180.見積もりだ、ふっかけろと言っていない 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
顔を上げると、生徒会には属していないはずの三人が、堂々と生徒会オフィスを占拠していた。
ジェスは窓際の椅子に骨抜きになったように斜めに座り込んでいる。
Dはキャビネットの横に寄りかかり、装甲車を無理やり人型に圧縮して制服に詰め込んだような威圧感を放っている。ハーヴィーは反対側に座り、小さな金属製のパーツボックスを分解すらしていて、ここが生徒会室ではなく自分の臨時メンテナンス台であるかのような平然とした顔をしていた。
なぜ生徒会のメンバーでもないこの三人が、こんなにも自然にこの空間に生え揃っているのかは謎だが、来てしまったからには仕方ない。
私一人だけが苦海の波間で溺れ続けるなんて、絶対に許されない。
私は書類をバンッと机に叩きつけ、顎をしゃくった。
「お前ら三人、授業外のヘルプだ」私は言った。「期末に加点してやる」
ジェスが即座に唇を尖らせる。
「職権乱用」
「褒め言葉として受け取っておく」
私はすかさず返した。
Dはあっさりと肩をすくめた。
「私は構わない。どうせ全員揃わないと車を出せないしな」Dは言った。「暇つぶしだ」
最高だな。こういう義理堅い悪友は嫌いじゃない。 特に、私が過労死しそうな時に、制度と公文書の泥沼からついでに引き上げてくれるような奴は。
ハーヴィーが目を上げた。相変わらず、銃弾と引き金と、人類はなぜこうも面倒なのかについて思考し続けているような顔だ。
「手伝えることならやる」ハーヴィーは言った。「俺は今、アカリの専属ガンスミスだからな」
私は彼を一瞥した。
「理系って銃の作り方まで教えるのか?」
「いや」ハーヴィーは顔色一つ変えずに答えた。
「独学だ」
「『独学』って言葉を、優等生のレポートに書くべき美徳みたいに言うな」
「アカリにとって、彼女の機嫌を損ねないレベルに銃を調整できることは、すでに技術者倫理の一環なんだ」
「下院の人材育成方針ってマジで怖い」ジェスが舌打ちをした。「普通は資格を取るために勉強するのに、あんたたちは合法スレスレを歩く訓練も一緒にやってるんだもん」
「生存スキルと呼べ」
私は彼女を訂正した。
「刑法概論の前日譚でしょ」ジェスが言う。
私は彼女を無視して、真紀から押し付けられたばかりの書類の束を広げた。 そこには、競技用機材、音響のレンタル、医療支援、動線封鎖、観客の誘導から仮設施設の申請に至るまで、びっしりと文字が書き込まれていた。これを見るだけで、人類という種族は集まってイベントを企画しようとした途端、必ず災害を引き起こすようにできているのだと痛感する。
私は最初の一枚を抜き出し、直接ジェスに手渡した。
「ジェス、放送委員のところに行って、大会用のレンタル音響の見積書を確認してこい。できれば今日中に回収してほしい」
私は一拍置き、最も説得力のある後半のセリフを付け足した。
「さもないと、ロイが本当に発狂する」
ジェスは少し嫌そうな顔を作ろうとしていたが、ロイの名前を聞いた途端、表情が少しだけ引き締まった。
無理もない。普段のロイは数字をバターのように捏ね回す人型収支表だが、予算の項目に一つでも空白があれば、精神レベルで災害早期警戒システムへと進化する。それは単なる怒りではない。文明崩壊前の最終警報だ。
「……わかった」ジェスは立ち上がり、書類をひったくった。
「別にロイが怖いわけじゃないよ。ただ、誰かの瞳孔の焦点が合わないまま、机の上でリアルタイム演算が始まるのを見たくないだけ」
