147.悪い子の計画 2
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・事件・名称等は一切関係ありません。
会議が解散した後も、艦橋の熱気がまだ耳の奥に残っていた。
文字通りの熱さじゃない。
一群の人間が「さすがにやりすぎだろ」と思いながら話し合ううちに、気づけば本当に分担を決めて、ラインを引いて、首都星の上空に入るならどの角度がかっこいいかまで議論し始めていた、その後遺症みたいなものだ。
こういうとき、人間の脳には大抵二つの末路がある。
燃え尽きるか。
それとも自分が無敵だと思い始めるか。
雪風号は不幸なことに、たいてい後者だ。
艦橋を出てから、私はようやくゆっくりと気づいた。
さっきの会議で、誰一人として最も基本的な問いを立てていなかったことに。
たとえば。
皇女本人は、自分が煙幕の一部として使われることを知っているのか、という問いを。
……まあ、厳密に「煙幕として使う」とは言えないかもしれない。
正確に言えば、雪風号側が非常に計画的で、非常に規律正しく、そして非常に病んだやり方で、高々と自分たちの無罪を晴らしに行きながら、ついでに彼女のための静かな脱出ルートを一本開けようとしている、ということだ。
それでもやっぱり煙幕に聞こえる。
私はそんな、あまり健全ではない自覚を抱えたまま、真紀の「あなたが行って」の一言で中層右舷の仮収容区画に向かわされた。
理由は単純だ。
真紀は忙しい。
アイダはもっと忙しい。
アッシュはおそらく呼吸の優先順位まで管理している状態だ。
そして私は、最近なぜか「いるべきでない場所に呼ばれる」という謎の適性を持つ人間として、「非常に無茶な話を、すぐには爆発しない方法で別の危険な人物に伝える」という仕事にまたも適任とみなされたらしい。
……自分のこの方面の汎用性が本当に嫌だ。
その通路は昼間より静かだった。
照明が一段落とされ、当直の警備員も「今すごく緊張してます」と顔に書いていないタイプに交代していた。隔壁ハッチの権限ロックは薄い青色に光っていて、空調の風が断続的に流れてきて、足音まで普段より空虚に響く。
私はハッチの前で止まった。
ノックする前に、ハッチが開いた。
開けたのは、侍女さんだった。
……やっぱり侍女さんだ。
名前は聞かないままにしておく。
時限爆弾にあだ名をつけないのと同じで、高危険物件はコードネームのままにしておくほうが、お互いのためだ。
侍女さんはハッチの内側に立って、表情は穏やかで、髪の毛一本乱れておらず、衿元まで整っていた。見知らぬ軍艦に半軟禁されているのではなく、地毯の模様まで暗記している慣れた場所で主人のために扉を開けているような佇まいだった。
彼女は私を一瞥した。
「星野さん」
私の目の端がわずかに引きつった。
……くそ。
名前を知られていた。
とっくに知られているとは分かっていたが、あの非常に標準的で、端正で、「次の瞬間には銀盆に乗った毒薬と普通の水を二択で差し出してきそうな」口調で呼ばれると、やはり妙な感じがした。
「殿下は……起きてますか?」
「殿下はまだお休みになっておりません」
「そうですか」
私はハッチの前に立ったまま、半夜中に押しかけることを先に詫びるべきか一瞬迷った。でも考え直した。中にいるのはヘートヴィヒだ。こういう状況で礼儀を気にしていたら、それは運命に対する基本的な敬意を欠いていることになる。
侍女さんが身を引いた。
「どうぞ」
中に入った瞬間の第一印象は――
この区画、もう仮収容区画に見えない。
豪華というわけじゃない。雪風号はどう頑張っても外交専用艦の規格を出せないし、皇室スイートなんてものは存在しない。でも同じテーブル、同じ椅子、同じ照明が、ヘートヴィヒの手にかかると「ここはまあ、最低限は使える」という秩序感を帯びる。
