163.相変わらずの日々 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
私はオートバイを走らせていた。銀河帝国の第三皇女を後ろに乗せて、銀河連邦首都圏の高速道路を。
本当に最悪だ。
まったく性質の違う、本来なら三つの別々のジョークに分類されるべきものが、どうしてこうも強引に一つに繋がってしまったのか。
夕暮れの首都圏の高架道路は、人工的に飼い慣らされた光の川のように、前方へとどこまでも伸びていた。
上空には絶え間なく行き交う物流航路があり、遠くには高層スカイブリッジと広告ホログラムによって切り刻まれたスカイラインが見える。金を使うのも、その金がどこに消えたのかを人に忘れさせるのも上手い連邦の都市美学は、こういう時間帯に特に際立って見える。
ガラス、光の幕、磁気浮上、巨大なビル群、遠く軍政区に見える低照度の警戒塔。すべてが整然と積み上げられており、まるで誰かが「文明」という二文字をパビリオンに仕立て上げ、ついでに入場料まで取っているかのようだった。
ヘルメットの縁から風が吹き込む中、インカム越しにヘートヴィヒの声が聞こえた。
「あなたたちの首都……きれいね」
私は反射的に「ありがとう。本市は財政赤字と官僚病の共同スポンサーによってお送りしています」と返しそうになったが、思い直してやめた。
「帝国の首都の方が、もっと綺麗でしょ?」私は言った。
インカムの向こうが一瞬静まり、それからヘートヴィヒはあっさりと認めた。
「ええ。皇宮だけを見れば、もちろんそうね」
私はたまらず口角を引いた。
いかにもヘートヴィヒらしい答えだ。
ひけらかすこともなく、変に謙遜することもなく、「水は低きに流れる」と言うのと同じくらい、ごく当たり前のように言い切る。
「でも、帝都アスガルドは皇宮だけじゃないから」
ヘートヴィヒはそこで言葉を止めた。その間はごく短く、親しくない人間ならインカムの遅延だと勘違いする程度だった。だが私の耳には、彼女がある一線の手前で、極めて自制的にブレーキを踏んだように聞こえた。
私も追わなかった。
聞かないでいれば、まだ礼儀のふりができる。一度聞いてしまえば、本当に知りたがっていると認めることになる。
今日はすでに、認めなくてもいいことを認めすぎていた。引き返したこと、人を乗せたこと、面倒だと思いながらも二つ目のヘルメットを差し出したこと。
だから私は、成熟した大人になることを選んだ。
つまり、黙るということだ。
残念ながら、成熟というものはたいてい十秒程度しか持続しない。
「さっき鉑橋街二十六番地って言った時、なぜあんなに反応したの?」
来た。
来ると思っていた。
私はハンドルを握り、前方を流れる車の灯りと誘導線を見つめながら、一瞬インカムが壊れたふりをしようかと本気で考えた。
だが、ヘートヴィヒはジェスではない。ジェスならとりあえず笑って「あー電波悪い」と言うだろう。ヘートヴィヒは違う。彼女はただ静かに答えを待つ。その静けさは、追い立てるより、たいてい圧力がある。
「向かいに住んでるから」私は言った。
言い終えてから、短すぎる、まるで事情聴取に答えているみたいだと思った。
だから一言付け加えた。
「正確に言えば、私と真紀、それにクラスの他の何人かで、二十二番地をシェアしてる」
インカムから、ごく小さな感嘆が聞こえた。
「まあ。ずいぶん偶然ね」
「そうね」私は無表情で前を見た。「本当に、クソみたいな偶然だ」
今ごろ、レオ・ヴィスラン大佐はオフィスで何の前触れもなくくしゃみをしているに違いない。
風邪ではない。
遠くから誰かが、極めて具体的な怨念を、空間を越えて、ピンポイントで彼の報いを呪っているのだ。
こんなに都合よく重なるはずがない。
連邦首都圏はあれだけ広く、行政単位もあれだけ多く、外賓用の居住施設も山ほどある。それがよりによって鉑橋街二十六番地。
もしこれが本当にただの偶然だというなら、私は明日からシュタイナー博士の全薬剤名に付いている、童話じみたサブタイトルに科学的根拠があると信じてやる。
