160.厄介事の到来 1
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
翌朝、私はソファの上で目を覚ました。
ベッドではない。自分の部屋でもない。昨日、危うく私の人生ごと歪めそうになったあのベッドではない。
ソファだ。
見た目はまともなのに、実際に寝てみると腰椎に私怨でもあるのかと言いたくなる、居間のあのソファだ。
私は目を開け、二秒ほど天井を見つめ、まず自分がまだ生きていることを確認してから、ひどく不本意ながら認めた。
――そう、昨晩私は本当に部屋に戻らなかった。
理由も別に高尚なものではない。
不眠症でも、夜警でも、居間の空気に突然哲学的な愛着を抱いたわけでもない。
単に、怖かったからだ。
何が怖いのか?
部屋に戻って、真紀のあの顔、あの表情、言葉を濁したわけではないのに何事もなかったふりをするのがひどく難しいあの空気を見たら、私が先に耐えられなくなるのが怖かった。
もっと正確に言えば――私が真紀を拒絶できなくなるのが怖かった。
昨晩の時点ですでに最悪だった。
私が先に一歩引き、あの最低な台詞を吐き、まるで私が彼女を避けていて、嫌がっていて、体に面倒な痕跡を残す外部要因として扱っているかのように、事態をこじらせた。
真紀は怒らなかった。私を罵ることもなく、ドアの閉め方すらひどく礼儀正しかった。それが一番最悪なのだ。その場で言い合いになれば、まだ修復の余地がある。だが真紀のあの引き方は、差し出していた手を静かに袖の中にしまい込み、ついでに私がとぼけるための階段まで一緒に撤去してしまったようなものだった。
だから私は昨晩、部屋に戻らなかった。
大人だろう?
家出に失敗して、結局自分の家の居間に丸まっているだけの、馬鹿みたいに大人な処理だ。
私は手の甲で目を押し当て、ソファからゆっくりと起き上がった。毛布は半分床に滑り落ちていて、背中と首が抗議の声を上げている。抗議の内容はたぶん、「お前が人生から逃避するのは勝手だが、俺たちを巻き添えにするな」といったところだ。
うつむいて自分の格好を見た。髪はボサボサ、Tシャツはしわくちゃ。昨日買ってきたルームウェアのパンツだけはいくらか空気を読んでくれて、少なくとも私を失敗した真空パック食品のように締め付けることはなかった。このパンツは、真紀が選んだものだ。
そう思った瞬間、私の気分は即座にもう一段階沈んだ。
上等だ。部屋着までが、昨晩私が何をやらかしたかを思い出させてくる。
もし今ジェスがここにいたら、間違いなく机を叩いて爆笑していただろう。そして、人を窓から投げ捨てたくなるほど毒があって的確な口調でこう言うはずだ。
――「今のあんたと九島、完全に中年の危機を迎えた夫婦みたいだよ」
ジェスがどんな顔でこれを言うか、容易に想像がつく。たぶん、「昨日冷戦が始まって、今日は一人が居間で寝て、もう一人は二階から降りてこない。午後にはどっちがゴミ出しに行くかで話し合いでもするの?」なんていう、埋めてやりたくなるようなコメントまで追加してくるに違いない。
そう考えると、私は本当に少しだけ笑いそうになった。
ほんの少しだけ。
そしてそのわずかな笑みも、すぐに口の中の苦味に取って代わられた。
私はキッチンへ行き、自分にコーヒーを淹れた。こだわって淹れたようなものではなく、脳を強制再起動させるための単なる黒い液体だ。一口飲んだ瞬間、私の顔面は連邦政府に労災認定を申請しそうになった。
苦い。
クソ苦い。
何の修飾もない、ストレートな苦さだ。昨日のあの電話のように、真紀の「そうか」という言葉のように、そして肝心な時に言葉を間違える私自身の口のように。
私はシンクの横に立ち、マグカップを両手で持ち、無表情のまま二口目を飲み込んだ。今度は少しだけマシだった。あるいは、私の舌が抵抗を諦めただけかもしれない。
生きていればそういうこともある。一口目が一番尊厳があり、二口目からは妥協の領域に入る。
私は視線を上げて時間を確認した。
……もうすぐ十時だ。
その瞬間、頭の中で三つの事柄が同時に衝突した。
第一:シュタイナー。
第二:統合作戦司令部。
第三:私はまだ居間でコーヒーを飲んでいて、昨晩人生と殴り合った末にソファで夜を明かした、敗北した大人のような顔をしている。
上等だ。今日の始まりも、私の最近の全体的な運勢に非常に見合っている。
私はカップを置き、階段を通り過ぎる時、無意識に上をちらりと見た。
