179.身元引受人 3
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
ヘートヴィヒが私に続いて生徒会のオフィスに戻ってきた。
ドアを開けた途端、ゴシップを嗅ぎつけるジェスの目が輝いた。
「あららら――」
彼女は椅子から飛び上がる勢いで、口ではご丁寧に、音程も良心も浮遊しているような歪な結婚行進曲をハミングし始めた。
「顔に傷を持つ王子様が、可憐なお姫様を連れ戻してきましたよ――新郎新婦の入場です――」
私は鞄を下ろす暇もなく、直接彼女の額に手刀を落とした。
「黙れ」
パシッという乾いた音が響いた。副会長による、校内の低俗な娯楽活動に対する即時是正精神に満ちた一撃だ。
「痛っ!」ジェスは頭を抱えて半歩しゃがみ込んだが、口ではまだ命知らずな笑みを浮かべていた。
「えー、逆ギレしないでよ。さっきの雰囲気、マジでそんな感じだったじゃん――」
「これ以上ふざけたら、フローチャートの山に埋めて二度と出られないようにしてやる」
「王子様、こわーい」 「ジェス」 「はい」 「黙れ」 「了解――でも脳内BGMの自由は保留します」
もう一発蹴りを入れてやろうかと思ったが、視界の端に映ったものを見て、私の動きは強制的に停止させられた。
ヘートヴィヒが、本当に顔を赤くしていたからだ。
火がついたような大げさなものではないし、少女漫画のように一目でわかるような赤でもない。ただ、元々色白の彼女の顔に、淡く薄い層が静かに浮かび上がっていた。まるで冬の朝の光が雪面に落ちた時、誰かがそこにあってはならない暖色をそっと塗ったかのように。
よりによって、その程度の赤みが一番致命的だった。演技には見えなかったからだ。
私は完全にフリーズした。
昨夜、彼女が連れ去られそうになった時は、ここまでフリーズしなかった。今朝、廊下で彼女の指先が私のガーゼのそばで止まった時も、心拍数が一拍狂っただけだった。
だが今、生徒会という人が大勢いる場所で、ジェスの「新婦」という言葉が落ちた途端、ヘートヴィヒが本当に顔を赤らめるなんて―― これは公然たる副会長の業務量増加だ。
「……お前ら、いい加減にしろ」
私はできるだけいつもの不機嫌な口調を装おうとしたが、残念ながら語尾が少しブレてしまった。ジェスはそれを聞いてさらに楽しそうに笑い、Dは直接拳を口元に当てて、隠しきれない押し殺した笑い声を漏らした。
「星野」Dがゆっくりと口を開いた。教育的意義のある事故現場を見物しているような口調だ。「お前の今の顔、昨夜警察署で調書を取られてた時より見物だな」
「お前、昨日は現場にいなかっただろ」
「想像はできる」
「その想像力は、社会の役に立つことに使え」
「たとえば、あの七人のクズをもう一度殴るとか?」
「いや」私は冷ややかに彼女を見た。「ジェスの口を縫い合わせるとかだ」
「えっ、それ不公平じゃない!?」ジェスが頭を抱えて抗議した。「ヘートヴィヒが勝手に反応しただけで、私は現場の状況を誠実に実況しただけなのに!」
ロイは机の横に座り、永遠に終わらないかのような経費と修正伝票の束を整理していたが、ここでようやくペンを置き、私を見て、それからヘートヴィヒを見た。組織の不要な感情の漏出を長年処理してきた男性財務担当者らしい平坦な表情だ。
「もし生徒会のオフィスを結婚式場に改装するつもりなら、先に会場変更申請書を提出してくれ」彼は言った。「事前に却下しておくから」
蘭は彼の横に立ち、新しい動線と機材リストの最終確認を行っていた。彼女はその言葉を聞いて、目尻を微かに動かした。おそらく笑っていたのだろうが、総務としての教養でその笑みを表には出さなかった。
「ロイ」蘭は静かに言った。「あんたの言葉も大して自重してないよ」
「俺のは予防的な行政介入だ」ロイは堂々と答えた。「今の雰囲気からして、生徒会内部で何らかの追加イベントが発生しそうだからな」
「お前ら、今日は随分と口数が多いな」私は鞄を机に置き、思わず歯軋りをした。「昨夜あの七人を殴っただけじゃ足りなくて、帰ってきてから身内にまで刺されなきゃならないのか?」
ハーヴィーはずっと口を挟まず、別の場所に座って私を見ていた。正確には、私の顔のガーゼを見て、それからヘートヴィヒを見て、また私を見た。その視線は平坦だったが、「さっきドアの外で何があったかは大体察しがついているが、わざわざ口に出すのは面倒だ」というような恐ろしい冷静さがあった。
最後に、彼は淡々と一言だけ発した。
「少なくとも今のところ、昨夜脳みそまで殴り飛ばされたわけじゃなさそうだな」
「ありがとう、今日聞いた中で一番褒め言葉に近いセリフだ」
「褒めてるんじゃない」ハーヴィーは言った。「生徒会がまだ正常に機能するかどうかを確認しているだけだ」 「お前ら、私のこと消耗品か何かだと思ってないか?」 「他に何があるの?」ジェスが即答した。