「まるでそんな事故が起きたことがないみたいな言い方だな」私は言った。
「二回起きてる」
蘭が横から淡々と補足した。
蘭はそう言い終えると、天気予報でも読み上げるような平坦な口調のまま、再び手元の動線草案の整理に戻った。
私は二枚目を抜き出し、Dに向き直った。
「D、保健委員のところに行って、大会期間中の薬品と医療支援の状況を確認してくれ。同じく、金がかかるものがあれば、その場で申請書と見積もりを書かせろ」
Dは書類を受け取り、二度ほど視線を落とした。
「了解」
最後の一枚をハーヴィーに渡す。
「ハーヴィー、環境委員と大会期間中の仮設トイレとゴミ箱の設置場所、それから数を確認してくれ」
ハーヴィーは視線を落とし、相変わらず寝起きの計器の数値のような平坦な顔で言った。
「わかった」
「ついでにゴミの回収頻度も確認しろ。本番で観客より先にゴミ箱が爆発するのは御免だ」
「了解」
ハーヴィーの頷き方はあまりにも頼もしく、一瞬感動しそうになったほどだ。やはり、アカリのそばで生き延びている人間は、基本的に頭が良いか、反応が速いかのどちらかだ。あるいは、その両方か。
三枚の書類を分配し終え、私はようやく自分の魂が死の淵から少しだけ這い戻ってきたのを感じた。 そして私は心置きなくソファに向かい、ついに棺桶を見つけた死体のように、真っ直ぐに横たわった。
「で、あんたは何するの?」書類を抱えたジェスが聞いた。
私は腹の上で両手を組み、目を閉じ、人生を悟った後のような静かな口調で言った。
「私は少し寝る。おやすみ」
オフィスが二秒間、静まり返った。 その二秒の静寂はとても尊く、世界がついに傷病者を労わることを学んだのかと錯覚しそうになるほどだった。
三秒目、バシッという音と共に、一枚の書類が私の顔面に被せられた。
目を開け、顔から紙をどかすと、ソファの横に立つ真紀が見えた。その表情は冷酷なまでに平坦だった。
「九島真紀」私は言った。「傷病者に対する鈍器での攻撃は、学生自治の精神に反するんじゃないか?」
「鈍器じゃないわ。日程調整表よ」真紀は言った。「それに、あなたは寝るんじゃない。昨日遅れた分の仕事を終わらせるの」
「昨日の夜は警察署で過ごしたんだぞ」
「だから今日、あなたは生きて仕事ができているんでしょ」
「この組織の人間の使い方は本当にブラックだな」
「生徒会の運営効率に対するお褒めの言葉、感謝するわ」
私は真紀を睨んだ。
真紀も私を見下ろした。
その顔は相変わらず冷静で、整っていて、美しく、どんな事態でもファイルに分類して処理してしまえそうだ。問題は、私が今ひどく疲れていて、真紀は明らかに「昨夜七人のチンピラを人生の次のステージへ送り込みかけた」という理由で私を今日の労働から逃がすつもりなど毛頭ない、ということだ。
ヘートヴィヒがすぐそばに立っていた。
彼女は部屋に入ってきてからずっと口数が少なく、生徒会のオフィスが一秒で公的機関からヤクザの派遣センターへ、そしてヤクザの派遣センターから病人搾取の現場へと変貌していくのを静かに見つめていた。
彼女の目が私の顔に落ちた時、私はふと、昨日のめちゃくちゃな傷や、ジェスがさっき口にした「傷だらけの王子とお姫様」というくだらない冗談を思い出した。
そう考えると、妙に居心地が悪かった。
冗談じゃない。昨夜、人間を地面に叩きつけていた時でさえ、こんなに気まずくはなかったのに。
ヘートヴィヒが静かに口を開いた。
「もし星野シモが休む必要があるなら、残りの整理は私が手伝うわ」
その口調はとても安定していた。社交辞令ではなく、どうやって穴を埋めるかをすでに真剣に考えていたような響きだ。
