161.火中の栗 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
「星野中尉?」
ヘートヴィヒは結局、私を捕まえた。
しかも、徹底的に。
その瞬間、大広間にいた全員――受付カウンターの審査官、立哨の憲兵、先ほどまで盗み見していないふりを必死にしていた勤務兵、さらには横にある二台の警備ドローンのセンサーヘッドまでが、一斉にこちらを向いたような気がした。
私はその場に立ち尽くし、自分が内部告発された潜入スパイになったような気分を味わった。
悲壮なBGMが流れるような、スマートでかっこいい高級スパイではない。
裏口からこっそり逃げ出そうとした矢先に、その場で鼻先を指さされ、フルネームを叫ばれた不運な末端スパイの方だ。
……くそ。
急に田舎に帰って畑を耕したくなった。
先ほどまで私を研究棟へ安全に転送しようとしていた案内役の士官は、肉眼で分かるほど顔色を青くしていた。
それは単なる「面倒なことになった」という表情ではない。「今すぐ背を向けて死んだふりをすれば、来年の人事評価はまだ守れるだろうか」と高速で計算しているような顔だった。
私は彼を一瞥し、驚くべきことに、手を伸ばして彼の肩を叩く余裕すらあった。
「仕事に戻っていいよ」私は言った。声は自分でも驚くほど平坦だった。「あとは私が引き受ける」
こんな義理堅い台詞、たぶん今しか言えない。
何しろ五分後には、間違いなく私が一番のスケープゴートとして前に押し出されるのだから。
士官は非常に複雑な表情で私を見た。何か言いたげだったが、こういう時に何を言っても事態が好転しないことはよく分かっているらしかった。最後に彼はごく浅く頷き、「連邦の加護により、あなたが無事に上の階へ生還できることを祈ります」とでも言いたげな目で、半歩下がった。
これで第一関門が正式に始まった。
審査。
統合作戦司令部のこのエリアが、なぜ高級な入国審査のように作られているのか、私にはずっと理解できなかった。ただの建物に入るだけなのに、一歩間違えれば宇宙空間へ強制送還されそうなほど手順が長いのだ。
識別ゲート、権限照合、来訪者の紐付け、禁制品スキャン、動線隔離。次から次へと続くそれは、ここが司令部ではなく、文明そのものの括約筋ではないかと思えるほど厳密だった。
私はまず、端末をかざした。
ピ。
緑のランプ。
スムーズだ。
「システム異常」「身元確認待ち」「この人物は死亡している疑いがあります」などという、その場で端末を叩き割りたくなるようなふざけたメッセージは出なかった。その点だけは、まだ顔を立ててくれたと言える。
そして、本当の大厄災が歩み寄ってきた。
審査官が顔を上げ、センサーエリアの前に立ったヘートヴィヒを見た。
黒いロングコートを肩に羽織り、ダークカラーの軍装は折り目正しく、胸元の徽章は刃のように静かで、金髪は大広間の冷たい白い光の中で過剰なまでにクリーンに見えた。さらに致命的なのは――ヘートヴィヒが着ているのが、あの銀河帝国高級将校の制服一式だということだ。
似ているわけではない。
それっぽいスタイルでもない。
「今日の帝国風コーデ」でもない。
本物の、正真正銘の、わざと見せつけるために着てきたとしか思えないあの一式だ。
審査官は、最初の瞬間、信じられないことにフリーズした。
呆然とするような、みっともないフリーズではない。
非常に標準的で、公務員らしく、訓練の行き届いた半秒間のフリーズ――「今すぐ警備を呼ぶべきか」と「とりあえず手順通りに名前を聞くべきか」の間で、道徳とキャリアをかけた過酷な選択を、脳内で高速処理しているのが一目で分かるような沈黙だった。
私は意地悪く推測した。これは彼が今日出勤して以来、最も遭遇したくなかった光景だろう、と。
そして、私が今日最も責任を負いたくない光景でもある。
残念ながら、宇宙は私を尊重する気はないらしい。
「お名前は?」
審査官がついに口を開いた。
ヘートヴィヒは平然としていた。銀河連邦統合作戦司令部の審査口ではなく、自宅の庭で朝食のメニューを答えているかのように。
「ヘートヴィヒ・フォン・ヴィッテルスバッハ」
審査官の眉が、ごくわずかにひそめられた。
そう。