静かだ。
静かすぎた。
誰もいないわけではなく、明らかに人がいるのに、降りてくる気配も、私が声をかけるきっかけになるような音を立てる気配もない、そういう静けさだった。
私は階段の入り口で、半秒だけ立ち止まった。
半秒だけだ。
それ以上は、待っているみたいに見えてしまうから。
自分が待っているように見えるのは嫌いだ。
特に真紀を待っているのは。
特に昨晩あんなことがあった後では。
結局私は何も言わず、ただごく小さくため息をついた。そのため息はひどく意気地がなく、今が誰かに聞かれるべきタイミングではないと、自分でも分かっているかのようだった。
それから私は背を向け、裏のガレージへと歩き出した。
ガレージのシャッターを開けると、冷たい空気が一気に押し寄せてきて、頭の中の苦くて重いものを少しだけ押し流してくれた。私のオートバイはそこに停まっていた。相変わらず黒くて、硬くて、あまり理屈が通じない見た目だが、少なくとも人間よりは分かりやすい。機械というやつには大きな長所がある。動くか、動かないかだ。沈黙を使って心理戦を仕掛けてきたりはしない。
バイクを引っ張り出し、ハンドルに掌が触れた時、気分が驚くほど少し落ち着いた。
理にかなっている。
二階にいる真紀や、今日十時の司令部や、検査データを持って新大陸でも見つけたような顔をしてくるであろうシュタイナーという老科学の怪物に比べれば、目の前のこの機械は、ガソリンが足りないかメンテナンスを怠った時にしか私を裏切らない。
バイクを数歩外へ押し出し、跨って、足を地面についた時、私自身がふと動きを止めた。
……ああ。
やっぱりだ。
以前これに乗っていた時は、路肩への寄せ方が甘かったり、地面が少しでも傾いていたりすると、重力とこっそり値切り交渉をするように、つま先立ちにならなければならなかった。だが今は、明らかに少し楽になっている。大げさな生まれ変わりでもないし、足が届かなかったのが突然、人生を蹴り飛ばせるほど脚が長くなったわけでもない。
ただごく現実的に――前よりもしっかりと地面を捉えられている。
この違いが一番鬱陶しい。
ドラマチックでもロマンチックでもなく、逃げ場を一切与えてくれないからだ。こういう超日常的で、超退屈で、強がりで誤魔化しようのない瞬間に、平然と教えてくるのだ。
そう、あんたの身体は本当に変わったんだよ、と。
昨日鏡の前で見間違えたわけでも、服がわざと私に逆らっているわけでも、パンツが全世界と結託して私を辱めているわけでもない。
バイクに跨り、足を地につき、信号待ちでつま先立ちになるかどうかという、こんな些細なことまでが、もう違っているのだ。
私はうつむいて自分の脚を見下ろし、突然虚空に向かっていくつか悪態をつきたくなった。
結局は我慢した。
罵っても無駄だからだ。まさか今さらオートバイに向かって、「悪いけど、今日は何も気づかなかったことにしてくれないか」などと言えるわけもない。
私はヘルメットを被り、頭の中に湧き上がってきそうなものを一息に押し込んだ。
考えるな。
真紀のことは考えるな。
昨晩のことは考えるな。
シュタイナーが後でまた「最初から分かっていた」みたいな顔をするかどうかを考えるな。
なぜ二階があんなに静かなのかを考えるな。
ましてや、さっき階段を通り過ぎた時、真紀がちょうど出てきてくれないかと、ほんの少しでも期待していた自分については絶対に考えるな。
どれも建設的じゃない。
そして今の私には、少なくとも見た目だけでも建設的な行動が必要だ。
私はナビを起動し、統合作戦司令部と入力した。スクリーンが点灯し、ルートが浮かび上がる。冷静で、正確で、感情の欠片もない。上等だ。少なくとも今日は、明確な方向を示してくれるものが一つはある。
エンジンを始動させる音が、朝の空気の中で低く震えた。
私はハンドルを握りしめ、深呼吸した。
オートバイがゆっくりと加速し始める。
そして私は決めた。少なくともあの忌々しい場所に到着するまでは、昨晩一晩中ある人間から逃げ回っていたことも、私を研究材料扱いするつもりの老人をこれから会いに行くことも、全部なかったふりをしようと。
もちろん、ただのふりだ。
だが人間は時々、ふりをしなければ午前中を乗り切れないことだってある。
オートバイが鉑橋街二十二番地の路地を滑り出た時、私が最初に感じたのは自由ではなかった。
自分が都市に飲み込まれようとしている、という感覚だった。
この都市は巨大だ。