風が左右から抜け、車列が横を滑っていく。
ヘートヴィヒは後部座席でしばらく黙っていたが、不意に言った。
「では、今後もよろしくね、星野中尉」
私は危うく、ハンドルを中央分離帯に突っ込ませるところだった。
「向かいに住むくらいで、私の人生に正式入社するみたいな言い方しないで」
「違う?」
「違う」
「そう」
ヘートヴィヒは、ひどく穏やかに答えた。
その穏やかさが、腹立たしい。
ヘートヴィヒは正面からぶつかってくることもなければ、わざと嫌味を言うこともない。ただ、ごく普通に聞こえる一言を静かに目の前に置いて、こちらが自分の内側で勝手に爆発するのを見ているだけだ。
私は歯を噛みしめた。
「それと、向かいに住むからって、いつでも好きに来ていいわけじゃない」
「分かってるわ」
「分かってるならいい」
「ちゃんとノックはするわ」
……そこじゃない。
この台詞の最悪なところは、ヘートヴィヒの声が本当に協力的に聞こえることだ。挑発でも反論でもなく、「あなたが手順を気にするなら、手順は守るわ」という調子。
くそ。
これでは、私が怒っても子供じみて見えるだけだ。
私は少しスロットルを開け、バイクを高架の出口から鉑橋街あたりの下層道路へと滑らせた。都市の高みの灯りが徐々に住宅街の暖色へと変わり、店舗のホログラム看板も低く、近く、そして人が暮らしている場所らしくなっていく。
おかしな話だ。首都圏という場所は何十億もの人口を抱えているのに、「ああ、ここに人が生きている」と感じさせるのは、たいていこういう半古びた街区だ。
鉑橋街も、そういう場所だ。
士官学校の外縁、家賃は相対的にマシで、補給ストリートも学校も遠くなく、交通もそこそこ。治安も「夜中に一人でうろつかなければ」という条件付きでギリギリ及第点。
要するに、予算に余裕がなく、厄介事は多く、生活の質に不満はあるが財力のない人間が、最終的に現実に蹴り込まれてたどり着くエリアだ。
そして私は今、帝国第三皇女を後ろに乗せて、そんな場所へ帰ろうとしている。
この光景は、想像しただけで脳の血管がうっすら疼く。
角を曲がると、遠くに二十二番地の外灯が見えた。
灯りだけではない。
人もいた。
最初に目に入ったのは真紀だった。
九島真紀は二十二番地の玄関前の階段下に立っていた。手にはコンビニの袋を提げ、袋の口から食パンのパッケージと飲み物の缶が二本のぞいていた。
夜風が真紀の額の髪を揺らし、その立ち方はいつものように、ごく普通で、ごく静かで、ただ誰かの帰りを待っているだけのように見えた。
問題は、真紀が普通であればあるほど、私は死にたくなるということだ。
そういう時、本当に恐ろしいものは、まだ始まっていない。
真紀が顔を上げ、私を見て、それから視線が後ろの座席へと落ちた。
そして、止まった。
爆発音もなければ、派手な稲妻もない。
だが私は誓ってもいい。空気の中で何かが「カチッ」と噛み合う音を聞いた気がした。
終わった。
バイクを止めきる前から、私はすでに自分の葬式の花を白にするか黄色にするか考え始めていた。
「……ああ」
真紀が先に口を開いた。
たった一文字。
だがその一文字に込められた情報量は、人間の感情圧縮技術に関する上級講座を一つ支えるのに十分だった。
私はバイクを止め、ヘルメットを外し、乾いた笑いを漏らした。
「説明できる」
「星野」真紀は私を見た。声は高くなく、むしろ穏やかだった。「あんたがその台詞を言う時点で、たいていもう、状況は良い方向には説明できなくなってる」
……その通りだ。
そこに関しては反論の余地もない。
後ろのヘートヴィヒもバイクを降りた。動作は無駄がなく、さっきまで連邦首都圏の高速道路をバイクの後ろで移動していたのが帝国第三皇女だったとは思えないほど、ごく普通の転校生のように見えた。
問題は、彼女が明らかに「ごく普通」ではないことと、その頭に被っているヘルメットが、よりによってあのヘルメットであることだ。