その顔だ。
私が初めてその名前を聞いた時の顔とまったく同じだ――どこかで聞いたことがある、明らかに重みのある名前だが、膨大な政治、軍事、外交、皇室、歴史、そして厄介事のデータベースから、即座に該当ファイルを引っ張り出すのが間に合わない顔。
彼は続けて尋ねた。
「ご職業は?」
ヘートヴィヒは一瞬の躊躇いも見せなかった。
「銀河帝国第三――」
私は直接手を伸ばし、ヘートヴィヒの口を塞いだ。
非常に危険だ。
本当に。
これはもはや社交上の事故ではない。エレベーターに無事乗れるかどうかの分水嶺だ。連邦作戦司令部の審査口で、ヘートヴィヒに「銀河帝国第三……」という出だしをすらすらと言わせてしまえば、その結果は火薬庫でタバコに火をつけるのと同じだ。理論上はまだ取り返しがつくかもしれないが、実務上は全員がまず彼女を殴り殺したくなる。
審査官が顔を上げて私を見た。
私は、非常に克制的で、大局をわきまえ、首都圏全体の行政コスト削減に貢献しているような表情を保ちながら、こっそりと少し身を乗り出し、声を潜めた。
「彼女、ハインリヒ・フォン・シュタイナー博士のお孫さんなんです。今日は特別に博士に会いに来まして」
ヘートヴィヒは私の手で口を塞がれたまま、視線だけをわずかにこちらへ向けた。
その目には多くのものが含まれていた。
その中で最も明白だったのは、これだ。
――いい度胸してるわね。
ありがとう、私だってやりたくない。
審査官は明らかにこの言い訳に完全には納得しておらず、その顔にはプロとしての苦悩が浮かんでいた。
「その点につきましては、博士ご本人に確認を……」
「ああ、大丈夫です」私は即座に言葉を継いだ。皇族の親戚を騙るのが日課であるかのように滑らかに。「私もちょうど博士のところへ上がるところなので、一緒に連れて行きますよ」
「中尉……」
その「中尉」という呼びかけには、制度から個人に向けられた最後の道徳的警告が込められていた。
私は彼に向かって、非常に丁寧で、非常に友好的で、そして「お前、よく考えてから答えろよ」という圧を明白に含んだ笑顔を向けた。
審査官は二秒沈黙した。
そして、妥協した。
「……中尉、そういうことでしたら、こちらの来訪者は一旦あなたの名義で登録いたします」
翻訳するとこうだ。
クソッ、何かあったらお前の責任だからな。
最後はこうなると思っていた。
私は頷き、「これは完全に合理的で、私はその場で壁に頭を叩きつけたいなどとは微塵も思っていない」という範囲内に表情を留めた。
第二関門はずっと簡単だった。
禁制品スキャン。
二人が検査エリアに入り、手術灯のように冷たいスキャン光を頭から足先まで浴びる。ヘートヴィヒの着ている帝国軍装はこういう場所では特に目立ち、スキャンゲートも普段より半秒長く光っていた気がした。
だが幸いなことに、この皇女殿下は連邦司令部の大広間に武器を持ち込むべきではないという常識を持ち合わせているか、あるいは持ち込んでいたとしても、このスキャナーごときに検出されるレベルのものではなかったらしい。
とにかく、二人はさほど時間をかけずに通過した。
そして私はこの皇女を連れて、エレベーターに乗った。
扉が閉まった瞬間、傍観者、憲兵、審査台、制度、そして外交的事故の可能性に満ちた大広間が、ついに金属のパネルによって遮断された。密閉された空間に残されたのは、私とヘートヴィヒ、そしてひどく不吉な沈黙だけだった。
私は上昇する階数表示を二秒見つめ、最後には我慢できなくなった。
「あんた、一体何しに来たの?」
ヘートヴィヒは横に立ち、黒いコートは相変わらず静かに肩に乗っていた。彼女はすぐには私を見ず、エレベーターの扉に映る自分の姿に向かって、手袋の縁を少し直した。その動作は優雅なほどゆっくりとしていた。それから、口を開いた。
「来たくて来たわけじゃないわ」
その言葉は、ひどく理にかなったものとして放たれた。
あまりにも理にかなっていたため、一瞬、彼女を疑うべきか、自分を疑うべきか分からなくなったほどだ。
ヘートヴィヒはようやくこちらを向いた。
「連邦が勝手に私を呼びつけておきながら、勝手に下で放置したのよ」彼女は言った。声は淡々としていて、まるで他人事のような冷静さすらあった。「私に少しばかり牽制をかけておこう、という腹積もりだったのでしょうね」
