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臨界の星穹  作者: Mr.佐藤焫焵
臨界の星穹:ロスト
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152.政治なんて安いコンドームだ 2

この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。

九島亜紀もここで歩み寄ってきた。


目尻にはまだ泣いた痕があったが、全体としてはもうとっくに、あの清潔すぎて腹立たしい会長モードに切り替わっていた。彼女はバイヤー・ヴァンダー提督を一度見て、アッシュを一度見て、そのまま流れるように手続きを引き継いだ。


「アッシュ・ヴァンダー、学院と軍の合同受け入れ手続きは、医療転送の後に開始します」彼女は言った。さっきあれほど泣き崩れていた人間と同一人物とは思えないほど安定した声で。「それまでの間、雪風号の臨時指揮組は集団陳述を優先します」


横の軍官が一人、眉をひそめた。


学院側は微妙に表情が緩んだ。


合理的だ。「集団陳述優先」は軍と情報部門には厄介だが、学院には都合がいい。この死者名簿から出てきた厄介者たちが一組として扱われる間は、彼らはまだ学院の厄介者だ。そして学院は自分の厄介者を、非常に積極的に守る。


一名の中佐が先に口を開いた。


「第一回の事実確認のみ、正式な分離訊問には当たりません」


私は笑いそうになった。


「一つだけ聞かせてください」と同じ言葉だ。聞いておくだけでいい。大抵、頷いた瞬間から生きる意味を疑うまで問い詰められ、最後には補足説明書二通と態度報告書一通がついてくる。


アッシュは相手を見て、表情を変えなかった。


「公開できる部分は、私が一括して回答します」


その中佐が少し止まった。


「あなたは?」


よし。


この質問が出た瞬間、私は相手が気の毒になった。


現場にアッシュを知っている人間は少なくないが、顔を直接見て分かる者ばかりではない。名簿、コード、手続き、フローを見ることに慣れた中間管理職の軍官にとって、この年齢の人間がここに立っているだけでは、最初に低く見られやすい。


そこで、バイヤー・ヴァンダー提督がついに口を開いた。


「アッシュ・ヴァンダー」提督の声は大きくなかったが、その中佐の背骨を一瞬で真っ直ぐにした。「雪風号の迷航期間中、艦長代理を務めた」


私は心の中でそっと思った。


終わったな、あの中佐。


相手の顔色は確かに変わった。


「ヴァンダー」という姓そのものが怖いのではない。一年間行方不明だった艦から降りてきた、明らかに若い、しかも艦長代理の肩書きを持つヴァンダー家の人間という組み合わせが、あまりにも面倒くさいのだ。この相手に何かしたら、書かなければならない報告書は一通では済まない。


「了解しました」その中佐は素早く語調を修正した。「では、艦長代理より第一回の説明をお願いします」


「録画を」亜紀が一言添えた。


学院側がすぐに記録を起動した。


軍方も自分の記録モジュールを立ち上げた。


評議会の人間は自然な動作で三組目の記録を置いた。


私は見ただけで頭が痛くなった。


三系統の記録が同時に走るということは、この後の一言一言が三つのバージョンになり、六回の校正を経て、九種類の解釈を生み、最後には十二通の「あのとき実はそういう意味ではなかった」という会議添付資料に進化する。


連邦は本当に言語の活用が上手い。


アッシュはそれらを気にせず、まず蘭を見た。


蘭はすでに整理済みの概要表を共有ウィンドウに投影していた。降りてきたばかりの人間の速度ではない。


「雪風号は一年前の辺境任務中に失連し、期間中に複数の航路偏移、システム損傷、敵対的接触を経験しました」アッシュが口を開いた。目の前にいる人間が、雪風号を部品ごとに分解して研究したがっている集団だとは微塵も感じさせない、非常に普通の任務報告の口調で。「元艦長の飛田瞬が指揮能力を失った後は、艦上の残存指揮系統が順次引き継ぎました。本艦は生還と帰投を第一優先とし、可能な条件の下で航法、動力、通信、生命維持を修復し、最終的に連邦管轄領域への帰投を完了しました」


