160.厄介事の到来 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
統合作戦司令部は、ただひたすらに天を突くような誇張された高塔ではない。
どちらかというと、巨大な軍事地形を意図的に低く、厚く、重く押し固めてから、都市の中央に配置したような形をしている。主棟は複数の巨大なマッスが互いに噛み合うように構成され、外壁は冷血なまでに滑らかで、本来の意味での窓はほとんど見当たらない。あるのは傷口のように細長い観測帯、構造に埋め込まれた通信アレイ、対空センサーマスト、そして稜線に沿って配置された防衛ノードだけだ。これらが、この物体が建物のような顔をしながら、実は戦艦に近い思考回路を持っていることを思い出させる。
私は遠くからそれを見つめ、ひどく不敬な結論を一つだけ頭に浮かべた。
――こいつがいつか勝手に離陸し始めたとしても、私はさして驚かないだろう。
入り口前の広場は、人間の気配が消え失せるほどスケールが大きかった。人がいないわけではない。人がそこに立つと、小さく見えすぎるのだ。グレーと白の地面には過剰なまでに精密な誘導ラインが引かれており、検問区、車道、軍務通路、後方支援口へとそれぞれ分岐している。頭上には二層に分かれて無音で巡回する警備ドローンが浮かんでおり、空を見えない権限エリアごとに切り分けているかのようだ。さらに遠くには、低軌道エレベーターの投影ビーコンが二基、昼間の光の中で淡く点滅している。惑星全体の行政神経が、そのまま宇宙へと引き抜かれているかのようだ。
ここにあるすべてが警告している。これはただの建築ではない。
制度というものが実体化し、人間に見せつけるためにとった形なのだ、と。
私はオートバイを来客・個人車両用の検問口へ乗り入れた。前に並んでいる人は少なかったが、誰一人としてリラックスしているようには見えなかった。軍服を着た者、行政の制服を着た者、研究院の識別ジャケットを着た者、そして私のように私服を着ていながら「なぜ自分がここにいるのか、できれば聞かないでくれ」という顔をした人間が数人。列は首都圏らしい静けさに包まれていた。誰もが文句を言っても無駄だと知っているから、身分証よりも平坦な顔つきをしているのだ。
私の番になると、検問ブースの側面から識別ライトがスキャンしてきた。
若い男性の衛兵が手を上げ、停車の合図をした。彼の動作は標準的だった。標準的すぎて人間味はほとんどなく、訓練された後に残る効率だけがそこにあった。
「身分証を」
私は臨時識別証と端末を差し出した。
衛兵がうつむいて照合すると、目の前に半透明の情報パネルが投影され、淡いブルーの文字列が空中で一行ずつスライドし、ロックされていく。私は見なかった。こういう時、見れば見るほど、自分が処理プロセスに放り込まれた半製品のように思えてくるからだ。
彼がある項目をスキャンした時、視線がほんのわずかに止まった。
一瞬だけだ。
だが、私には見えた。
またか。
最近の私の人生で一番嫌な体験は、これだ。他人がデータを見ている時の、あの一秒間の沈黙。すべてのシステム、すべての記録、私のファイルを見たすべての人間が、ある項目の上で密かにこう気づくのだ。「ああ、こいつは問題がある。こいつは面倒だ。こいつは標準フォーマットじゃない」と。
衛兵はすぐに表情を戻し、相変わらず事務的な口調で言った。
「本日、研究棟への臨時通行許可が承認されています。直進し、第二チェックポイントで右折してください。車両は指定区画に駐車してください」
研究棟。
私の心の中で、わずかに残っていた僥倖がその場で完全に死滅した。
よし、司令部ですらなく、やはり研究棟か。
シュタイナー、今日こそ本当に価値のある話を用意しておけよ。さもなければ、いつか脳内で三回はお前を埋めてやる。
「……了解」
私は身分証を受け取った。
衛兵は私のオートバイに視線を走らせ、もう一言付け加えた。今度は「システム応答」から少しだけ「生きている人間」に戻ったような口調だった。
「制限速度は三十です。警備ドローンが監視していますので、ご注意を」
私は顔を上げて彼を見た。
「……それ、私への警告ですか?」