連邦もよくやる。
そして彼女も、それを正面から受け止める。
ヘートヴィヒを見ていると、なぜこういう人間が大広間全体の空気をあんな風に変えてしまうのか、少し分かった気がした。彼女は声量や気性で人を動かすのではない。
ただ、権力に慣れすぎているのだ。誰かが牽制をかけてくれば、「じゃあ、ついでにちゃぶ台ごとひっくり返してやろうかしら」と真っ先に考えるほどに。
ヘートヴィヒの口角が、ごく浅く弧を描いた。
それは笑みというより、ナイフの切っ先が光の中で一度だけ角度を変えたようなものだった。
「だから、一度戻ったの」彼女は言った。「これに着替えてから、出直したというわけ」
私は彼女を一秒見つめた。
二秒。
そして心の中で、非常に誠実に結論を下した。
なるほど。
わざとか。
なんてフレンドリーなんだ。
大広間が、誰も当事者になりたがらない外交的玉突き事故の現場みたいになっていたのも頷ける。ヘートヴィヒは受け身で入ってきたのではない。彼女は明確な意思を持って帝国軍装一式を着直し、連邦司令部の床を踏み鳴らして戻ってきたのだ。
こういう行為を、普通の人間がやれば「自殺志願者」と呼ぶ。
彼女がやれば「意思表示」と呼ぶ。
そして一番厄介なのは、この二つの違いが、たいてい権力の厚みだけで決まるということだ。
「あんた、本当に人の頭痛の種になるのが上手いね」と私は言った。
ヘートヴィヒは平然としていた。
「お互い様よ」
……この言葉には、反論できなかった。
次の瞬間、エレベーターの扉が開いた。
研究層の廊下は下の大広間よりも静かで、より「病的な」空気が漂っていた。病院の清潔さではなく、秩序、権限、テクノロジー、機密性をすべて密封した後に醸成される、冷たい白い空気だ。
壁面は人間味がないほど滑らかで、表層の下には情報ストリップが流れている。時折、研究院のジャケットを着た者が早足で通り過ぎるが、私の隣にいる皇女殿下を見ると、明らかに視線が半秒止まり、その後、訓練された方法で見ていないふりをした。
よく分かる。
こういう場所は、普通の人間なら一度来れば十分だ。
それなのに、私は今日、ヘートヴィヒを連れてシュタイナーの実験室へ向かわなければならない。
人生がここまで来ると、もはや運が悪いというレベルではない。宇宙規模のコメディ構造に組み込まれていて、私が不幸にも主役の席を割り当てられたようなものだ。
私は前を歩き、ヘートヴィヒは私の横で、軍靴の音を腹立たしいほど安定したリズムで響かせながら歩いた。
「こっち」私は言った。
そして、司令部の大広間を丸ごと沈黙させるほどの皇女を連れて、ハインリヒ・フォン・シュタイナー博士の実験室へと向かった。
この後の展開が、少なくとも先ほどより常軌を逸したものにならないことだけを祈る。
もっとも、私の最近の人生統計によれば、その祈りは、火山に礼儀正しくなってくれと頼むのと同じくらい無意味なのだが。
シュタイナーの実験室は広かった。
「部屋が広いから大きく見える」という正常な広さではない。
足を踏み入れた瞬間、ここで燃やされた経費があれば、私は鉑橋街で何生も平穏に暮らせるだろうと即座に理解できる、そういう広さだ。
天井は人間味がないほど高く、冷たい白い照明が弧を描く軌道に沿って奥へと広がり、空間全体を感情の介在を許さない無菌の神殿のように照らし出している。壁には何層もの半透明のデータスクリーンが埋め込まれ、青と白のデータストリームが静かに滑り、部屋の神経系がむき出しになっているかのようだ。左側には素人が迂闊に触れてはいけないと直感させる機器の列、右側にはサンプルキャビネット、密閉槽、分析台があり、奥には独立した隔離扉まである。その扉を縁取る赤いインジケーターランプを見ると、今すぐきびすを返して帰りたくなった。
さらに悪いことに、中にいるのはシュタイナー一人ではなかった。
数名の研究員が現場にいた。
白衣を着た数人がホワイトボードの前に集まり、「これが重要だとは分かっているが、本気で頭を掻き毟りたくなってきた」という科学的な苦痛を全員が同じ顔で表現していた。