簡潔。


無駄がない。


一刀多くもなく、一刀少なくもない。


そして全部、公開可能な部分だけだ。


相手は当然、満足しなかった。


軍の中佐がすぐに追った。「敵対的接触とはどの勢力ですか?」


アッシュは止まらなかった。


「非公開説明を要します」


「接触回数は?」


「非公開説明を要します」


「失連期間中に連邦外の勢力と接触しましたか?」


「非公開説明を要します」


私は心の中でアッシュに拍手した。


これは上位互換の「関係ない」だ。


しかも軍事的に正当な根拠のある「関係ない」だ。


ジェスが私の横でほとんど笑い出しそうになりながら、小声で言った。「アッシュ、今日これで夜明けまで持ちそうね」


「安心して。連邦の公務員は必ずこれだけでは終わらせない方法を考えてくる」


案の定、次に口を開いたのは学院側の人間だった。


敵情を問うているのではない。人を問うているのだ。


「雪風号の帰投期間中、学員の編制と艦内秩序がどのように維持されたか、確認をお願いします」


一見、穏やかな質問に聞こえる。


実際は、かなり毒がある。


なぜなら、アッシュが一人ひとりについて話し始めた瞬間、雪風号がこの一年で誰が何をし、誰がどの位置に立ち、誰がどんな権限を握っていたかが、すべて先に晒されることになるからだ。その後で責任を切り分け、功績を切り分け、手続きの正当性を切り分けようとするなら、取っ掛かりはいくらでもできてしまう。


アッシュは相手を一度見た。


「臨時編制は、生還・可動・使用可能の原則に従って再編しました」彼は言った。「各人員は実際の能力に応じて必要な職務を引き継いでいます。完全な名簿と時系列は、正式な非公開報告書の中で提出します」


学院側の人間は、なおも食い下がろうとした。


「指揮権の越階級継承は含まれますか――」


今度遮ったのは、アッシュではなかった。


亜紀だった。


「その質問を、今ここでする意味はありません」亜紀は言った。「階級を飛び越えた引き継ぎがなければ、雪風号は帰ってこられませんでした。安全な会議室の基準を持ち出して、通信の途絶えた戦艦の上での生存行動を、後から裁かないでください」


……見事だ。


生徒会に、こんなに本気で拍手を送りたくなったのは初めてかもしれない。


これは身内をかばっているわけじゃない。


質問そのものの枠組みを、直接ねじ曲げているのだ。手続きが正しかったかどうかを後から議論するのは構わない。でも、通信が途絶えて一年、元艦長が倒れて、残った指揮系統だけで持ちこたえて帰ってきた船に向かって、「標準手順」を振りかざして追い詰めるな、ということだ。


これは尋問じゃない。


スケープゴート探しだ。


学院側の幹部は口をつぐんだ。


評議会からようやく、誰かが口を開いた。


声がとても柔らかく、言葉選びの綺麗な女性だった。こういう人間がいちばん厄介だ。力任せにぶつかってはこない。「状況をより良く理解するために」という形に問いを包んで、そのまま優しく、刃を差し込んでくる。


「では」彼女は微笑みながら聞いた。「雪風号が追悼式の空域で公開進入を選択したのは、事前の計画によるものですか、それとも現場での判断ですか?」


私は思わず口笛を吹きそうになった。


ようやく、私の好きな領域に入ってきた。


これは単なる航行の意思決定を聞いているんじゃない。


――あなたたち、わざと場を爆破したんでしょう?