おそらく、彼女は元々ただ横に立って綺麗な背景になるような人間ではないからだろう。昨日の出来事は彼女を青ざめさせたかもしれないが、思考力まで奪い去ったわけではないらしい。
真紀は彼女を一瞥し、頷いた。
「いいわ」真紀は言った。「じゃあ、ヘートヴィヒは名簿の照合を手伝って。委員会の返答、予算項目、会場の要件、この三つを突き合わせて。欠落を見つけたらマークしてちょうだい」
私はソファから上半身を起こした。
「ちょっと待て。なんでこいつが来たいきなり技術的難易度が高い仕事を割り振られて、負傷者の私が生きて残業する係なんだ?」
真紀の返答は早かった。
「あなたがサボって寝るからよ」
「人格差別だ」
「リスク管理よ」
ジェスはすでに壁に手をついて笑い転げていた。
「生徒会って最高。ここ、完全に制度化されたいじめの現場じゃん」
「さっさと出発しないと、放送委員の書類をさらに二ページ追加するわよ」真紀が言った。
「了解でーす、会長殿」ジェスは即座に書類を小脇に抱えて撤退し、ドアのところで振り返って敬礼するのも忘れなかった。
「もし私が今日帰還できなかったら、遺品の中にあるクッキーは蘭に分けてあげて。ロイにはあげちゃダメ。あいつ、カロリー計算しながら食べるから」
「聞こえてるぞ」ロイは顔も上げずに言った。 「ほらね、ホラーでしょ」
Dも書類をポケットにねじ込み、ついでに肩を回した。その姿は、医療物資を運びに行く人のようでもあり、医療物資があるビルを解体しに行く人のようでもあった。
「行くぞ」Dは言った。
私は彼に頷いた。
「文明人らしいドアの叩き方をしろよ」
Dは少し考え込んだ。
「何回叩けば文明人だ?」 「……お前みたいな奴がディテールを気にするなんて、感動したよ」
最後にハーヴィーが立ち上がり、環境委員への確認書をきっちりと折りたたんだ。
「俺も行く」ハーヴィーは言った。 「もし環境委員に何か聞かれたら、生徒会の正式な要請だと答えろ」私は言った。 「なぜ生徒会の人間が来ないのかと聞かれたら?」 「生徒会は忙しすぎて、外部委託を始めたと言っておけ」
ハーヴィーは「ん」と一言だけ応え、その理屈に納得したようだった。
三人が次々と出て行くと、オフィスは一気に静かになった。
何も起きていないわけではない。台風の目の中で、一時的に新しい爆弾が破裂していないだけだ。ロイはまだ表と睨み合い、蘭は動線を修正し、真紀は今後の日程配置をめくっている。ヘートヴィヒは隣の席に座り、私がさっきまで抱えていた書類の束を分類し始めた。
その光景を見ていると、ふと奇妙な錯覚に陥った。
昨日、私は警察署で危険人物として管理されていたのに。今日は生徒会のオフィスで、校内の外部委託労働者に仮設トイレとゴミ箱の配置場所を聞きに行かせている。
人間社会の秩序というものは、時に滑稽なほど脆い。
私は眉間を揉み、無理やりソファから立ち上がって、椅子を引きずりながら机に戻った。 ヘートヴィヒはすでに三色の付箋を分け終えており、顔を上げて私が戻ってきたのを見ると、手元の動きを止めた。
「寝るんじゃなかったの?」ヘートヴィヒが聞いた。 「そのつもりだった」私は言った。「だが、生徒会は人体のシャットダウンを許可してくれないらしい」
ヘートヴィヒは伏し目がちになり、笑いを堪えているようだった。 ただ、その口角の上がり方はとても淡く、短く、昨夜の脳震盪の後遺症が見せた幻覚かと思うほどだった。
「じゃあ、これを」彼女は半分ほど整理された表を押しやってきた。「委員会の返答と元の要望を一度突き合わせておいたわ。ここに重複申請が二件、数量が不自然なものが一件、それから……内容の問題じゃなくて、単に字が汚すぎるだけじゃないかと思うものが一件」