「高層ビルが多くて車も多い」という田舎者じみた感嘆の巨大さではない。個という存在を過剰なまでに矮小化させる、そういう巨大さだ。数億の人口、数百年の規模が積み重なってできた首都圏は、人間に理解されるためにあるのではない。人間に服従させるためにある。この街は自らの先進性を誰かに証明する必要などない。海が魚に向かって、なぜ人が溺れ死ぬのかを説明しないのと同じだ。
私はナビに従って外側の車道を走った。朝の遅い時間帯の光が、高空の反射板と大気調節層の間から降り注ぎ、街区全体を冷酷なまでにクリーンな明暗の帯に切り分けている。鉑橋街のあたりはすでに旧居住区に分類されており、建物には年季が入り、外壁には昔の建築美学が残した硬い角や装飾線が見て取れる。だが、一度見上げれば、ここが生ぬるい時代ではないことを空が教えてくれる。
上空三層の空域では、公共の航路が半透明の川のように交差している。
高空物流列車が磁気浮上骨架に沿って無音で滑るように進み、地上の人間の感情になど一切構う気のない鋼鉄の内臓のようだ。さらに高い場所では、錯覚かと思うほど細い軌道の光帯が、外層の衛星リングや軌道ハブへと伸びている。時折、点のようなシャトル艇がそこを横切り、瞬きする間に消える。誰かが空を針で引っ掻いたかのような速さだ。
本当に鬱陶しい。
この規模の文明が一番腹立たしいのはそこだ。
文明が成熟すればするほど、個人の狼狽はただのノイズにしか見えなくなる。
そして今日の私の気分に含まれるノイズの量は、ちょうど街区の半分を干渉できるくらいに高い。
私は姿勢を低くし、車速をさらに安定させた。ナビがパネル上に、殴りたくなるほど冷静な青い光の線を引いて、統合作戦司令部を指し示している。機械のいいところはここだ。昨晩、場を台無しにしたかどうかなど聞いてこないし、階段を通り過ぎる時にわざと黙り込んだりもしない。ただこう告げるだけだ。さらに八キロ前進、左側から首都圏第三内環軍政通路へ合流しろ、と。
素晴らしい。
人間に比べれば、システムはなんて可愛いんだろう。
交差点で信号が変わり、私はバイクを止め、足をしっかりと地面についた。
……まただ。
ただの普通の停車動作、普通としか言いようのない朝、普通の交差点の停止線――なのに、私の身体はこういう場所で、平然ともう一度教えてくる。
今のあんたは、昔とは違うんだよ、と。
以前なら、つま先立ちになるか、わざと重心を正確にずらさなければ、バイクごと不格好な姿を晒すことになっていた。今はもうその必要はない。足はよりしっかりと地面を踏みしめ、膝の角度も自然で、私とバイクの比率は、まるで突然長期的な協定が妥結したかのようだ。
私は前方の信号を無表情で見つめながら思った。
上等だ。
信号待ち一つでさえ、自分の身体に教育される。
もし今、シュタイナーの老人が道端から突然現れたら、その場で新しいサンプルが安定して成熟したのを発見したような口調で、「非常に理想的だ。適応の進度は予測より早い」とでも言うだろう。
その光景を想像しただけで、青信号より先に殺意が点灯しそうになった。
信号が青に変わり、再びスロットルを開ける。オートバイが低く震え、幹線道路に沿って前進した。
内環に近づくにつれて、都市の表情はどんどん変わっていく。
住宅街の生活感はまず商業ハブによって希釈され、さらに奥へ進むと行政層、軍政層、企業連管層が現れる。文明そのものを玉ねぎのように何層にも重ねた構造で、中心まで切っていくと、制度の辛味だけが残る。
道幅は広がり、路面の材質は一般的な複合舗装から、導流溝のついたダークグレーの制振層に変わる。両側の建物の高さは必ずしも極端になるわけではないが、明らかに「静か」になる。余計な看板もなく、安っぽく派手な広告もない。あるのは投影スクリーンウォールの上を流れる公共情報、軍政ニュース、航路警告、そして天候修正のデータだけだ。
時折、大型のホログラム広告がビルの側面から浮かび上がるが、その内容も賑やかさとは無縁だ。
大半はエネルギーの配給枠、外層軌道の更新、軍校の学生募集、医療クラウド保険の調整、区間またぎの通勤税率修正など、見出しを見ただけで眠りこけそうになる行政公告ばかりだ。
この星のテクノロジーはとうの昔に、都市全体を光と磁力と重力制御の中に押し込んで再構築できるレベルに達しているのに、制度の美学は相変わらず、すべてを掲示板のようにすることに執着している。
そこはひどく人間臭い。