そう聞いているのだ。


しかも、非常に体裁よく。


アッシュはすぐには答えなかった。


まず、私を一度見た。


一瞥だけ。


分かった。


よし、体裁のいい言葉を人間の言葉に翻訳する係の出番だ。


私は半歩、前へ出た。


「そちらが私たちのために追悼式を開いてくれているのなら」私は言った。「その追悼式に直接現れるのが、一番手っ取り早い身元確認の方法じゃないですか?」


現場が一瞬、静まった。


その評議会の女性も、五周くらい回ってから口にすべき言葉を、こんなに真っ直ぐな白話でぶつけてくる人間がいるとは思っていなかったのだろう。


私はもう一刀、足した。


「それとも、私たちが先に整理券を引いて、書類に記入して、自分が死んでいないことを証明する申請手続きを踏むほうが、お望みでしたか?」


ジェスが咳をした。


嗆ったわけじゃない。笑いを堪えているのだ。


真紀が、私の後ろからごく軽く手首を引いた。力は強くないが、正確だった。「もう少し抑えなさい、でないと後で私が後始末をする羽目になる」というメッセージが、指の関節から頭の中まで一直線に伝わってきた。


私は彼女の顔を立てて、三刀目は飲み込んだ。


評議会の女性は二秒ほど沈黙して、それでも微笑みを崩さなかった。


「星野さんは、とても率直ですね」


「一度死んだ人間は、たいてい気が短くなるので」私は言った。


今度は、Dが後ろで低く笑い声を漏らした。


大きくはない。


でも、存在感は異様に強かった。あの体格の男の胸の奥から転がり出てくるような笑い音は、どこかで厚い壁が満足そうに一度震えたみたいに聞こえる。


もう一方では、エヴリンが仮設の手すりに寄りかかっていた。左脚は明らかにまだ痛むはずなのに、顔だけは「馬鹿な質問はしないことね」という冷たさを崩さない。彼女が不意に口を開いた。


「進入の判断を議論したいなら、まず追悼式当時の空域管制、公共波帯の遅延、天幕の判読反応を一緒に並べてください。それがなければ、この質問に分析の価値はありません」


ああ。


容赦がない。


しかも、いかにもエヴリンらしい容赦のなさだ。


意味を要約すれば、こういうことだ。 ――聞きたいなら構わない。でも先に、自分たちの側の穴も全部晒しなさい。私たちだけを反省会の教材にしないで。


軍側の何人かの顔色が、さらに険しくなった。


蘭が、ここで自然な流れで一言添えた。


「関連する技術的詳細は、非公開聴聞にて提供可能です」


この男は本当に、あらゆる刃を標準的な定型句の中に収めるべき場面で生きるのに向いている。


アカリは少し後ろの位置に立ち、口を挟まず、ただ静かに周囲を見渡していた。彼女のような人間は、黙っているときのほうがむしろ圧力になる。今はもう全員が理解している。雪風号が生きて帰ってこられたのは、一人の力じゃない。アカリのその立ち方そのものが、無言でこう告げていた。――これを単独の英雄譚に仕立てるな。このグループが簡単にバラけると思うな。


それからの十分間は、ほとんど高密度の問答戦だった。


軍は交戦について問う。 学院は編制について問う。 評議会は意思決定について問う。 医療班は間に割って入って体調を聞きたがる。 広報班は横で、すべてを「明日公表しても各部署を吹き飛ばしすぎない版」に翻訳しようと苦戦している。


雪風号側の対応も、それに応じて非常にシンプルだった。


アッシュが主に答える。 亜紀が防衛線を張る。 蘭が公開可能な技術的な文言を補う。 エヴリンが、一部の質問を「質問した側の準備不足」に見せかける。 真紀が、誰かが近づきすぎたり、人を切り離そうとしたりする気配を見せたとき、その流れを先に押し戻す。 ジェスが、私が場を燃やしすぎそうなとき、咳や足踏みで「やりすぎるな」と釘を刺す。 Dは後ろに立って何もしないが、その存在自体が「これ以上踏み込んでみろ」という無言の圧になる。 アカリは釘のように、グループ全体の境界線をしっかり留めている。


では、私は?