私は本気で、ヘルメットを奪い返して背中に隠し、そのついでに今日一日分のこの通りの監視カメラを全部叩き壊したくなった。
残念ながら、人は理想だけでは生きていけない。
真紀の視線が、ごく自然にヘルメットに落ちた。半秒だけ止まる。
本当に半秒だ。
だが私にとって、その半秒にかかる圧は、この人生でやらかしたすべての馬鹿な行為を一気に思い出すのに十分だった。
ヘートヴィヒは、非常に礼儀正しく先に口を開いた。
「ヘートヴィヒ・フォン・ヴィッテルスバッハです。これから向かいに住むことになるみたいです。よろしくお願いします」
真紀はヘートヴィヒを見た。
「九島真紀です。よろしくお願いします」
声は普通。
言葉も普通。
礼節も普通。
こういう時の「普通」という二文字は、それ自体が最大の異常だ。
場を和ませようと口を開きかけたその時、二階の窓が「ガラッ」と音を立てて開いた。
「ちょっとちょっとちょっと——マジで!?」
ジェスの声は、近所迷惑も何も考えていないスタングレネードのように、通りに残っていた最後の体面を粉々に吹き飛ばした。
「星野、司令部に行ってくるだけじゃなかったの? なんで帰ってくる時、公主殿下を後ろに乗せてんの!? しかも後ろ!? しかも、そのヘルメット——」
「ジェス、黙れ!」
私は見上げて怒鳴り、あの窓ごと彼女を引っこ抜いてやりたくなった。
ジェスは即座に縮こまった――が、半秒だけだった。
「私はただルームメイトの恋愛事情を心配してるだけで——」
「これは恋愛事情とは関係ない!」
「今の一言が、どう聞いても関係あるって叫んでるけど!?」
本気で死にたくなった。
真紀がその時、小さく息を吐いた。ごく短い時間で現実を受け入れ、それを分類し、これから項目ごとに処理していく覚悟を決めた人間のため息だった。
「とりあえず入ろう」真紀は言った。
その言葉は、私に向けられたものであり、同時にヘートヴィヒにも向けられたものだった。
私は一瞬、言葉を失った。
「え?」
真紀は手に下げていた袋を持ち上げた。表情は依然として冷静だった。
「外は寒い。説明するにしても、路上でジェスに実況させながらやる必要はない」
二階の窓からすかさずジェスの抗議が飛んできた。
「実況なんかしてない! これは歴史的瞬間のライブ証言——」
「ジェス」真紀は顔も上げずに言った。
「……はい、黙ります」
同じ「黙れ」でも、私のそれはストリートファイトで、真紀のそれは判決だ。この差の大きさについて、教育省に抗議したいくらいだ。
ヘートヴィヒは二十二番地を見て、それから通りの向かいの二十六番地を見て、ひどく静かに尋ねた。
「私が今入ったら、迷惑かしら?」
その一言で、私の胸の中で警報が鳴り響いた。
終わった。
この台詞は格が高すぎる。単なる礼儀ではなく、選択権を相手に投げ返しているのだ。
真紀が「迷惑じゃない」と言えば、招き入れることになる。「迷惑だ」と答えれば、二十二番地の器量の狭さを露呈する。
この女、まだ引っ越しも終わっていないのに、どうしてこんな面倒な角度でボールを投げてこられるんだ。
私は真紀を見た。
真紀もヘートヴィヒを見ていた。
二人とも静かだった。
表面上は玄関先の挨拶に過ぎない。だが、私が理解したくない何かが、空気と視線を伝ってじわじわとつながっていくのが分かった。
そして真紀は、ごくわずかに微笑んだ。
それはごく薄い笑みで、知らない者にはただ礼儀正しいだけに見えるものだ。
私だけが知っている。このパターンが出た時、真紀はたいてい本気を出す。
「迷惑なんかじゃないよ」真紀は言った。「星野がせっかく無事に送り届けたのに、温かい飲み物一杯も出さないわけにはいかないから」
私は真ん中に立ったまま、非常に明確で、非常に不吉で、まったくロマンチックではない予感を覚えた。
――修羅場が始まった。
そして私は、運悪くそのど真ん中に敷かれた床だった。
正直に言えば、二十二番地なんてものは、普段見慣れれば大したことはない。