彼は短く言葉に詰まった。こんな場所で、直接そんな返しをしてくる人間がいるとは思わなかったのだろう。
それから彼は、意外にも淡々とこう答えた。
「これは定例の安全喚起です」
……まあいい。
少なくともここは、衛兵からユーモアのセンスが完全に欠落するまでには進化していないようだ。
もっともそのユーモアは、手術室に送り込まれる患者に、医者がついでに「動くなよ、メスは鋭いからな」と注意するのに似ていたが。
私はエンジンを再始動し、ゆっくりとバイクを中へ進めた。
第一ゲートを通過した瞬間、奇妙な感覚が胃の底からゆっくりと這い上がってきた。単なる緊張ではない。恐怖でもない。ただ通知に従って出頭しただけだと分かっているのに、本能的にこう悟ってしまうのだ。一度ここに入れば、もう自分一人の問題ではなくなる、と。
私はデータになり、プロセスになり、医学的観察対象になり、軍務権限になり、時間錯誤の事例になり、戦艦の生還者になり、特殊個体になる。
まともな人間なら食欲を完全に失うような単語の塊になるのだ。
そして一番嫌なのは――
これらの単語の中に、私本人が嬉しいかどうかを問うものは一つもないと、はっきり分かっていることだ。
これが制度の空気だ。
誰かが大声で怒鳴っているわけではない。銃を突きつけられているわけでもない。至る所で赤いランプが点滅しているわけでもない。
むしろ、それはクリーンで、効率的で、静かだ。自分が考えすぎているのではないかと錯覚するほど静かだ。
だが、本当に圧力を持つ制度は、怒鳴る必要などない。
ただ、見せつければいいのだ。
昨晩ソファで寝たことや、朝のコーヒーがどれだけ苦かったかや、真紀との間にまだ言い終わっていないことがあることなど、ここに入った以上、すべて脇に置いておかなければならないということを。
なぜならここでは、私はまず星野ではないからだ。
私は「処理待ちの案件」なのだ。
第二層の検問に入る前、私はたまらず、少し乾いた唇を舐めた。
耳元にはエンジンの音だけが静かに響いていた。
そして私は突然、今日家を出る前に、二階をもう一度見上げなかった自分をひどく憎ましく思った。
私は甘かった。
本当に。
自分の知性を侮辱しているレベルで甘かった。
私を呼び出したのが、連邦中央研究院の副総院士、ハインリヒ・フォン・シュタイナー博士という、肩書きを並べただけで行政窓口の半分を圧死させられるような人物なのだから、今日は凡人が通るのとは違うルートを歩けるのだろうと思っていた。
例えば、専用の識別パスとか。
例えば、研究権限によるファストパスとか。
あるいは、胸に「連邦中央研究院 副総院士・シュタイナー博士来訪指定」なんてご大層なことが書かれたプレートをぶら下げるとか。
そうすれば、私は存在してはいけないのにやたらとバックが強い厄介者のように、堂々と検問ラインを抜け、大広間がどんな造りをしているか知る必要すらなく、研究棟の奥深くまで直送されるはずだった。
結果として、私は自分を過大評価し、シュタイナーの「人に手間をかけさせない」ことへの理解力も過大評価していた。
彼は明らかに、人を呼びつけることだけが担当で、相手を快適にさせることまでは担当していない。
指定エリアにバイクを停めた後、私は制度の中に生え出たかのように無表情な案内員によって、一階の大広間へと誘導された。
一階。
大広間。
上等だ。
連邦で最も先進的で、最も巨大で、平面図で見ればうっかり建築にされてしまった戦略コンピューターのように見える統合作戦司令部で、私は結局、一階の大広間から正規の手続きを踏まされることになった。
この感覚は、裏口から地獄に潜入できると思っていたのに、門番の悪魔が顔を上げて冷たくこう告げてきたのに似ている。
――申し訳ありませんが、まずは整理券をお取りください。
いいだろう、認める。
私は少し不機嫌だ。
少しだけ。
本当にほんの少しだ。
シュタイナーを脳内で一回埋めるくらいで、受付カウンターを噛み砕くほどではない。
だがそのわずかな不機嫌も、大広間に足を踏み入れた途端、別のさらに厄介な感覚に塗り潰された。
空気がおかしい。
うるさいわけでも、乱れているわけでもない。誰かが大声で言い争っているわけでも、誰かの識別権限でトラブルが起きているわけでも、行政区画が突然封鎖されたわけでもない。