テーブルの上には小さなランプ。
その横に紙の資料が何枚かと、端末が一つ。
窓際のカップには半分ほどの茶が残っていて、もうだいぶ冷えているが、まだ片付けられていない。
ヘートヴィヒはそこに座って、濃い色の上着を羽織り、長い髪を半分ほど解いていたが、それでも腹立たしいほど整っていた。
彼女は私を見上げた。目に驚きはない。
ただ、ごくわずかに「やはり誰かが来ると思っていた」という予期の色があるだけだ。
「星野 シモ」
私の名前を、彼女は正確に発音した。
なぜかいつも彼女にこう呼ばれると、精装版の辞書に点呼されているような気がする。
「この時間にここへ来たということは、連邦軍艦の寝具の満足度調査をしに来たわけではないでしょうね」
「殿下がこの時間に起きているということは、夜食を待っていたわけでもないでしょう」私は返した。
ヘートヴィヒの唇の端がごくわずかに動いた。
笑いではない。
でも、おそらく彼女の基準では「まあ、悪くないわ」に相当する表情だった。
侍女さんが椅子を一脚引いた。
その動作を一瞬見つめながら、私の頭に非常に場違いな考えが浮かんだ。今ここに座ったら、次の瞬間には本物のお茶が出てきて、飲みながら丸め込まれて、気づいたら魂まで秘密保持協定に署名させられているんじゃないか。
だから座らなかった。
立ったままでいた。
ヘートヴィヒは私を一瞥したが、強いることはなく、ただ淡々と聞いた。
「それで? 雪風号の方は、結論が出たの?」
私は頷いた。
「だいたい」
「口調からすると、普通の結論ではなさそうね」
「普通じゃない」
部屋が少し静まった。
ヘートヴィヒは手にしていた資料を閉じて、脇に置いた。その動作は速くはないが、意味は明確だった。
――では、普通じゃない結論なら、あなたに注意を向けましょう。
私は息を吸った。
最初は少し前置きをして、遠回しに、包んで、せめてこの話が私の口から出るときに犯罪予告に聞こえないようにしようと思っていた。でも言葉が口元まで来たとき、ヘートヴィヒ相手に回り道をするのは馬鹿げていると気づいた。
だから直接言うことにした。
「連邦は今、雪風号の一周忌追悼式をやってますよね?」
ヘートヴィヒが頷く。
「ええ、知ってる」
「私たちは行くことにした」
ヘートヴィヒが私を見た。
「……行く?」
「そう」私は言った。「雪風号本人が、直接」
今度は、侍女さんまで二秒ほど静かになった。
本当に短い。
でも確かに二秒だった。
彼女が茶杯を横に動かそうとしていた手が、止まったからだ。
ヘートヴィヒは私が想像していたような「正気なの?」という反応を見せなかった。
ただ、静かに私を見ていた。
それから聞いた。
「つまり雪風号は、連邦が追悼式を行うその当日に、直接首都圏に現れるつもり?」
「そう」
「会場の上空に?」
「そう」
「全員に見せながら?」
「そう」
ヘートヴィヒがわずかに背を引いた。
力が抜けたわけじゃない。頭の中で一連の計算を全部走らせ終えて、目の前のこの艦が勇気なのか狂気なのか、それとも両方を連邦軍校の教範とは全然違う比率で混ぜ合わせたものなのか、改めて評価し直すことにしたような動き方だった。
数秒後、ヘートヴィヒがようやく口を開いた。
「確かに、あなたが出しそうな方案ね」
私は一瞬固まった。
「なんで私が?」
「十分に堅実でも、十分に体裁がいいわけでもないけれど、異常なほど有効だから」
……ちょっと待って。
これは褒め言葉なのか、それとも罵倒なのか。
文句を言おうとしたが、ヘートヴィヒはもう続けていた。