私が振り返って睨むと、彼女はすぐにDの背後に半歩隠れ、安全圏で死を弄ぶ常習犯のような笑みを浮かべた。
そんな騒がしく、全く厳粛さのない野次馬騒動の中で、真紀だけはずっと無言だった。
彼女は机の後ろに座り、私たちを見ていた。
参加しない。 止めない。 態度も示さない。
その沈黙はいかにも彼女らしかった。現場の状況を誰よりも先に見抜いていながら、あえてカードを裏返さず、すべてが適度に発酵するのを待ってから、最も手っ取り早い方法で本題に切り込むのだ。
次の瞬間、彼女は本当にそうした。
書類の束が、私の前に押しやられた。軽くもなく、重くもない。「新郎新婦の入場」などという低俗な茶番劇を、生徒会の日常へと強制的に引き戻すのにちょうどいい力加減だった。
私は視線を落とした。
代表チーム選抜の修正表、風紀調整の追加版、機材受け取りの時間割確認書、そして赤ペンで重要項目が丸で囲まれた出欠調査表。
……上等だ。 ラブコメはここまで。これより奴隷労働のコーナーに入ります、というわけか。
私は顔を上げて真紀を見た。彼女も私を見ていた。その平坦な視線は、「人は連れ戻した、顔も赤らめた、さあ仕事の時間よ」と言っているようだった。
この女は時々、歩く冷水機のように見える。
「何を見てるの?」彼女は口を開いた。声に波はなかった。「生きてるんでしょ?」
「会長、その発言、再会の感動ってもんが微塵もないんだけど」
「三十分前に会ったばかりよ」
「でも私は今、大規模な感情事故の現場から帰還したばかりなんだぞ」 「なら、今度は小規模な文書事故の現場に直面する番ね」真紀は一拍置き、さらに一刀を叩き込んだ。「副会長の職務範囲内の」
私は彼女を二秒ほど見つめた。そして不幸なことに、自分がこの言葉に対して何の反論もできないことに気づいた。
「……ああ、なるほど」
私は椅子を引いて座り、書類の束を引き寄せた。徹夜明けで怪我をしていて、オフィスの全員に見世物にされた女に相応しい絶望感を込めて言った。
「さっきヘートヴィヒを連れ戻したつもりが、自分の作業スペースに連れ戻されただけだったってわけか」
「ようやく自分の主要任務を理解したか?」ロイが聞いた。 「今すぐこの出欠調査表を紙飛行機に折って、お前の財務諸表に突っ込んでやりたい気分だ」
「なら、まずは用紙使用申請書を通せ」 「……男性財務担当者なんて、天罰が下ればいいのに」 「ありがとう、慣れてる」
ヘートヴィヒはずっと私のそばに立って、そこから離れようとしなかった。
そのこと自体が、すでに存在感を放っていた。
彼女はジェスのようにどこへ行っても騒動を引き起こすタイプでもないし、Dのようにそばに立つだけで自然と空間を占有するタイプでもない。
彼女の存在感はもっと静かだが、静かであればあるほど無視するのが難しかった。特にさっきのドアの外での一件の後では、彼女が私の斜め後ろに立っているだけで、オフィス全体の空気に何か言葉にできない層が一枚加わったような気がした。
ジェスが最初にそれに気づいたのは言うまでもない。彼女は何か言いかけたが、蘭に静かに一瞥され、ようやく空気を読んで口を閉じた。代わりに、私とヘートヴィヒを往復するその顔には、やたらと燦爛たる笑みが浮かんでいた。
真紀は相変わらず何も言わなかった。
彼女は別の書類を開き、視線をゆっくりとヘートヴィヒの上に滑らせ、最後に私がまだペンを入れていない空欄の表に留めた。
「これ以上空白の欄を見つめて呆けているなら、今日の昼休みはなしよ」
「書類の処理をしながら、私の精神の散漫度合いを正確に監視するなんて、どういうマルチタスクだ?」
「あなたの散漫さが明白すぎるからよ」
「昨日の夜、警察署に入ったばかりなんだぞ」
「だから、すでに十分慈悲をかけているわ」
「どの辺が慈悲なんだ?」
「先に反省文を書けとは言ってない」
……くそっ。 確かにそれは慈悲だ。
私は観念してペンを握り、最初の欄を埋めようとした。その時、ヘートヴィヒが静かに口を開いた。
「もしよければ、手伝うわ」
オフィス全体が半秒ほど静まり返った。
私は顔を上げて彼女を見た。ジェスの目が再び輝いた。Dは直接笑みを顔に浮かべ、隠そうともしなかった。ロイは眉をひそめ、蘭は書類から微かに視線を外し、ヘートヴィヒの言葉が礼儀なのか、補償なのか、それとも別の何かなのかを確認しようとしているようだった。
私が答える前に、真紀が先に尋ねた。
「どの部分を手伝うつもり?」
その質問は極めて事務的だった。目の前の皇女がなぜ自ら私のそばに立ち、そんなことを言い出したのかを観察するのではなく、本当にただ仕事の割り振りを行っているだけかのような事務的さだ。
ヘートヴィヒもその質問に怯むことはなかった。