私は、必要なときに、その体裁のいい質問を人間の言葉に翻訳する係だ。


たとえば――


「雪風号は失連期間中、訓練艦の権限範囲を超える軍事的決定を行いましたか?」


翻訳: ――あなたたち、勝手にやっちゃいけないこと、いろいろやったんじゃないの?


「帰投後、指定港区へ直行せず公開進入を選択したことは、首都圏の秩序にリスクをもたらす可能性がありませんでしたか?」


翻訳: ――わざと連邦全体に恥をかかせたんじゃないの?


「艦上に、未登録の人員、未記載の物資、または出所不明の設備は存在しますか?」


翻訳: ――言えない何か、隠してるんじゃないの?


……最後の質問が出たとき、私は心の中で軽く「おっ」と声を漏らした。


来た。


本当に筋の通った質問が、ついに来た。


口を開いたのは、私がさっきまでほとんど注意を払っていなかった男だった。目立つ肩章もなく、特に印象的な顔でもなく、立っている位置もずっと普通で、人混みに紛れて消えてしまえそうなほど普通だった。


でも、この一言を発した瞬間、私にはこの人間が野次馬ではないと分かった。


こういう人間がいちばん厄介だ。


たいてい、他の誰も見ていない隅を見ているからだ。


現場が半秒だけ、短く静まった。


アッシュはすぐには答えない。


亜紀の視線も、そちらへ動いた。


アイダのほうも、ようやくメディア対応から注意を半分引き戻した。


その半秒の間に、私はふと、あることをはっきりと意識した。


――さっきの三分間は、確かに私たちに多くのものを奪い取らせてくれた。


名簿。口調。境界線。時間。


でも、時間を奪ったからといって、麻煩が消えるわけじゃない。


一部の質問は、どれだけ真っ直ぐに立とうと、どれだけ上手く話そうと、どれだけ重みのある涙を流そうと、自動的に蒸発したりはしない。


ただ少し遅れてくるだけだ。


そして、より正確に刺さってくる。


真紀の手が、ごく軽く私の手の甲に触れた。


一度だけ。


「先に動くな」という合図でもあり、「見ていて」という意味でもあった。


私は振り向かなかった。


でも、彼女がそこにいることは分かっていた。


それで十分だった。


アッシュがようやく口を開いた。


「雪風号の帰投期間中における全人員、物資、設備の異動については、正式な非公開報告書の中で機密区分に従い完全に提出します」彼の声は、さっきよりさらに平坦で、さらに冷たかった。「現時点では、仮定に基づく追及には答えません」


その男はアッシュを見た。


「私は仮定を述べているわけじゃない。確認しているんです」


「では、正式な経路で確認できます」アッシュが言った。


空気が一気に締まった。


私はふと気づいた。さっきまでの交戦や編制、進入方法についての質問は、まだ前菜のパンに過ぎなかったのだと。本当のメインディッシュが、今ようやくテーブルに運ばれてきたのだ。


そのとき、ヘッドホンの中で、ごく軽い音がした。


公開通信じゃない。


内部の短距離回線だ。


蘭の声は、感情を一切帯びていないかのように澄んでいた。


「星野」


「何?」


「今から、少し口数を減らしなさい」


「見くびってるの?」


「違う」


蘭は一拍置いた。


「これからは、あなたの口でどうにかできる段階じゃなくなるから」


……よし。


この言葉は、本当に腹立たしい。


なぜなら、たいていの場合、正しいからだ。


私は顔を上げ、もはや手続きを奪い合うだけじゃなく、本当に核心へ向かって掘り始めた大人たちを見渡して、ふと笑いそうになった。


連邦は、やはり質問の仕方だけは一流だ。

「とても面白い」★四つか五つを押してね!


「普通かなぁ?」★三つを押してね!


「あまりかな?」★一つか二つを押してね!

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