「連邦の現状から見て、雪風号が追悼式会場の上空に姿を現した瞬間、この件の定義は強制的にその場で書き換えられる。軍は承認を先延ばしにできなくなる。メディアは先に版を作れなくなる。遺族は官僚機構より先に答えを得る。首都圏の政治的リズムも、あなたたちのペースに引きずり込まれる」
彼女は一拍置いて、私を見た。
「乱暴。でも使える」
……くそ。
この人が人を褒めるときは必ず「扳手でバイオリンを修理しているが、音は合っている」みたいな言い方になる。
「じゃあ反対しない?」私は聞いた。
「反対する権限が私にあるの?」
「厳密に言えば、ない」
「では問題は反対かどうかじゃない」ヘートヴィヒは静かに言った。「あなたたちが私をどう扱うかよ」
その一言が落ちた瞬間、さっきまでわずかに深夜の雑談めいていた空気が、すっと引き締まった。
分かっていた。彼女は必ずこれを聞くと。
雪風号は堂々と生者として動ける。
でも彼女は違う。
彼女が露見した瞬間、「雪風号事件の翻案」では済まなくなる。連邦、帝国、外交、皇室、暗殺、国境安全が全部一度に炸裂する大災害になる。
だから私は首を振った。
「あなたは地味なルートで動く」
ヘートヴィヒは驚かなかった。
ただ静かに私を見て、続きを待った。
「雪風号が全部の視線を吸い取る。あなたと随行の方々は別の警備チェーンで移送される。完全なタイムラインを知る人数は最小限まで絞る。艦内の知情者リストもすでに切り直している」
ヘートヴィヒは聞き終えて、すぐには答えなかった。
指先でカップの縁をそっと触れた。何かを考えているように。
それから、私が先に聞かれるとは思っていなかった問いを、彼女は出してきた。
「この方案を承認したのは?」
「アッシュ」
「政治的な実行可能性を補ったのは?」
「アイダ」
「実務上の秩序を担当するのは?」
「真紀」
「最初に提案したのは?」
ここで彼女の目が上がって、私を見た。
仕方なく、正直に答えた。
「……私」
ヘートヴィヒは私を見て、半秒ほど沈黙した。
それから、ごく軽く笑った。
「なるほど」
私はすぐに警戒した。
「その『なるほど』、嫌な予感しかしない」
「ただ、ようやく分かった気がした」ヘートヴィヒは言った。「なぜ九島副艦長があなたを見るとき、管理すべきなのか、保護すべきなのか、それとも先に縛っておくべきなのか分からない、軍用の危険物を見るような目になるのかが」
私は黙った。
侍女さんがわずかに目を伏せた。
笑いを堪えているんだと思う。この人が笑うときは処刑の前みたいな顔になりそうだが、それでも今は堪えていると思う。
「人の目つきを勝手に解釈しないでほしい」私は認めなかった。
「解釈じゃない」ヘートヴィヒが言った。「帰納よ」
……本当に嫌な人だ。
でも、嫌なほど正確だ。
正確すぎて、すぐに言い返せない。
私は咳払いをして、話を戻した。
「とにかく、そちらには協力してもらう必要がある。移送ルートは外に漏らさない。侍女さんと護衛の方々も、雪風号が指定するタイミングの切り替えに従ってもらう」
「構わない」
「そんなに素直に?」
「あなたたちのこの方案の本質は、雪風号が自分を照明の下に置くことで、私の移送のための最大限の騒音を作ることだから」ヘートヴィヒは静かに言った。「あなたたちが自ら光の中に立つ覚悟をしているなら、私がこの件で協力しない理由はない」
その言い方は直接で、少し冷たかった。
私はふと気づいた。ヘートヴィヒは全部分かっている。
雪風号がこれをするのは、彼女のためだけじゃないことも。
自分たちのため、遺族のため、主導権を取り戻すためでもあることも。
そして同時に、この派手な帰還が自分のための道を開けることも。
だから彼女は礼儀正しく感謝するふりもしないし、感動したふりもしない。
ただ、正直に認める。これは双方にとって利のある話だ、と。
ある意味では、私はこちらのほうが好きだ。