しかも、一番嫌な種類の人間臭さだ。
警察の低空巡回艇が私の右斜め上を滑るように通り過ぎ、腹部の識別灯が二筋の淡いブルーの光線を放って車列をスキャンし、また収めていった。さらに遠くの高層空道では、数機の軍用輸送艇が固定ベクターに沿って内側の軍区へと進入していく。その編隊は、教範から直接プリントアウトされたかのように規則正しい。
それらのものを見ていると、ふと雪風のことを思い出した。
懐かしいわけではない。
どちらかというと、生理的な連想だ。高効率で、無駄話がなく、個人の感情など一切考慮する気のないシステム一式を目にすると、自然と艦での日々を思い出すのだ。違うのは、艦では少なくとも、空飛ぶ武装した棺桶の中で全員が運命を共にしているという自覚があったことだ。ここは違う。ここの人間は、数百万本のプロセスラインが交錯する首都の心臓部で生きている。表面上は秩序立って見えるが、実際には「人を押し潰す」という行為を、より文明的に行っているだけだ。
私は区間またぎの検索ゲートを通り抜けた。車載の識別信号が瞬間的に軍政ネットワークによってスキャンされる。パネルの隅が光り、臨時通行の照合完了が表示された。
上等だ。
道でさえ、私がこれからあの忌々しい場所へ行くことを知っている。
もう一口コーヒーを飲みたかったが、残念ながら朝のあのカップはシンクの横に置かれたままだ。今、胃に流し込めるのは風と、昨日言い間違えた拒絶の言葉が胸に残した余韻だけだ。
真紀。
この名前は、私がわざと引き出しの奥に押し込んだのに、車速が安定した途端、勝手にゆっくりと滑り出てくる何かのようだ。彼女のことは考えたくなかった。少なくとも家を出る前はそう決めていた。それなのに、少し静かになると、脳が容赦なく昨晩の出来事をリプレイし始める。
私が後ろに引いたあの一瞬。
真紀の止まった手。
あの「そうか」。
そしてその後の、さらに最悪な「分かってる」。
クソったれ。
虚空に向かって一つの事実を認めてしまいたかった。昨晩、私は彼女を拒絶したんじゃない。シュタイナーが明日、私の体のどんな痕跡であっても、研究用の新大陸として扱う機会を持つことを拒絶しただけだ。
この二つの事柄の差は、「雨に濡れたくない」と「死にたい」くらい決定的に違うのに、いざ私の口から出ると、見事なまでに別の意味に歪んでしまう。
これもたぶん才能だ。
しかも、履歴書には絶対に書けないような才能。
私は次のインターチェンジで軍政中枢区の専用道に入った。目の前の景色が一気に空虚になり、開け、そして親しみにくくなった。この辺りの建築はもはや「人が住む」ことを追求していない。追求しているのは管理だ。
材質の多くは低反射のダーク系合金、セラミック複合層、半透明の装甲ガラス、そして見るからに見知らぬ者を歓迎していない表面処理。広場は巨大で、木も植えられているが、樹種、間隔、影の落ちる範囲まで、すべてが治安、交通、視覚的威圧感、そしてドローンの巡回死角のシミュレーションを経た上で決定されたかのように正確だ。
金と技術と時間をかけて都市をこんな風に彫り上げ、しかも一目見ただけでこう理解させる。
ここは、あんたが生活するためにある場所じゃない。あんたを処理するためにある場所だ、と。
ナビがインカムの中で短くアナウンスした。
「前方一点二キロ、統合作戦司令部外環検問口に到着します」
私は深呼吸した。
……上等だ。
ついに着いてしまった。
正直なところ、「統合作戦司令部」という六文字だけでも、まともな人間なら近づきたくない場所の入り口に掲げるのに十分ふさわしい。そこにシュタイナー本人が加わるとなれば、今日のこの組み合わせは、連邦がわざわざ私のために用意した「お前は最近、これ以上鬱陶しい気分になれる限界を試してみないか」というリアル体験イベントのようだ。
私は少しスピードを落とした。
前方の道路が自然に収束し始め、両側の誘導壁が地面からせり上がり、呼びかけられなくても自動的に動作を遅くさせられるような圧迫感を生み出している。第一層の外周は、低いが極めて長く伸びる黒い防護壁だ。余計な装飾はなく、表面に極細の発光識別ラインが埋め込まれているだけ。壁の向こうには、一段高い建物の輪郭が見える。巨大な臓器のように、一つ一つが沈黙している。さらに奥へ進むと、ついにメインビルの本体が姿を現した。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