逆に、静かすぎた。
大広間にいる全員が、「私は何も見ていない、ただあちらの方向を十七回見ただけだ」という成熟した大人を必死に演じているかのように、静かすぎた。
統合作戦司令部の大広間は、元々十分に巨大だ。冷酷なほど高いドーム天井、半透明とダークメタルが交差する構造梁、情報ウォールが静かな滝のように両側を流れ落ち、淡いブルーと冷たい白のデータ光帯が空中で層をなして滑っている。
人がその中に立つと自動的に小さくなり、声も自動的に収縮する。大声で話せば、建物全体から「不合格ノイズ」としてマーキングされ、そのまま再教育通路に放り込まれそうな威圧感がある。
だが今、大広間にいる軍服の者たち、研究院のジャケットを着た者たち、行政制服の者たち、さらにはルート案内を担当する数名の勤務員までが、視線を同じ方向へ向けていた。
ひどく克制的に。
そして、ひどく露骨に。
私はその視線の流れを追った。
そして、理論上ここに存在するはずのない人物を見た。
まず視界に入ったのは、黒だ。
ただの黒い布地ではない。重量感があり、秩序があり、自分がすべての者の視線を集めることをはっきりと自覚している黒だ。
肩に羽織られたロングコート。ラインは下に向かって安定して落ちており、エッジは悪意を感じるほどにシャープだ。その下から覗くのは、一糸の無駄なシワすらない、真っ直ぐなダークカラーの軍装の裾だった。
全体がひどく克制的だ。
どこか大げさだと言いがかりをつける隙すらないほどに。
余計な飾り紐もなく、見る者をうんざりさせるような権力の装飾もなく、「私は大物だ」と布地の隅々にまで縫い付けてあるような安っぽい自信もない。
ただ胸元と襟元付近に、数は少ないが、一目で重いと分かる徽章が冷静に押さえつけられているだけだ。その存在感は「誇示」というより、警告に近い。
そこにいる全員への警告だ――
自分が今、誰を見ているのか、よく理解しておけ、と。
さらに上。
金髪だ。
冬の早朝、まだ陽が昇りきらないうちに、刃の縁を滑る一筋の冷たい金の光に近い。
長い髪は完璧に整えられ、編み込まれて服に沿い、光沢は主張しすぎないが、腹立たしいほど正確だ。一本の乱れもなく、髪の毛一本一本が外交、軍紀、自尊心の三者会談を経た上で、ここに存在することを許可されたかのようだ。
私はその場で一秒、立ち止まった。
頭に最初に浮かんだのは、感嘆ではなかった。
――あれは、ヘートヴィヒ皇女殿下じゃないか。
そうだ。
あの方だ。
重要なのは、ヘートヴィヒ皇女殿下が銀河連邦の統合作戦司令部に現れたというだけでなく、あろうことかあの一式――あの銀河帝国の軍服一式を纏って、堂々とここに立っているということだ。
その光景を見て、私の脳は一瞬、完全に空白になった。
美しいからではない。
この事態があまりにも常軌を逸しているからだ。
いいか。自分の制服を着て敵国や競争相手の中枢に踏み込めば、挑発に見える者もいる。
ただの馬鹿に見える者もいる。
だが、ヘートヴィヒ皇女殿下がそこに立っている姿は、その第三のパターンに見えた。
――そもそも、この状況について説明する必要があるとは、微塵も思っていないような立ち方だった。
これは挑発よりも厄介だ。
挑発というのは、少なくとも相手が「ここは自分の縄張りではない」と認識しているからこそ成立するものだからだ。
彼女のあの立ち方は、むしろこう言っているように見えた。
――縄張りなんてものは、先にそこへ足場を固めた者のものよ、と。
私は彼女を二秒ほど見つめ、真剣にある問いを考え始めた。
この皇女殿下は、馬鹿なのか、それとも賢いのか。
まともな人間はこんな真似はしない。
だが、彼女が本当にまともな人間なら、そもそもヘートヴィヒ皇女殿下などと呼ばれてはいないだろう。
もう少し深く考えると、話はさらに不快になる。
この行動が単なる思考回路の故障でないとすれば、残る可能性は一つしかない。彼女は自分にこれが許されると分かっていて、しかもこうする方が効果的だと分かっているのだ。
連邦の作戦司令部に帝国の軍装で現れること。それは無礼でも誤算でもなく、腹立たしいほど精確な政治的行動だ。
