02. 乾坤一擲(けんこんいってぃ)1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
私がそう聞いた途端、大学兵はなんとも微妙な顔をした。
「ようやくまともな判断をしてくれた」と「喜ぶのはまだ早いんじゃないか」——その二つの間を、ちょうど等分に割ったような顔だ。
指はまだコンソールに置いたまま、レンズには赤い警告の点滅が映り込んでいる。
「あります」と彼は言った。「艦尾第三甲板に緊急脱出艇が。理論上は、まだ使えます」
理論上。
この三文字が、私はいちばん嫌いだ。
連邦の「理論上」は、だいたいの場合「ご武運を」と同じ意味だから。
続きを聞こうとする間もなく、帝国の第一波反撃が来た。
「来そう」じゃない。
本当に来た。
メイン投影の右側で、生理が狂ったみたいに真っ赤に重なっていた警告ラインが、ちょうど全部この艦の輪郭に重なりきったその瞬間——艦全体が、左へ思いきり跳ね上がった。
轟————ッ!!
音じゃない。
衝撃だ。
高エネルギー火力に艦全体を正面から張り倒された、骨まで悲鳴を上げるような振動。艦橋前方の装甲隔壁が一面へこみ、外層偏向シールドがハンマーで叩き割られたガラスみたいに青白い亀裂を散らして砕け、頭上の照明が一瞬全滅し、予備電源が入った直後から狂ったように点滅し始める。
私は思いきり吹き飛ばされ、肩を戦術テーブルの角に思いきりぶつけた。一瞬、先祖代々の悪口を全部まとめて吐き出しそうになるほど痛かった。
……クソ。
痛い。
帝国の連中、本当に手加減しない。
後ろの連邦兵はもっとひどかった。二人が転がって壁に叩きつけられ、一人が固定金具に額をぶつけて血を流し、もう一人は俘虜の監視をしていたところを、俘虜ごとまとめて転倒した。私の部屋の大掃除が失敗したところに地震が来たみたいな、カオスな光景だった。
艦橋左側の制御パネルが一列、まとめて弾け飛ぶ。
火花が激しく、鮮やかに噴き出した。
ちょうどその近くに跪いていた帝国クルーの一人が、噴き出した高温破片に上半身を直撃される。首から上が悲鳴を出しきる前に、そいつはそのまま傾いて倒れた。血が傾いた床を流れてきて、冷却液と焦げた絶縁ゴムと混ざり合い、安い給食をこぼしたみたいな色になった。
……最悪。
靴の裏、また洗わないといけない。
私は戦術テーブルに手をついて立ち上がった。耳の奥がまだ鳴っている。さっきの奇襲成功でほんの少し浮かんでいた気分は、帝国の主砲が宇宙の塵に変えてくれた。
ただ、向こうは艦の急所を直撃できていない。
つまり第一波は、あわてて修正した後の斉射だ。致命点を完全に狙いきった処刑じゃない。
ということは——
あと数秒だけ、私たちは人間でいられる。
その数秒後には、たぶん破片になるけど。
「損害報告!」
怒鳴りながら、床を転がっていた戦斧を拾い直す。
正直、この状況で艦橋に立って斧を持っているのは、どう考えても間抜けな絵面だ。
でも、なぜか手にこれがあると、少し落ち着く。子守り熊のぬいぐるみを抱かないと眠れない人と、たぶん似たような原理だと思う。ただし私の「ぬいぐるみ」は、人を真っ二つにできる。
大学兵は操作席にしがみついたまま、顔色がきれいに白かった。
「艦首外装甲、損傷率二十七パーセント。偏向シールド、三層崩壊。左舷火器管制アレイ、通信断絶。主通信不安定。人工重力場の揺らぎ、増大……」
報告の途中で、艦橋全体が二度目の近弾でまた揺れた。
直撃じゃない。
でも、それだけにタチが悪い。
近弾というのは、向こうが射角を修正しているという意味だから。
