきってもいない。
どちらかといえば、激しい一戦を交えた後、戦士たちがようやく鎧を一枚ずつ脱ぎ捨てていくような――そんな、心地いい名残惜しさが部屋を満たしていた。
ちょうどその時、私の机の上にある端末が短く震えて光った。
画面に表示された着信名は――【ヒルダ】。
私はそれを見て、まず露骨に眉をひそめた。
ジェスが横からそれを目ざとく盗み見る。
「誰誰? もしかして――」
「侍従長だ」
「へえ――」
ジェスの目が瞬時に、極めて不健康なニヤニヤ顔へと変わる。
「浮気調査? それとも密会のお誘い?」
「あんたは黙ってろ」
私は通話ボタンをスワイプした。挨拶すら面倒だった。
「もしもし」
『星野様、皇女殿下は……』
ヒルダの声は相変わらず、軍紀そのものが人の声に化けたかのように硬く、安定していた。
「無駄話はいい。彼女はここにいる」
そう言うと、私は一秒たりとも彼らの『中継所』になる気はなく、直接端末をヘートヴィヒに差し出した。
「あんた宛てだ」
ヘートヴィヒは少しだけ呆気にとられたように瞬きをしたが、すぐにそれを受け取った。
「ヘートヴィヒです」
彼女は窓辺へと歩いて行き、通話を続けた。
オフィス内の他の人間は、わざと盗み聞きしようとしたわけではない。だが正直なところ、こういう時、人間の耳というのは無意識に少しだけ長くなるものだ。これは人類が群れで生活する上で極めて正常な防衛本能であり、決して反省するに値しない部分だと言える。……うん、言える。
私はわざわざ後を追わず、その場に立って自分の荷物を片付けていた。
だが、窓辺に佇むそのシルエットはどうしても視界に入ってくる。ヘートヴィヒは室内の光を背に受けて立っており、ガラスの向こうには漆黒の夜色と激しく舞う雪があった。
彼女の話し声は小さく、その姿勢は相変わらず凛として崩れない。外で降っているのが雪だろうが銃弾だろうが、彼女はまず冷静に状況を聞き終えてから、次の手を決めるのだろう。
しばらくして、彼女は端末を私に返してきた。
「侍従長の車が、立ち往生したそうです」
「立ち往生?」
私は眉をひそめた。
「大雪で高架道路が全面封鎖され、降りられなくなったと。迂回ルートも完全に麻痺している状態だそうです」
ジェスが真っ先に身を乗り出した。
「わお! 皇室の送迎車まで足止めするなんて、この大雪、ずいぶんと空気を読んだ贅沢な演出じゃない?」
「交通麻痺に対して『贅沢』なんて不吉な言葉を使うな」
私が突っ込むと、真紀はすでに最短時間で次の最適解を導き出していた。
「なら、車を分けるわよ」
彼女は顔を上げてディランを見た。
「ディラン、あなたの車はまだ動くわよね?」
「動く」
ディランは上着を手に取り、不敵に頷いた。
「雪の壁に直接特攻でもしない限りはな」
「あんたの車、元々『移動式クラブ兼小型装甲車』みたいなもんだし、こういう悪天候の方がむしろ本領発揮でしょ」
私はたまらずディランを一瞥した。
……正直なところ、ジェスの言う通りだった。
ディランのあの愛車は、ライトを点灯した瞬間、全体の雰囲気が「帰宅」から「未成年が街角でこっそり開いている秘密のパーティー」へと一変する。もし風紀委員が彼の車を検問したら、最初の反応は身分証の提示を求めることではなく、「中にDJを隠していないか?」と尋ねることだろうと、私は常々思っていた。
真紀が素早く人員を割り振っていく。
「私とジェス、ハーヴィーはディランの車に乗るわ。ロイと蘭は元々のルートで帰って。道中気をつけて。星野――」
彼女は私を見て、それからヘートヴィヒを一瞥した。
「あなたが、彼女を送り届けてあげなさい」
――生徒会室全体が、一秒間、完全に静まり返った。
ジェスの目が、その一秒でクリスマスツリーのイルミネーションが一斉に点灯したかのように、爛々と輝き出す。
私は即座に、全力の先手を打った。
「一文字でも鼻歌を歌ってみろ。今すぐこの窓から雪の中に生き埋めにするからな」
「私、まだ一言も喋ってないのにぃ!」
ジェスは全力で無実を装って被害者を演じる。
「喋らなくても、お前の薄汚い脳内は理解しすぎているつもりだ」
「それは理解じゃなくて、ただの偏見っていう名の差別だよ!」
「いいや、長年の経験に基づく正当な防衛(警戒)だ」
真紀は私たちの方で繰り広げられる低レベルな茶番を完全にスルーし、ただ極めて平然としたトーンで一言付け足した。
「雪がひどいから、安全運転でゆっくり走りなさい」
私は彼女を見た。
「……真紀。一瞬だけ、私のことを心配してくれてるのかと思ったぞ」
「明日の朝、副会長の『交通事故報告書』を余計なタスクとして処理する羽目にならないか心配しているのよ」
「よし、やっぱりいつもの味だ。その冷徹さこそが実家のような安心感がある」
ヘートヴィヒは傍らに立ち、静かにマフラーを整えていた。
彼女は多くを語らず、私が視線を向けた時、ただとても控えめに、上目遣いで尋ねてきた。
「……ご迷惑では、ありませんか?」
あまりにも真面目で、どこか不安げな問いかけに、私は一瞬どう返せばいいかわからなくなった。
私は小さく咳払いをして、視線を逸らす。