「記録の整理、名簿の書き写し、各窓口の条件との照合、どれでもできるわ」彼女は言った。「昨夜の件では皆さんに迷惑をかけた。もし今私に分担できることがあるなら、少なくともただここに立っているだけにはしたくない」
私は何か言おうとしたが、言葉は喉元でつかえた。
彼女の言葉が、単なる建前ではなかったからだ。少なくとも、全てが建前というわけではない。
そこには彼女が普段見せる体裁の良さも確かにあったが、その底にはもっと直接的なものが混ざっていた。彼女はただ連れ戻され、守られ、そしてまた送り返されるだけの存在になりたくなかったのだ。何かをしたい、たとえそれが書類の整理であっても、ただそばで見ているよりはマシだと。
それは……正直なところ、かなり厄介だ。
謝罪する皇女というだけでも十分に手強いのに。謝罪した上で自らポジションを埋めに来る皇女なんて、他人の好感度処理コストを悪意を持って引き上げているようなものだ。
真紀は少し黙り、最後に比較的きれいな記録表の束を抜き出し、机の横の空いたスペースに押しやった。
「なら、ここに座って」彼女は言った。「まずはシモと一緒に、昨日の午後以降に回収された追加書類の名簿を一度照合して。欠落、不一致、重複申請、すべてマークしてちょうだい」
ヘートヴィヒは頷いた。
「わかった」
彼女が座った位置は、ちょうど私の隣だった。
正面でもなく、遠く離れているわけでもない。私が少し首を傾げれば、彼女が伏し目がちに書類を整理する姿が見える距離だ。銀白色の長い髪が肩から少し滑り落ち、制服の襟元を掠める。ペンを握る手つきは安定しており、その動作は、こんな煩雑な書類仕事でさえ彼女にかかれば何かの教養ある儀式のように処理されてしまうかのようだった。
私は無理やり視線を目の前の空欄に引き戻した。そうしなければ、今日のこの表はおそらく昼休みになっても真っ白なままだろう。
ジェスが椅子を少し引き寄せ、Dのそばに寄り、自分では小声のつもりらしいが実際にはオフィス中に聞こえる声で呟いた。
「終わった。皇女様が副会長の表の照合を手伝い始めたよ」
Dもそれに合わせて低い声で返した。
「これを何て言うんだ? 未来の共同作業か?」 「それをもう一言でも口にしたら、午後の機材搬入も二人でやってもらうって言うのよ」
真紀は顔も上げずに判決を下した。ジェスとDは同時に口を閉じた。
私は思わず笑いそうになった。
上等だ。やはりこの世界には、低俗なゴシップ欲を制裁するための、より高度な暴力が必要なのだ。
しかし、その静寂は十秒も続かなかった。ヘートヴィヒが突然、一枚の表を私の手元にそっと押しやり、指先をある欄に置いたからだ。
「ここ」彼女は低い声で言った。「名前が一つ抜けてるわ」
私は一瞬呆気にとられ、視線を落とした。 本当に抜けていた。
「……ああ」 「あと、ここも」彼女は別のページをめくった。「同じ人が二回申請してる。学籍番号が一桁逆になってるだけ」
私は二秒沈黙した。さらに二秒沈黙した。
そしてたまらず、首を傾げて彼女を見た。
「あんた、処理早すぎないか?」
ヘートヴィヒも私を見た。表情は穏やかだった。
「あなたが疲れすぎているのよ」 「その言葉、一理あるように聞こえるけど、すごくムカつくんだが」 「あなたは理にかなった言葉が好きだと思っていたけれど」 「理にかなっていても、こんなに簡単に勝たれるのは好きじゃない」
彼女の口角が微かに動いた。その小さな笑みは短く、控えめで、私にしかわからない勝利宣言のようだった。
くそっ。 この女、本当に悪知恵をつけてきている。
気のせいかもしれないが、彼女の言葉に私が半秒ほど固まった時、向かいに座っている真紀が視線を上げて一瞬こちらを見たような気がした。
言葉はない。 表情もない。 ただ、極めて短い一瞥だけ。
だがそれゆえに、余計に邪推することができなかった。
私は即座に頭を下げ、視線を再び表に叩きつけた。
仕事。 そうだ、まずは仕事だ。少なくとも書類は顔を赤らめたりしないし、廊下で私の顔のガーゼに触れたりもしない。
……そう考えると、書類の方がよっぽど可愛い。
そして次の瞬間、ヘートヴィヒが三枚目の紙を押しやってきた。
「この欄も間違ってる」
私は歯を食いしばった。
「今日は借りを作りに来たのか、それとも副会長の自尊心を打ち砕きに来たのか?」 「両立できないかしら?」
私は猛然と振り向いて彼女を見た。
彼女は相変わらずの顔だった。平穏で、端正で、さっきの棘のある言葉が自分の口から出たものではないかのように無邪気だった。
私は目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
上等だ。厄介事を連れ戻した後、その厄介事が自ら隣に座ってくるというのがどういうことか、今ようやく理解した。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