「……それと」彼は歯を食いしばって続けた。「前方第三観測窓、亀裂が入りました」
私は顔を上げた。
本当に入っていた。
分厚い透明観測層の左上の角から、白い亀裂が一本、じわじわ這い広がっている。誰かがガラスの裏で大きな蜘蛛を飼い始めたみたいに。外の戦場を飛び交う青白い砲火、散乱する残骸、横転する艦影が、全部その亀裂で細切れになって見えた。
綺麗といえば、綺麗だ。
私がここで一緒に砕けなければ、という前提つきで。
「全員立て!」私は床にまだ転がっている連邦兵どもに怒鳴る。「吐きたいなら生き延びてから吐け、泣くのも後回し。今すぐ動け!」
言い終えた瞬間、艦橋後方の通路扉が爆発した。
切断光線が扉の隙間から薙ぎ込んできて、ちょうど立ち上がりかけていた連邦兵の腰の横の装甲板を大きく削ぎ落とした。そいつは悲鳴を上げて倒れた。肉まで届いていなかったのは幸いだ。そうでなければ、床にまた踏みたくないものが増えていた。
「帝国艦内警備部隊だ!」誰かが裏返った声で叫ぶ。
振り向いて、私は笑いそうになった。
面白いからじゃない。
宇宙というのが、本当に嫌なことをセット割引で売ってくることに呆れたからだ。
艦橋の扉の外、三人の帝国兵が重装突入装備で掩体伝いに押し込んでこようとしている。さっきの艦艇クルーとは明らかに格が違う。胸当ては厚く、バイザーは狭く、手に持った近距離切断銃と伸縮シールドは、最初から話し合いをする気がない道具だ。
その装備を見た瞬間、胃がぎゅっと縮んだ。
……クソ。
さっきは早まったことを言った。
これ、装甲擲弾兵に近い厄介さだ。
「入れるな!」私は隣でまだ息を整えている連邦兵を一蹴りして掩体に押し込む。「大学兵、船の制御はそのまま続けろ。こっちは私がやる!」
「一人で?」
「じゃあ、あんたがやる?」
「……私は文書処理の方が得意です」
「見れば分かる!」
怒鳴り返しながら、私は飛び出した。
艦橋は狭い。
狭い空間の利点は、相手の装備がどれだけ硬くても、火力を全部展開できないことだ。欠点は、私が距離を詰める前に、蜂の巣にされる可能性も等しく高いことだ。
一人目の帝国兵は私が飛び出した瞬間にシールドを上げ、切断銃口を私の胸に向けてきた。
プロだ。
生憎、今日の私も機嫌が良くない。
わざと右に揺さぶって、銃口を引っ張り出し、床の血水を蹴って死角にスライドで潜り込む。戦斧を下から上へ薙ぎ上げ、膝の関節を狙った。
高周波フィールドが装甲の接合部に噛んだ瞬間、缶切りで鉄板をめくる感触がした。
ガコッ。
開いた。
帝国兵の片脚が外側に折れた。倒れる前に、私は斧刃をシールドの下縁から強引に差し込み、腹部装甲に沿って引き上げた。
血はすぐに出なかった。
先に出たのは、高温の蒸気と、砕けた内張り繊維だ。
一拍おいて、暗い色の血が、切り開かれた装甲の隙間からどっと溢れてくる。
そいつが崩れ落ちるとき、喉から出た音は、壊れかけのポンプみたいだった。
私の頭に最初に浮かんだ感想は:
……この血の飛び方、斧を洗うのが面倒くさい。
二人目が側腹を狙ってきた。
そこで後ろの、脚が震えていて正直見ていられなかった新兵が、ここに来てようやく自分が飾り物じゃないことを証明した。一連射をシールドの縁に叩き込み、貫通はしなかったものの、相手の動きを一瞬崩した。
よし。
成長した。
「突っ立って死を待つ」から、「私が人を殺す機会を作る」まで進化した。
私は逆手から斧の背を、その帝国兵の頭の側面に叩きつけた。
斬るんじゃない。
砕く。
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