ホワイトボードには、私が理解したくないし、できれば理解しない方がいいもの――数式、ベクトル、組み合わせ図、時空トポロジーのようでもあり、高等数論の暴力現場のようでもある奇妙な記号の羅列――がびっしりと書き込まれていた。端の方には丸で囲まれた後、激しく斜線で消された数字がいくつかあり、この実験室の主の今日の精神状態が、安定とは無縁であることを物語っていた。
「星野か? そこで少し待っていろ」
シュタイナーは振り返りもしなかった。
私に話しかけたというより、外界のノイズを処理する脳内のサブシステムが、最低限の礼儀として私を「サンプル到着、一時保留」に分類し、ついでに出力した応答のようなものだった。
そして彼は作業を続けた。
書く。
消す。
書く。
また消す。
ついに自分を天国に閉じ込めることに成功した偏執狂のように、楽しそうに。
私は入り口に立ち、ホワイトボードの前で高速回転するその白髪の頭を眺めながら、非常に冷静な結論に達した。
なるほど、今日の午前中は丸ごとこいつの手に葬り去られることになりそうだ。
こういう人間の本当に恐ろしいところは、狂っていることではない。
狂い方が極めて効率的だということだ。
私はどこか隅に立って、階を間違えて配達された家具のふりでもしようかと思っていたが、ヘートヴィヒは私より一足早くホワイトボードに目を向けた。
彼女は一瞥しただけだ。
本当に、ただの一瞥。
そして、ひどく平然と口を開いた。
「間違っているわ。答えは二十六よ」
実験室全体が、一瞬静まり返った。
ヘートヴィヒはさらに少し目を凝らし、相変わらず失礼なほど安定した口調で続けた。
「それと、七行目も間違っているわね。素数は三よ。五じゃないわ」
私は後ろに立って、危うく吹き出しそうになった。
理解できたからではない。
一文字たりとも理解したくない。
私が笑いそうになったのは、その瞬間、ホワイトボードの前で頭を抱えていた研究員たちの顔が、一斉に「もうダメだ」から「なるほど」に切り替わったからだ。
本当に、ほぼ全員が揃って、悟りを開いた時の、あの短くて、間抜けで、でもひどく真剣な息を吸い込む音を出したのだ。
それから、シュタイナーを含め、全員がようやくこの実験室にホワイトボード以外のものが存在することを思い出したように、半拍遅れて顔を上げた。
シュタイナーがヘートヴィヒを見た瞬間の顔は、連邦の医学教材に収録できるほど見事なものだった。タイトルは私が考えておいてやる。
『研究狂が新しい職場の実験室で、最も遭遇したくない旧世界の高圧源に突然出くわした時、顔面筋肉はいかにして崩壊するか』
それは本当に、言葉にするのが難しい表情だった。
無理に例えるなら、前のボスに新しい会社まで追いかけられ、会議室のドアを開けたら相手がすでに上座に座っていて、ついでに自分の報告書を添削し終えていたのを見た時の顔、といったところか。
シュタイナーの口角が二回引きつった。
さらに二回。
私は後ろに立ち、うつむいて笑いを噛み殺した。ひどく苦労した。
こういう時、基本的な教養を持つ人間であれば、彼のために少しは体面を保ってやるべきだろう。
残念ながら、私はそうではない。
相手がシュタイナーならなおさらだ。
今の私の気分を四文字で表すなら、これしかない。
――ざまあみろ。
「……皇女殿下」シュタイナーはついに自分の声帯を取り戻した。「お久しぶりです」
その間はあまりにも明白だった。
先に礼をするべきか、逃げるべきか、それともホワイトボードを食べて証拠隠滅するべきか、決めかねているのが丸わかりなほどに。
さらに傑作なのは、シュタイナーが普段の「銀河帝国のテクノロジーが世界一でないなら、世界二位など存在する価値もない」といった傲慢な態度をすっかり引っ込め、珍しく非常に謙虚になっていたことだ。美徳としての謙虚さではない。生存本能としての謙虚さだ。
「本日は……どのようなご用件で?」
ヘートヴィヒは実験室の入り口に立ち、黒いロングコートを肩に羽織ったままだった。連邦の研究費の匂いが充満するこの場所でも、彼女の帝国軍装は、磨き上げられすぎた刃のように際立っていた。
「ただの通りすがりよ」ヘートヴィヒは言った。「ヴィスラン大佐に用があったの」
私の顔の笑みが、その場で凍りついた。
ヴィスラン大佐?