少なくとも、きれいすぎる建前を聞かされずに済む。
私は頷いた。
「それならよかった」
ヘートヴィヒはティーカップを持ち上げて、もうだいぶ冷えたお茶を一口飲んだ。その飲み方も腹立たしい。大袈裟じゃないのに、明日まったく見知らぬ権力構造の中に送り込まれることになっていても、カップをトレイの中央に正確に戻せるような安定感がある。
「ただ」彼女はカップを置いて、声は変わらず淡々としていた。「一つだけ、提醒しておきたいことがある」
「何?」
「雪風号が本当にそうするなら、首都圏に入った後、もう事態は『行方不明艦艇の帰投』というシンプルな話には戻らない」
「分かってる」
「いいえ、まだ分かっていない」
ヘートヴィヒは私を見た。小さなランプの下で、その目は昼間より少し深く、少し静かだった。
「あなたたちは『現れる』んじゃない」
彼女はゆっくりと言った。
「連邦全体の前で、他人があなたたちのために用意した死を、拒否するの」
私はすぐには返せなかった。
その言葉が、正確すぎたからだ。
正確すぎて、さっき艦橋で感じていた「悪くて、気持ちいい」興奮が、内側から一部分だけ抜き取られたみたいになって、もっと重くて、もっと本物の何かだけが残った。
ヘートヴィヒはそれ以上続けなかった。
ただ視線を引き取って、私が自分でゆっくり消化するのに任せた。
しばらく部屋は静かだった。
最後に口を開いたのは私だった。
「……あなたって、こういうタイミングで人の熱を冷ますのが本当に上手いね」
ヘートヴィヒが私を見た。
「冷ますためじゃない」
彼女は言った。
「早く燃え尽きないように、ということ」
……これには言い返せなかった。
私は彼女を見て、この人が本当に奇妙だと思った。年齢はそれほど離れていないのに、いつも同い年の人間とは違うやり方で、物事を表面から骨まで剥いてくる。
だから実の兄に暗殺者を差し向けられるんだろう。
こういう人間が生きていたら、楽をしたい大人たちには、本当に目障りに違いない。
私は手をポケットに突っ込んで、振り返って出口に向かった。
ハッチのところまで来たとき、ヘートヴィヒが声をかけてきた。
「星野」
「何?」
「もし本当に、最初に会場に降りる一人になるなら」
私は振り返った。
ヘートヴィヒはランプの下に座って、表情も声も穏やかだった。まるでまったく関係のない小さな用件を言っているみたいに。
「せめて、背筋を伸ばして立ちなさい」
私は二秒ほど固まって、聞き間違えたかと思った。
「……わざわざ呼び止めて、それだけ言いたかったの?」
「違う」ヘートヴィヒが言った。「連邦の人々が初めて『追悼式から生きて戻ってきた人』を見るとき、その人がベッドから転がり落ちてきたみたいな立ち方をしていたら困るから」
「ちょっと」
「それに」彼女は一拍置いて、唇の端をほんのわずかに上げた。「あなたが姿勢悪く立ったら、あなたの副艦長が恥をかく」
私は黙った。
侍女さんが今度こそ、顔をわずかに背けた。
やっぱりそうだ。
彼女もさっきの一言が相当意地悪だと思っている。
私はヘートヴィヒを二秒ほど睨んで、最終的にこれだけ返した。
「随分とお世話が好きですね、殿下」
ヘートヴィヒは否定しなかった。
「お互い様よ、星野 シモ」
私は鼻を鳴らして、部屋を出た。
ハッチが背後で閉まると、通路はまたあの、いかにも連邦軍艦の深夜らしい、感情を置いておく余地のない静けさに戻った。
でも、なぜか分からないが、さっきまで追悼式を自分たちで叩き潰しに行くことへの邪悪な高揚感は、確かに少し落ち着いていた。
消えてはいない。
ただ、沈んだ。
「とても面白い」★四つか五つを押してね!
「普通かなぁ?」★三つを押してね!
「あまりかな?」★一つか二つを押してね!