テーブルにナイフを突き立てておきながら、ひどく礼儀正しく「もう少し近くに座ってもよろしいかしら」と尋ねてくるようなものだ。
私は三秒間、脳をフル回転させ、非常に正直で、生存本能に極めて忠実な結論に達した。
――ズラかる。
逃げるんじゃない。
戦術的撤退だ。
この二つは天と地ほど違う。一緒にしないでいただきたい。
私は黙って横へ一歩下がり、この場の大半の視線がまだヘートヴィヒ皇女殿下に釘付けになっている隙に、大広間の端から誘導エリアへ静かに切り戻すつもりだった。できるだけ、無害な背景の一部のように気配を消して。
何しろ、今日の私の目標はたった二つだ。
第一に、生きて中に入り、シュタイナーに会うこと。
第二に、生きて出てくること。
それ以外のすべての政治的挿話、外交上の異常事態、皇族の乱入、国家間の挑発行為は、今日の私が引き受けたい範囲には一切含まれていない。
すでにルートも頭の中で組み立ててあった。
左へ三歩、柱を死角にして視線を遮り、受付カウンター裏の誘導ラインへ滑り込む。動作さえ自然なら、速すぎず遅すぎず、泥棒のようにさえ見えなければ――
「おや、これは雪風の星野中尉ではありませんか。奇遇ですね」
……くそ。
私はその場で完全に固まった。
相手の声が大きかったからではない。むしろ逆だ。ちょうどよかった。周囲数メートル圏内の人間には確実に届き、それでいて無作法な喧騒にはならない程度の音量。
「人の多い場所でどうやって正確に厄介事を投下するか」を専門スキルとして磨いてきたような人間の、あの訓練された声量だった。
私はゆっくりと目を閉じた。
上等だ。
やっぱりだ。
なぜ毎回、私なんだ。
……いや、この問いは不毛すぎる。正しくはこうだ――
なぜ厄介事は毎回、これほど効率よく私を識別できるんだ。
私は振り返った。
背後に立っていたのは若い男だった。年齢は三十に届かないくらい。連邦の軍政系統でよく見る、ダークグレーの礼装用軍服を着ており、襟章、肩のライン、胸の識別プレートに至るまで、疑いたくなるほど隙なく整えられていた。
顔も同じだ。大きな欠点は見当たらず、むしろ整っていると言っていい。問題は、その顔に浮かぶ笑みがあまりにも完成されすぎていることだ。
完成されすぎていて、もはや笑みには見えない。
ソーシャルエンジニアリングによって精密に補正された表情、と呼ぶべきものだった。
こういう人間が一番厄介なのだ。次に彼が差し出すのが名刺なのか、ナイフなのか、あるいは両方同時なのか、判断がつかないからだ。
私はその場に立ち尽くし、彼を一秒ほど見つめ、頭の中でいくつかの可能性を素早く走らせた。
連絡官か。
外交窓口か。
研究院側が寄越した行政の伝書鳩か。
それとももっと厄介な、異常人物がいる場所、高位来賓がいる場所、政治的事故の火種がある場所には誰よりも早く滑り込んでくる、制度の猛犬か。
不幸なことに、最後の可能性が一番高い気がした。
「……奇遇?」私は口を開いた。峰打ちしたばかりの刀の背のように平坦な声で。「帝国の皇女殿下が帝国の軍装で大広間に現れるのが日常茶飯事だと言うなら、連邦の『奇遇』の定義はかなり前衛的だね」
若い士官は一度、瞬きをした。
ごく短く。
それから笑みが少し深まった。私が素直に「こんにちは」と言うような人間ではないと、ようやく確認できたかのように。
「失礼しました。言葉の選び方が不正確でした」彼はわずかに会釈した。その動作に隙はなかった。「正しくは――星野中尉のような方が、このタイミングでこの場所にいらっしゃれば、どうしても印象に残ってしまう、と申し上げるべきでした」
「それは褒めてるの? それとも私にレッテルを貼ってるの?」
「状況によります」
……はいはい。
こういう人間はやっぱり鬱陶しい。
口を開けばどちらにも取れる言葉を残す人間とやり合うのが、私は一番嫌いだ。彼らは本当の意図を決してテーブルの上には出さない。だがひどく礼儀正しく、こう教えてくるのだ。テーブルの下はナイフだらけですよ、と。
私は彼の胸の識別プレートに視線を走らせた。
階級は低くない。だが、その場で直立不動になりたくなるほど高くもない。名前は目に入ったが、記憶にスペースを割くつもりはなかった。こういう場での人名は、会議のミネラルウォーターと同じだ。飲んだらそれで終わり。感情を抱く価値もない。