今度は私が動揺する番だった。
いや、ちょっと待て。
どういうことだ?
この皇女殿下、シュタイナー、統合作戦司令部、研究棟、そして今度はヴィスラン大佐――
今日は一体何の、高濃度トラブル物質集積センターなんだ?
それを聞いたシュタイナーの表情は、先ほどよりもさらに微妙なものになった。最悪の事態を覚悟していたのに、相手から「緊張しなくていいわ、今日はあなたを解体しに来たわけじゃないから」と言われたような顔だ。
そして、ヘートヴィヒは案の定その言葉を付け加えた。
「安心なさい、ハインリヒ」ヘートヴィヒは淡々と言った。「あなたを粛清しに来たわけではないわ」
彼女は少し言葉を切り、口角をごく浅く曲げた。
「私の器は、皇兄ほど狭くはないもの」
……これは強烈だ。
皇族としての体面を保ちつつ、ついでに自分の兄を刺すという、高度で強烈な一撃。
こういう人間が軍装で大広間に立つだけで、司令部の半分の人間が自ら耳をそばだてる理由が、少し分かった気がした。
シュタイナーも明らかにそれを理解していた。
だから彼は賢明にも、その言葉には返さなかった。
彼は私に視線を向け、その切り替えの早さは感心するほどだった。
「ああ――星野中尉、来てくれたか。実によかった」
私は即座に、不吉な予感を覚えた。
非常に不吉な予感だ。
そういう予感は、たいてい三つの状況でしか起こらない。
第一、士官が突然名前を呼び、しかも笑った時。
第二、医者が突然「ちょうどよかった」と言った時。
第三、シュタイナーのような人間が箱に手を伸ばした時。
不幸なことに、今日の私はこの三つのうち、少なくとも二つ半を引き当ててしまった。
シュタイナーは横の作業台から一つの箱を取り出した。
ただの箱ではない。
一目見ただけで、スナック菓子と同じテーブルに置いてはいけないと分かる箱だ。中には数十本のガラス瓶が非常に秩序立って並んでおり、長さ、色、粘度、内容液の透明度がすべて違っている。法廷で重要な証拠品として展示されるコレクションセットのように整然としていた。
シュタイナーはその箱を私の方へ向け、声には少し期待さえ滲んでいた。
「ちょうど新しい実験薬のロットが手に入ったところでな」彼は言った。「一緒にゆっくりと楽しむとしようか?」
私は無表情で彼を見た。
本当に。
この男はどうやってこんなことができるんだ?
「ちょうど新しいクッキーがあるんだけど、食べてみる?」みたいな口調で、一目見ただけでその場で宇宙を再認識させられそうなガラスの薬瓶の箱を前に、こんなにも理にかなった招待ができるなんて。
これは恐ろしいという次元ではない。
もはや芸術に近い。
「私は自分の異常についての分析を聞きに来たの」私は言った。「あんたと一緒に薬をキメに来たわけじゃない」
私はその箱を見れば見るほど、三メートルは離れたくなった。
「あんた一人で、ゆっくり楽しめばいいでしょ」
横にいる数名の研究員のうち、ある者は笑いたいのに笑えず、仕方なく顔をデータスクリーンに向けた。別の者はシュタイナーのこういう発言にとうに慣れているらしく、表情一つ変えず、「ああ、また始まった」という職業的な疲労だけを漂わせていた。
ヘートヴィヒは傍らに立ち、箱を一瞥したが、表情に大きな変化はなかった。
これもまた恐ろしい。
彼女のあの「それが何かは分かるけれど、驚く必要はないわ」という平然とした態度は、すべてが、正常な世界が私を完全に見捨てた後の光景のように見えさせた。
シュタイナーは私の拒絶に、少し残念そうだった。
口答えされたことへの残念さではない。
苦労して限定版の実験材料を手に入れたのに、相手がすぐに感涙にむせぶ表情を見せなかったため、人類の審美眼に再び失望した、というような残念さだ。
「これは麻薬ではない」シュタイナーは、私が科学を侮辱したとでも言いたげに眉をひそめた。
「なら余計に悪いね」と私は言った。
「なぜだ?」
「麻薬なら、どの法律を盾にして断ればいいか分かるからね」
シュタイナーは半秒沈黙した。私の言葉に論理的な欠陥がないか、真剣に考えているようだった。
欠陥がないことを切に願う。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