「迷惑なわけないだろ。まさか、この大雪の中を歩いて帰るつもりだったのか?」
「っ……」
ジェスが後ろで小さく「ひゅ~――」と口笛を鳴らすような声を上げた。
私は振り返るのも面倒になり、机の上の紙くずを丸めて直接彼女の方へ投げつけた。彼女はケラケラと笑ってそれを躱し、ディランの方へすり寄っていく。
「ほらほら行くよ、移動式クラブが発車するよー!」
「変な名前で呼ぶな」
ディランが不機嫌そうに眉をひそめた。
「だって本当にそう見えるんだもん」
「これ以上言ったら、真ん中の席に監禁するからな」
「それ、罰じゃなくてただの公開処刑じゃん!」
ハーヴィーはすでに自分の荷物をまとめ、ドアの傍らで静かに待っていた。
ロイと蘭も帰る準備を進めている。ロイにいたっては、鞄のジッパーを閉める最後の瞬間まで、明朝提出すべき総括表が収められているか確認を怠らなかった。こういう偏執的なまでの男だからこそ、あの地獄のような財務のポジションで生き残れるのだろう。
数分後、オフィスはついに完全な静寂に包まれた。
そこには、微かな人の体温と、紙の匂いだけが取り残されていた。
室内の明かりを消す直前、私は振り返り、あの長い机を一瞥する。
ほんの数時間前まで、ここは各委員会から投げつけられた厄介事、水増しされた予算請求、急造の補足資料、修正に次ぐ修正、そして正気を疑う進行表で埋め尽くされていた。それが今や全てが片付き、ファイルは整然と積み上げられ、まるで最初から何もなかったかのように澄ましている。
だが、そんなわけがない。私は知っている。
――今年は、本当にここで終わったのだ。
あのめちゃくちゃで、死ぬほど面倒で、全員を道連れに心中しかねなかった未処理タスクの群れ。それらは今夜、ついに私たちの手によって一冊ずつのファイルへとねじ込まれ、完結の烙印を押された。
まさに、奇跡の所業。
そして同時に、立派な労働災害(労災)でもあった。
生徒会室の一歩外に出ると、雪は先ほどよりもさらに勢いを増していた。
容赦のない極寒の空気が正面からぶつかってきて、私は無意識に首をすくめる。廊下の外の街灯が雪を照らし、刺さるような白さを放っていた。
駐車スペースでは、すでにディランの愛車がエンジンをアイドリングさせており、遠くからでもジェスの賑やかな声が響いてくる。さっきまで死にかけていたくせに、残業が終わった途端にこれだ。やはりあの女は、ゴシップと高カロリーのハイブリッド駆動で動いているに違いない。
真紀が先頭を歩き、振り返って全員がそれぞれの帰路につくのを見届けている。その背中は、難民を安全に戦闘区域から脱出させる現場指揮官のようだった。ただ、戦闘区域が生徒会室で、難民が私たちというだけだ。
私が駐輪場からバイクを引き出すと、ヘートヴィヒはすでにその傍らで静かに佇んでいた。
暗い夜色の髪に、そしてその華奢な肩に、白い雪が舞い落ちていく。彼女は小さく手を上げ、それを優しく払い落とした。何気ない、ごく自然な仕草のはずなのに、なぜかこの猛吹雪さえ彼女には手出しできないのではないかという、奇妙な錯覚を抱かせる。
私はヘルメットを彼女に差し出した。
「しっかり被れよ」
「……はい」
彼女はそれを受け取ると、少し俯きながら顎紐をパチンと締めた。
私も自分のヘルメットを被り、バイクに跨ってセルを回す。重低音の利いたエンジン音が、雪の夜の静寂にやけにはっきりと響き渡った。ヘートヴィヒは私のすぐ隣に立ち、短い間私を見つめてから、流れるような動作で後部座席へと腰掛けた。
分厚いコートとマフラーに阻まれて、多くの五感は冬の寒さに塗りつぶされてしまう。
――だが、どうしても消せない感覚があった。
彼女が体重を預けた瞬間、車体がごくわずかに沈み込む感覚。
彼女の細い指先が、躊躇いがちに私の腰へと回され、ぎゅっと服を掴んだその瞬間。
ヘルメットのシールドに雪が当たり、ほとんど無音に近い微かな音を立てる様子。
そして。
脳ミソが消し炭になるほど疲弊しているはずなのに、こういう些細な瞬間に限って、異常なほどうるさく脈打つ私の心臓の音。
私はハンドルを強く握り締め、前方のはるか白く霞んだ夜道を真っ直ぐに睨みつけた。
「しっかり掴まってろ」
「ええ……」
ヘートヴィヒの声が後ろから聞こえた。
ヘルメット越しだというのに、妙に近く、そして酷く優しく響いた。
少し前方では、ディランのあの自己主張の激しすぎるヘッドライトが雪原を切り裂き、真紀、ジェス、ハーヴィーを乗せて滑り出していった。ロイと蘭もまた、それぞれの方向へと去っていく。
夜のキャンパスは雪と共にしんしんと静まり返り、まるで世界全体が息をひそめて、舞台の主役を私たちに譲り渡してくれたかのようだった。
そして最後に、私とヘートヴィヒが残された。
遮るもののない、この純白の雪の世界に。
私は冷たく澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込み、そっとスロットルを回した。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