「あんたが私を迎えに来たなら」私は言った。「タイミングの選び方がいささか不親切だね」
彼は私の視線を追い、私が何を見ているか当然分かっているとようやく認めるように、大広間中央のあの象徴的すぎる黒と金の方へ、わずかに顎を向けた。
「今日は確かに、少し賑やかですからね」
「これを賑やかと呼ぶの?」
「では、外交上の偶発事案とでも?」
「そっちの方が誠実だね」
彼はまた笑った。
今度は本物の笑い、あるいは、さっきより生きた人間に近いバージョンだった。
「星野中尉は、噂通りの方ですね」
私は無表情のまま彼を見返した。
「どんな噂?」
「なだめにくいが、観察しがいがある、という噂です」
私は危うく、その場で白目を剥きそうになった。
「光栄ね。どうやら今日の私は、健康診断に加えて動物園の展示機能まで付いてるらしい」
「滅相もない」彼は即座に、滑らかに答えた。噛みついてくる人間の扱いは、明らかに今日が初めてではない。「ただ、博士がもうお待ちですので」
博士。
上等だ。
やはり、どこかの行政的な巧遇ではなく、シュタイナー本人が寄越した回収係だった。
この件は一瞬で合理的になり、同時に一瞬でさらに鬱陶しくなった。
「だったら、最初から『博士が待っている』とだけ言えばよかったのに」
「そうしていたら、星野中尉が見せてくれた見事な撤退の動線を、拝見できなかったでしょうから」
私は彼を見つめ、業務妨害を理由に、この人間をその場で受付カウンターへ投げ返せないか、本気で検討し始めた。
「あんた、殴られやすい性格だね」
「ありがとうございます」
「褒めてない」
「存じております」
……くそ。
人の不満をきちんと受け止め、ついでにさらりと折り畳んで返してくるような人間は、軍政系統に本当に向いている。向いていない人間は、この地位まで生き残れないのだろう。
これ以上やり合うのも面倒になり、案内するよう口を開きかけた、その時。
大広間の空気がまた微妙に動いた。
誰かが騒ぎ出したわけでも、警報が鳴ったわけでもない。
群衆の、ごく細かく、ひどく克制的でありながら、それでも隠しきれない視線の移動だった。
私は振り返るまでもなく、何が起きたか悟った。
ヘートヴィヒ皇女殿下が、動いたのだ。
私の頭の中で即座に警報が鳴り響いた。
艦内の赤色警報のような「全艦、第一種戦闘配置!」ではない。もっと個人的な、精神レベルでの「終わった、掩体を探せ」の方だ。
若い士官も明らかにそれに気づいていたが、後ずさりするどころか、むしろしっかりと足場を固めた。この種の厄介事が、そもそも自分の業務範囲だと言わんばかりに。
大したものだ。
自ら人生をハードモードに設定できるこういう人間を、私は心から尊敬する。
「星野中尉」彼は声を落として言った。相変わらず、得体が知れないほど礼儀正しかった。「今から離脱を試みるのは、お勧めしません」
「奇遇だね」私も声を落とした。「ちょうど今、それをやろうとしていたところだ」
「それは、恐らく間に合いませんね」
私はわずかに固まった。
そして、ひどく認めたくないと思いながら、ゆっくりと振り返った。
視線は、大広間の幾層にも重なる冷たい白とダークグレーの光を越え、何事もないふりをしながら耳だけは軍用アンテナのようにそばだてている傍観者たちを越え、最後に、こちらへ向かって動いてくる黒と金の上に落ちた。
ヘートヴィヒ皇女殿下の歩き方は、ひどく静かだった。
音がないからではない。彼女には、自分のために道を切り開く音など必要ないからだ。人の群れは自然に道を開ける。視線は自然に引いていく。この数秒間だけは、連邦の作戦司令部の大広間さえ、真の存在感とは何かを認めさせられたようだった。
私はその場に立ち尽くし、今日の「統合作戦司令部への定例出頭」が、また妙な方向へ暴走し始めているのを感じた。
そして最悪なことに、それに少しも驚いていない自分がいた。
何しろ、私の最近の人生は、ある非常に嫌な法則を十分すぎるほど証明してきたからだ――
私が外に出れば、厄介事は自分で足を生やす。
しかも、私より足が速い。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