階段は少しくたびれていて、ドアの鍵は時々噛み、玄関の電球は日によって善人のように明るかったり、幽霊屋敷じみて薄暗かったりする。下駄箱はいつも靴でパンパンで、傘立てにはいつも壊れた折りたたみ傘が二本と、誰が買ったか分からないゴルフ用の長傘が一本混ざっている。
要するに、一群の士官学校生が、共同ルールと共同の貧乏さだけでどうにか維持しているシェアハウスだ。
だが問題は、ドアを開けてヘートヴィヒを中へ通した瞬間、二十二番地が「大したことない」では済まなくなったことだ。
何か、本来ここにあってはならないものに、一度照らされてしまったような。
ヘートヴィヒが特別ギラギラしているわけではない。
むしろ逆だ。
彼女が連邦の制服に着替えたからこそ、「本当にここに住んでもおかしくない人間」に見えてしまう。その違和感の方が恐ろしい。
皇室専用で、本来ならガラスケースの中に飾られているはずの儀礼用のナイフが、台所の包丁立てに混ざっているようなものだ。
ナイフそのものは変わらない。
だが、それ一つで台所全体の気圧が変わる。
「お邪魔するわ」
玄関に立って、ヘートヴィヒがそう言った。
短く、礼儀正しく。
それでも、心の中で毒づかずにはいられなかった。
やばい。
第三皇女が私の家の玄関で「お邪魔するわ」って何だよ。
「どうぞ」
真紀が先に応じた。声は落ち着いていた。まるで、私がただのクラスメイトを連れて帰っただけで、統合作戦司令部から帝国の皇女をバイクで鉑橋街まで送り届けてきたわけではないかのように。
真紀はコンビニの袋をテーブルの端に置き、しゃがんで下駄箱の横から新しいスリッパを一足取り出した。
その動作があまりにも自然で、思わず拍手を送りたくなった。
これが九島真紀の怖さだ。
普通の人間なら、こういう場面に直面した時、少なくとも脳が三秒くらいフリーズする。真紀は違う。「客が来た」という事実だけをまず処理し、他の問題は後回しにする。
「新しいやつ。これ履いて。床がちょっと冷たいから」真紀はスリッパをヘートヴィヒの前に置いた。
「ありがとう」
ヘートヴィヒは一瞥すると、ごく自然に靴を脱ぎ、スリッパに履き替えた。
その、ごく普通の「スリッパに履き替える」という行為だけで、馬鹿馬鹿しい考えが頭をよぎった。
――終わった。
この人、本当に中に入ってきた。
二階の手すりから先に顔を出したのはジェスだった。
「うわあ——」
ジェスのその「うわあ」は必要以上に長く、マンション一棟分の空気を引き連れてくるBGMのようだった。
「星野、ちょっと司令部行ってくるだけって言ってたよね? なんで帰りに向かいの皇女殿下お持ち帰りしてんの? 連邦って最近、何かのフェアやってんの?」
「やってない」私はヘルメットを下駄箱の上に置き、硬い声で言った。「それと黙れ」
「半分は黙ってるよ」ジェスは真顔で言った。
「残りも黙って」
「それ、言論の自由に反——」
真紀が顔を上げた。
ジェスはそこで残り半分を飲み込み、不満そうに口を一文字に結んだ。
上等だ。いつもの光景だ。この家の秩序の一部は、まだ無事らしい。
リビングの方から、椅子の脚が床を擦る音が聞こえてきた。
テーブルに座っていたハーヴィーが顔を上げ、まず私を見て、それからヘートヴィヒ、そして下駄箱に置いたヘルメットを見て、半秒ほど視線を留めた。
ハーヴィーは何も訊かなかった。ただ軽く頷いた。
「ようこそ」
他人はまず驚き、それから理解する。ハーヴィーは、まず受け入れ、情報のパズルは後で自分で組み立てるタイプだ。
窓際ではアカリが端末の画面を調整していたが、物音に気づいて振り返った。
アカリはヘートヴィヒを二秒見つめ、その視線はひどくフラットだった。家の中の人口密度と面倒係数を、精密機器で再計算しているような目だった。
「リビングの椅子、足りてる?」アカリの最初の一言はそれだった。
「足りてる」真紀が答えた。
「ならいい」アカリは頷き、付け足した。「もし足りなかったら、私の部屋に折り畳み椅子が一つある」
これが下院のロマンというやつだ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