私は視線を落とし、沈黙した。
「……お前、私よりこの紙の山で生きていくのに向いてるな」 「褒め言葉には聞こえないわね」 「今の私は精神状態が最悪だから、褒め言葉に一番近いものを出力するだけで精一杯なんだ」
ヘートヴィヒは私を見つめ、二秒経ってから、とても静かに言った。
「じゃあ、とりあえず受け取っておくわ」
私は少し呆気にとられた。
奇妙な感覚だった。彼女が何か驚くようなことを言ったからではない。あまりにも自然にそう言ったからだ。まるで昨夜のあのめちゃくちゃな騒動が、彼女を遠ざけるどころか、より堂々と私の日常の中に足を踏み入れさせたかのように。
まずいな。
私は本当に疲れすぎているらしい。でなければ、この程度の会話に少しの危険を感じるはずがない。
真紀は顔を上げないまま、淡々と口を開いた。
「星野シモ」
「なんだよ」
「これ以上書類を見つめて呆けているなら、期末の加点の約束は無効にするわよ」
私は一瞬で覚醒した。
「真紀、お前って奴は本当に他人の急所を握るのが上手いな」
「ありがとう」
「褒めてない」
「知ってるわ」
横でロイが新しく整理した予算のページをめくり、裁判官の判決のような平坦な声で言った。
「音響、医療、環境委員。この三項目のうち、今日中に二つ戻ってくれば、夜の表の再編成は間に合う。戻らなければ、俺は徹夜だ」
「まるで誰かがお前の徹夜を惜しんでくれるみたいな言い方だな」私は言った。
蘭が顔を上げ、私を一瞥した。
「真紀は惜しむよ」
「……反論できない」
オフィスに短い笑いが起きた。軽く、小さなものだったが、昨夜から私の骨の隙間に残っていた冷気を少しだけ吹き飛ばすには十分だった。
私は頭を下げ、書類にチェックを入れ始めた。私がマークし終えた分をヘートヴィヒが受け取る。その連携はとても自然で、まるで私たちが元々こうして並んで仕事をする運命だったかのように。
彼女の指先が紙の角を擦る時、私の手の甲との距離はひどく近く、その一瞬の体温を感じ取れるほどだった。
私は視線を上げて彼女を見た。
ヘートヴィヒも私を見ていた。
「どうしたの?」彼女が聞いた。
「いや、なんでもない」私は視線を戻した。「ただ確認しただけだ。昨日の夜の騒動で、あんたが退学するほど怯えてないかどうかをな」
彼女は半秒ほど静かになった。
「怯えてないわ」ヘートヴィヒは言った。「ただ、あなたが私が思っていた以上に……大人しくルールの中で生きるような人間じゃないってことがわかっただけ」
「高評価には聞こえないな」
「そうじゃないとも言ってないわ」
私は彼女を見つめ、最後は堪えきれずに低く笑い声を漏らした。
「やってくれる」私は言った。「なら、今日は早く仕事を覚えることだな。私のそばにいるなら、最初の授業はルールを守ることじゃない。ルールが爆発する前に、どうやって出口を見つけるかだ」
ヘートヴィヒはすぐには答えず、ただ次の書類を私の前に押しやった。
「なら、教えてちょうだい」彼女は言った。
私はその紙を見て、もう一度彼女を見た。
……まあいい。
元々はソファで少し寝るつもりだったのに、結局は机の前に戻ってきてしまった。真紀の監視、ロイの予算、蘭の動線、そしてヘートヴィヒの異常に静かでありながら妙に存在感のある同伴のもとで、この馬鹿げた大会のために世界の尻拭いを続けることになった。
生徒会という場所には、やはり休息など存在しない。
人間を一度ぶっ倒してから、どの角度で使い続けるかを決めるだけの場所だ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




